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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
32/113

32.生き物を投げてはいけません


 今現在私は、ご主人様奪還に燃える魔獣ハンガリアンの"ゴマもち"と共に薄く開いた扉の隙間から部屋の中を覗き込んでいる所である。そのゴマもちは手にもつハンガー……型の弓を振り上げ勇足で部屋の中に。


「居たわね「ご主じ」また捕まりたくないなら大人しくしてなさい「でちぃ……」」


 突入して行こうとしてたので前足で止めた。ぶにぃ!と床と蹄の間で潰れたゴマもちを手元に引き寄せ、今度こそ人の声がする部屋の中を覗き込む。


 薄暗い部屋で椅子に縛られているお嬢様を発見した、猿轡は外されているが助けを呼ぶなと脅されたのか声を出したりはしていない。だが目に今にも溢れそうな涙の膜を張ったまま黙って誘拐犯を睨みつけている、誘拐されて不安だろうし怖いだろうに、結構強い子の様だ。

 お嬢様ことゴマもちのご主人様の両側で小悪党顔の男二人がゲラゲラと笑いながら会話をしている、悪党顔ではない小悪党顔だ。例えるなら物語の一話だけ出てくる主人公の噛ませ犬役の悪党。あんな顔。

 

「おいおい女の子がそんな顔するもんじゃないぜ?もっと愛想よーーくしないともっと怖い目に遭うかもなぁ、マリー嬢ちゃんの商会の会長であるお父様が俺らの要求を全部呑んでくれればすぐお家に帰れるんだけどなぁー」

「会長の大事な大事な一人娘だそうだからな簡単に切り捨てられたやしないさ、なあマリーちゃん?」

「触らないで……ッ!」

「おおコワイ、そういえばこの娘のラジモンも捕獲したんだったな」

「どうでも良いだろ、トントンとハンガリアンなんてその辺ですぐ捕まえられるし、逃げる時にその辺に放り投げとけばいいさ」

「それもそうだな」


 何から何まで全部説明してくれたわ、これが小悪党の力、侮れん。要は今私の咥えているゴマもち(食べられません)のご主人様の名前はマリーちゃんで、なんかすごい商会?会社かな?のド偉い人の一人娘。つまり社長令嬢、助ければ謝礼が貰える可能性大。

 謝礼の事は横に置いても、さっき成人男性も隙さえつけば倒せる事が分かったのでぶっ倒してせめて安全な所まで逃してあげたい。子供が怖い目に遭っているのは心が痛む。と、いうわけで。


「ゴマもち」

「なんでちか?」

「ご主人様の所まで投げるわよ」

「わかったでち……投げる??」


 蹄で背中の矢筒を挟んだ私を青い顔で見上げるゴマもち、そうよ、仮にも齧歯類ならマリーちゃんを椅子に縛ってる縄ぐらい齧り切ってきなさいよ。

 目と目で会話をする、そう、アイコンタクトはバッチリだ。


 僕で投球?

 君で投球。


「お前が球になるんだYO!!」

「ちょっと待つでチィギィィィィイイイ!!?」


 勢いよく飛んでいくゴマもち、あんな頭にただ乗っけただけの三角帽子よく取れないな、魔獣って不思議ね。

 緩やかな放物線を描いて飛んでいったゴマもちは、見事椅子に座らせられているマリーちゃんの膝の上へ。流石私、頭脳明晰なだけじゃなく運動神経も抜群なんて。


「ゴマもち!!こんな所まで来てくれたのね、怪我はない?大丈夫??」

「キュキュキュー!(ご主人様!)」

「おわっ、あの野郎魔獣二体も見てられねぇのか!?」

「このハンガリアンどっから飛んで……トントン?しかいねぇな、二体とも逃げ出したのか丁度いい、窓の外に放って……」

「ぷきゅぷきゅぴぴ(こんにちは誘拐犯)」

「は?」

「ぴきゃぷきゅぴぴぃ!!(頭が高い誘拐犯!!)」


ガガスッ!!

「ア゛ッ゛!!!?」

「なんだこの豚!?人の脛を攻撃するなんて飼われてる魔獣じゃ無」

「ぴぴキィピキーー!!(控えおろーー!!)」


ゴゴスッ!!

