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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
18/113

18.ちょっと黙って?女神様☆


 誕生日のプレゼント事件の翌日、仮にも主役が自分の開催したパーティから抜け出すなどと怒られたリリー、メープル先生に頼んで今日は一日みっちりとマナーのお勉強をしなければならないようだ。


 一緒に授業を受けている身ではあるが、今は魔獣の私に人間のマナーなど要求されないし、人とダンスを踊らないし、ドレスも着ないし、お茶会も開かないので昼食ついでのテーブルマナー講座が終わったからスタコラサッサと逃げてきた。


 背中にかかるトンちゃんの裏切り者〜ッ!という声に鼻歌で返事をしながら、取り敢えずお屋敷の庭でも散歩するかとお外に出てみた。お外は良い天気で抜けるような青空が広がっている。

 今日はメイドさん達のにこやかな挨拶……ではなく、ひとりのメイドの怒号と激しいジャブジャブという音が聞こえてきた。


「おろしたての!ドレス!泥汚れぇぇぇぇえ!!」

「……ぴっ(……あっ)」

「しかも!よりにもよって!!薄いピンク色をぉぉぉおお!!!!」

「……ぷき(……やべ)」

「ぜんッ!ぜん!!落ちなぁぁぁぁぁあい!!!!」

バショァァァァァァ!!!!


 汚したのは、私じゃ、ないし?ほら、リリーが転んじゃっただけ、だし??よく見るとシェイナが鬼気迫る表情でお洗濯係を遂行していた。

 タライから飛び散る白い泡と水滴が、陽光に照らされてキラキラ光った。


「…………ぴきー(…………にげよー)」

ソソソソ……

「ムキィー!!!!!」


 なるべく水音から遠ざかるように足を進めて行くと、メープル先生がいつも連れてきている“アン”という名前のプードリアンというラジモンと出会った。

 プードリアンは猟犬の方のプードルみたいな体をしている魔獣で、怒ると凄い臭いのする尻尾を相手に当てて攻撃するって聞いた事があるわね。


「こんにちはトンちゃんさん、お噂はかねがね。こうしてお話しするのは初めてですね」

「こんにちはアンさん…………と、アンタは」


 黄緑色の毛並みが綺麗なプードリアンのアンさん、もう結構なおばあちゃんらしいが飼い主のメープル先生に負けず劣らずの淑女である。だが、問題はお座りしている彼女のその御手の間に居座っている奴だ。

 小さい丸い身体、くりんと巻かれた尻尾、小さい牙が口から覗く背中にウリ坊みたいな縞の模様。そう、レベリングの時に出会ったあのトントン(♂)である。


「よお!なんだオマエか久しぶりだな」

「なんでアンタがここに居るのよ」

「メシ食ってたらいきなり変な人間に捕まったんだ!」

「成る程ね」


 ピキプキと鼻を鳴らしながら経由を説明するウリ坊。いや、トントンなんだけど。ゲームではピンク一色だったが意外と柄のバリエーションがあるみたいだ。そんな事を考えつつ、俺には"オペラ"って名前ができたんだぜ!なんて話を聞いていた……。


「嘘でしょ、そんなお洒落な名前認めないわよ」

「オペラ、そろそろ私の腕の中から出なさいな」

「プキー」


 私なんてトンちゃんなのに何オペラって、何そんなチョコケーキ的素敵な名前がウリ坊ごときにつけられてんのよ、メープル先生だから?これが年の功?培われたセンスの差?主人の年齢の差なわけ??思考が理不尽と困惑と言い表せない虚しさに埋め尽くされる。


 首の後ろをアンさんに噛まれて腕の間から出されるオペラ。

 そっと隣に降ろされた後、またいそいそとアンさんの腕の中に入り、ドヤ顔でここが定位置と言わんばかりに腰を下ろすオペラ。


「……なんで戻るのよ」

「ここに居ると幸せな気分になるんだ、森の中でもこんなに温かい寝床は無かっ」

「出なさいオペラ」

「プキー」

トトトトトトト、ストン


「こんなに温かい寝床はなかったんだぜ、ふわふわしていて、安心でき」

「私の隣でお座りしなさい」

「プキー」

トトトトトトト、ストン


「安心できるし、メシも探さなくても」

「オペラ」

「ププキー」

トトトトトトト、ストン


 何度アンさんに咥えられ腕から外に置かれても戻ってきて同じ場所に座り込むオペラに半ば諦めたように空を見つめるアンさん。空にはトンビっぽい魔獣がピーヒョローと鳴きながら飛んでいる。


