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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
14/113

14.ヒゲオヤジとヌシサマと私


 ここに取り出したるは、リリーのお父様である顎髭が立派なオヤジの大事にしている犬笛。これを、一回水で洗って、咥えかけて、もう一回よく洗ってから咥え……かけて、よくよくよく洗ってから咥えて。


ヒュィー!ヒュィヒュィー!!


「グワゥグワゥ!(呼びましたか姐さん!)」

「グォゥウォゥ!(お呼びですか姐さん!)」

「ゥワァォーゥ!?(オヤツっすかー!?)」


 呼び出したるはここの屋敷の番犬三匹。ドーベリーという魔獣で、名前はブルーベリー、ブラックベリー、ラズベリー。ドーベルマンそのままの魔獣であるが、少し違うところは鼻の色が青、黒、赤の三種類ある事だ。


 ヒゲオヤジお抱えの調教師には悪いが、お母様から貰った潤沢なナッツを利用懐柔し私の手下にさせてもらった。


 この三匹の反応から解るように、ブルーとブラックはナッツの強化がそこそこ賢さに回った様だが、ベリーがアホの子ポジションになってしまった感が否めない。


「ピプーッ!(番号ーッ!)」

「ワン!(1!)」

「ワン!(2!)」

「ワゥン!(たくさん!)」

「プキきピッ!!(3だ馬鹿ものッ!!)」

「きゃイン!(さぁっせん!)」


 ベリーの鼻先をひっ叩き、三匹の口にナッツを投げ入れてからその場に座り直させる。矢張り魔獣を手名付けるには餌付けが一番早そうだ。美味しいものは世界を救う。自分の口にも二、三粒放り込み鼻を鳴らし、ヒゲオヤジの机から飛び降りた。


「プキュぴぷぷ、ぷききぷぅ!(呼び出したのは他でも無い、諸君等にやって貰いたい事がある!)」

「「「バウワゥ!(はい姐さん!)」」」

「ぷきゅうきゅきぃ(全力でリリーの気を引け)」

「「「ウォゥグゥ!(了解です姉さん!)」」」



 よし、これでダンスレッスンが終わったリリーが私の所に突撃してくる事はほぼ無くなったと言って良いだろう。障害が無くなった私が向かうは"はじめの森"。ここに居を構えてから夜中にスライム狩りに行くばかりで昼間の状態をまともに見た事がない。


 最初に目を覚ました時も夜だったしね。


 それに、いつも良くしてくださるリリーのお母様への良き貢ぎ物も探して来なければならない。

 お外に出かける時に野生のトントンと見間違えられないようにとお母様から首につけられたオレンジのリボン、このお礼に何かを渡そうと思っている。


「ぷきっぷきぴっ!(さぁ出発よっ!)」



 そう宣言して意気揚々と出掛けたのが多分15分前くらい、そして命の危険に晒されているのが今現在。目の前に聳え立つ苔むした岩だとばかり思っていた大きな大きな生物が、私の方へとゆっくり振り向いた。


 そういうわけで、ここまでの経由を纏めた歌を聞いてもらいたい、それでは歌います、非力な子豚で"森のヌシ様ヌシ様(たぶんクマさん)"。



「ぷきぃ〜き、ぷきぷき(あるぅ〜ひ、森の中)」


ドスゥン……ドスゥン……!


「ぷきぃ〜きっ、ぷきぷきっ(ヌシさーまに、出会ぁたっ)」


ドスッ……ドスッ……ドスッ……!


「ぷきぷっきゅっきゅ〜きゅ〜きゅ〜プッキュ〜〜(花さっくっも〜り〜の〜ミッチ〜〜)」


ズドドッドドッドドッズドドッ!!


「ピキプッキび〜ぎゅ〜ぎゅ〜ぎ〜ギィ〜!!(ヌシサッマに゛〜て゛〜あ゛〜あ゛〜ア゛ァ゛〜!!)」


 もう号泣しながら全力で森の中を駆け抜ける私、死ぬ、追いつかれたら死ぬ、子豚すぐ死ぬ。背後からは地響きと大型肉食動物特有の息継ぎ音、木の薙ぎ倒される音。


 やめてまだ死にたく無い。リリーにドーベリー三匹けしかけて勝手に探索に出たのは謝りますから助けて神様仏様いい子になりますトンちゃんいい子になりますからお願い許して私まだ死にたく無い!!!!



