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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
25/113

25.この世も諸行無常である


 涙でべっしょべしょに枕を濡らし、今日はおにいさまといっしょにねるぅ……とシクシク泣きながらその枕を抱えて部屋を出て行ったリリー、どうやら帝都の学校に通うシャスタお兄様と今生の別れだと思っているようだ。



 まぁ長期休みとかには帰ってくるでしょ、学生なんだし。明日の昼過ぎに帝都に出発するとのことで、メイドのシェイナがお兄様についていくと名乗りを上げた。

 ヒゲオヤジは学園の施設は質が良いし、シャスタも手伝って貰わずとも買い物も食事もできるだろうと、ついていく必要は無いと言っていたし、他のメイドさんも反対していたがそれでもお兄様についていくと。

 お?歳の差ロマンスの始まりか??恋愛タグ付けるか??とも思ったが、同僚に羽交い締めにされた彼女の言い分によると。


「こんなド田舎で歳をとっていくぐらいなら、シャスタ様について行ってワンチャン帝都で稼ぎの良い男捕まえて流行りを追って綺麗な服着たりとか化粧とかしてみたいしとにかく私は後悔のないようチャンスをものにしたいんですぅぅぅう!!!!」


 との事らしく。確かにねぇ……シェイナちゃんまだ若いし……とのベテランメイドさんの援護射撃により、シェイナちゃんの帝都行きは確定した。

 言ったもん勝ちとは正にこのこと、リリーが私の皿に飛ばしてくる人参をスプーンで叩き返す、シェイナ必殺"ニンジンガード"が見れなくなるかと思うと少し寂しい気もする。


「ぷきゅきゃきゅ、ぷきょきょー(そんな人生、思い通りになるわきゃないし)」



 願いなんて大抵叶わないものなのだ、リリーの『お兄様が学校に行かなくても良くなりますように』なんて願いとか、他にも。


『学校に隕石が落ちてクレーターになりますように』とか

『運動会の日も延期の日も延期の延期の日も土砂降りで中止になりますように』とか

『テスト期間に学校燃えろ』とか

『台風お前ならここまで来れる頑張れ』とか

『学校消えろ』とか

『会社も消えろ』とか

『給料増やせ』とか

『五億円欲しい』とか


 叶わないのだ。大体、無力な私達に出来る事といえば丑三つ時に藁人形を五寸釘で打ち付けるぐらいだ。あと考えられるのは奮発して五百円玉を神様に差し出し、祈りまくって中吉を引く事ぐらいしか出来ない。


「みゅぴょぴょぴぷー(ままならねー)」


 ままならぬ世の中。なんとも諸行無常である、私なんて恐らく死んだあとこうして豚の体になってるんだし。

 ごろんとクッションの上に転がり、へそ天をしてお休みモードに入る私。今日はレベル上げはお休みしよう。


「ぴー……ぷきぃぷぷきぃぴー……(あー……起きたら人型に進化してねーかなー……)」


 転生後の世界も、なんともままならぬものである。



◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆


 翌日の朝っぱらから、リリーはシャスタお兄様にベッタリであった。まさに文字通りベッタリ。腰にしがみついて右に行くも左に行くも一緒である、朝ご飯を食べ終わったと思ったら一目散にお兄様の所まで駆けて行って、しがみついて離れなくなった。


「リリー、そろそろ僕帝都に持っていく物の確認をしないと、離れてくれないかな」

「や」

「うーん、困ったなぁ、シェイナさん、そのテラリウムは割れないようにタオルで包んで欲しいな」

「承知しました、こちらの資料の束はどうされますか」

「それはね、あ、リリーこのままだと転んじゃうよ、だから離そう?」

「や」

「そっか嫌かぁ、お兄ちゃん困るなぁ……」


 メープル先生が来ても離れないので、この日はお兄様も一緒に授業を受けることになった。私、リリーに服の裾を掴まれたお兄様、目の周りを腫らしたままむくれたリリーの順に座り、メープル先生のお話を聞く。


 今日は帝都で生産される紙についての授業だ。私が使っているノートも和紙とかパピルスとかでなく前世の学校で使っていたような紙である。

 メープル先生の説明によると、この質の良い紙はどうやら蜘蛛の魔獣が生産しているらしいのだ、なんとも便利な魔獣である。


「このように、人が覗くと紙を作るのを止めてしまう"ハタオリグモ"という魔獣ですが、体長は1センチ前後で餌は木屑や繊維質な草を好みます」


「先生質問があります」

「はい、なんでしょうかシャスタくん」

「ハタオリグモは野生ではどのような所に生息しているのですか」

「良い質問ですね、主に帝都近くの森の中に住んでいるとの資料があります、が、人間に乱獲された後飼い慣らされた魔獣であるため、そもそも絶対数が少ないと言われる野生での生息数は近年減少傾向にあるようです」


