2.悩めるトントン
「ここはせめて豚のように太った御令嬢とかで勘弁して欲しかったよ」
私は独りごちた後、水から上がってぶるぶると体を振り、その場にお尻をついて現状について少し考えてみた。
大体、こんな幼豚が一人、いや、一匹で森の中にいるってオカシクない?親は何処よ?親は?保護者出でこーーい!ぴぎゅぴぎゅと鼻を鳴らしてあちこち見回すが、それらしき人物……豚物は何処にも居ない。
「……なんで、豚になっちゃったんだろぉ」
小さな頭を一生懸命捻って思い出す。普通に学校に行って、普通に自転車に乗って家に帰る途中……。
そこまで考えて頭が痛くなった、怖い、痛い、思い出せない。ぷきゅぅ……切なげに鳴る鼻を動かして、もう一度泉に近づき湖面をのぞき込む。
「どっからどう見ても豚だなぁ……」
薄桃色の小綺麗な豚だ。丸いつぶらな目がキラキラしてて、ちょっと可愛いのは評価させて貰おう。前世は見た目そこそこ可愛い女の子だったんだけど、ううーん、豚になるなんてなぁ……。
「男ならさ?某飛べる豚みたいにこう……なんとか……しかし四つ足歩行だな私…………」
両手指が使える人間体が恋しい。自分の足元を見ると薄茶の蹄が二つ行儀よく並んでいる。ハッ!待てよ、この体躯にこの瞳、薄桃色の豚って言ったらゲームの……!
その時豚の頭に電撃走る、前世でパソコン買いたてだった私が学校の友達に勧められて始めた"ラジコンモンスター"というゲーム。通称ラジモンと呼ばれるそのゲームの初期に出てくる子豚型魔獣……!魔獣の正式名称は、ちょっと忘れた。仕方ないね、記憶喪失気味だし。とにかくその豚型魔獣の姿。それが今の私。
乙女ゲームが好きな友達にしては珍しく、私に勧めてきたそれは育成ゲームで、なんでも最初の町の領主様の息子がイケメンだとか……言ってたけど。よくドット絵で分かるなと変に感心した。
それは今はいい。一人五体まで魔獣が操れるシステムで、モンスターの頭にラジコンのアンテナっぽいのをグサッと刺して操作する。
魔獣にそれさえ刺して仕舞えば後はなつき度を上げて仲良くなっていって進化させてーと、どこにでもあるような育成ゲームなんだけど……。
「なんで転生先、プレイヤー側じゃなかったの」
どうして私子豚なの。なんでモンスターなの。一兆歩譲ってせめてレアモンスターにしてくれ。転生先が人間でないことがここまで不便だとは。人語話せないから人と意思の疎通がままならんではないか。
ん?待てよ?モンスターという事は私、進化をする?そしてこの子豚魔獣は二段回進化。
一段目で見た目に変化が表れて身体が少し大きくなって強くなる、この子豚は序盤のキャラだから誰もが始めにゲットする。思い出せ!!進化の二段目を!思い出せわたしぃっ……!!
「……そうよ!最終進化は二種類あって、そのうち片方が人型になれる!やった!希望が見えてきた!!」
しかも妖艶な魔女タイプ!前世ではついぞ見ることができなかった自分の足元を隠す双丘地帯が!!確定で豊かなる双丘がっ!これはやるしかあるまいっ。そうと決まればレベル上げよ!!
ちんまい体に闘志を満たし、比喩ではなく鼻息荒く短い四つ足で歩き出す子豚。ふんふんと丸い鼻から音符を出して進んでいたが…ふと、その足を止めた。
「……変な臭いね、鉄臭い??」
濃い緑の茂みを揺らして臭いの方に進む。ひこひことピンクの鼻を鳴らして草木を掻き分けていくと少し開けた場所についた。