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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
33/113

33."ほうれんそう"はとても大事


 朝から酷い目に遭ったわ、目をパンッパンに腫らしているが超ご機嫌なリリーに抱かれ移動する、げっそりとした子豚こと私。

 真っ赤な目玉朝から見せられたら食欲も失せるってもんよ、お食事する部屋に移動して、やっぱり赤ちゃん用の椅子に座らせられる私。


「トンちゃんもうリリーから逃げちゃダメだからね、約束ね」

「ぷきー……(疲れた……)」

「じゃないとメッ!するからね、トンちゃんすぐどっから走って行っちゃうんだから、アンテナーを刺していないラジモンはちゃんとご主人様といなきゃダメなのよ?」

「ぴきゅぃ……(やだぁ……)」


 目の前に美味しそうな野菜スープとこんがり狐色の丸パンがのせられた皿が置かれ、ふわりと優しい香りが食欲を誘う。

 まぁこれくらいなら食べられそうね、相変わらず私の頭をアンテナーで狙うリリーをあしらいつつ……なんか凄い芳ばしい匂いがするわね。


「こちらが白鯨の髭名物、シャークジラのサイコロステーキとなります!こちらの大根おろしと豆ソースをかけたり、こちらの小皿の海山葵(わさび)を豆ソースで溶いてステーキにつけたりしてお召し上がりくださいね」


 ジュウジュゥと鉄板の上で焼かれるサイコロステーキ肉、そう素敵な肉、シャークジラ、鯨?鮫?どちらでもいいかとにかく肉。

 そして三人テーブルの真ん中に置かれた大根おろしの山と、あれは、まさか。


「プキュプッ!!?(醤油!!?)」

「トンちゃん、最初にどれかける?」

「プキュプッ!プキュプッ!!(醤油!醤油!!)」

「この茶色いの?」


 みなさんご存知醤油さし、もしかしたら知らない人もいるかもしれないが、頭が赤色で二箇所穴が空いてるそうあのスタンダードな醤油さし。

 それと同じ形の醤油さしが今私の目の前にあるのだ、なんという奇跡、なんという運命、流石異世界詫びグルメ。


「トンちゃん大丈夫?リリーがしてあげようか?」

「ピピー!プピピー!ピキュピピー!!(要らぬ!自分で!自分でかける!!)」

「ほんとに大丈夫??」


 異世界の醤油をかけるのが刺身でも卵かけご飯でもわさびでもなくサイコロステーキなのがアレだが、もうなんでも良い、この世界のおそらく先人転生者様と製造業者様に感謝。

 ここの異世界人が発明してた場合?ノーベルトンちゃん賞を授けよう。


 渋るリリーから醤油差しを受け取り、転生先でなんの苦労もなく醤油を味わえる嬉しさと腕にきた重さと地球と変わらぬ重力のままに醤油差しを机にぶつけた。


ゴツンッ

「プピピピビャゥ!!(総硝子ゥ!!)」

「重かった?しょうがないなぁリリーがかけてあげるねトンちゃん」

「ぴきぃ……ぷきぃぴぴぃ……ッ!(重い……醤油重い……ッ!)」


 ちゃぽちゃぽ、ジュウジュウ、鉄板で焼かれた醤油が辺りに美味しそうな香りを撒き散らす。

 あぁ故郷の香り、醤油がかけられたサイコロステーキを小皿にとってもらい、大根おろしと山葵は横に置いておいて、まずはそのまま齧り付く。


 味噌と並び古来より日本の発酵食品の双璧を担う醤油、一口大のステーキから溢れ出す肉汁と共に口の中に広がる幼い頃より慣れ親しんだ塩っぱさと甘さと甘さ甘いな結構これ甘い───



「プッッッッっぎゃっ!!?(アッッッッまぁっ!!?)」

「トンちゃん舌火傷しちゃったの?」


 私トンちゃん、前世は醤油が塩辛い地域に住んでたの。

 昔は砂糖は貴重なものだったけど、日本のある地域では比較的手に入りやすくて、その貴重な砂糖を沢山使うぐらいあなたのことを大切に思ってますよって真心からご馳走に砂糖を沢山使うためその地域では醤油にも砂糖が入れられるようになったのよ。