「オ゛ッ゛!!!?」

「ぷっ、ぴぴぴーぷぴー(ふっ、他愛もないわね)」


 蹄を喰らわしたのは弁慶の泣き所、即ち脛を押さえてその場にしゃがみ込む誘拐犯二人。うむ苦しゅうない、我は巷で噂の黄金の子豚であるぞ、ちこう寄るなお巡りさんに捕まるがよい。

 矢張りベースは西洋文化なのか、部屋の中でもお靴を履いているため足の小指が攻撃できない、しゃがんでいる誘拐犯の足を何度も踏みつけるが靴が硬くて攻撃が入らないわ。ぷーぷー鳴いていたら脛の痛みから立ち直りかけている誘拐犯がこちらに手を伸ばしてきたので。


「この豚ァ……ッ!!」

「ぷきゅっ(とりゃっ)」

ゴスッッ!!


「ミ゜ッ!!?」

「人間様を、おちょくり、やがってェ……!」

「ぽきゅっ(てりゃっ)」

ガスッッ!!


「モ゜ッ!!?」

「ぴーきゅぴぷきゅーぷ、きゃきゅきゅぷききぷきぷきゅーきぴー(なーにが人間様よ、ただ個体数が多くて道具使えるだけの動物じゃない)」


 たかが雑食の動物が三匹群れたぐらいで何を天狗になってるんだか、私のような圧倒的強者(レベル補正有りの子豚)の前では成人男性(異世界人代表)などただの雑魚、まだ野良犬(異世界産)の方がいい勝負が出来るわ。


 体育座りの状態で真横に転がり、蹄突を受けた脛の鈍痛に呻く誘拐犯二名の前で、青いリボンを揺らし高らかに笑い声を上げる私。


「プーーキュッキュッキュッキュッきゅ、ぴききぴきぃ?ぷきゅきききぃ?ぴぷぷぴきゅぴきゃきゅきぃー!!(オーーホッホッホッホッホッホ、悔しかろう?痛かろう?私がスキルポイントなど無いと知った絶望に比べればまぁだ甘いー!!)」

「イテェ……イテェよぉ…………!」

「折れる……いや折れた…………!」

「ぷぷきゅぷきゃぴぷきー!ぴーぴきゃきゃぷきゃぷきょきゃ、ぷきょぷきゅぷぎゃピピー、ぷきーぷききープギャプキキャーぷピピぴきゅぴきゃぴきょきょきょきょ、ぷピピキー!!プキュップギャキュギキャプギュギュギャギィ!!!!(お前らには解らないだろうな!前世の知識を使って無双どころではなく、逆ハーでも姫でも賢者でも魔法使いでもない転生先は魔獣、それも子豚!!しかもこの世界の女神はなんとアホ!!!!)」

「何言ってんだこのトントン……」

「よくわかんねぇけど怒ってる……」

「プギュギュギィ!!(お黙り!!)」

「「ひいっ」」


 はぁぁ〜〜〜〜なんて理不尽!!若くして命を落とした私に詫びチートぐらいくれってそのお詫びがこの世界の詫びメシか……?成る程真理……??

 この世界の割に合わない真理に気付いた子豚の顔をして固まっていたら、誇り高きハンガリアンもとい縄切りナイフ代わりのゴマもちの鳴き声が聞こえてきた。


「チチヂィジジッ!(縄が解けたでち!)」

「そこのトントンちゃんも一緒に逃げよう!!」

「ぷきき、ぷきぃっぴき……(これが、ヒロイン力……)」

「とにかく外に出なきゃッ、お父さんに私は無事だって知らせないと……!」

「ぷきき、ぷきぃっぴき……(これが、ヒロイン力……)」

「きゅっキュキュキュチィ!(早く外に行くでちよ!)」


 圧倒的、自分でなんとかする系ヒロイン……行動力の塊、リリーじゃこうはいかない…………。トンちゃんトンちゃんと鳴いてるだけじゃない、ひとりでできるもん系ヒロイン……。肩に小動物(ゴマもち)を乗っけてるとてもヒロイン……この世界の主人公(ヒロイン)はしっかり系社長令嬢だった…………??