 そして追い詰められた大木の根っこの隙間、右も左も迂回している間に捕まるだろうと飛び込んだ穴はトントン一匹すら入れないぐらい浅かった!出来るだけ小さく縮こまり頭を抱えてガタガタ震えながら命乞いをする。


「ぴぴぴぃ……ぷぴぃ……ぴぷぷぴぴぃ…………(タベナイデ……ワタシ……オイシクナイトントン…………)」


 あぁ喰われてしまうとは情けない。だが食物連鎖には敵わない、せめて痛くしないでくれ……!腹を括って身体に当たる生温かい息とテロテロした布見たいなも、の…………?

 恐る恐る顔を上げると、苔や変な植物によりお髭を生やした熊の様な恐ろしい顔と、長くギザギザしていてこれまた苔どころか小さな花まで咲いている爪に挟まれたお母様につけてもらったオレンジ色のリボン。



「グァァァア、ゴガァァァア!(まってよぉ、これ落としたでしょぉ!)」

「ぷきぴ……ぷぴぴぴぃぷきゅ……?(これは……続き歌わねばならんやつ……?)」


 森のヌシ様は白い貝殻のイヤリングじゃなくて、オレンジのリボンを届けてくれたらしい。




◆〜◆〜◆〜◆〜◆


 ヌシ様の話(鳴き声、または咆哮とも言う)を聞くところによると、たまに森の中に入ってくる二足歩行の動物と友達になりたいらしい。しかし、彼等は怖がって逃げてしまうんだと。そりゃそうだ。苔むした巨大な丸太の様な腕、鋭く長い爪にノコギリの歯と立派な牙。

 こんなのに追っかけられたら誰だって逃げるに決まってるし、捕まったら失神失禁間違い無しだ。その動物はニンゲンと言うんだよと教えてあげたらとても喜んでくれた。


「見た目がこれじゃあね」

「あの子たちニンゲンっていうんだねー、初めて知ったよー」

「取り敢えずまた遊びに来るときにでも連れてくるわ」

「ほんと!?連れてきてくれるの!?楽しみにまってる!!」


 慣れれば可愛く見えない事もない、が、油断をすれば私なんぞ一飲みにされてしまうだろう。

なので、これは確認である、リリーを紹介して二人でペロッと喰われましたなんていったら元も子もない。


 楽しみだぁと純粋に喜んで怖い顔の横に花を飛ばしているいる森のヌシ様(勝手に名付けた)に、一つ二つ質問してみる。


「ヌシ様は身体が大きいけど、ふだん何を食べてるの?」

「ボク?お水をたくさん飲んで倒れている木を食べてるよ、あとは日向ぼっこしてるとぼかぽかしてくるんだ」

「森の掃除屋さん……光合成で生きてるの…………?」

「コーゴーセー??」


 こんな正に肉食獣ですみたいな見た目しといて?いかにもトントン百匹が一日のご飯ですみたいな見た目しといて??怖い見た目に似合わずあまりにファンシーな回答、お水と養分ですくすく育つ環境に配慮したエコロジー魔獣です。ってか?


 あまりに食事風景が想像できずに固まっていたら、心配されたのか長い爪で鼻先をつつかれた。が、私の頭の中はそれどころでは無い。

 食べられる心配はしなくて済んだが、そんな設定でいいの?この巨体光合成と水と腐った木とか落ち葉だけで動かせるの??


「あ、そうだね、このリボン返すねじっとしてて」


 そう言うとヌシ様は、大きな爪で器用に私の首にオレンジ色のリボンをま…グェッ!!!?


「コッ……!カァッ……!!」

「こうやって、ぐるぐるーってしてたよねぇ」

「ぽェッ……!!ホッ……!!!!」

「あれ?どうしたのトンちゃん」

「死ぬわボケェッ!!!!」

ッパァン!!

「いたぁ」


 子豚すぐ死にかける。危うくお母様から頂いたリボンで首を吊るところだった。全力でヌシ様の手をぶん殴って事なきを得たが、首周りの厚い筋肉と脂肪が無ければ即死だったわ。


 まずは人間に触れても壊さないぐらいの力加減を覚える様にしなさいと、木の枝三本を拾って折れない程度に握る練習の指示を出し、お返しにお土産にとリボンにヌシ様の背中に生えていたキノコを二本挟まされて帰路についた。



 そしてその帰り道、たぶん領地の見回りをしていたのだろうヒゲオヤジに捕まったわけなんだが。また尻尾を持たれてぶらりと吊られ、ねじれ尻尾が真っ直ぐになるのと同時に体がくるりんとまわる私。痛いし持ち方雑だし乙女をなんだと思ってるんだこのヒゲオヤジ!この!このっこのっ!!


