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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
17/113

17.リリーの誕生日②


 はじまりの森の中。町の近くの湖のほとり。ドラゴンをその場でリリースするわけにもいかず、アンテナーを外す訳にもいかず、リリーのコントローラーでドラゴンを動かしてなんとかお屋敷の前の広場まで帰ってきた訳なのだけれど。


 突如現れたドラゴンにお口をあんぐりと開けて呆然とする招待客面々の中、お母様だけが無表情。

 しかし流石のお母様でもノーリアクションは貫き通せなかったようで、手に持っていた扇子をポトリと取り落としていた。


 今は庭に出されてるテーブルを海外の映画の銃撃戦でよく見かける形に倒している誕生日会のお客様方がその影に隠れ見守る中、ドラゴンとリリーと私が仲良く並んでヒゲオヤジに説教されてる所だ。


「こんッなのにアンテナーを刺してどうするつもりだこの豚!森が火事にでもなったら一大事だぞ!!?」

「ぷきゅーきゅ、きゃ、きゅ、きょ、(プレゼントよ、ギ、フ、ト)」

「屁理屈を言うな!!!!」

「ぷきー(ぷきー)」


 髪を両手でぐちゃぐちゃに掻き乱し、唾を撒き散らし……汚い。主に私に向かって怒鳴り散らすヒゲオヤジ。何よ、小さいドラゴン一匹連れてきただけじゃないの、私が選んだリリーへのプレゼントの何が悪いのよ。ぷくーと頬を膨らませて黙っていると、ヒゲオヤジの怒りの矛先が今度はリリーに向いたらしい。


 この日の為に新調した桜色のドレスの胸元まで泥で汚し、セットした筈の髪の毛はボッサボサになり、顔も手も脚も傷だらけだがその顔は希望に満ちあふれ、一点の不安も不幸も無いというぐらい明るい。


「お父様!私この子飼う!!」

「飼えるわけがないだろうが!!!!」

「ひゃっ」

「どこで!こんなデカイの飼うつもりなんだどこで!言ってみなさい!!」

「…………ぉぅち」

「ぷきゅぃぴぃ…………(お家って言った…………)」

「うちの!どこで!!飼うつもりなんだ!!?」

「……ぉへゃ……!?」

「ぴっきゅぷきゅきゅぴぃぷぷ…………(ちょっと強めにお部屋って言った…………)」

「入るかぁぁぁぁぁぁあああ゛あ゛!!!!」


 別にそこまで怒る事ないじゃないの。ドラゴンよりドラゴンらしく咆哮するヒゲオヤジから視線を外すと、問題のドラゴンの近くで目をキラキラさせながら飛び跳ねるシャスタお兄様が見えた。

 ドラゴンの身体に手を当ててみたり、お行儀良く揃えさせられている前足を撫でてみたり、首を傾げるドラゴンと一緒に首を傾げてみたりしている。


 珍しい、お兄様がちゃんと年相応の子供しているわ……。

 ドラゴンの口の中を覗いているお兄様を見つめていたら、私の視線に気付いたようで急いで駆け寄ってきた。そしてションボリしているリリーの手を掴み、言い聞かせるように話し出した。


「リリー、流石に屋敷のお部屋はどこもドラゴンを入れるには狭すぎるよ」

「おにいさま……でもぉ…………」

「そうだぞリリー、シャスタもこう言っている事だし諦めなさい」

「でもねリリー、厩舎なら入るかもしれない」

「シャスタ?」

「厩舎に連れて行ってみようか、一つ空いている所があった筈だよ」

「シャスタ」

「この大きさなら身体は入ると思うんだ、トンちゃん、一緒に連れて行ってくれるかな」

「シャスタ、リリーの隣に並びなさい」


 そしてリリーの隣に立ち、一緒に怒られ始めるお兄様。矢張り子供は子供、格好イイ!の前には無力なのだ。ちょっと落ち着いたのか懇々と説教をしだすヒゲオヤジから目線を移し辺りを見回すと、私達の周りを遠巻きに囲んでいた子供達の作る輪が、ジリジリと距離を詰めてきていた。


 悲しきかな、無謀な子供にはどこの世界の親も敵わない。無事ドラゴンに辿り着き歓声を上げながら尻尾や鱗や爪を触り出す子供達、そしてテーブルバリケードの後ろから戻って来なさい!やめなさい!危ないからっ!と必死に声を上げる領民のお母さんお父さん。そんな中、跡継ぎを危険な目に合わせてたまるかと必死に我が子を拘束する貴族や商人の皆様。


