外伝テイル1.調教師の敗北
お嬢様が豪胆なトントンを拾ってきた、その話は本当だったようだ。自分の目の前に座るピンク色のトントン、目の前に餌皿を置いてみたが全く反応しない。
最初は警戒しているのかと思っていたが、どうやら餌が気に入らなくて食わないだけのようだ。
あの警戒心が薄い事で有名なトントンにしては珍しく、五十秒ほど自分とずっと睨み合っている。
腹が減っていないのだろうか?一向に口をつける気配がない、トントンよりも両隣のドーベリー達の方が先に口を突っ込みそうな勢いで涎を垂らしている。ステイ。
そうしたまま睨み合っていたら、とうとうお腹の空きに耐えきれなくなったのか、トントンが蹄で餌皿を……ドーベリーのラズの方へと押しやった。
「ぷきゅぅ?……ぴぷぅ……ぷぴぅ」
「グワゥ!キャゥン!!」
どうやら飯の譲渡が完了したらしい、どうして。三匹ともトントン用の飯を食い荒らし始めた、なんで。アホの三匹を止めているうちに、自分の目を掻い潜り小屋から抜け出したらしいトントン。なんでなん。
慌てて追いかけるがどこにもピンクの丸い物体は見当たらない。
庭を掃除していたメイドに尋ねると、ものすごいスピードで屋敷へと入っていくトントンの後ろ姿を見たとの事。
屋敷へ入り、さあ次はどっちだと近くのメイドに尋ねようとした瞬間、耳にお嬢様の声が入ってきた。
「こぶたちゃん!おはよう!!」
食事をする部屋か?早足で部屋へと向かい、トントン三匹分滑り込める隙間があいた扉から中へと入る。
領主様へ頭を下げ、お嬢様の膝に乗るトントンを捕まえようとしたが、手でこちらへ来いと呼ばれた。
「いったいどうしたんだマーコール、あのトントンは、昨日リリーが連れてきたやつか?」
「はい領主様、トントンを逃してしまい申し訳ございません」
「わたしとあそびたくて来たんだね!これからいっぱいあそぼうね!!」
「ぷぎぃ!」
タァン!!
「なんでぇ!?」
「……んん゛、リリーがアンテナーを刺せるぐらいになるまで、マーコール、躾を頼むぞ」
「誠に申し訳ございません、失礼致します」
アンテナーを叩き落としたと思ったら、お嬢様の膝から降りてスタスタと歩き始めるトントン。
こちらに気づくと、別に警戒するでもなく自分の方へと寄ってきた。アンテナーを拒否され半泣きのお嬢様の目の前で抱き上げると、フンッと得意げに鼻を鳴らすトントン。やめろ。
自分はまだこの時知らなかったのだ、トンちゃんと呼ばれるようになるこの人間臭い動きをするトントンの、躾をされる気の無さを───。