 糖は旨味だから、世の中の美味しいものの大半は脂肪と糖で出来ているの……。


 予想していたより甘々な醤油と辛めの大根おろしを味わいながら、店員さんの言っていた"海山葵"なるものに蹄を伸ばす。


「ぷきゃきゅきゅ……(見た目は普通ね……)」


 すりおろされた海山葵、小さい黄緑の山が小皿の上に盛られている、しかし"山葵"ではなく"海山葵"毒キノコが薬になるような世界線だ山葵が酸っぱくてもおかしくない。

 醤油の二の舞にはならぬ、この巻いた豚の尻尾に誓ったのだ、そして蹄の先に乗せた黄緑色の山葵を恐る恐る舐めると───



「プッッッッピィッ!!!?(アッッッッマァッ!!!?)」

「トンちゃんどうしたの?」


 これが……異世界ギャップ…………?チョコミントのような濃厚でありながらもスッキリとした甘さにやられ、力なく机に倒れ伏す私、どうして山葵が砂糖も入れてないのに甘いんだ。おかしいやろ異世界。

 しかし味は悪くない、山葵ではなくハーブの何かとして考えれば良いのでは?後でデザートとして舐める事にしよう。そして私はサイコロステーキに口をつけ。


「ぷぴゅぴぴ…………(塩っぱい…………)」

「トンちゃん今日は朝から大忙しね」


 海山葵はスイカの塩枠だった……??自分でも何を言っているかわからない、だが舌の上に広がる甘い筈の醤油は、もっと甘かった海山葵により慣れ親しんだ美味しい塩っぱさへと変化していた。



◆〜◆〜◆


 ガッツリだった朝ご飯を美味しく平げ、元気を取り戻した私、これは星六つですよ、子豚格付け星六つです。おめでとうございます。


 そんな六つ星お宿までガチで迎えに来られてしまった高そうな馬車、筋肉質でお利口そうなお馬さんが二頭もついてる馬車。

 今は青いを通り越して漂白された顔面で向かい側に座るヒゲオヤジと、初めての座席がふわふわする馬車にテンションが上がっているリリー、そしてお行儀よくリリーの隣にお座りしながら馬車に揺られる私ことトンちゃん。


「何故……どうしてこんなことに…………」

「トンちゃん凄いよ、ふわふわだよ、お席ふわふわだよ、馬車のお席がふわふわだよ」

「ぷぴきゃきゅぴぴ(大人しくしてなさいよ)」


 景色は見飽きたし、ヒゲオヤジの顔色は戻らないし、馬車の中ではリリーのアンテナーを避けるぐらいしかする事ないので。マリーちゃんのお屋敷に着くまでカット!



◆〜◆〜◆


 カットできてる?できてる?出来てないけど、現実には早送りもリプレイもありゃしないのよ、もちろん録画機能も無いから写真は撮れる時に大切な人達と撮っておくといいわ。写真を見返すかは別としてね。


 ここで子豚のイカれた仲間達を紹介するぜ!馬車の床で体育座りの状態で死刑を待つ囚人の表情になったヒゲオヤジ!招待状になんで呼ばれたか理由が書いてなかったため、皿を数える幽霊みたいに不気味な声で輸出取引の独り反省会をしているわ!!

 馬車の内装にも景色にもアンテナーを私に振り下ろすのにも飽きて、ふわふわな椅子から半分滑り落ちているリリー!服装はちょっとオシャレなワンピース!仮にも貴族の令嬢がそんなだらけた格好で座っていいの!?


「トンちゃん、リリーもう馬車飽きた……」

「ぷきききぴきき(私も飽きてるわよ)」

「船か……船のスペースを取っていたのが悪いのか……?それとも積んだ野菜に虫……まさか鼠が……??」

「お外出たーい……」

「ぴぴぴ(それな)」

「いや子豚が持ってきたんだ、だとしたら子豚が何か壊してきたのか……?それとももっと酷いことを…………??」


 お屋敷に着くまでもう少しの辛抱だ!一定の広さの道を選んで通るために人通りが多い方へ向かうから中々進めない馬車より徒歩の方が早く着くのではとは思ってるぜ!地獄が広がる現場からは以上だ!!

