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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
24/113

24.別れは突然に



 唐突ですが、ここでお別れのようです。



 別れ、それはどんな人にも訪れるもの。友達と学校が別れたり、先輩が卒業したり、まあ色々ある。今日私は、この世界に来てから初めての別れを経験する。とは言ってもまだ時間は残っているし、今生の別れと言うことでも無いのだが。


 目の前にはお兄様の両手をしっかりと掴み、まん丸い目をかっ開いて、瞳孔まで丸々黒々とさせておんなじ台詞しか言わなくなったリリー。

 これは、シャスタお兄様がメープル先生から逃げようとしたリリーの手を掴み、困った顔で言い放ったこの一言が原因だ。


「リリー、もう僕は来週にはここに居ないんだからね、ちゃんとメープル先生の授業に遅れないよう一人で用意しなきゃ」


 それからずっと三時のおやつの席でこう。


「だからね、リリー、僕は帝都の学校に行くんだよ」

「なんで」

「六年間勉強するんだ」

「なんで」

「知らない事を知る為だよ、帝都の寮に入るから、僕は領地に居なくなるんだよ」

「なんで」

「帝都の学校に」

「なんで」


 エンドレスナンデ。ドライフルーツとナッツの入ったクッキーをボリボリ貪り食いながら、前世の小学一年生の年齢で今更なぜなに期が来たらしいリリーを優しく見守る。

 お兄ちゃんも大変ねぇ、繰り返される質問に眉を顰める事なく、ただ淡々と事実を伝え、隙あらばリリーのお口にクッキーを突っ込んでいる。が、なんで攻撃は止まらない。


「勉強をするために学校に通うんだよ」

「なんで」

「僕の知らない事をもっと知りたいからね」

「なんで」

「お家じゃできない勉強を、学校にしに行くんだよ」

「なんで」

「ううーん、困ったなぁ、でもリリーがお手紙を書いてくれたら、僕のピイピイがお手紙を僕のところまで運んでくれるからね」

「ピュイルッピィー!(お任せ下さい!)」

「なんで」

「帝都の学校に行くからかなぁ」


 良い加減この会話を聞くのにも飽きて……ん?ピュィルッピ??甲高い鳥の鳴き声が聞こえてきた。私知らない、私この鳴き声の主は知らないけど意味が理解出来たということは魔獣なのだろう。

 同じ言い合いを続ける兄妹の方にそっと鼻先を向けると、童話の挿絵のような青い鳥が、お兄様の腕の上にとまっていた。黒いビーズのような目をこちらに向けたその鳥は、魔獣、である。




「ぴきゅぷきゅききぃ!(いや誰よアンタ!)」


 だから名前知らないんだってば!いや、私知ってる!この展開知ってる!!主人公(転生者)よりその世界に元からいた魔獣の方が有能だったりする展開だわ。

『何故か自分より有能な仲間にヨイショワッショイされる主人公』はこちとら食傷気味なのよ!まぁ!?私は豚生勝ち組貴族のペットに転生系だから問題ないけど!!?


 クッキーを両方の蹄に挟み、見知らぬ青いピイピイを威嚇する私こと最強ぷりてぃートンちゃん。そんな私を見て。


「…………ピュゥッ(…………フッ)」

「ピッキィー!?ぷきゅきゅ!?ぷききゃ!!?(ハァーッ!?鼻で!?いま鼻で嗤った!!?)」


 一声鳴いた青いピイピイ。てっめこの、降りてこいよこら、なんレベだよボコしたるわ。シャッシャッとクッキーを持った手でシャドーボクシングをしていたら、おやつの乗った机の上にいけすかない鳥がチョンと降りてきた。

 その途端お兄様がリリーに引っ張られ、椅子から立ち上がってどこかに連れていかれる。


「トンちゃん、ちょっとまっててね!リリーお父様にお兄様の学校なくならないかきいてくる!!」

「僕は学校行きたいんだけどなぁ」

「やだ!お兄様はリリーとあそぶんだもん!!」

「ぴゅぴゅぴゃーききゃぃ(我が儘もほどほどにね)」

「トンちゃん……!リリーがんばるね!!」


 応援したんじゃないし頑張るな。お兄様の手を掴み、勢いよく部屋から出て行くリリー。頑張れお兄様、なんとか分かるよう説明してやれヒゲオヤジ。



 ドタバタと慌ただしい後ろ姿を見送り、また青い鳥の方に視線を戻す。双葉みたいなアホ毛(アホ羽?)が生えたそいつは、黒曜石のような(くちばし)を開いて(さえず)った。


「お前が最近よく見るピンクのボールか」

「なにアンタ、失礼じゃない」 

「俺の主人であるシャスタ様に気に入られているからとて調子に乗るなよ」

「調子になんて乗ってませんー、ただ私が可愛くて賢くて愛され上手なだけですー」

「たかが地を這う豚風情がほざくじゃないか」

「んだと三歩で忘れるすっからからんの鳥頭」


 小鳥と子豚の間でバッチバチに火花を散らすが、(はた)から見るとなんとも微笑ましい光景にしか見えないようで、さっきからメイドさんが部屋の扉のところからこちらを見てクスクス笑っている。

 そりゃそうだ、可愛い小鳥と子豚がプキプキピーピー鳴きながら睨み合っていたとしても、人間にはただの鳴き声だしほのぼのするだけだ。私だって人間の状態なら可愛いー!って動画を撮ってSNSに上げるまでする。


 そんなことに気づいたらバカらしくなってきてしまった、ピーチクパーチク囀り続ける嘴に、片手のクッキーを突っ込む。


「疲れたから休戦しましょ」

「ぴぐぅ!?豚めまだ話は終わってないぞこれウマイな……」

「それで、私はトンちゃんだけどアンタの名前は」

「オレノナマエ……」


 確かにシャスタお兄様だってリリーより歳上なんだし、自分のラジモンは持っていてもおかしくない。それに頭の良いお兄様のことだ、元人間の私には及ばないまでも、きっとピイピイの中でも頭の良い個体を選んで───



「ナマエって、なんだ?」





 拝啓、私の前世の世界様。


 実はあの頭が良いと言われるチンパンジーやカラスやクジラやイルカも結構バカだったりするんですか。機会があれば何らかの手段を用いて教えて頂けたら幸いです。         


                   トンちゃんより



 頭の中にそんな文章が浮かんだ私の耳に、リリーの『どおしてがっこうなくならないのぉぉぉぉお!!!!』という絶叫が聞こえてきた。



 彼女は気づかない、元人間の自分の思考も、外側がトントンになったことにより"トントン(アホの子)ライズ"されていることに。

 彼女は気づけない、今の自分は前世と比べると結構おバカになっているという事を───

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