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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
40/113

40.残機数≠尻尾


 リリーのお友達はマリーちゃんだけなのか?いや、別にそんな事はない。勿論貴族のお友達も居る、居るにはいるみたいだがアリュートルチ家は貧乏貴族、おそらくヒゲオヤジの付き合いでお話しする程度の関係であろう。

 誰々の家に遊びに行くとか遊びに来るみたいなことは言わず、私の後ろを日がな一日アンテナーを持って追いかけてくる。


 では商人の娘のマリーちゃん以外誰と遊ぶって?決まってんでしょ近所の子達よ、リリーとお兄様のお誕生日会にも来てドラゴンとヌシ様囲んでた子達。そう。


「ぷ、きゅぅきぴきゅぷきゃぴきゅきー(で、今ライバルっぽい子に絡まれてるわ)」

「リリーまだ魔獣にアンテナー刺せてねーのかよ、しかもトントンに?超ダッセー!」

「ウァォンウァぉンッ!(そうだそうだー!)」


 道端でばったり出くわしたのは小学生ぐらいの男児と犬のコンビ、吠えているのは動物の犬じゃなくて、魔獣のワン=ワン。滅茶苦茶ふざけた名前だな?私もそう思う。

 そうそう、ゲーム内のワン=ワンは全部柴犬の姿だったな。


 ワン=ワンにはヒゲオヤジの飼ってるドーベリーとか森に住むウルフルー、メープル先生のプードリアンとか他にも結構種類がいたりする。

 しかし、この目の前のワン=ワン。前世の柴犬(茶)姿の魔獣シバワンなんだけど、麻呂眉の部分がデカイ、あの白い丸のところ。あそこが修正液で描かれましたかってぐらいにハッキリしてる、他に変わったところ?無いよ。


「だって、トンちゃんアンテナー嫌いだから……」

「アンテナー刺さなきゃダメなんだぞー?リリーは貴族なのにダメダメだなぁ!」

「ウァォンウァぉンッ!(そうだそうだー!)」

「ぷぴぃぴぴきゅ(そういやそうね)」


 ダメダメだわ、だって私が相手なんて運が悪い。その辺のプキプキ鳴いてるトントンだったらリリーでもアンテナーは刺せたろう、しかしリリーがアンテナーを刺したいのはこの私なのだ、そして私は絶対刺されたくない。

 目と目が合えばなんとやら、アンテナーを刺したラジモンを動かすラジコンを構えた少年が、リリーへと宣戦布告する。


「俺が鍛えてやるよ、ラジモンバトルだ!」

「ぷきゃきゃぴぴ(とてもアウト)」

「えぇっ、トンちゃんどうしよう、リリー、ラジモンバトルなんてできないよぉ」

「ぷきゃきゃきぴぴきゅー(告訴バトルに負けるわよ)」

「目と目があったら!」

「ぷぴぎゃきゅきょー(それ以上いけない)」


 死んでしまいます、この世界の駄女神見習いが。手首に手錠をかけられ、黒い上着を頭に被せられる女神(仮)の姿が脳内に浮かんだ。

 「私は無実です!全てあの子豚が悪いのです!!」と叫んでいる、想像の中でも腹が立つ女神である。


 尻尾を振って私を睨みつけるシバワンと、ドヤ顔でラジコンを構えている少年。仕方がない、ここは世界ガチャ失敗で転生チートを持てなかった転生者である私の、努力(夜のお散歩)で手に入れた(レベル)を見せる時がきたということか。

 地面を踏みしめ、怯えるリリーの前に立つ。さぁ、トンちゃん最初のラジモンバトルが始まった。


「いけぇっシババン!噛みつけ!!」

「ウォンォォンッ!(いっくぞぉー!!)」

「ぷきゅぴっ(名前ダサっ)」

パァン!!


「キャンッ(キャンッ)」

「シババぁーン!!」


 K.O. 尻尾を丸め、キュウキュウと鼻を鳴らしてご主人様の脚の間に戻って行った柴犬系魔獣ワン=ワン、シバワンことシババン、名前が絶妙にダサい。

 そんなシババンは茶色いモフモフ柴ワン尻をこちらに見せながら、頭をご主人様の脚の間に突っ込んで震えている。

 そんなに強く叩いたつもりはないんだけど、あぁ自分の持つ力が恐ろしい、我が名はトンちゃん、この世でたぶん最強の子豚魔獣なり。


 転生強者子豚の道を歩み始めた私と、その後ろでアホみたいに口を開けて驚いているリリー。そんな私達を、頭を隠して震えるシババンを撫でながら涙目の少年がキッと睨みつけた。


「この勝負は無効だ!リリーの魔獣アンテナー刺してねーんだから無効ったらむこうだ!!」

「トンちゃんって強いんだねぇ」

「聞ぃてんのかおい!!!!」


 負け犬の遠吠えを聞いておやりよ。ぷひーっと鼻を鳴らして煽ってやると、少年は悔しそうに顔を歪め、尻尾を股の間に挟んで耳をへたらしたシババンを抱き上げると悪口を叫びながら逃げていった。


