外伝テイル9.ルーレットは飛ぶもの
黒鴎商会保有ブランド、金の子豚シリーズにボードゲームが登場!双六人生遊戯。
"農民暮らし" "貴族暮らし"
ルーレットを廻して、マス目を進み、山あり谷ありの人生を楽しもう!!豪華版も好評発売中、お求めは近くのカモラインネストまで!
〜〜〜ある農民のお家〜〜〜
「おばあちゃん!おこづかい二人で貯めてね、ジャーン!貴族暮らし買ったんだ!!」
「ばあちゃんも一緒に遊ぼ!」
「うんうん、良かったねぇ、おやそんなに強く引っ張ったら紙が切れてしまうよ、貸してごらんなさい」
三つ折りにされた厚紙を開くと、綺麗な色で長い道のマスが並んでいる。ルーレットと呼ばれる部分を嵌めて、駒を孫たちに配った。道具がいっぱいあって、孫娘が銀行の人をやると言ったのでお金代わりの紙束を渡す。
字も大きいし、ふりがなも有るから、私でも読みやすくていいわねぇ。カードを混ぜて、揃えて、裏にして置いて、そろそろ始めましょうかね。
「誰が最初にする?」
「ぼくがさいしょにしたい!」
「ええよええよ、おばあちゃんが最後でいいからね」
「ん……?ねぇちゃん、“ぜい“ってなに??」
「わかんない、でも一回マスを進めるたびにお金が貰えるみたい、だよね?おばあちゃん」
「どれどれ、説明にはそう書いてあるわね、いやだわぁ遊びでも税金が出てくるなんて」
ランク1で1ジラ、2で5ジラ、3で10ジラ、通貨の名前が実際とは違うのね、そうね、遊びなんだし違うわよね。
でも少し嫌だわ、この“貴族暮らし”を作った人のところは違うのかもしれないけど、うちの領地を治める領主は、お世辞にも良い領主だとは言えない。
「自分で、貰う税を決めて下さいって書いてあるよ」
「じゃあいちばん多いのにする!」
「うーん、私は真ん中ぐらいにしようかな」
でもまぁ、貴族の事が遊びだとしても分かるのは良いことなのでしょう、きっと。頑張ってお小遣いを貯めて、やっと買えたおもちゃを嬉しそうに見ている孫たちに水を差すことはやめましょう。
楽しそうにマスに書かれた文字を読む二人を見て、豪華絢爛を表したような描かれた盤面に目を落とした。
…………20分後…………
「カーッ!全然ジラが足りんがね、まだ指輪も首飾りも買ってないのに!!」
「おばあちゃん、そんなにカード取ったら一揆起こされちゃうよ!」
「にひひひ……!」
「いいんだよ一揆マス踏まなきゃいいんだから、領民の頼みなんざ聞いてられるかァ、宝石と金はいいねぇ、ゴールさえして仕舞えば価値が五倍になるなんて」
「おばあちゃん……」
「なんで10ジラしか税を徴収できないんだい、もっと出せるだろうに、そうしたら茶会でも顔を広くして投資できるのにさ、遊びだとしてもままならないねぇ……あ゛!」
「ほらぁ…………」
「あはははははは!!」
〜〜〜ある貴族のお家〜〜〜
茶会を開いたは良いのだけれど、友人が変な物を持ってきたのよ。粗末な木の箱の中に、褪せた色のマスが並び、変な形の人形が入っている庶民の玩具のようなの。
それを囲んで嬉しそうにしている友人達の事が分からないわ、陳腐な作りの、平民の遊びに使う物でしょうに。
「皆様と遊んだら楽しいかと思って、最近流行っている人生遊戯というものを持ってきましたの!」
「あの黒鴎商会の?貴族用のセットは品薄だとお聞きしていましたがよく手に入りましたわね!」
「金の子豚印の商品はわたくしも幾つか所持しておりますの、この前子供が産まれたばかりでしょう?赤子用のスプーンを作らせましたのよ」
「わたくしも子供のために食器類を取り寄せましたわ、矢張り自分で食器を使って食べられる事が嬉しいみたいで、お気に入りなんです」
「人生遊戯の実物が見れて嬉しいですわ、商会に問い合わせて持って来させましょうかね、子供が大きくなったら一緒に遊びたいものですわ」
箱に書かれていた文字は”農民暮らし"、何が楽しくてたかが遊戯だとしても、このわたくしが税を納める側にならねばならないのか。
貴族とは格を保つため、身なりを整え、教養を身につける事が仕事。税金は領民の当たり前の義務であり、遊戯にするまでもなく何があっても領民が領主に払わねばならぬものでしょうに。
