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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
27/113

27.お出かけしよう


 うみ〜うみうみ、ミウの町〜〜♪


 そんな地域活性化CM的な歌が聞こえてくる港町。カモメらしき魔獣が空を飛び、屋台が並び、活気ある雰囲気の良い感じの。そう、ゲームの中でのチュートリアの次の町である"ミウの町"だ。


 機嫌が治ったリリーを、最近お勉強頑張っているしなとヒゲオヤジが商談ついでに連れてきたのだ。


 はーい!今日は青いリボンがキュートな現場のトンちゃんでぇす!!お兄様が帝都に行ってから早一ヶ月、ちまちまレベル上をして今はなんと、なななんと!レベル31になりましたー!おめでとー私!ありがとー私!!なんレベになれば進化するんだクソ。


 はい!それでね、前世で読み漁った転生モノみたいにね?良いスキルとか無いかなーってステータスを見てみたんですよう!レベルとスキルで子豚に転生した美少女JKが異世界無双?なんつって??最終進化が魔女お姉様系だし?魔法とか?魅了とか?箒で空を飛べたりとか??そういうのが出来たらいいなぁースキルポイントとか貯まってないかなぁーなんてつって、なんつって。


 まぁ、あれですよ───



「ぷっきゅきゅきゃききギャギャギギビィーー!!(ゲームシステム的に魔獣にスキルなんて無いゲームだけどなぁーー!!)」

「トンちゃん置いてっちゃうよー?」

「ピャギャギュギィ!ビギュギュギギィギビギィ!!(私トンちゃん!レベルは上がるけど育成系ゲームの魔獣に転生したの!!)」

「どうしたのー?お腹すいたのトンちゃん」

「ブッギブ!!!!(ガッデム!!!!)」


 なんで?どうして?チートも無ぇ!加護すら無ぇ!ステータスはあれども便利機能(自分の能力確認と次のレベルまで必要経験値が見れると魔獣図鑑)しか使えねぇ!!スキルも無ぇ!魔法も無ぇ!被捕食者の雑魚魔獣!!!!オラもうこんな転生先いやだぁ〜〜!オラもうあんな女神(クズ)いやだぁ〜〜!!


 ロックフェスのヘドバンよろしく頭をブンブンと振り回す、あ、なんか気持ち悪くなってきた。どれもこれも全てあの女神(アホ)のせいよ、間違い無いわ、きっとあの駄女神のせいで輪廻転生から外れたのよきっとそうよ。

 なんか凄い気分が悪くなったわ、美味しいものでも食べて元気出そう。良い匂いをさせている屋台のひとつに近づき、売り子のお兄ちゃんを見上げる。


「え〜、串焼き〜美味しいよ串焼き〜〜?おう青いリボンが似合うそこのトントンちゃん、ご主人様を連れてきたら一切れあげるよ〜」

「ぷきゅっ!(肉だわ!)」

「トンちゃん、迷子になっちゃうよ!」

「ぷきゅきー!ききゅきー!(串焼き!食べたい!)」

「くしやき?これ食べたいの??」

「ぴっきゅきー!!(食べたーい!!)」


 異世界といったら転生、異世界B級グルメといったら串焼き、初エンカウントの今食べずしていつ食べるというのだ!香ばしく食欲をそそるかおり、肉汁とソースの匂いのハーモニー、ぱちぱちと小気味良い音を立て火花をあげる炭火、極め付けはこのロケーション!海が見える港!!

 最高のシチュエーションじゃぁないの!食べたい!トンちゃん串焼き食べたい!!炭で焼いたお肉食べたい!!


 華麗なサイドステップアンドジャンプを繰り出し、全身全霊で串焼きが食べたいと示したら、リリーがヒゲオヤジを呼んでくれた。


「どうしたんだリリー」

「トンちゃんが食べたいって、買ってあげたいの」

「旦那さま、ウチの串焼きはミウの屋台の中でも随一に美味いですよ、おひとついかがですか?」

「ぷきゅきー!ぷきゃききぴぴぃー!(串焼き!トンちゃん食べる!)」

「買わんぞ子豚、これから昼飯を食べに行くんだから間食は無しだ」

「ぷきっ(肉っ)」


 食べないとか意味がわからないわ、だって串焼きよ?あの串焼きよ??異世界主役級B級グルメの一角串焼きよ?ヒゲオヤジ頭おかしいの??