「バーカバーか!リリーのトントンでーべーそー!!」

「ぷぴぴぷきぴぃぷきゅぃぴー(初めてリアルで聞いたわそのフレーズ)」

「あっ、逃げたぁ」

「ぷぴゅぴゅぴきー(遁走(とんそう)したわね)」


 トントンだけにってか、我ながら寒いな。ぶるるっと身体を一度震わせ、頭の上に降ってきたアンテナーを右に避ける。遅いわ、それは残像よ。

 頬を膨らませるリリーに背中を向けて歩いて行こうとしたら、数人の足音と、リリーではない女の子の声が聞こえてきた。


「なんだリリーじゃない、こんな所で何してるのよ」

「アヤメちゃんだぁ」

「ぷぴぴきゅぴ?(知り合いなの?)」

「このトントンがリリーのラジモン?なによ、アンテナー刺さってないじゃないの」

「トンちゃんね、アンテナー嫌いみたいなの」

「リク、この子持ってて、落とすんじゃないわよ」

「はぁい姉ちゃん」


 数人の子供グループの先頭に立っている女の子が、リリーの顔を覗き込んで、次に首を傾げている私の顔を見た。あー、いたいた、リリーの誕生日の時にドラゴンの尻尾を引っ掴んでいた気の強そうな子だわ。

 腕に赤ちゃんを持っていたアヤメちゃんは、近くに立っていた、たしかヌシ様の髭を掴んでいた弟かな?にご機嫌な赤ちゃんを押し付けると、リリーの手からメタリックピンクのアンテナーを取り上げた。


「リリー、トントンなんかに刺せてないようじゃこの先他のラジモン捕まえる時に苦労するわよ、いい?アンテナーはこうやって刺すのッ!」


 アヤメちゃんの手により寸分違わず可愛い私のちんまい頭の上に振り下ろされるアンテナー、空気を切り裂く音が響き───


miss!(ティルン!)


「……アヤメちゃん、避けられちゃったよ?」

「アンテナ練習に最適警戒心ゼロ魔獣で有名なトントンが、こんな、素早く避けるなんて……」

「ぷきっ(ドヤっ)」

「このトントン……只豚じゃないわ……!」

「トンちゃんやっぱりアンテナー嫌いなんだねぇ」


 私をその辺のトントンと一緒にして貰っちゃ困るわお嬢ちゃん、向かい合う一匹の子豚と一人の少女。私の首に結ばれたリボンが風に揺れ、アヤメちゃんの手に持つアンテナーが陽光を受け妖しく光った。

 一匹と一人の間に張り詰めた空気が流れ、西部劇でよく転がってる丸い草がコロコロ横切って行く。


 リリーが徐に顔を上げ、鼻を歪め、くしゃみをした瞬間にお互い動き出した。


「えっクシュ!」



miss!(ティルン!)miss(ティル)miss!(ティルン!)miss!(ティルン!)miss!(ティルン!)miss!(ティルン!)miss!(ティルン!)───miiiiiiss!(ティルルルルルルン!)



 頭と上半身だけを動かし振り下ろされるアンテナーを華麗に避けるトンちゃん、足を一歩も、いや、ひと蹄たりともその場から動かさずに避け切った。

 最後の一振りを鼻先で止めたアヤメちゃんは、地に膝を落とすと、メタリックピンクのアンテナーを地面に転がした。ガクリと項垂れた彼女は地を這うような声で呻く。


「なんなのよ、この豚ぁ……ッ!」

「ぷぷきっ(ドドヤっ)」

「ほらねぇ、トンちゃんったらリリーのアンテナー刺してくれないの」


 私の頭にアンテナーを刺すにはあと二十年早かったようね、出直してきなお嬢ちゃん、子豚はいつでも挑戦者(チャレンジャー)を待ってるぜ。そして子豚はクールに踵を返し、この場を去ろうとした。

 だがしかし、背後から迫りくる只ならぬ殺気により振り向いた私は、再びメタリックピンクの光と対峙する事となった。背後に複数人の子供達を従えたアヤメちゃんは、アンテナーを指揮棒の如く構え、決起に(はや)る鬨の声をあげた。


「隊員に告ぐ!前方五十セルチャに位置するトントンを捕獲せよ、捕獲した者には明日のオヤツのリクエストを許可する、いざ突撃ぃ!!」

「「「「やぁーー!!」」」」

「ぴきゃーーっ!!?(うわぁーーっ!!?)」


 ドドドドダダダダ、激しい足音を響かせ私に迫る子供達。前世の世界よりも数倍身体が丈夫で、足が速い、し、まって、これ、逃げるの辛くね?



