【辰刻】
5話目です!
「今から帰ればバイトまでちょい余裕あるな。」
ラッキー。
人生の潤いタイムが増えたことの喜びを嚙みしめ、補修室の外へと足を踏み出した。
空き教室がある旧校舎を抜け、使い慣れた新校舎に戻る。
旧校舎は、生徒が全員新校舎に移った今でも、空き教室は倉庫代わりや、視聴覚室、理科実験なんかの特殊教室に利用されてる。申請を通せば、部活や同好会の部室としても利用できるらしい。
帰宅部の俺には関係ないが。
防犯からか旧校舎の正面玄関は封鎖されていて、外からは入れなくなっている。隣接する新校舎と渡り廊下で繋がっているのみなので、外に出たければ、一度新校舎に戻り、新校舎の正面玄関から普通に下校するか、旧校舎のどっかの教室の窓を割ってわんぱくに下校するかの二択になる。
面倒くせぇな。
帰りのホームルームぶりに新校舎に戻ってきた俺は、――――絶句した。
「え……?」
廊下に倒れている人、人、人、人。
「く、苦しいッ……。」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「あつい、あついよ……助けてッ……!」
「寒い……寒い……。」
「……ぅう……うぅ………。」
床に倒れて藻掻く様は、国語の教科書で語られる“戦時中”の風景を切り取ったようだ。
「きゃああああああああああ。」
「助けて! 誰か!!」
「先生! 先生ぇ!!」
「どうしんだよ、急に! やめろって!! ぐぇっ……。」
「なんだよ……これ……。」
人が倒れているだけじゃない。
人が人を襲っている。
ある生徒は首を絞め、ある生徒はカッターを振り回し、ハサミを握り、椅子を振り回し、机を投げ……。
俺の呟きに答えてくれるものなんていない。
とても正気の沙汰じゃない。
俺の日常はどこに消えた?
「何、見てるんだよ……。」
「え。」
まずい、と思った。
「お前もオレのことを馬鹿にしてるんだろ!オレを殺す気なんだ!!オレは選ばれた裁きを下すオレはオレはオレはオレはオレはオレはオレはオレはオレはオレはぁァあああああああああああああ!!!!!!!」
血の付いたカッターが真っ直ぐ俺に向かってくる。
逃げないと。
頭では分かっているのに、足が動かない。
震えが止まらない。
「あ、あぁ……」
オレに迫る生徒に刺された男子生徒から流れる血が廊下を汚している。
ズプ…。
刃が肉に食い込む。
滲んだ血液が制服を汚す。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!
なんで、なんだよこれ。
「あははははははハはははははははぁアあああああああああああ!!!!!」
「い゛ぃいいいッ!!!」
勢いよく引き抜かれたカッター。
オレを刺した奴は、オレに興味を無くしたのか、ふらふらと新たな獲物を探すように遠ざかっていく。
痛い。
熱い。
オレは死ぬのか?
呪術●戦の最終回も知れず、春の風物詩のコ●ン映画も見納めで、転ス●の映画も見ずに、オーバー●ードの四期も見れず、ノゲノ●の空白の生き様も追えず、ツ●ステの7章を知れず、ポ●モンの新作も、女●転生の新作も、途中プレイのまま、……死ぬのか?
数多ある神作の終焉を見ることも出来ずに、死ぬのか?
今後作り出される神作を目にすることも、手に取ることも出来ずに、死ぬのか?
「……んな、こと…ッ、あってたまるかよッ……!!!!」
認めない。
認めてたまるか。
オレは神作に人生を捧げるんだ。
こんな理不尽に捧げてやる人生なんざ持ち合わせてねぇ!
「せめて、途中のゲームクリアさせて、今追ってる漫画とアニメの最終回見届けさせてからにしやがれ!!!!!」
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