嫌だけれど、これも付き合いよね。学生時代からの付き合いがある三人、遊戯板にはしゃぐ姿を見ていると、学内のサロンで四人で遊んでいた事を思い出す。
正直、ドレスや宝石にお金を使って家格に違わぬ身なりを整える方が良いだろうし、茶会や夜会に参加して顔を広くする方が有意義だと思うけど、楽しそうなところにこんなわかりきった事を口に出すのも野暮ね。
「順番はどうされます?」
「所持者が最初にするべきでは?」
「いいのです?」
「ええもちろん、その代わり手加減は致しませんわよ、わたくし負けず嫌いなので」
「うふふふ、なんだか学生時代に戻ったみたいですわ、楽しみましょうね!」
………20分後………
「税金上がる!?10ジラとかバカなんですの!?生活が成り立つわけがありませんわ!!」
「マスの指示には従わないと……」
「ふふふへ……っ」
「ほら、はやくカードをお引きになって」
「絶対に夜会とか装飾品に無駄遣いしてるんですわこの領主……ッ!はぁ!?領主の馬車の馬が足りないからわたくしの財産カードから一枚没収して買う!!?その前に橋を直すのが先でしょうが!!」
「あははははっ!ひーっ!くるしっ」
「あなた、あいかわらず運の絡む遊戯が苦手ですのね……」
〜〜〜あるチュートリア領の学校〜〜〜
その日、学校の先生が新しい玩具を持ってきた。話によると、領主のチャーリー・アリュートルチが学校へと寄付してくれた玩具らしい。
商人暮らし、そう書かれた文字を読んだクラスいち聡い少女であるアヤメは、農民暮らし、貴族暮らしと同じような遊びであると瞬時に察した。
そして、確実に生徒同士の取り合いになる事も察したし、クラスの中の粗暴者集団が、3歳児にも劣るクソみたいな遊び方をして、即座に玩具の紙幣も駒もなんならルーレットも一瞬で消え失せる事まで察した。そうなったらもうマトモに遊べない。
それに気付いているのか、それとも面倒だから与えて放置しようと思っているのか、教卓の上で新しい被害物ですよ〜と紹介する先生。
このままホームルーが終わり、一限終了後の10分休みで全ての付属品を失くされてはたまったものではない。
無料で遊べるならば常識の範囲内で遊び倒すべきだと考えたアヤメは、話は終わったとばかりに貸し出しのトランペやチェコなどが置いてある棚に商人暮らしを入れようとした先生に向かって待ったをかける。
「先生、私、そこに商人暮らしを置くのは反対です」
「はい?アヤメさん、室内で遊ぶ貸し出し用の玩具はここに置くと決まっているのですが……」
「トランペが三枚無くなって遊べません、チェコだって、領主様に貰ってから三日たたずに駒の半分が壊されたり紛失したりしました」
「そう、ですね……?」
「失くした人は申し出ませんし、壊した人もしらばっくれてます」
教室の中のある一グループを睨むと、そのうちの何人かが小さく肩を跳ねさせ、もう何人かはアヤメを睨み返してきた。
先生に視線を戻し、アヤメはしっかりと、はっきりと、意見を申し出た。
「農民暮らし、貴族暮らし共にカモネスで売られています」
「そうですね、学校でも買ったと話している子も多いみたいですし、商人暮らしの遊び方もみんなすぐに分かると思います」
「ですが、商人暮らしは売られていません」
「はい、領主様から頂いた物なので、皆さん仲良く、順番を守って、楽しく遊んで欲しいと先生も考えています」
「なので、商人暮らしを使うにあたって付属品を無くしたり、壊したり、遊べなくした人に弁償して貰うのはどうでしょうか」
先生の口が止まり、教室のみんなからはざわついた声が聞こえる。
当たり前のことを言っているだけだ、壊したなら、無くしたなら、弁償して新しいのを買ってもらう。でなければ、他の人が遊べない。
普段から反りの合わない暴虐集団に目を向け、牽制のためにもう一度、発言を繰り返す。
「付属品を無くしたり、壊したり、商人暮らしを遊べなくした時は、そうした人達に新しい物を買って貰うのはどうでしょうか」
これは聖戦である。近所のチビよりクソ生意気で、他人にかける迷惑を考えられない、悪辣集団と聖騎士の戦いなのである──────!!
貴族暮らし、農民暮らし、商人暮らし:注意⚠︎
この商品には細かい部品が含まれております、誤飲、誤食等の危険性が有りますので、小さなお子様の手の届かない場所でご遊技下さい。




