【序章】
はじめまして、甘党政権蜂蜜大臣と言います!
今回が初投稿になります。なるべく毎日投稿していこうと思いますので、よろしくお願いします!
日本が死んだ。
昼が消え、同時に夜も消えた。
風が荒ぶり、大地が腐り、植物は枯れ果て。
四季の息吹が消え、噴き出た岩漿が大地を飲み込む。
空は光を失い、雷鳴の牙が地上を抉る。
異形の子が生まれ、女が病み、男が死んだ。
人という人が病に侵され、痛みと苦しみにのたうち回る。
それは、顕現した地獄だった。
紛れも無い。日本という国の死であった。
ただ一つ、海だけが青く碧く静かだった。
◆◆◆
こぽ……--。
水の中を泡が昇っていく。
水?
なんで?
目を開けば、鮮やかな青の世界に包まれた自分がいた。
「夢か」
慌てることも無く、疑うこともせず、そう納得した。
何故と考えずとも、分かった。
それは理屈じゃない。
鏡に写った自分を見て、それを自分だと認識することと同じくらい自然に、ごく当たり前に、俺はここが夢であると認識した。
「神殿…?」
水の中に佇む神殿。
近づくもの全てを拒絶するかのような底知れない雰囲気があるのに、なぜか俺だけはその場所に招かれている気がした。
「!! は?」
間抜けな声を出した俺は悪くない。
気が付けば、外から眺めていた神殿の中に瞬間移動していたなんて現象を体験したら、誰だってそうなるはずだ。
自分では一切動いていない。
ただ、水の中に浮いていただけ。
瞬き一つもしないまま、一面の青の世界ががらりと変わった。
「なんだ、これ……。」
龍。
他に言葉は無い。例えも無い。
水を反射させたように揺らめく鱗。
二対に黄金の角。
二対の銀の髭。
翠の鬣。
長い身体で蜷局を巻いて、眠っている龍を十二体の像が守るように囲んでいる。
「兎? の像か?」
兎、鼠、虎、馬、猪……。
龍を取り囲む全ての像が何らかの動物の姿をしている。
「-――。」
誰かに呼ばれた気がして、一つの像に指を伸ばす。
迷子の子供が母親を探すように、覚束ないまま指を伸ばす。
ピシッー……。
「えっ!?」
指が触れる直前、像に走った亀裂。
ピシピシッ……--。
それを皮切りに、次々と全ての像が割れていく。
―フフ、アハハッ!
「誰だ…?」
老人のようなノイズ混じりのしゃがれた声が、幼く笑う。
―全部、僕ノモノダ。
「!? 黒い、手…?」
亀裂から立ち上る無数の黒い手は、獲物を狩らんとする蛇の様に宙を這う。
その手から逃れるように、像から光が“抜け出した”。
黒い手もまた、その光を負う。
ある光は黒い手に捕らえられ、ある光は黒い手を躱して方々に散った。
「え!?ちょ、待……。」
散らばった光の一つが、真っ直ぐ俺に向かい、俺の身体を貫いた。
否、吹き抜けた。
俺を貫いたものは――……。
「……風。」
吹く場所を選ばず、空も地も自在に駆ける自由の化身。
「!!」
吹き抜けた風を追うように俺に向かって伸びる、無数の黒い手。
違う。
これは蛇だ。
執拗に獲物を追い回し、捉え、欠片すら残さず、その全てを飲み込み、己に取り込まんとする貪欲な蛇だ。
「うわああああああああああ!!!!!」
風には感じなかった恐怖が、身体の底から湧き上がる。
喰われる、と―。
こぽ……--。
俺は再び水の中にいた。
それは、あの水の鱗を持つ龍の体内だった。
『人の子よ。』
「誰だ?」
水の中に声が響く。
『我を宿す依り代と成れ。』
「依り代?なんだよ、それ。」
どこまでも澄み渡り、洗い流すような声だ。
何故か恐怖は無い。
この龍は、この声は、俺には害がないと心の底で確信があった。
『十二の神使を集めよ。』
「ジュウニノシンシ?」
神の声なんてものがあったなら、こんな声なのかもしれない。
『我は常に汝と共に。我の力は汝の為に。』
「待てよ、お前は一体何なんだ!?」
身体を襲う浮遊感。
水の世界が遠ざかる
『ヒノモトの死が近づいているぞ』
―逃ガサナイ。
耳の奥に呪詛のような声が残った。
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