13.ステとの出会い
ご機嫌よう皆さま、いかがお過ごしだろうか。私、魔獣のトンちゃんは今、スライムの食べ過ぎで床に伏せっているところである。
リリーの部屋に設置された小型魔獣用のクッション、明るい黄色のそれに横たわっている私。
新しい色のスライムを見つけたから、即座に齧り付いたらなんとも言えない味がして、飲み込んだらお腹が一気に重くなった。これが胃もたれ?お腹をさすりながら口内に残った塩っぱいのか酸っぱいなんか懐かしいスライムの味を何なのかと考える。
「ぷふぅ……ぷきぷ……?(この残り方は……マヨネーズ……?)」
そう、口内に残るこの風味、思い返せばあのレアだと思って齧り付いたスライムは、外はプルプル中はとろーり、マヨネーズ入りスライムだった。ナタデココの食感の外側にこの味はあまり合わない気もするが、卵のカケラ入りマヨネーズだと思えば結構イける気がする。
塩っぱいスライムもまたにはいいじゃない、でも出来ればサラダと一緒に頂きたい。マヨネーズ単品で見慣れた容器一本丸々ぐらいの量は、マヨラー族では無い私には多過ぎたのだ。
「ぴキュぷキィ……(三日以内の卵使用……)」
「トンちゃんだいじょーぶ?おなかこわした?あんてなーさす??」
「ぷきぃ……(誰が刺すか……)」
「いたぁ!」
ぺシィン……!ヒョイ、ポイっ!コロコロ……
「ああっトンちゃんひどいっ!ベッドの下に入っちゃったぁっ……」
人が具合悪いって言ってんのにこの娘は。徐々に頭の上に移動してきたリリーが手に持つアンテナーをはたき落とし、蹄で挟んで遠くに投げる。上手くベッドの下に入ってくれたようでこちらにお尻をむけ取り出そうと奮闘しているリリーが見える。
暫く唸ったり取れない〜と喚いた後、取るのを諦めた様ですっくと立ち上がってスカートについた埃を払い始めたリリー。
「トンちゃん、リリーお薬もらってくるね」
「ぷふぅ(頼むわ)」
「おまけにね、なにかながい棒もとってくるね」
「ぷぴぅ(要らないわ)」
とてたたたた……小さい子供特有の足音を響かせながら部屋から出ていくリリー。あー、やっと静かになった。具合の悪い動物を構い倒すのは嫌われても噛まれても良い奴だけだ。まぁそれでも心配で構いたくなるのが飼い主なのだろうが。
これはアレか?状態異常というやつか??この始まりの町では家にいる主人公の家族に話しかけると手持ちのラジモンが全回復するゲーム仕様だったけど、アンテナーをさしていない野生のモンスターの私には適用されないやつかな、それとも主人公の家族がラジモンのお医者さん的なやつだったのか??
真面目に状態異常だとしたらだ、いやそれ以外にも今のレベルとかナッツのプラス値とか確認したいし。転生系のやつって大体ステータス開けるし?
「ぷひぃ、ぴぴぷぺ……(私もステータス、見れないかなぁ……)」
ピロンッ!
「ぷ?(ん?)」
寝っ転がった私の目の前に薄い青色の画面、SF映画とかに出てくるそれ、タッチパネルかと思って蹄を伸ばしてみたがヴヴッと通り抜けてしまった。
画面に書かれているのは『御用件をお話しください』の文字、どうやら私のステータスは某AI達のようには喋らないらしい。それでも初対面なのでクッションの上にちゃんとお座りし直して、挨拶をする事にした。
「ぷぴぷぺ(へいステ)」
ピロンッ
「ぷぷぴきゅきぃ?(私の現在のレベルは?)」
ピピッ
『現在のレベルは14です』
ほうお主、中々使えるステータスなのではないか?くるくる回る輪っかもエンドレス砂時計もなく、すぐに現在レベルが出た事に機嫌を良くした私は次の質問をする事にした。
「ぴぴっきゅぅぷきゅぅきゅ(次のレベルまでに必要な経験値を出して)」
ピピッ
おお出たでた。さてどのくらい必要なのか見せてもらお……。
『大体5000ぐらいです』
「プギィ!(そうじゃねぇ!)」
ヴヴッ!!
