表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
106/113

外伝テイル5.這い寄れ海底



 『錦の旗』言わずと知れた老舗の一つ、ミウの町のお食事所だ。そこの店にはある規則がある。

その規則は三つ。


[開店前に、養殖している錦エビの中で、一番赤いものを一匹桟橋から海に投げ込むこと]


[昼食休みの時に、その日一番大きいエビフミャーを一本、桟橋から海に投げ込むこと]


[閉店後に、剥いた錦エビの殻を全て洗って、桟橋から海に投げ込むこと]


 店が出来た当初からあったこの三つの規則は、何故始まったのかは誰も覚えていないし、記録にすら残っていない。

 ただ規則だからとして続けてきたが、忙しい時、人間、忘れてしまうこともある。



 一度なら仕方がない。


 二度なら改善策を講じよう。


 三度ならば?………………………。



 ↓あいつ、は新商品を作る力はあるが、同じことを継続するのが苦手らしい。朝の一匹を忘れ、昼の一本を次の日忘れ、そのまた次の日に殻を海に流すのを忘れた。殻に関しては翌朝朝早く出勤して証拠隠滅はした。


そして。

 錦エビの殻を海に投げ忘れた夜のこと、不機嫌そうな泡が水底から浮かび上がり、水面まで到達すると夜の海の空気に混じり消える。


 海の波が桟橋に当たっては消されていく、夜空よりも暗い水底から、黒々とした影が桟橋に張り付いた。

 確かめるように蠢く影は、一本、また一本と本数を増やして、漂うペトリンを押し退け桟橋の柱を絡め取っていく。

 黒い水面が盛り上がり、水中の影が触手となって現れた、ランダムについた吸盤、桟橋の小さな灯りに照らされぬらりと鈍く光った。


 柱を触手が舐め、覆い、取り込もうとしているのか、それとも登ろうとしているのか。判別のつかない動きを繰り返す。

 ついに一本の悍ましい相貌を表した触手が、不快な音を立てながら桟橋の上へと姿を現した。




 その触手が人間が生きる空気の中で、桟橋以外に先ず触れたものは─────────子供の、靴。


 




 錦の旗、経営者一族で今一番幼く、一番好奇心が強く、一番危機管理能力が低いルゴン・ダゴン。


 少年の手には、釣り竿と、餌となる虫が入った籠と、ダークパープルのアンテナー。

 夜に釣りをすると強い魔獣が釣れると聞いて、夜中にこっそり家を抜け出してきたのだ。


 ペタペタチロチロ、少年は自分の靴をなんだろうと触り続ける触手の先を見て、海に続く自分の胴より太く、父よりも大きい触手の元を見て、足元のそれに。



プスっ


 アンテナーを突き刺した。




 それから、錦の旗の跡継ぎが、アンテナーを魔獣に刺したと従業員の間で話題となった。しかし、何に刺したかは教えないとのことで、まぁ秘密にしたい年頃なんだろうと話題はすぐ他の事に移り変わった。


 彼にシューパンツァーと名付けられた正体不明の触手は、"えびまる"という食べ物がお気に入りで、最近陸の生き物は海に入れてはいけない事を学んだらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