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TonTonテイル  作者: かもねぎま (渡 忠幻)
10/113

10.飼い主?たぶんリリー


 トンちゃんの飼い主(仮)であるリリーの朝は早い。鼻提灯を出してベッドに転がっているトンちゃんのもちもちぷくぷくした腹を両のお手手で捏ねて起こす事から始まタァン!!!!

 蹄の跡がくっきりと叩いた所に残る技、桜パニッシュを喰らい真っ赤になった手を胸の前で握りしめ、涙で目をうるうるとさせながら傷ついた乙女顔でトンちゃんを見つめるリリー。


「トンちゃんいたぁぃ……」

「ぷぷぅピキープキュキャキュぷぴぴぃ(何故私が悪いという目で見られなければならんのか)」



 そして共に朝食を取り、出された料理に入れられた人参を目敏く見つけ、隣で食べているトンちゃんの皿にこっそり移している所を給仕の者に見つかって怒られる。


「お嬢様、人参をトンちゃんのお皿に移さない!ご自分でお食べくださいと再三申しているでしょう!!」

「ごべんなざぃ!」

「許します!!」

「ぷぷきゅぷぅ(私は量増えるから良いけどね)」


 使用人の方々がリリー達に対しては『給仕』と言っているところを私に関しては、いつも『給餌』と言っている様に聞こえる。私の勝手な脳内変換なはずだけどホントのところはどうなんだろう。


 そうして食事が終わると、何故かしれっと皿の隣にカトラリーと共に並べられていた兄に借りたアンテナーを握りしめて、私を追いかけ回し始めるのだ。


「トンちゃあーん、まってぇートンちゃーん」


 食後の運動なのかパタパタと短い足で懸命に私の後を追いかけてくる。その手に持っている棒状の危険物を何処かに置いてきたらいくらでも寄って行ってあげるわよ。


「へびゅっ」


 この音は転んだな。



◆〜◆〜◆〜◆〜◆


「トンちゃん、リリーね、もうすぐ誕生日なんだー」


 だからね!トンちゃん、私御本を読んであげるー!って、なんかよくわからないけどリリーがとっても張り切っている。言っとくけど中身は私の方が断然年上なんだからね。

 そして『だから』って何だ。意味がわからん。もうすぐ誕生日が来たら一つお姉ちゃんになるから的な思考か?


 そうよ、そんな事よりとにかく私が(中身が)人間だということを知らせなくては、何か、何か手は無いか!?リリーの部屋に散らばる紙とお人形と絵本らしきものと。プリティーピンクな豚鼻をピクピク動かしながら辺りを見回すと見つけた、あれは……クレヨン!!


「ぷきゅっぴぃー!(やったわー!)」


 すかさずスライディングを繰り出しお手入れを欠かさない蹄でパシッと勝利への切符を掴み取る、これで、これで勝てる!何に?そりゃ決まってるじゃないこのペット扱いからオサラバ出来るのよ!!


 もうアンテナーを刺そうと追いかけられる事は無いし、食事中頭の上に気をとられる事も無くなるし、寝起きにベッドから飛び退いてアンテナーを避けることも───…………避けてばっかりね私のトン生……。

 一筋涙を流しながらもクレヨンを蹄で挟み、落ちていたリリーのスケッチブックにピンクの手を伸ばす。


「ぴふぅ?ぷふぅ……(待てよ?リリーは……)」


 やけに大人しいがどうした?小さな子供が大人しい時は大抵ろくなことをしていない、まぁるい背中を駆け上がった悪寒と共に背後を振り向くとリリーは……!



「それで、えっと、おーじさま、と、おひめ、さまはぁ」



 健気にも私に聞かせるために絵本を読んでいた……!親切にも本を広げてこちらに中を向けてくれているのは良いが、後ろから覗き込みながら読んでいるために、リリーの髪の毛で文字どころか挿絵の王子様とお姫様らしき人物の顔すら見えない。


「……ぴっふぷぅ(……アンタの髪で見えないわ)」

「はー、えぇっと、ぇー」

「ぷきゅきゅ(良いわそのまま読んでなさい)」


 束の間のお姉さん気分を味わうと良いわ、そうして私は緑色のクレヨンを構え、白い紙に向き直った。この指ですら無い手で書けるとは思えない、しかし、ここでやらなきゃカミングアウトはいつの日になるのか。私はピカピカの蹄の間にクレヨンをしっかりと挟んだ。


 一筆、二筆、あ、ずれた。いやここを直せばなんとかぁっ……!『わたしは人間』だと伝えるんだ!!慣れない蹄で何とか一文字目、平仮名の『わ』を書いたところでお声がかかった。


「トンちゃん何書いてるの?」

「ぷぴー!(リリー!)」


 これで文字だと気付いてくれれば!きっと!!私は人間に戻る為の第一歩を踏み出せる!!いや戻れずともペット扱いからは抜け出せる!!!!

 顔を上げて私の方を見たリリーの髪が上がり切り、絵本の煌びやかな絵が子豚目線の私の前に広がった、そして───。


「わぁ!トンちゃんそのもよう、とってもすてきね!!」

「ぷぺぁ……ぷぽぅ…………!?(文字が……違うだと…………!?)」


 子豚になった私の前には丸っこい、歴史の授業で見た事のある古代文明の文字っぽいものが並んだ絵本、そして満面の笑みのリリー。嘘でしょ?詰み?ここで終了?ご愛読ありがとうございましたなの??


「トンちゃん絵もかけるのね!みどりなら、森のなかなのかなぁ、まえにすんでたおうち?」

「ぷへ、ぷぺへ…………(文字、違う…………)」

「トンちゃん?どうしたのトンちゃん??」


 魔物から美少女になってのサクセスストーリーは?呪いを解いてめちゃ美女になってイケメンと結婚は?元の世界に戻って一皮剥けての再スタートは??よろ、よろ、パタン。

 子豚の足では心の激震に耐えきれずその場に倒れ込んだ。そして脱力した私の蹄から離れて転がった緑のクレヨン。そんな私を見たリリーは険しい顔をした後、


「トンちゃん……」

 タァン!!!!


 アンテナーを持ち上げて、そっと頭に刺そうとしてきやがったので叩き落とした。人が、いやキュートな子豚が落ち込んでる時に何すんのよこのガキ。


「ひどいよ、ひどいよトンちゃん……!」

「ぷっぴーぷきゅぎゅぎー(他の人に聞いてみなさいよ全員がアンタが悪いって言うから)」


 かろんかろんと床に転がったアンテナーを拾って、胸に抱きしめて泣き真似をするリリー、それに冷めた視線を送る子豚is私。リリーが開いたまま置いた絵本を再度覗き込むも読めない文字。


「……ぷぷぷぴー(……全自動翻訳機能ってすげー)」

「トンちゃぁん?」


 何故言葉は同じでも、文字は違うのか…私はリリーの部屋の窓から見える、涙で滲む空を見上げながら、もう一度刺そうとしてきた小さな手からアンテナーをはたき落とした。



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