「どこほっつき歩いてたんだこの子豚!俺の愛娘が一日中探しまわっていたと言うのに、勝手に外なぞ出歩きやがって」

「プキーッ!ピキップギィーッ!!(うるせー!チャーリーなんてふざけた名前しやがってーっ!!)」

「おーおー、文句なら風呂に入ってから……ん?なんだこのキノコは、こっ、これは……!」

「ビギッ!!(イダッ!!)」


 降ろすなら丁寧におろしなさいよヒゲオヤジ!リリーにトンちゃん虐めるお父さんなんか嫌い!って言われて仕舞えば良いんだわ!!……ん?

 痛みに震える子豚を放置して、私のリボンから取ったキノコを見つめ驚いているヒゲオヤジ。


 ヌシ様からの貰い物なんだけど、返してよ、返しなさいよねぇ、ねぇってば。ヒゲオヤジの脛を何度か蹴り飛ばしたが、全く気づく様子がない。なんなのよと飛び跳ねてみると、いきなりデカイ手で頭を乱暴に撫でられた。


「よくやったぞ子豚!このキノコは昔から万病に効くと言われる ベ ニ テ ン グ タ ケ だ!!」

「ぷけきゃきゅきょ?(それ毒で死ぬやつじゃないの?)」

「すり潰して薬草と混ぜると、重病患者がたちまち床から飛び出て踊り出すほどに回復するという素晴らしいキノコだぞ!良くやった!!」

「きゅきゅぅ?きゅきぃ??(それ大丈夫?トドメさしてない??)」


 某配管工で見た事があるタイプの配色のキノコである、ベニテングタケ。見た目は前世と同じものだが致死量云々というか死なないけど死ぬ程苦しむやつじゃないの?踊り出すほどってそれただただ苦しんでのたうちまわってるだけじゃないの??

 テンション爆上げで喜びの舞を踊りながら歩いていくヒゲオヤジ、本名チャーリー・アリュートルチの横をついて歩いていく。そうすると今度はもう一本を私に見せながら嬉しそうな声で説明してきた。


「こっちの貴婦人がさす日傘のようなキノコは、健康な者が口にすれば寿命が三年伸び、死の床に伏せる者が食べればたちまち回復し、食べた者皆が幸せで笑い出すと言うあの ワ ラ イ タ ケ だ!!」

「ぷきぃぷきききょ(それ幻覚作用じゃ)」

「よくやったぞ子豚、本当に良くやった、これで息子の欲しい本は買えるし、娘の新しいドレスも買える、妻の願いだってなんでも叶えてあげられるぞ!!」

「ぷき……ぷぅききき……(まぁ……お母様の為になるなら……)」

「ついでに重い病にかかっている見た事もない上流貴族の誰かに恩も売れて一石四鳥だ!!」

「ぷきゅきゅきぃぴぴ(ただの家族思いのクズだったわ)」


 だからかに笑いながら屋敷への道を歩いていくヒゲオヤジと、その足元でどちらも毒キノコでは?と考え続ける私。まぁ高く売れるならそれで良いし、お母様が欲しいものが買えたりするのなら目的は達成したとして良いだろう。


 そして私は、この世界のキノコだけはちゃんと調べ、無闇に口にしないようにしようと心に決めた。


ドーベリー.2: チュートリア領主のラジモン兼猟犬兼番犬。

鼻の色で区別できる。

赤=ラズベリー

青=ブルーベリー

黒=ブラックベリー


彼らを呼ぶときは

「ブルー!ブラック!!ラズ!!!」

なんか自分だけ違うのでは?と赤鼻が一瞬小首を傾げる。




ヌシ様: 森に住んでいて、トンちゃんが不思議な出会いをしたよく分からん大型熊型魔獣。身体全体にふさふさの苔と草が生えていて、ふわふわの髭根が口元から生えている。鋭い牙と大きな爪がある、ご飯は草木とお水らしい。

 背中に希少なキノコや薬草、お花などが生えている。

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