 そうしてリリーの横に座っている私も座席の上でひっくり返り、脚をバタバタさせることで時間を潰した。



◆□◆□◆□◆


 来たぜお屋敷、走るなリリー、死ぬなヒゲオヤジ。馬車の中から解放された瞬間走り出してどっか行こうとするリリーがお屋敷のメイドさんにあっという間に捕まり、そっと私の傍に置かれた。

 背後では馬車の揺れに酔った、わけではなく、ネガティブ思考にやられて真っ白を通り越して色が透けてきたヒゲオヤジが胃の辺りを押さえながら御者さんに支えられて降りてきているところだ。


「トンちゃんお屋敷おっきいね」

「ぷぴきー(そうねー)」

「すみませ、ウプッ、酔ったわけでは、ォプッ」

「リリーのお家と全然違うわね」

「ぷぴきー(そうねー)」

「胃が…………」


 アンタの他人の凄いところに対して僻みも嫉みも悔しそうにもしないところは好きよ、でも隙あらばアンテナー刺そうとしてくるところは嫌いよ。

 私の頭のてっぺん目掛けて落ちてきたメタリックピンクのアンテナーを避けて遊んでいると、慌てた様子でマリーちゃんがこちらへ走ってきた。そしてヒゲオヤジの前に立つとペコリと頭を下げる。

 

「お待たせして申し訳ありませんアリュートルチ様!私、マリー・トレードと申します…………女の子?と、昨日のトントンちゃん」

「私リリー、こっちは私のラジモンのトンちゃん」

「ぷぴゅぴゅぴきゅーぴぴー(どっかで聞いたことある自己紹介ね)」


 そしてこの成長格差。男爵家に生まれ自由奔放に育ったリリーには同年代の女の子にメープル先生から教わった、"秘技お嬢様式挨拶"を繰り出すという選択肢は無かった。

 対して庶民のお金持ち商家一人娘のマリーちゃん、自分を助けたトントンの飼い主が自分と同じくらいの女の子だったとは思いもせず、いきなり社長さんの娘さんに頭を下げられ胃痛が腹痛で頭痛がマッハな状態のヒゲオヤジの前で固まってしまった。少し誰も何も喋らない時間が過ぎた後。



「リリーのリーとマリーのリー、お揃いだね!お友達になろ!」

「うん!リリーちゃんって呼んでいい?」

「いいよ!マリーちゃんって呼ぶね!」



 まぁ家柄格差はあれど結局は二人とも子供なので。手を取り合ってキャッキャと女の子特有の仲良しポーズをする二人、それを見て絶望を通り越して諦めた顔になりつつあるヒゲオヤジ。


 そんなヒゲオヤジの肩を、昨日お見かけしたマリーちゃんのお父さんが軽く叩いた。

 その瞬間髪も髭も逆立ち、赤白青と美容室のクルクルするアレ並に色が変わるヒゲオヤジ、カラフルね。それにしても隣のヒゲオヤジに髭があるからか知らないけど、マリーちゃんのお父さんって中々若いのでは?

 びょんと縦に20センチ飛んで着地したヒゲオヤジが、油の切れたロボットみたいに軋む音を立てながらマリーちゃんのお父さんの方に向いた。


「ヒョェッッッッッホンモノトレードサンッッッッ」

「チャーリー・アリュートルチ様ですね、この度は娘からの招待をお受け下さりありがとうございます」

「トトトトトトンデモナイ」

「マリー、お、お父さんはチャーリーさんとお話しをてくるからね、トンちゃんさん達と仲良く遊んでいてくれるかい?」

「はぁいお父様、リリーちゃん遊ぼ!」

「うん、マリーちゃん!」

「それではチャーリーさん、こちらに」


 高速で頷きながら私に向けて目でヘルプを求めてくるヒゲオヤジ、そうね、何も説明されずに出頭した感じよね。しょうがないので今回ばかりはついていってやろうかと足を進めようとしたら、いきなり身体が浮く感覚がした。

