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3 トライアングル?


「――それでね、ブタってよく太った人のことを馬鹿にするときに使われる悪口だけど、人間よりも実は痩せてるんだよ!」


「…………はぁ」


 あれ? おかしいな?


 女の子って聡明な男の子に惹かれるもんなんじゃないの? 


「それは、良かったね」


 有紗が顔を引きつらせる。


 ここ最近知ったら「おぉ~マジかよ!」と幼稚園児なら目を輝かせる雑学を披露しているのに、ずっとこんな反応だ。


 全く、有紗は変わった子なんだな。


「ねぇ、まだ僕と友達になる気はない?」


「……お父さんとお母さんに、知らない人の誘いに乗っちゃいけないって言われてるから」


「僕、知らない人じゃなくない?」


 もう幼稚園が始まって一か月が経つ。

 

 こうして毎日有紗に話しかけているから、少なくとも顔見知り。謙虚に言って友達以上恋人未満だと思うんだけど……価値観の相違ってやつかな。


「…………あなたなんて知らない」


 俺を少し睨んで、そっぽを向く。


 表情は暗いまま、また絵本に熱意を注ぎ始めた。


 ちぇっ。


 これから「将来子供は何人欲しい?」とか「結婚したら、どこに住みたい? やっぱり関東かなぁ」とか話したかったのに。


 致し方なく、谷〇潤一郎の本に目を落とす。


「あら、有紗ちゃんは泥んこ〇リーを読んでるのね~。伊織君は……た、谷〇潤一郎……」


 この保育士、何故か僕を見るたびに顔を引きつらせるんだよなぁ。


 何がおかしいんだ。


 まぁいい。俺と有紗の大切な時間が確保されるから、万々歳だ。


 教室の端で本を読んでいるところに、トコトコと歩いてくる少女の姿が見えた。


「有紗ちゃん、伊織くん! あっちでおままごとちよ!!」


 乙女色の長い髪を一つに結んだ、あどけない少女。


 彼女の名前は、君津七芭きみつななは


 とにかく行動力がお化けで、すでにこの紫組を牛耳っている。


 きっと七芭が高校生になったら、カーストトップで教室の真ん中でギャーギャー騒ぐのだろう。


 ……ちっ、嫌なことを思い出した。


「僕はいい。有紗ちゃんと将来設計しなくちゃならないんだ」


「しょうらい、せっけい?」


「つまり、結婚するってことだ」


「け、けっこん⁈ 有紗ちゃん、伊織くんのおよめしゃんになるの⁈」


「あぁそうだ」


「イヤ!!!!」


 なるほど、有紗は今イヤイヤ期なんだな。


 ここは男として、器の大きさを示しておこう。


「……僕は、いつまでも待つからね?」


「イヤ!」


 何、焦ることはない。


 女の子は必ず「お嫁さんになりたい」という願望を抱くもの。


 その時にそっと薬指にリングをはめてあげるだけだ。


 ……へへへっ。


「二人とも、仲良しだね!!」


「そうなんだよ」


「イヤ!」


 分かる奴じゃないか。


 それに、幼い笑顔はかなりの破壊力がある。


 この子は将来、化けるかもな……。


 ふふっ、仲よくしよう。


「七芭ちゃんも、一緒に本読む?」


「いいの?」


「もちろんだとも」


「やたっ!!」


 嬉しさを飛び跳ねて表現し、ぴょこぴょことウサギの耳のように、結んだ髪が揺れる。


 その勢いのまま、俺に体を寄せてきた。


 おっふ。


 距離感も最高じゃあないか。幼稚園児万歳!!


「なになに~……え、読めないよぉ」


「七芭ちゃんには、少し早いかもね」


「残念……」


 分かりやすくしょんぼりする七芭の後ろで、俺のことをちらりと有紗が見てきた。


 相変わらずムスッと、不機嫌そうな表情。


 もしかして……ヤキモチ妬いてくれてる?


 ……そうかいそうかい。有紗はきっと、ツンデレなんだね!


 仕方ない。余裕のある男、深代伊織。優しさを振りまきます!


「有紗ちゃんも一緒によ」


「イヤ!!」


 


 


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