 主人(幼女)の成長格差に肝ならぬ魂を抜かれつつ廊下を走り、脛を抑えている奴等が復活する前に逃げるべしと外に通じる扉を蹴破って日の下へと出ていった私達を待っていたのは。


「へっ、さっきは油断してトントン如きにやられたが、縄抜け検定三級を持っている俺にはあの程度の拘束など取るに足らぬ「ぷけきっ(邪魔よ)」ぶべらっ!!?」


 檻に入れられた私達を見張っていた野郎だったのでジャンプして蹴り倒した。こちらの世界には縄抜け検定なるものがあるらしい。

 縄抜け検定試験、検定とつくものは挑戦した方が良いのでいやその前に私(子豚)でも挑戦できるかしら。というか受験資格あるのかしら。


 そんな事を考えながら人通りが多い道へ出るため、お前ら待てと聞き入れられない要望を背中に浴びながら路地裏を走っていると、前の方から仰々しい装備をつけた集団がこちらに向かってきた。

 その中の一人がマリーちゃんを見つけると、駆け寄ってきてちゃんと目線を合わせるために跪き話しかけてきた。


「失礼、マリー・トレード様ですね?」

「助けて!後ろから人攫いが追ってくるの!!」

「ハンガリアンを連れているマリー様を確認した、今あそこの角から顔を覗かせた三人組を捕縛しろ!!」

「「「イエスサー!」」」

「お、お父様の知り合いの人……?」

「この度トレード夫妻からマリー様の捜索を承ったものです。商会まで私がお送り致します、それと、隣のトントンはどちらの方のラジモンでしょう……」

「ぷきゅ(ぷきゅ)」


 そうだったわ私、人間じゃないから今脱走ラジモン扱いなのね。どう書いて説明したもんかと目をパチクリさせているとマリーちゃんが頭を撫でてくれた。

 隣を見上げると何故かドヤ顔のゴマもちと目が合う、なんなんだお前、魔法少女の小動物枠かよ肩の上って。


「私、このトントンに助けられたのよ」

「トントンが……?」

「ええ、だから飼い主さんにお礼をしたいわ、飼い主さんの所まで連れて行ってあげて欲しいの」

「了解しましたが、まずマリー様を商会まで送ってからですね、それでは参りましょうか」


 そして金属の胸当てをつけた人にひょいと持ち上げられる私、自警団とか、警官的な人なのかしら。

 小手と胸当てちょっと冷たかったが、そろそろ疲れてきたので我慢して抱かれてマリーちゃんのお家まで大人しく運ばれる事にした。




◆◽️◆◽️◆


 ミウの町の中心部、バカでかいお屋敷が目の前に聳え立っている。ちょーでっけーリリーの家の何倍あるんだろうか。

 ヒゲオヤジがこの前、屋敷の外壁を塗り直したぞと自慢げにしていたのを思い出した。笑うために鼻を鳴らした、そんなん勝負にもならんわ。


 目の端ではご両親に抱き着き抱き締められるマリーちゃん、良かった良かった、子供一人でよく頑張ったね。

 微笑ましいその光景を見ていたら、マリーちゃんがご両親の腕から抜けて私の方へと駆けてきた。その後ろをお父さんっぽい人がついてくる。


「助けてくれてありがとう、トントンちゃん、あなたのご主人様はどこにいるのかしら、是非ともお礼を言いたいのだけど」

「ぷききっぴきゅー、ぷぷぷぴ(どうしたもんかしら、そうだわ)」

「マリー、魔獣に言った所で見つからないと思うぞ?首に青いリボンをつけているからおそらく逃げ出したラジモンだろうし、あぁ君、近くでトントンに逃げられてしまったという人物を探してはくれないか?」

「はい、旦那さま……」

「どうした?すぐに手配を、いや人を回して探せば良いか、すぐに商会の者たちに」

「白鯨の髭ってお宿に泊まっているのね!分かったわ、お父さんすぐに行きましょ!!」

「マリー?何故そのトントンの主人の場所が分か………」


 あーーなーーるほど、めちゃすごな商会だったのね、小悪党も説明してたけどつまりマジでシャッチョサンの娘さん、そりゃ大捜索もするわけだわ。

 疲れ切って潰れた餅のポーズで寝ているゴマもちを手のひらに乗せ、私が地面に書いた文字を読んで喜んでいるマリーちゃん。周りの大人が固まってしまったがまぁ伝えられたのでよしとしよう。