 仕方がない、奥の手を使う事にしよう。リリーのワンピースの裾を引っ張り、画板を出させ、文字を書く。


『わたしの 口座(こうざ) から』


「トンちゃんのお金で買うの?」

「ぷきゅ(そうよ)」

「チィッ……!!」

「まいどっ!」


 勝った。そうだ、お前が言ったんだ、私が使う分は私の口座から出すと、ほら買えや早く買え私は串焼きが食べたいんだ。

 舌打ちをして硬貨を懐から出したヒゲオヤジ。良い笑顔の串焼き屋の兄ちゃんに渡された串焼きは、日本の串焼きに負けず劣らずおいしかった。



◆□◆□◆□◆□◆


 器用に持ち手を蹄に挟み、美味しそうな串焼きに齧り付くトンちゃん。そして、はぐはぐもぐもぐぷきぷきと、幸せそうなトンちゃんを見つめるリリー。

 彼女は心配だった、魔獣用と文字が書かれている箱に入ったお肉が、もし豚だったら。この世界でも同族食いは禁忌とされており、野生の魔獣と家畜化した動物では種族的に違う生物とはいえ、生物としてのルーツは近しいのである。

 豚型魔獣のトントンを食用家畜として品種改良をしていった結果が、この世界の豚なのである。


 リリーは確信していた、自分の魔獣であるトンちゃんはとても食いしん坊であると。

 リリーは決心した、自分の魔獣であるトンちゃんに、豚肉を食べさせてはならないと。

 リリーは覚悟を決めた、自分の魔獣であるトンちゃんの、今食べている串焼きが家畜の類であればだ。それこそ恨まれようとも嫌われようとも、自分が串焼きを取り上げ食べてはいけないと躾けるべきであると。


 真剣な顔(当社比)をして串焼き屋のお兄さんの方を見るリリー。そして、彼女は口を開いた。


「串焼き屋のおにいさん、トンちゃんに動物のお肉は駄目なの」

「魔獣用はシャークジラのヒレ肉だから大丈夫さ」

「お魚さんなのね、よかったぁ……」

「ぷきゅぴきぃー!!(肉最高ー!!)」


ガツガツぷきぷきと肉に食らいつくトンちゃんの耳には二人の会話は入っていなかった。




 シャークジラ。その名の通りデカイクジラと凶暴なサメの合いの子みたいな魔獣である。こいつの機嫌が悪い時に喧嘩を売られた船は死ぬ、なので絶滅させようとまでは行かずとも、船を壊して遊ぶような個体は人間が狩る。

 シャークジラから採れた皮に肉に骨、油、血の一滴まで残さず使用して、次は共存できる事を願い、彼等は今日も女神と雄大な海に祈りを捧げ漁をするのだ。


 ちなみに、シャークジラのお肉の味は牛肉に似てて中々に美味い。






◆□◆□◆□◆□◆



 次に私が目をつけたのは、黄色い看板に可愛いフルーツが描かれたフルーツジュースの屋台。緑のエプロンのお姉さんがニコニコしながらヤシの実みたいな容器を持っている。

 リリーの方を見ると気づいてくれたようで、足を止めてくれた。


「トンちゃんフルーツジュース飲みたいの?」

「ぷきっ(うん)」

「買わないぞ」


 なんという事だろう、ヒゲオヤジの言葉に私は愕然とした。この世界で採れるフルーツが詰まったトロピカルフルーツジュースを飲まぬというのか、こちらに素敵な微笑みを向ける美人お姉さんが私の為に拵えたフルーツジュースを飲まずして何を飲むというのか。

 ヒゲオヤジの言葉に少し悲しくなりながら、リリーが肩から下げる画板に挟まれた白い紙を捲る。一枚捲るとそこには先程私が事前に書いておいた文字が見えた。



『口座』


「チッ……!」

「ありがとうございまーす!」

「リリーにもちょっと頂戴?」

「ぷきゅ(いいわよ)」


 リリーがまず少し飲んで、美味しい!と顔を輝かせたあとトンちゃんどうぞと差し出してくれた。うーむトロピカル。

 マンゴーとかモモとかパイナップルとかの味がする。全てすり潰さずちょっと果肉が残っているのがまた美味しい。


 ヒゲオヤジが恨めしそうにこちらを見ていたが、あ、ごめん全部飲んだわ、分けてやれば良かったわね。



◆□◆□◆□◆□◆


 次に私が足を止めたのは青い看板に緑の細長い絵が描かれた屋台。そう、夏にお馴染みのアレである。人の良さそうなオジちゃんが私に誘惑の手招きをする。あぁ、抗えない……。

 ふらふらと千鳥足で屋台に近づく私を怪訝そうに見たリリーが、屋台の看板に書かれている文字を読んだ。


「トンちゃん今度は冷やし……きゅーり?」

「ぷききっ(食べたい)」

「もう買わんからな」


 なんという事だ、このひんやりつやつやとした緑の胡瓜を見てなんとも思わないのか、それも異世界産の冷やし胡瓜だぞ、味が気になるに決まっている。屋台飯は普段の二倍美味いというのが分からないのか、それも海の近くにある屋台ならばマシマシで。