 柔らかな風が頰を撫で、庭に咲く名もわからぬ小さな草花たちがさわりと揺れた。遠くでは収穫した野菜を積んだ荷車を馬が運んでいる。

 アンさんはふぅと息を吐き、自分の腕の中で丸まったオペラの頭にもふもふの手をポンと置いた。


「……ご主人様から、この子豚にお座りを覚えさせなさいと命じられました」

「そうなんですか」

「ですが、この有り様です。矢張りご主人様のように物を教える事など私には出来ません、トンちゃんさんは文字も書けるというのに」

「いやそいつが馬鹿なだけですよ」

「これではご主人様に失望されてしまう、ご主人様に仕えておきながら歳ばかり取って子豚にお座り一つ覚えさせられないとは、不甲斐ないッ……!」

「いやその子豚がアホなだけですよ」


 あまりに悔しげに鼻を鳴らしオペラの頭をぽふぽふと優しく撫でているものだから、お座りでは無いが芸の一つはもう覚えているだろうと教えて、それでもキュゥキュウと鳴き続けるアンさんをしばらく慰めてから解散した。




◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆


 私はアリュートルチ家付きのメイドの一人である、シェイナと申します。最近、リリーお嬢様が拾ってきたトントンが、ドラゴンなんか連れてきちゃって、リリー様がボロボロになって帰ってきて、メイドの中で一番歳下の私が泥汚れがついた薄桃色のドレスを洗う係に任命された。

 体力あるでしょ、若いから、って。確かにここの奥様は優しくて、お嬢様の汚しに汚したドレスを新品同様に戻せなんて無茶は言わないが、言わないがそれでもさぁあの汚れはさぁ!!?


 なんとかまぁうっっすらこの辺汚れたのかなぁ?と分かるぐらいにまで頑張って汚れを薄くして、今は洗剤に漬けて一度休憩に入るところだ。

 休憩といってもお茶を一杯飲んだらもう一度様子を見てもみ洗いだけれども。


「ほんっっと、トンちゃんのお腹でも揉まないとやってられな……あら?」

ぽいんっ


 足元を見ずに歩いていたからか、何か柔らかい物を軽く蹴っ飛ばしてしまった、コロコロと転がったその茶色い丸いものが、ぽてんと横に倒れた後、私に向かって飛び跳ねながら近づいてきた。


「プキッ!プキキッ!!」

「トントン?あ、メープル先生の……蹴っちゃって御免なさいね、怪我はない?」

「プギーッ!キッ!プキュキィ!!」


 どうやら怪我は無いようだが転がされてしまった事に怒っているようで、プキプキと鳴きながら私の爪先や指先にピンクの鼻を押し当てて怒っている。 

 ごめんよごめんよと謝りながら、メープル先生のプードリアンのそばに置くため茶色い模様のあるトントンを持ち上げるために掴んだら。


モチィ……

「……柔らかい…………」

「プキっ?」

モチモチモチモチモチモチモチモチ

「プキップキピッププィ」

モモモモモモモモモモモモモモモモモモ

「ムププププププププププ」


 これは、癒される……。その場にしゃがみ込んでメープル先生のトントン、名前は分からないけどをひたすらモチった。さっきまで必死に揉み洗いをしていたドレスとは全く違う触り、いえ揉み心地。

 しゃがみ込んで揉み続けても全く疲れない。いえ、逆に癒されてくるわ。ププププと鳴き続けるトントンのお顔をモミモミしていたら、横からプードリアンに一回吠えられてしまった。


「ワゥンッ!」

「きゃっ」

「プキッ!」

「あ、あぁ…………そこがハウスなのね……」


 驚いて手を離した途端、私の手から抜けて伏せをするプードリアンの腕の中に入り座るトントン。こちらを見上げ、どうだここならば手が出せないだろうと目をキリッとさせている。その頭を良くできましたとばかりに舐めるプードリアン。

