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【辰刻】

本日2回目の投稿です。

「水。」


ザパァン…!


瞬間、溢れ出した水が波となって俺に群がっていた人達を飲み込んだ。

廊下を川にして進み、教室を湖として満たし、校庭は海と化した。

水族館の巨大水槽に学校を敷地ごと放り込んだような光景だ。


「こ、これ……大丈夫なのか?」


天井まで達している水位の中で、浮かぶ人々。

意識を失っているのか、もう俺を襲ってくる様子はない。

俺は水の中でも何故か平気らしいが、他の人たちはどうなんだ?


『一様に意識は沈んでいるが、害は無い。汝が“敵意”も“悪意”も無く我が力を使った為にな。』

「……俺の気持ち次第で効果が変わるってことか?」

『そうだ。』


俺の疑問に、再び姿を現した龍が答える。

日頃から漫画やゲームにどっぷり浸かった生活を送ってきたからか、この状況にな慣れてきた自分がいる。


『見よ。汝を襲った者達の首に、痣があるだろう?』

「ほんとだ。なんだよ、これ。」


葵木の首にも、茜部の首にも、他の生徒、教師の首にも同じように痣がある。

縄で首を吊った後に出来るような、何かが巻き付いたような、赤黒い痣が一本首輪のように象っていた。


『その痣は病だ。』

「病?え、皆なんかの病気ってこと?」

『ただの病ではない。この者達は水に浸かっていれば、そのうち痣も消えよう。だが、元凶を断たねば同じことが繰り返される。』

「元凶?」

『この病は、我と同じ存在の力を汝と同じ依り代が使ったことによる結果だ。』

「な……。」


いや、冷静に考えればおかしくはない。

むしろ真っ当だ。

病で人が人を襲うか?

食中毒でもなくこんな大量に限局的に蔓延するか?

しかも、俺を“依り代”とやらだと認識して襲ってきた。


『この敷地内のどこかにいるはずだ。探せ。』

「探せって……簡単に言うけどな……。」

『この水で意識を沈めている者は皆、我が力に耐性を持たぬ者達だ。それが手掛かりとなろう。』

「つまり、俺以外に起きてるやつを探せってことか。」


俺の理解に龍は肯定を示した。


『元凶は病を振り撒く。痣を持つ者たちは振り撒かれた病に何らかの形で接触し、病を貰い、自身が媒介となり、また他の者に病を感染す。それが繰り返され、この現状となったのだろう。』

「バイ●ハザードかよ……。」


まだ人間の姿を保ってくれている分ホラー要素は薄いか。

いや、突然大量の生徒と教師が発狂して、腹刺されて、親友たちに首絞められる時点で割とSAN値はピンチだ。


『病とは進行するものだ。だから我は、汝に時間が無いと言った。病が進行し、手遅れになってはもう元には戻せぬ。』

「……元に、戻せなかったらどうなってたんだ……?」

『魂の再生。一度死して、次の輪廻にて別存在として生まれ変わるより他にない。そして、その場合、今世を終わらせる役目を担わなければならなかったのは、汝だ。』

「!!……手遅れだったら、俺はこいつらを殺さないといけなかったってことか!?」

『そうだ。』

「ふざけんな!!」


涼しい顔で、当たり前のように肯定する龍に怒りが湧く。

ただああしろこうしろって言うだけで、自分では何もしやがらねぇくせに、なんて簡単に言いやがる。

お前と同じ存在が原因なら、お前がなんとかしやがれ。


『それは出来ぬ。』

「ッ、その心勝手に読むのやめろよ!」

『我は汝の内に有る存在。内なる声は、汝の中に有る存在にとっては会話に等しい。』

「24時間脳内閲覧とかどんな拷問だ。」


俺は何か罪を犯したか?


『大小はあれど、生涯において罪を犯さぬ人の方が稀であろう。人の法で定める罪など、我らにとっては些末なこと。』

「あぁそうかよ。それは寛大なことで。」

『話を戻す。我が直接元凶を断つことが出来ぬ理由だが、我らは人の力を借りねばこちらの国に干渉できぬからだ。故に我らは、自らの代行者として“依り代”を求める。』

「……名誉なことに、それに俺が選ばれちまったわけか。」

『嫌そうだな。』

「こんな状況で喜ぶやついるか?」

『ふむ。そういうものか。』


この龍、なんかズレてんな。


『ズレているとはどういう意味だ?』

「もういい、気にすんな。」


皮肉でも嫌味でもない、ただ純粋な疑問に呆れながら適当にあしらった。


『我らが人に宿らねば力を行使できないということは、この事態を引き起こした存在もまた人だ。』

「!!」

『水が濁ってきたな。』

「あ……。」


清らかに済んでいた水が、僅かに黒く濁っていた。


『病は水にとて浸食する。急げ。水が濁りきっては、今度は汝の身が危ない。その前に。』

「元凶を見つけろってことな!」


ちくしょう!

俺は水の中で廊下を駆けた。

水の中でも、普通に、否、今まで以上に身体が軽く動くことが出来る。

水の龍の依り代とやらになったおかげで、どうやら、水の中は俺のフィールドになっているらしい。

これじゃ、バイトどころか、今日の潤いタイムの時間は大幅に削られそうだ。


『濁りが濃い方へ向かえ。』

「そっち行って大丈夫なのかよ!?」

『仕方あるまい。まだ完全に浸食されてはいない、急げ。』


ここまでお読みくださりありがとうございました。

よろしければ感想・評価よろしくお願いいたします。

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