 矢張りヒゲオヤジはどこかおかしいのかもしれない。今度頭の病院を勧めてやる事にしようと決め、私は長々と溜息を吐きながらリリーの画板の紙を一枚捲った。



『口座』


「チィッ……!!」

「はいどうぞ〜よく冷えてますよ〜」

「お野菜なの?うぇー、リリーいらない」

「ぷきゅきゅ(うまま)」


 なんでよ美味しいのに。うぇーと舌を出すリリーから串に刺さった胡瓜を差し出してもらい、齧り付く。皮が剥かれ縞々になった冷やし胡瓜、昆布の風味と塩っけ、そして唐辛子のぴりりとした辛味が美味しい。

 ちゃきちゃきとした歯応えも素晴らしい、胡瓜農家さん万歳。栄養価は高くないがアイスよりもずっと低カロリーで暑い夏の風物詩として外せない!胡瓜万歳。


 またヒゲオヤジが恨めしそうに睨んできたが、これは譲ってやるわけにはいかぬ、うまうま。すっかり一本腹の中に収めてしまい、ヒゲオヤジの予定するお昼ご飯の店に向かって私達はまた歩き始めた。



◆□◆□◆


 赤い看板に書かれたそれは、前世のコンビニエンスストアでもよく見たもの。この世界にはコンビニ無いけど。でも料理はあるようだ、さすが腐っても日本産RPG。レベル上げ以外たいした努力もせずこんな物理的に美味しい思いをしてしまって良いのだろうか?

 きっといいんだろう、だって転生先があのG.G(設定適当会社)が作ったゲームなのだから。


 特殊スキル取得も大魔法使用も、無双も進化も人間と意思疎通すら満足に出来ず、この可愛い頭を幼女に狙われ続ける子豚の日々……。

 そんな私に対する詫び石ならぬ詫びメシなのだろう、ならば食べるしかあるまい、異世界グルメを食べまくるしかあるまい!


 そう心に決めしっかりとした足取りで一直線に、ある屋台へと歩いていく私をリリーが不思議そうな顔で見、その看板へと目を向けた。

 

「…………か、ら、あ、げ、棒??」

「ぷきゅー!(唐揚げー!)」

「もう買わん、もー買わんぞ俺は」


 何を言っているんだヒゲオヤジ!これは私に対する異世界からの詫びメシだと言っているだろうが、だから私は心して食べねばならぬのだ。

 リリーの差し出す画板の紙を捲り、文字を出す。



『口座』


「だから買わんと言って」


 そしてもう一枚捲り、脅す。


『キノコ もう とらない』



「チィィッッッッッ!!!!」

「まいどどーもー」

「トンちゃんそれ美味しい?」

「ぷきゅきぷぷー、ぴぃ、ぷゅぷきぅ……(タコの唐揚げだわー、うん、騙された……)」


 唐揚げといえば普通鶏肉なのに。

 しかし美味い。プリッとしたタコの足、外側のサクサクとした衣、鶏肉ではなかったのが少しだけ残念だがこれはコレでまぁ。味付けはレモンと塩である、矢張りB級グルメは正義、異世界B級グルメ最高。


 味わいながら食べているとヒゲオヤジが此方を物凄い顔で睨みつけてきたが、コレは異世界からの詫びメシなのでどうという事はない、うまま。




◆□◆□◆


 いやぁ満喫した堪能した、腹四分目って所かしら。前世よりは小さいお腹を摩り、口についた美味しいカケラを舐めとる私、それにしても屋台飯が美味すぎた。

 さすが詫びメシ、侮れん。フライドポテトにリンゴ飴、焼き魚に焼きそば、お好み焼きっぽいのまであった。異世界とはいえ、G.G(ガデスガーデン)の設定の雑さにより"ニホンナイズ"されまくっているらしい。


「ぷきゃきゅ、きゃきゃきぃきぃ(これなら、お昼ご飯も期待出来そうね)」

「トンちゃんたくさん食べたねぇ、お腹いっぱいになっちゃった?」

「ぷぷぃぴーぴゅぷぴー(まだまだ入るわよ)」

「金がっ……娘の為におろしてきた金がッ……!もう半分もこの豚にッ……!!」


 さぁ、いざご飯を食べる所へ!こうしてトンちゃんの"異世界詫びメシ珍道中"は始まったのであった……お?



「ぷきっ!ぷぴぃぴきゃぴぃ!!(あっ!あんな所にお菓子屋さん!!)」

「もう絶対買わないからな!!?」


 ケチめ。



シャークジラ: 鯨の巨体と鮫の牙と肌をかね揃えたヤベー魔獣。好奇心旺盛でナワバリ意識が高い、コイツに目をつけられた船は死ぬ。ナワバリバトルに巻き込まれた船も死ぬ。お肉は美味しい。

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