 そして私は、仲の良い二体にそっと近づいて。


モチチチチチチチチチチチチチチ

「ムププププププププププププ」

「……クゥン」




◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆⚪︎◆


 外に出る気分が削がれてしまったので、リリーのお部屋でクッションの上に寝っ転がりながら絵本を読み漁っている私、蹄だとページが捲りづらくて辛いぜ全く。

 おやつのナッツ盛り合わせを食べながら、版画っぽい挿絵の絵本を読み進める。前に見た時まったくわからなかった王子様とお姫様は今回はリリーの髪に隠されずちゃんと見れた。


「ぴきぴぴ、ぷぷきー?(まぁ中々、ご都合主義?)」


 王子様とお姫様が突然の不幸に襲われるも、女神様を信じていたお陰でハッピーエンド。金策も政治も子育ても全て上手くいき、二人は幸せに暮らしました。とさ。


 どうやらこの世界は女神信仰で、なんでもできてなんでも知ってる、超絶美女なハイパー万能女神一信仰らしい。


 まあ制作会社からして"Goddess(ガデス)Garden(ガーデン)"って名前だしね、そりゃ女神信仰か。ボリボリとナッツを噛み砕きながらページを進めると、明らかに他のページより凝った装飾の女神の版画。

 そうじゃん私には強い味方、ステさんがいるじゃん、この世界のアレコレはステさんがきっと教えてくれるはず。そうと決まれば早速。


「ぷぴぷぺ(へいステ)」

ピロンッ

「ぷぴっきゅーぷぷきゅぷーぴきゅぃきゅきゅ(この世界の女神について教えて)」

ピピピッ


『き……ぇ…………すか……?きこ……ま……か?』


「ぴ?(は?)」


 いきなり脳内に語りかける系の台詞が聞こえてきた。どうして、まさか音声ファイル系?これから世界を救う物語を始めますって前撮りしたヤツ今流されてる??

 呼んで出したステータスの画面を見ると、よくある、ビジュアライザー?って名前だっけ、音が縦棒が並んだので波みたいに表現されるやつ、それが映し出されていた。


『きこえ……ますか……?聞こえますか?』

「ぷきーっ、ぷきぴーっ!(きこえるーっ、きこえるよーっ!)」

『聞こえますか、子豚?』

「ぷこっ(子豚)」

『聞こえますか子豚?やっとこの世界を統べる美しき女神たるわたくしの話を聞けるようになったのですね、遅かったですが……殊勝な心がけと褒めてさしあげても良いでしょう』


 おっっとぉこの女神、とんでもなく上から目線だぞ?でも日本とは違う世界の神だし、そんな事もあるかもしれない。

 驚いて私が黙ったのをいいことに、好き勝手話し続ける音声のみ出演の女神様。


『良いですね?貴女は別な世界から迷い込んだイレギュラーな存在なのです、わたくしの作った完璧な世界に潜り込んだバグなのです、今すぐに出てお行きなさい。しかし矮小な存在である貴女に一人でこの世界から今すぐ出て行けとは言いません。わたくしは慈悲深く寛大で偉大なる女神なので、今は貴女をこの世界の凡ゆる(あらゆる)生物たちと同じように扱い、日々を謙虚に過ごせばただの弱小なる存在である貴女の魂をそのうち元の世界に戻してあげましょう』


 今そのうちっつったぞこの女神。どこか人をカチンとさせる物言いと、無駄に神秘的な声とBGM。

 いや確実才色兼備美人女神嘘やん、絶対性格悪い話し方やん、心の醜さはどれだけ化粧で隠そうとも声や言葉に滲み出てくるんやで。


 西日本方面から怒られそうな似非関西弁キャラになりかけていると、調子に乗った女神(声のみ)は、気になる言葉を続けた。


『まぁ良いでしょう。子豚の小さな脳味噌ではこの有難い話の三分の一も理解できないでしょうし、今はこのわたくしから厚かましくも盗み取った女神権限を返す事でこの世界に迷い込んだ罪は赦してあげましょう』

「ぷうきっぴきゅ?(女神権限?)」

『さぁ子豚、この画面に向けて"美しい女神様に愚鈍な子豚は、ステータスを扱う権限をお返し致します"と鳴くのです、ほら、今すぐに』

「ぽっきゅぷきゅぴきゃきゅきゃきー……(ぽっと出の魂に女神権限盗まれる女神って……)」

『あら?わたくしへの賛辞なら後にして頂けますか??』


 一言も口に出してねーよそんな事。それにしても女神権限か。私、実は割と良いもの拾ってない?ジッと薄い青色の画面を見つめて、この世界の神の道具なのかとちょっと感心する。へぇ、ほぉ、ふぅん。


