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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
112/113

外伝テイル11.beautiful*女神、叱られる


 タカタカトコトコテコテコテチテチ。


 狐耳が生えて、面布をつけたお稚児さんが、風呂敷に包まれた物を大事そうに抱えながら長い長い廊下を一生懸命走っている。

 ある襖の前までくると、息を整えて、風呂敷を床に置くと一度正座をして襖をそっと開けた。


 ガヤガヤワイワイ騒がしい室内にペコリと頭を下げ、するりと隙間から中へ入り、荷物を持って襖を閉めて立ち上がろうとしたら自分の尻尾を踏んで転んでしまった。


 すぐさま起き上がり、走り寄ってきた同じぐらいの大きさの、面布をつけて狸の尻尾が生えたお稚児さんの手を借りて、風呂敷を宴会場の前まで運んでいく。


 そうして、バームクーヘンをそのまま咥えて走り去るトントンが映されているスクリーン。

 その横に立っていた、白い鹿の角が生えた、自分たちよりも少し大きい巫女服のような物を着ている者に渡すと、ちょこちょこ動きながら宴会場の端に消えていった。



 風呂敷を受け取った鹿の角の子は、マイクをセットすると、風呂敷の中から蛇腹状に折られた手紙を取り出して読み始めた。


「御歓談のところ失礼致します。女神教習所から此度の魂返還騒動への謝罪のお手紙と、お詫びの品が届きましたので、ご紹介させていただきます」


 途端にシンと静まる宴会場の中、凛とした鹿の子の声だけが部屋の中に響き渡る。


「手紙をお読み上げ致します、『此度の魂返還不備に対し、私共は大変深く───』」

「そんなの良いから詫びの品寄越せー!」

「手紙はほっとけ!どうせ下が(ふみ)返すだろ!」

「魂は帰ってきたんだし、そんな気にする事も無いのにねぇ」

「ほんとほんと、楽しければ良いのよ、楽しければ」


 鹿の子は手紙を折り畳むと、一緒に入っていた封筒からディスクを取り出し、上映機へと入れて再生を始める。

 画面の中で取り押さえられ上下に振られるトントンが消え、事務室のような所でパイプ椅子に座らせられている、長い黒髪で小葵紋の上着を着た女神見習いが現れた。背を丸めブツブツと何かを喋っているのを聞くために、また宴会場が静まる。


『うぅ……なぜ私が怒られなきゃならないの……全部あの子豚が悪いし、なんなら魂入りの擬似人格塊を配った教習所の落ち度じゃない……!』

『*****さん、お待たせしました、教員用女神権限端末、メンテナンスの為の返却交換ですね』

『は、はい、ありがとうございました……』


 おたふくの面をつけた、パンツスーツを着た事務員らしき者に二つ折りゲーム機……に見える、教員用女神権限端末を返却する見習い女神。

 事務員らしき者は、端末を開き、中身を確認し、横側に触れて首を傾げた。


『あら……タッチペンが無いようですが、どうされましたか?』

『あ゛っ』

『まさか、紛失されたんですか?』

『エ、いや、そのぉ……擬似世界の中にあると、思うんです、たぶん……』

『*****さん、これは教習所の備品なのですよ、決して貴女の私物では無いんです』

『はひっ』

『借り物として丁寧に扱ってくださいと何度もお伝えした筈ですが、タッチペンの分は信仰ポイントから引いておきますね』

『えぇっ!?そんな、あんまりじゃ』

『普通ならば借りた物は無くさない物なんですよ』

『ごめんなさい…………』


 宴会場の中から複数の、耐えきれず吹き出す音と、流れ弾を受けて倒れる音、そうだそうだとおたふくの面に共感する声が上がる。

 しゅるしゅると小さくなった女神見習いに追い討ちをかけるように、おたふくの面が言葉を続ける。


『*****さんの女神端末の子機は今お持ちですか?』

『は、はい、あります!」

『少々お借りしても?』

『はい、あの……何を……』

『子機につけるみょんみょんは赤、青、紫の三色があります、どれが良いですか』

『みょんみょん!!?』

『在庫が多い赤にしますね』


 皿の割れる音、誰かが床に身体の部位をぶつける音が響く。彼方此方からひっきりなしに引き笑いが聞こえてくる中、画面の中の彼女が発した裏返った声が続いた。

 みょんみょん、所謂ゴムで出来たコイルストラップ。遠目に目立つ赤色を付け始めるおたふく面、貸し出しの子機のタッチペンを無くした彼女に、そんなのつけるなと止める権利は無い。


『みょ、みょんみょん付けるんですか!?私、そんなの要らないです!!』

『正式名称は紛失防止ストラップです、以降はこれを付けて配布された子機をお使い下さい』

『だ、ダサい……ッ!』

『*****さん、今回は魂の混入があったとお聞きしていますが、なぜ初期段階で教習所へ連絡しなかったんですか?』

『それは……すみません…………』

『魂の混入に気付かなかった教習所側にも落ち度はあったとはいえ、擬似世界へ投下する際には擬似人格塊の中に発光する物が無いか確認してから投下するようにと、最初の講義の内容にあった筈ですが』

『はい……すみません……」

『それと*****さんの擬似世界のログを閲覧した所、実体のまま擬似世界に降り立ったと有りますがこれは事実ですか?』

『…………おそらく』

『実体のまま擬似世界に降りると、世界にも貴女自身にもどんな影響があるか分からないので止めてくださいとお教えしている筈なのですが』

『すみません……』

『禁則事項は理由があってそう定められている物なんです、個人の勝手な判断で破られていては禁止にしている意味が有りません、今後は絶対にやめて下さい』

『すみません…………』





 新しく与えられた子機を手に暫くしょぼくれて立っていた女神(仮)がキッと眦を決して強く拳を握りしめた。


『わたくし、がんばりますッ』

『いくら頑張っても無駄な時もあります、ですがタッチペンは回収できたら回収して下さい、アレ割と高いので』

『ごめんなさい…………』





 宴会場の中に、過呼吸になるレベルの引き攣り笑いで麻痺痙攣している神々の山が出来上がった。恐るべしbeautiful*女神。

 暫くヒーヒーヒューヒュー音が鳴っていたが、落ち着いてきたのか、呼吸音が正常になった所で鹿の子がマイクを手に取った。


「此度のお詫びの映像ですが、女神見習いである*****殿には映像閲覧の許可を頂いております、承認の記録がこちらです」


 そう言って持ち上げたのは、どこからどう見てもサイン色紙だった、beautiful*の所がやけに達筆なくせに、女神の漢字はガッタガタだった。

 神々は各々の笑い声を響かせ、今度こそ過呼吸になるほど笑った。



 恐るべしbeautiful*女神、がんばれbeautiful*女神、子豚に負けるなbeautiful*女神。擬似世界の平和と神々の娯楽は君が守るんだ。


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