「も、戻ってきなさい!食べられちゃうわよ!?」

「止めろ!それ以上近づくな!帰ってこい!!」

「アンタ連れ戻してきなさいよ!」

「腰が抜けて立てないんだよ!」


「ママー僕もドラゴン触りにいくー」

「ダメです!!!!」

「だってあの子達触りに行ってる」

「指を刺すんじゃありません!平民と貴族は違うんです!!」

「貴族ならシャスタくんも……」

「他所は他所!!うちはウチ!!!!」


 阿鼻叫喚、という四字熟語が頭の中に浮かんだ。何よヒゲオヤジのケチ、頭から尻尾の先まで合わせてたった四メートルぐらいの子供ドラゴンじゃないか、飼ってやりなさいよ私が一匹増えたようなもんでしょうに。

 そろそろ大人しくお説教を受けるのにも飽きてきた私は、子供に囲まれ不思議そうにしているドラゴンに話しかけた。


「ぷきゅきゅぁきゅきゅきぴ、ぷきぃ(アンタの寝床に案内するわ、来なさい)」

「グァゥァ(ネドコ)」

「ちょっと待てどこに連れて行くつもりだ止まれそこの子豚アァッ!!!!」


 早口言葉の様に叫ぶヒゲオヤジを無視して子供ドラゴンを先導する。

 ズズン……と一歩踏み出したドラゴンに彼方此方から歓声と悲鳴が上がる中、パン!と手を打ち鳴らす音が辺りに響いた。皆んなが音の鳴った方に顔を向けると、お母様が閉じた扇子で会場の出口を示してこう言った。


「パーティはこれにて御開きに致します。お帰りになられる方はつまらない物で申し訳ないのですが、あちらでお土産をお受け取り下さいませ」


 ぽかんと全員が口を開ける中、お母様はパッと開いた扇子で優雅に口元を隠し、気にした様子もなく言葉を続ける。


「急ぎの方もいらっしゃるようですし、ご挨拶などは省略させて頂きたいと思います、この度は私の娘の誕生日会に御主席下さり誠に有り難うございました。それでは皆様、御機嫌よう」


 その途端ものすごい勢いで我が子を小脇に抱えた身なりの良い男性から絶対歩きづらいだろうなと思うドレスを着ているご婦人まで、明らかに庶民でない人達の退席ラッシュが始まった。



 ひと騒動終わった後、やっとヒゲオヤジのお説教も済んだようでお前がアンテナーを刺したんだからお前が何とかしろとドラゴンの子供を一任された。

 さっきまで戯れていた領地の子供達が見守り、そこから随分離れた場所からその子供の親などの大人達が見守る中、目をパチパチとさせているドラゴンと話す私。


「ぷきゅき、ぴゅぴぎゅ(それで、お家はどこ?)」

「グルゥルルゥ(アッチノホウ)」

「ぴきー、ぷきゅぴきゅぷぴー?(そうなの、一人で帰れる?)」

「ァガァアォォォア(オウチカエレル)」


「あのトントン何話してるの?」

「トントンじゃなくて、トンちゃんっていうのよ」

「いーなーリリー、オレもドラゴン欲しい」

「シャスタは頑張ったと思うよ、シャスタの父ちゃんが頭硬いんだよ、ドラゴン飼えないなんて酷いこと言うよな」

「ううん、ドラゴンは大きくなるから、やっぱり厩舎には置いておけないって……」

「そんなんドラゴン専用の小屋作ってやれば良いだけの話なのになー」


「ぷぴぴぃ、きゅぅきゅきゅ?(そうなのね、じゃあ飛んでいける?)」

「ギュガァァ、グァァ、ガォァゥ(ニンゲン、コドモ、オイシソウ)」


 こいつぁヤベェ事になってきたぞ?周りでヒゲオヤジケチコールを繰り返す子供達に視線を投げ、ポタリなんて可愛らしいもんじゃない涎を垂らすドラゴン。

 万が一にもここでドラゴンが一人パクリとでもしたら、私のトン生もその子の人生も終わる。


 考えろ、考えろ私、どうすれば穏便にこの場を収められるのか……!!そんな私の目の端にうつったものは、引き倒されたテーブルから地面に転げ落ちているこんがり狐色に焼けた鳥の丸焼き。勿体無い。

