【辰刻】
今回はいつもより短いです!すみません!
「何か、おありになりましたか?」
優しい声だった。
美しい人だった。
いつも遠くから眺めているだけの高嶺の花だった。
その花が、僕に声をかけてくれた。
その花が、僕に微笑みかけてくれた。
「いつも、見に来てくれているでしょう?それなのに、本日はお姿がなかったものですから……。」
僕の心が震えた。
彼女が、ただただ遠い存在だった彼女が、僕に気付いてくれていた。
僕は高嶺の花に見下ろされるその他大勢ではなかったのだ。
「心配していたんです。」
彼女の指が僕の顔に触れた。
「怪我を、されていますね……。」
彼女が僕の心配をしてくれている。
あのゴミ共に殴られた傷だ。
暴力が犯罪なら何故アイツらは野放しになっている。
周りの奴らは僕なんていないふり、みないふり。
奴らにとって僕は透明人間。
何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
何故僕だけがこんな目に?
「素敵。」
彼女が女神のように笑う。
傷だらけの僕を素敵と言って笑う。
僕がこんな肥溜めみたいな場所に通い続ける唯一の理由が笑う。
ゴミ共の中でただ一輪咲く美しい花が笑う。
「よろしければ、この香水をどうぞ。」
芸術品のような彼女の手。
「とても素敵な香りなんです」
血のように赤い液体が詰まった小瓶。
「きっと、気分転換になりますわ。」
僕はそれを受け取った。
彼女からの贈り物。
「私も同じものを持っているんです。お揃いですね。」
その言葉で僕は満たされる。
人間よりも猿に近い知能のゴミ共なんてどうでもいい。
視覚と聴覚が正常に作動していない可哀そうな奴らなんてどうでもいい。
僕には彼女がいる。
「貴方だけに、特別です。」
彼女の言葉が僕を満たす。
彼女の笑顔が僕を狂わせる。
彼女の存在が僕の全て。
あぁ、なんて……甘美な麻薬だろう。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
よろしければ、評価、感想よろしくお願いいたします。