【辰刻】
今回も短いですが、切りが悪くなりそうだったのでここまでです!
次回はまた明日。
こぽ……――。
水の中を昇る、泡の音。
すぅ……――。
傷口から何かが入り込んでくる感覚。
けれど決して不快ではなく、入り込んできたものが身体を巡っていくとともに、刺された痛みが消えて行った。
「血が、出てない……。」
光が差し込む海の一角を切り取ってきたような青に包まれる。
周囲の喧噪が水の中には一切入ってこず、ただ静寂だ。
水の中なのに話すことが出来、呼吸の苦しさも、濡れて身体が重くなる感覚も無く、むしろ、初めから水の中が居場所であるかのような心地よさと身軽さを覚え、こんな状況にも関わらず安心している自分がいる。
『当然だ。生きとし生けるものの殆どは皆、水に包まれて育ち、水の中より生まれる。人とてまた然り。』
あの龍だ。
夢の中で見た、水の鱗を持つ龍が再び目の前にいる。
夢と違うのは、俺は龍の体内じゃなく対面しているってこと。
――じゃあ、ここは夢なのか?
『否。』
「!?」
心を読まれた。
『言ったはずだ。』
龍が続ける。
『我は常に汝とともあると。我が力は汝の為にあると。』
夢の中の言葉が反芻される。
「だって、……あれは、夢だろ……?」
理解が追いつかない。
こんな非現実は、二次元だけの特権だろ。
『人間とは奇なるものだな。目の前に存在し、こうして触れることも出来るというのに、それを受け入れることを拒むか。』
伸ばされた龍の指が、とん、と制服越しに俺の心臓を突く。
肌が、確かにそこに爪が触れているという現実を大脳に伝えてきた。
『依り代たる汝に死なれると我も困る。』
指が胸から下に移動し、刺された腹に触れる。
そこからはもう、痛みも無く、血も出てはいない。
『故に、血を止め、痛みを消し、傷も消した。すでに流れ出た血液の代わりに、我の水を入れ今の状態を保っている。』
「……なんで……。」
一体、何が起こってんだよ。
『何故、という問いには先ほど答えたであろう。何が起こっているか、という問いに答えるには落ち着いて話している時間が足りぬ。』
龍の指が俺の背後を指さし、それにつられるように俺は静寂の水に包まれながら再び、現実を目に映した。
瞬間、“龍の水”とやらで補充された血液が全身から引いていく感覚に襲われた。
『あの者たちは、汝の友人ではなかったか?』
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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