「ぷぴぷぺ(ヘイステ)」

ピロンッ


『子豚?分かりましたか?いいえきっと理解していないでしょうね、今その小さい脳味噌でも分かるように話を噛み砕いて───』

「ぷうききゅぴぴっきゃ(女神をブロック)」

ピポッ


『あぁっ!?』


 自称女神の声が聞こえなくなり、NO SIGNALと画面に表示されたあと画面は閉じてホーム画面代わりなのか、『御用件をお話し下さい』と書かれた画面に切り替わった。

 ふむ、実はコイツ結構優秀なのではないか?クッションに背を伸ばし座り直して、薄い青い画面をまた蹄で叩いてみる、が、擦り抜ける。


 しかし機能を見ない事には何が出来るかも分からんな、ちょっくら聞いてみる事にしようか。


「ぷぴぷぺ(へいステ)」

ピロンッ

「プピーぷピピぷー(何が出来るか教えて)」

ピピピピピッ


 上から下えとずらずらずらずらと流れて行く難しそうな感じの文字の山々。目で追える範囲だと世界構築、バグ検知、環境バランスの調整、生物数の増減、地形操作、信仰心ポイント変換、特定種の保護、特定種の隔離、変異種作成…………ぅわ、疲れてきた。


 とにかく箱庭系ゲームのすごい版みたいなのが出来るらしい。

 流れる文字列とステの小難しい説明を聞きながら、自分に使えそうな物を探した結果。見つけましたよ皆さん、これ、こういうのが欲しかった。画面に映し出される文字に踊り出す心と身体、ぴょこぴょこ跳ね回って喜びの舞を


「プッキプッキプッ、ぷきょ!(やったやったやっ、あっ!)」

ガシャ!ザラザラ……


「……ぷききぅ(……こぼしちゃった)」


 おやつのナッツ溢した。一個一個お皿に戻しながら、一時停止をかけたステータス画面に書かれていた文字を読む。"特定の個体の経験値を増加"。

 これさえやればスライムで食っても喰っても終わらないレベル上げをしなくても、画面に私の名前を入れてこの経験値バーを右にギュギュぅっと移動させるだけで私はもう人型魔獣に進化できるってことよ!勝った!トンちゃん完勝!!トントンテイル・完!!

 

 ナッツを全てお皿に戻し、ステータスの画面に茶色い蹄を置いた、さらばまんまる子豚体型、こんにちはナイスバディの豚獣人。そして蹄に全神経を集中させ経験値バーを勢いよく右側に


ブブッ

「……ぷき?(……んん?)」


ブブッ


ブブッ


ブブブッ


 動かせない。おかしい、動かせない。もう物語もいいところにきてる感あるし、そろそろ人型になってもいいんでない?え?何?イジメ??

 薄い青色の画面を見つめてぽきゅー……と呆然していると、その画面のど真ん中に三角の黄色の中に黒いビックリマーク、ようは注意マークが現れた。


 続いて、別な画面が重なって現れ、エラーメッセージとエラー内容が気の抜けた電子音とともに表示される。



『405 Method Not Allowed


使用者"トンちゃん"は"女神講習⑤"を受講していない為"特定の個体の経験値を増加"の項目を実行する事ができません


       *エラーについての詳細を見る' 』

ポペーーーーーーーーー



 めが、み、こう、しゅぅ……まるご……。暫く固まって画面を見つめていたら、元の画面に戻ります、4、3、2、1……と数字のカウント後にエラー画面が消え、いつものステの『御用件をお話し下さい』の画面になった。


 講習、こう、しゅう?



「ぷきゅきゃっきゅぴきゅぴぴーー!?(女神って免許制だったわけ!?)」



 気が済むまでぷキュぷキュ泣いた後、ちらっとステータスの画面を見る、しかしあいも変わらず同じ画面があるばかりだ。何も見なかった事にしよう、そうしよう。

 私はそっとステータスを閉じて、寝て起きたら全て忘れる論を実行する為リリーのふかふかベッドに飛び乗り、晩御飯まで昼寝という名のふて寝を決め込んだ。


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