 すかさず走り寄り後ろ蹄で空中に蹴り上げ、子供に向けてパカリと開けたドラゴンの口の中に狙いを定めて頭脳は大人な某小学生並に強烈なシュートをかました。


「プッキィィィィィィイ!!!!(いっけぇぇぇぇぇえ!!!!)」

「ガブッ(ガブッ)」

「プキュプピキィ!ピキュギュピピー!!(食物連鎖!阻止成功!!)」


「何今の!?」

「鳥の丸焼きが飛んできた!」

「トンちゃんすごーい!!」


 喜んでる場合じゃねぇんだよ逃げろよ。モゴモゴと鳥の丸焼きを食べているドラゴンに安心したと同時に、アンテナーについてまた一つ思い出した。

 刺されたラジモンは人間に対して害になる行動が出来なくなる、なんつーご都合主義設定だとは思うが、そうでもなきゃ熊型魔獣とかとにかく大型の肉食系の魔獣になんて頭から喰われて終わりだわ。


「ぷきっぴ、ぷきゅぴぃ……ぷきゅぴぴ、ぷきーきぷききー、ぴきゅぴきゅきゅ(焦って、損した……良いわね?人間友達、食べたりしない)」

「グァゥァガルァァ、ギャァルルル(ニンゲントモダチ、タベタリシナイ)」


 この後もよくよくよくよく教え込み、人間は食べ物ではないと教育したのでうっかり人間を襲って討伐対象になっちゃいましたぁ、なんて事もなくなるだろう。一仕事終えたと一息ついて、蹄で湿った額を拭う。


 それじゃあバイバイドラゴン!しようかと顔を上げると、ボトボトと大きな涎を落とすドラゴンがこちらをジッと見ていた。


「ガルァグァ、グゥゥガ、ガォァゥ(トンチャン、トントン、オイシソウ)」


 



  〜*暫くお待ちください*〜





「ガルァグァ、グルルゥ、ギャァルルル(トンチャン、トモダチ、タベタリシナイ)」

「ぷきゅきゅぃ、きゅぴぃ(それで良いわ、友達よ)」


 これで妥協する事にした、自然の摂理は変えられない。例えミニブタを飼っていたとしても豚肉を食べる人は食べるし、食物連鎖は無理に弄ると環境に大打撃を与える物だ。

 トントンは食べないと教えようとしたが、このドラゴンだって食べなければ生きていけないから私の命の安全が確保出来ただけよしとしよう。


 許せ、まだ見ぬこの世界の同胞達よ、野生の中で逞しく生きていってくれ。そしてアンテナーを抜かれた子供ドラゴンは皆んなに見守られながら、星が光り始めた空へと飛び立って行った。

 バイバイドラゴンー!と手を振る子供達、ホッとした顔をする大人達、残念そうに手を振るお兄様、その隣で号泣するリリー。


「ドラちゃんいっちゃやだぁぁぁぁあ!!!!」

「ぷきゅきゅぽぅ、ぴゅきゅぴぴゃぅ(その呼び方はアレよ、色々な方向に敵を作るわよ)」


 そりゃもう青いのから赤いのから黄色いのまで、誰でも思いつくようなあだ名だからまだ許される範囲だと思いたい、思いたいがそれでも矢張り敵は作るだろうな。

 空の向こうに飛んでいくドラゴンを見送りながら頭の上に降ってきたピンクに輝く新品のリリーのアンテナーを華麗に避ける。


「リリーのラジモンになってよぉトンちゃん!」

「ぷぴぃ(いやよ)」

「なんでぇねぇトンちゃぁーん!!」


 こんなに元気なら慰めなくていいか。リリーのラジモンについてはまた次の手を考える事にしよう。

 待ってよーと後ろをついてくるリリーから逃げつつ、パーティで食いっぱぐれたご飯をどうしようかと考える事にした。


ドラちゃん: トンちゃんが見つけたリリーへの誕プレ、だった大型ドラゴンの幼体。バイバイドラちゃん。

 ドラゴン種には大型と小型がおり、大型は空を飛ぶことができるが、滅多に見かけない。見かけて人に話したとしても信じてもらえないぐらい見かけない。

 小型は小さい羽が生えているが空を飛べず、希に高位貴族が自分のラジモンにしているのが見られる。お肉を食べたりお魚を食べたり色んな個体がいる。

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