 今来られると多分涙でべっちょべちょのぐっちゃぐちゃなリリーと会わせることになってしまうので、適当な大きさの石で続けて地面に文字を書く。


『お礼 明日 が いい』


「明日の方が都合が良いのかな、トントンちゃん、白鯨の髭にお迎えに行きたいのだけどよかったら名前も教えて貰えるかしら」

「ぷきゃきゃぴぴ(賢いわね)」


 だが私も賢い子豚だから、中身人間だとしてもメチャ賢い子豚だから。たしかね、リリーの苗字ね、えっとね、えっと待っててね、ちょっとまってね、あり、あら、あれ、待ってねもう鼻先まで出てきてるのよ嘘じゃないのホントよ?ホントなのよ??

 たしか。


『アリュートルチ』


「アリュートルチさんね、覚えたわ、トントンちゃんご主人様に伝えて貰えるかしら、トレード家に御招待させて下さいって、今日時を書いた招待状を渡すからちょっと待っててね!」


 しっかりした子だなぁ。リリーとは大違いだ、小走りでお屋敷の中まで駆けて行ったマリーちゃんを見送り、その場でお座りする。


 周りの大人からの信じられない物を見る目が痛いがまぁそうか、私だっていきなり犬や猫が拙くても文字書き始めたらビビるもんな。

 そう考えるとこの世界の子供肝座ってんな、可愛らしい便箋を首のリボンに挟み込ませられ、バイバーイと元気よく手を振るマリーちゃんに返事をして今夜の宿まで歩いて帰った。



◆◽️◆◽️◆


 いやぁ町の中心部辺りで助かったわ、観光業が盛んなのか街のあちこちに看板があって助かる。三十分ぐらいでお宿に辿り着けた私は、玄関先のマット的な物で蹄の汚れをなるべく取り、暖簾のはるか下を潜って中に入る。

 どことなく日本の雰囲気がするのはやっぱりゲームの設定が浅いからか。


 誰かに気付いてもらうため、大袈裟に鼻をひとつ鳴らした途端、ザッと中にいた店員さんが全員こちらを向いた。カウンターに立っていた店員さんが特に凄い眼力で、私を信じられない物を見たという表情で呟いた。


「……青いリボンのトントン」

「ぷきき?(呼んだ?)」


 続けてとてもとてもとても不本意ながら此度の生でつけられ渋々嫌々受け入れた自分の名前が呼ばれる。


「トンちゃん……ですか?」

「ぷきゅっ(そうよ)」

「お、部屋に、あっ、トンちゃんのご主人様が泊まっているお部屋にご案内しますね……?」

「ぴきー(たすかるー)」


 いやーホント助かるわー、宿の場所は分かってもリリーが案内された部屋は私わかんないからねー。店員さんの差し出してくれた腕に乗り、お部屋までゆっくりと運ばれる。

 うんうん、魔獣へのサービスがとても良い店だ、星四つをあげよう。残りの一つは明日の朝ごはんの美味しさによって決まる。


 ある部屋の前で止まり、店員さんがコンコンと扉をノックする、そうしたら中から今開けますと声がして木の扉が開けられた。ようヒゲ。


「帰ってきたんですね、娘のラジモンを連れてきて頂いてありがとうございます、受け取ります」

「ぷききゅー(せんきゅー)」

「いえ、それでは、失礼します」


パタン……


「戻って来なくても良かったんだぞ子豚」

「ぴっ(ケッ)」

「リリーは今泣き疲れて寝てるから、お前も小型魔獣用のベッドで……あ?なんだこの手紙」

「ぷきゅぴビビャッ!!(それはアダッ!!)」


 は?こいつは??普通に落としやがったな?可愛いくキュートで愛くるしいこのトンちゃんを床に落としやがったな????万死に値するぞヒゲオヤジ。


 怒る子豚に興味も示さず、マリーちゃんが一生懸命書いてくれた招待状をペーパーナイフなんて使わず手でビリビリと開けるヒゲオヤジ、そんなんだからリリーの対応が塩になるのよ。