「ありがとうございます」

「では続けましょうか、ハタオリグモは成長値が高いほど良い紙を作ると言われています。ですがハタオリグモの成長値が上がる条件は少し特殊で、数匹の個体でグループを作って集まりコロニーのようなものを作ります、このコロニーのクモの数によって成長値が決まります」


「先生質問があります」

「はいシャスタくん」

「ハタオリグモを捕獲する際には、コロニーの一匹にアンテナーを刺せば良いのですか?それとも全てなんらかの方法で捕獲して、全てのハタオリグモに刺せば良いのですか?」

「コロニーの中に体長が二セルチャほどの長が居るので、長にアンテナーを刺せばコロニー全体が一個体として自分のラジモンになりますね」


「ありがとうございます、もう一つ質問良いですか」

「どうぞシャスタくん」


 これ知ってる、勉強好きな一人の連続質問で授業が進まなくなるやつだ、私にはゲームの魔獣の知らない話であり聞いているだけなら楽しいが、興味のないリリーにはなんとも酷である。

 うつらうつらと船を漕ぐリリーと、イキイキと質問するお兄様。矢継ぎ早の質問に辟易する事もなく、答えられる範囲で正確に返答を返すメープル先生。


 結局、お兄様の質問タイムで授業は終わり、爆睡しているリリーの手からそっと服の裾を外したお兄様は一度大きく伸びをして、私の方を見て笑った。


「やっぱり知らない事を知るのは楽しいや、学校に早く行きたいなぁ」

「ぷぴぷーぷきぴぴ(そういうのやめてって)」

「お父様からは万年筆を貰ったし、お母様からは主様に貰ったコケのテラリウムのフタに使うガーゼ代わりの綺麗な布と、それを止めるリボンを貰ったんだ」

「ぴっきき(なるほど)」


「トンちゃんからの贈り物もちゃんと持っていくからね」


 贈り物?なんか私贈り物したかしら??小首を傾げていると、お兄様はポケットを漁ると、私の目の前に小さな袋を置いて中身を見せてくれた。


「この魔石、ラジコンの動力源に丁度いい大きさなんだ、ありがとうトンちゃん」

「きぴっぷぴっぴー……(ヌシ様のとこで拾った石……)」

「大事に使うね」

「ぴきっぴきゅぴゃー……(あの時の綺麗な石……)」


 メイドさんに特に何も言われず、普通に受け取られてたから気付かなかったけどお前魔石だったん、ただの綺麗な石だと思ってた……ビーズとか作るのに丁度良いかな、と……。

 ぽきーー……と唖然としている私の頭に手が乗り、優しく撫でられる。


「トンちゃん、リリーは寂しがり屋だからね、僕が居ない間頼んだよ」

「ぷぷぷきー(普通にいやよ)」

「あはは、よろしくね」


 有無を言わさず押し付けられた。


 この後お昼ご飯を食べ、馬車に乗り込んだお兄様は、簡単に挨拶を済ませると帝都に向かって旅立っていった。

 ガタガタと揺れる馬車の窓から身を乗り出し、私達に向けて大きく手を振る。


 満面の笑みのシェイナ。


「奥さまーっ!みなさーんっ!わたしっ、幸せになりまーーすっ!!」


 誰の送別会か分からなくなった。




 涙の別れを済ませてしんみりした空気も霧散した後、部屋で爆睡していたリリーが起きてきて。



「お兄様もういっちゃったの!?やだぁぁぁぁぁぁあうぅぁぁぁぁえぁぁぁあ!!!!」




 ヒゲオヤジがドラゴンの咆哮を繰り返すリリーを泣き止ませるのに、三時間ほどかかった。

 そのあと泣き疲れてリリーはまた寝た。寝る子は育つ。


ハタオリグモ: 1セルチャから2セルチャほどの大きさの蜘蛛魔獣、この世界の紙は全てこのハタオリグモ達が作ってくれている。工場や国で管理しているため、野生のハタオリグモは絶滅寸前である。

 レベルを上げると何故かコロニーの個体数が増える、それと紙に透かしを入れられたり、撥水加工にしたり、模様を入れたりと紙を作る技術も上がる。なんで?

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