 上を見上げるとプクーッと頰を膨らませたリリーの顔。


「トンちゃんはリリーとマリーちゃんと遊ぶの!こっちよ!」

「こ、子豚」

「お父様リリー遊んでくるねー!」

「ぷぴぴーぃ(ばいばーぃ)」

「こぶたぁぁぁぁぁぁ……ッ!!」


 リリーに抱っこされ連れていかれる私に、トレードさんに案内されていくヒゲオヤジが手を伸ばす、モテる女は大変ね。

 後頭部に聞こえてくる深い絶望に沈んだ声を聞きながら、高級オヤツとか出して貰えるかしらと期待しながら運ばれた。



◆□◆□◆□◆□◆


 私はとんでもない罪を犯してしまったのかもしれない。新しい友達にはしゃぐリリー、同じくテンションが爆上がりのマリーちゃん、そして目の前で飛び交う枕枕クッション枕。

 今のところガッシャンは聞いたけどパリンは聞いてないのでセーフだと思いたい。


「キャーッ!あははっ!!」

「わぁっ!負けないよーッ!!」

「ぷぴゅぴぴぷ(大惨事ね)」


 そう、女の子とはいえまだ七歳、小学一年生か二年生の年齢なのだ。つまり一番行動力があり無鉄砲な時期とも言える。頰を興奮で薔薇色に染め枕を投げ合う二人、避けた枕は壁に飾られていた高そうな絵画に当たり、絵画は額ごと床に落ちた。

 子供のみのお部屋で大人しくお喋りやお人形遊びが出来るだろうか?いや出来ない。暴れるのは男の子だけではないのだ。緑の三角帽子を手で伸ばせるだけ伸ばし、私の足元で頭を抱え震えるゴマもちを突いて起こす。

 

「ちちちジィ!キュジジジィッ!!(攻撃でち!攻撃を受けてるでち!!)」

「ぴぴきゅぴぴぷきー(触り心地がいいわね)」

「キュキュ!?ジジッヂジジッ!(なんでちか!?この砲撃戦は!)」

「ぷきぷぴきゅー(人間の遊びよ)」


 この第一次お家遊び大戦の戦場となった部屋の惨状をどうやって誤魔化そうか、問題の原因は私にある。


 それはある雨の日のこと───お勉強終わりでフラストレーションの溜まったリリーにお外に出たいと駄々をこね、お母様に駄々を却下されてるのを見た私を追いかけ、アンテナーを刺してくれなきゃトンちゃんのおやつ食べちゃうもんと脅された時のこと。

 アンテナーを片手に咆哮(ギャン泣き)するリリーを前に、生贄(子豚)は震える蹄でクレヨンを持ち、ある遊びをスケッチブックに書いた。

 


『 枕 投 げ 』



 そう、枕投げ。修学旅行の時に友達とするのに憧れるけど実際やると一般のお客様に迷惑だし、多分障子破れたりして弁償問題になるし、そもそも疲れていてやる気も無いし、なんなら泊まったのがホテルで二人ずつの部屋とかでする事もなく終わる物語の中だけの青春的なお祭り。


 リリーの部屋には特に花瓶も絵も飾って無かったからドッスンバッタンキャッキャワァーと暴れようが、枕とクッションとベッドが汚れてカーテンが外れて、二十分お説教されるぐらいで済んだ。

 しかし違うのだ、ここはお金持ちの家、それもデカイ商家のお嬢様のお部屋だ。


 高そうな可愛い白毛のウサギの置物は床に落ち。


 本棚に入れられていた本はバラバラと雪崩れ落ち。


 ベッドに飾られていたテディベアみたいなぬいぐるみなんて真っ先に下に落ち。


 今は絶対に落とさせてはならぬとゴマもちと二人で守っている花瓶が残りの生存飾りといったところである。


「ぷぴぴぴぴー(ヤベェわマジで)」

「きゃははヒャー!!」

「ふひゃひゃひゃキャー!!」

「ジジヂィじびゅ!!(危ないでぐぇっ!!)」

「ぴっ(あっ)」


 リリーが綺麗なフォームで投げた枕が頭の上を跳び、反射的に叩き返そうした私がゴマもちを踏んで足を滑らせ、見事棚の上から花瓶ごと真っ逆さまに落ちていった。

 迫る床、悲鳴をあげる幼女二人、視界の端で落下しながら滝のような涙を流すゴマもち。


 その時、私の頭の中にどこかで聞いたような次回予告音声が流れてきた───



 死なないでトンちゃん!ここで貴女が死んだら誰が花瓶を助けるの!!

 そもそもヒゲオヤジの胃が無事かもまだ分からないのよ、その上お金持ちの家の花瓶まで割ったりしたら私達(アリュートルチ家)、一体全体どうなっちゃうの〜〜!?


『花瓶キャッチ☆TonTonテイル!!』


次回

〜アリュートルチ家全力の土下座〜


 お楽しみに!!




ガシャァァァァァアアン!!!!!!!


「「あぁーー!!」」



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