 しゃーねー疲れたし今日は寝るか、お、猫ちぐらタイプの寝床なのね魔獣へのプライバシーの気遣いで明日の朝食を待たずに星5に格上げです。中に入るとふわふわの毛布が気持ち良い。


「こ、こぶた、お前、おまえ何してきたんだ」

「ぷひー(ふぅー)」

「おい、説明しろ、どうなったらあのトレード家から直接招待状なんて貰ってくるんだ、ウチが取引して貰ってる所のトップのとこだぞ?おい、おいって」

「ぷききぴぴぷきゅぴぴぷー(明かり消さなくても寝れていいわね)」

「子豚、説明しろ子豚、寝るな馬鹿、起きろ出てこい子豚、何をどうしたらトレード商会の、それも一代でとんでもない規模の商会を立ち上げた……聞いているのか子豚」

「……ぷぴー(……ぷぴー)」

「子豚ァァァァアア!!」


 外が煩いわね、折角良い眠りに落ちかけていたのに、安眠は大切よ身体の成長にもお肌にも脳味噌にもね。

 ふかふかの毛布を勿体無いが猫ちぐらの出口を塞ぐ形に置き、今度はリボンをちゃんと解いてから身体を丸めて気持ちの良い眠りに落ちていった。






 目を覚ますと薄暗く狭い部屋の中にいた、そうか、ここは猫ちぐら、異世界だし小型魔獣ちぐらと呼ぼうか、の中だったな。ほんわかと温かいこの中から出るのはちょっと嫌だが、私にはミウの町の美味しい朝食が待っている。

 一つ伸びをして、自分の隣に置いていたリボンを咥えると、出口を塞いでいた毛布をそっと外して清々しい朝を───


「「……………」」


ソッ……


 少し外した出口の隙間から血走った目玉が二つとボサボサの髪が見えた、こんなホラーは誰も求めていない、今は朝だぞ清々しい朝の筈だぞ希望の朝ではなかったのか?誰が妖怪大戦争をやりたいと言った妖怪アンテナーなんて私は持ってない。

 いや今のは幻覚だ昨日子豚メッチャ頑張ったからもしかしたら寝ぼけてたのかもしれない、そうだそうよ慣れない土地で頑張ったんだから疲れてるの、よく寝れたけど寝ぼけてたのよねきっとそうよね。そして私は蹄でもう一度毛布を外し───


「ト゛ ン゛ ち゛ ゃ゛ ん゛」


ソソッ……


 ガラッガラの掠れ声で名前を呼ばれた、だからどんなホラー?朝からホラー?布団の中はセーフゾーンって古来から決まってるのよ侵略は余程の事がない限りされないわ出なければそうセーフ。

 カタカタと震えながら出口を毛布で塞ぎ、外の化け物の視線から逃れ……?ん?毛布引っ張られてない??


ズズッ……ズズズ……ッ


「ぴ、ぷき、ぷき……(え、こわ、こわ……)」

「トン゛ち゛ャン゛?」


ズズズッ……ズズッ……


「ぷきゃ、ぴ、ぴゃぴゃ(やめて、ちょ、マジで)」

「ト゛ぅ゛シ゛テ゛、でテこナ゛イ゛の?」


 やだやだやだやだやだやだ、怖い、怖いよ助けて神様仏様閻魔様お母様、いや真面目に怖い怖い怖いこわ毛布引っ張んじゃねぇよ布団の中もといベッドいやちぐらの中はセーフゾーンだろうがキレるぞこの妖怪ちぐら覗き。

 ムギギギギギと毛布の引っ張り合いをしていたが、力負けして蹄からスッポーンと抜けて行った、これで私を守るものはこのちぐらのみとなった。


 丸い出口からゆっくりと髪が覗く、充血した片目が出て、人間の顔が穴から除いた。三日月型に歪んだ真っ赤な口が不気味に動き。



「ミ゛ぃ゛つケ゛タぁ゛」



 静かな朝の港町に一匹の子豚の悲鳴が響き、トンちゃん調べ星五の宿、"白鯨の髭"の屋根にとまっていたカモライン達が一斉に青空へと飛び立った。





「リリー、子豚で遊んでないで早くお顔洗って、うがいもしてきなさい」

「はァ゛ぃ゛」

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