◆〜◆〜◆


 リリーは貴族である、だが下位貴族である、分かりやすく言うとちょっとだけ偉くてちょっとだけ多くお金持ってるだけの家に産まれた女の子である。育ちが良いとは言っていない。


 暫くアヤメちゃん率いる平民の友達に混ざってトンちゃんを追いかけまわしていたが、毎日毎日、朝から晩まで外を駆け回り、家族の手伝いをして、近所の子の面倒まで見ているアヤメちゃんには体力が追いつかなかった。


 ぜぇはぁと肩で息をして、よろよろと歩いていくリリーは、木陰で赤ん坊を抱いて揺らしているアヤメちゃんの弟の隣にどっかりと座り込んだ。

 自分と歳の近い子供の叫び声、足の間を飛び回るトンちゃんの鳴き声、それと機嫌の良さそうな赤ちゃんの声が聞こえる。


「待てぇ俺の豪華ナッツ入りクッキー!」

「バナナマフィンー!!」

「パウンドケーキ!けーきっ!!」

「ぴきゃきゃぎゃーー!!!!」

「いいわ!そのまま回り込むのよ!!」


 リリーはぼーーっと跳ね回るピンクの丸を見つめていたが、ふと隣に座る弟くんを見ると、両手を差し出した。


「リリーが赤ちゃん見てるよ」

「いいの?」

「うん、いいよ」

「やったぁ!うさぎリンゴー!!」


 赤ちゃんを渡すが早いが物凄いスピードで駆けていくアヤメちゃんの弟、リリーは渡された赤ちゃんを抱き直し、木の幹に寄りかかった。

 腕の中を見ると不思議そうにリリーを見る赤ちゃん、先程まで抱っこしていた弟くんと同じように揺らしてやると、きゃらきゃらと笑い始めた。


「ぷぎょぎゃギャーー!!」

「観念しろぉッ!うわっ!?」

「プキュぃアィッ!」

「囲めかこめー!」

「ぴピピィーー!!!!」


 遠く青い空に、楽しそうな子供達の声と甲高い子豚の鳴き声が響き渡る。秋はもう、すぐそこに。



◆〜◆〜◆


 異世界の子供、元気。あのあと子供達に散々追いかけ回され、子供のお迎えが来る頃にはもう夕方だった、リリー?何故か腕に抱いてた赤ちゃんと一緒に木の根元で爆睡してたわよ。

 土と埃で汚れた身体をお風呂に沈められ、十分洗われたあとに、ふわふわなタオルに包まれてリリーの部屋につれてこられた。いや別に私まだ眠くないんだけど。


 そっと絨毯の上に降ろされ、夜中の探索に行ける時間までどうやって過ごすか考えていたらリリーに抱き上げられた。


「トンちゃんふわふわね、今日はリリーと一緒に寝ようね」

「ぷぴーぷぷぴきーぴー(あんた寝相悪いじゃない)」

「リリー明日ね、近くの川に遊びに行くのよ、綺麗な石拾ってお兄様にあげるの」

「ぷきゅぴきゅきゅぴぃ?(手紙に石いれるの?)」

「それとね、えっとね」


 私を腕に抱いたままベッドに転がるリリー、前に一緒に寝た時ベッドから蹴り落とされた事はまだ忘れてないわよ。

 リリーの腕から抜け出し、枕を引き摺って寄せ、その上に座ると寝転がりながら頬杖をついたリリーが背中を撫でてきた。


「トンちゃんあのね、アヤメちゃんたちはお仕事あるから、あんまり遊べないの」

「ぷぅぷきゅぴききキキュぷきゅーぴききー(まぁ食べて寝ての生活ではないでしょうよ)

「あんまり遠くに行っちゃダメなんだってさ、お仕事の時に呼べないから」

「ぴぴぴみゃぷぴぴーキュプキュぴきゃぷきー(そりゃそうよね近くにいないとすぐ呼べないし)」

「お兄様もね、毎日ご本読んでてね、お外であんまり遊ばなかったの」

「ぷきききぷきゅぴぴ?(本の虫だからでは?)」

「お外楽しいのに……なんでだろーね」

「ぷぴーっきぷきゅきゃキャぴー(本を読む方が楽しかったからよ)」

「ねー、トンちゃん……」


 それにしても今日はよく喋るわね、お腹を揉まれながら話を聞いていると、うつらうつらとリリーの頭が揺れ始めた、寝ても良いのよ。私これから夜に外行くし。

 ガクンガクンと頭を揺らしていたが、諦めたようにベッドに頭を落とすと最後に一言口に出して力尽きる。


「明日もリリーと遊ぼうねー……」

「…………ぷきー(…………やれやれ)」


 お断りよ、この世界の子供に振り回されてたら尻尾がいくつあっても足りないわ。そう思いながら、しっかとリリーの手に握られた自分の尻尾を見て、今日のスライムビュッフェは諦める事にした。



シバマロ: 柴犬系ワン=ワン

 ゲームでの色は茶、白、黒の三種類。眉のところが全匹修正液で描かれたのかってぐらい目立つ麻呂眉、物凄い麻呂眉。

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