力いっぱい振った私の腕が開かれたステータス画面を歪めて通り過ぎる。なんでいきなりそんなガバになんの!?大体じゃねーのよ大体じゃ!!下三桁どこ行った!!?
目の前に浮かぶデジタル画面に頭突きを喰らわしたが、画面の乱れる軽い音と共に通り抜ける可愛い子豚の頭G.G(開発元)に異議申し立てをするぞ今すぐアップデートをしてくれ。
ぷきょぉぉぉと叫びながら空に浮かぶステータス画面をリズミカルに殴っていると、部屋の扉からリリーがひょっこり顔を出した。
「トンちゃん、おいしゃさまがきてくれたって」
「ぷぷき?(いしゃ?)」
「失礼しますー、おお、可愛いトントンですねー」
「あのね、リリーのトンちゃんね、お腹が痛いみたいなの」
「ぷきぷきき(ただの胃もたれよ)」
「ちょっとごめんよー、お腹がちょっと張ってますねー、あぁ領主さま、あとは狂豚病の予防接種でしたっけー?」
「頼むぞ、この際だから出来るものは全てしていってくれ、忙しい中何度も屋敷に呼び出されるのは面倒だろうしな」
もちもちとお腹周りを揉まれる私。人間体では無いので羞恥心もそこまで無い。耳の中や口の中も見られた後、そっとクッションの上に戻された。
そしてクッションに押しつけられる私の小さな身体、黄色いクッションに沈むぷにぷにのお腹、そんな私の後ろで三人の話す声がする。
「ぷき?ぷぅききき??(なに?狂豚病ってなに??)」
「お父さま、トンちゃんどうなるの?」
「病気にかかりにくくなるんだよ、大丈夫だリリー、トンちゃんは強い子だからな」
「いやぁ良く喋る子ですねー、それでは」
「ぷききっ?ぷきぷぴっ??(なんで?なんで身体抑えるのよ??)」
「とんちゃぁん……!」
「ぷきぴっ?ぴぴぃ……(なにぃ?リリー……)」
プスッ
プキィーーーーーー……!!
その日、哀れな子豚の悲鳴が空に響いた。
ここは始まりの町『チュートリア』。町の名前を考えるのが面倒臭かっただけだろという感想を抱きそうな名前である。この町に最近、お尻に絆創膏をバツ印につけたトントンが仲間入りをしたという。
名前はトンちゃん、不意打ちの注射を打たれ怒りに燃える彼女の明日はどっちだ。
余談だが、強化ナッツのプラス値を確認したところエゲツないステータス値の上がり方をしていた。
スライム: かわいい顔はついてないタイプ。色によって味が違う(トンちゃん調べ)、魔獣の一種だが、トンちゃんとは意思の疎通ができない。美味しくてレベル上げに最適(トンちゃん談)。
ステータス: あまり役に立ちそうにない。
『 読者様方 へ
トントンテイルへのブックマーク、ポイント、いいね、等の沢山の評価を有難うございます。
自分の作品に、ポイントやいいねを入れてくださるぐらい楽しんで読んでいる方が居るんだと感じ、ブックマークで次回投稿時も読んで下さるんですかと驚きました。
玉石混合のハイファンタジーの中、私が書いた拙い物語を選び、そしてここまで読んで下さったことに感謝します。
推敲と後書きへの追加文が決まり次第、現在の文字数以降。予約投稿となりますが、トントンテイルの最後までここに載せる予定となっています。
朝7時に一話ずつ、他の作品を待つ合間にでも、トンちゃんが異世界で転げ回り、周りを振り回し、振り回される様をどうぞお楽しみ下さい。
これからも月〜金曜まで祝日でも関係なく投稿しますので、トントンテイルを読んで、読者様方に「…んふっw」や、「…へっw」など小さな笑いを零して貰えたなら嬉しいです。
かもねぎま より』