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2 これまさに運命


「あうあう~」


「はーい、ちょっと待ってね~」


「うぅーーーーー!!!!!!」


「わかったから、ちょっと待ってね~。はい、どうぞ」


「あう~」


 ママ―んのおっぱいを我が物顔で吸う。


 やはり、母親だからなのだろうか。全く興奮はせず、ただただ空腹が満たされていくのを感じる。


 ミルクおいちい。


「全く、伊織はほんと、食欲が旺盛ねぇ~」


「ばぶー」


 一心不乱にしゃぶりつく姿に、ママ―んが頬を緩める。


「可愛い……!」


「うぅー」


 おっぱいを吸うだけで可愛いと褒められるこの世界。なんですか、最高ですか。


 俺は幸福感に浸りながら、頭の中で状況を整理した。


 どうやら俺は、前世の記憶を持ったまま、新しい人生をスタートさせたらしい。


 ちなみに、今の名前は深代伊織ふかしろいおり


 元気にベイビーやってます。


 正直、にわかに信じがたいことだが、実際にこの身に起きていることなのだから信じるしかない。


 それに、この生活はかなり充実しているのだ。


「は~い。たっくさん飲めましたね~」


「ばぶー」


 寝心地のいいベッドで一日中寝ていられるし、泣けばご飯が出てくるし、トイレに行く必要もなくどんな時でもおしっこオーケー。

 

 とんでもない好待遇に、元ブラック企業勤務の僕もびっくり。


 おまけに会う人全員に可愛いと褒められ、美人なお姉さんにだっこだってされちゃう。


 もう石油王越えじゃん。世界取ったようなもんよ。


 これが夢なら覚めないで!


「じゃあねんねしましょうね~」


「ばぶー」


 ミルクをたらふく頂いたら、すぐに眠る。


 ニートも羨む生活に、「ガハハハハハ!!!!!!!」と笑いたくなるね!


「おやすみ、伊織」


「ばぶー」


 上司から押し付けられた無理難題や、隣の部屋から聞こえてくるお盛んな喘ぎ声に悩まされることなく、満足感を抱きながら夢の世界へレッツダイブ。


 素晴らしい人生だぁ……。






     ****







 月日は流れ。


 目覚めたら、全部夢でした! なんて言うクソみたいな展開もなく。

 

 俺は愛情を受けて、すくすくと成長していた。


 言葉も話せるようになり、走れるようにもなった。


 前世で一通り義務教育を受けており、社会人として働いてもいたため、幼子にしては大人で知識を携えており、周囲から一目置かれていた。


 前に読んだ異世界で無双する主人公って、こんな感じなのだろうか。


 うん、悪くない感じだ。ってか、むしろ気持ちいい。


 ひとまず、前世での後悔を生かして、より知識を蓄えることにした。


 幼い頃はスポンジのようにたくさんのことを吸収することができると聞いたことがある。


 それは本当のようで、本を読めば簡単に理解し覚えることができた。


 前世で「昔からもっと勉強しておけば……」と思っていたので、とにかく好奇心の赴くままに勉学に励んだ。


 だが、頭のどこかには必ずあの時呟いた未練が反芻していて、寝ても覚めてもどうしようもないことばかり考えていた気がする。


 そんなこんなで日々は積もり――俺は幼稚園に入学した。






「では皆さん、これから仲良くしていきましょうねー」


「「「はーい」」」


 ガヤガヤと騒々しくなる教室の中、俺は一人村〇春樹の本を読みながら、周囲を舐めるように観察していた。


 なぜ?


 そんなの決まってる。



 将来有望そうな可愛い女の子を見つけるためだ。



 ってか、それ以外に理由ある? ないよね。


「伊織君は本を読んでるんだね~、は〇ぺこあおむしかなぁ……えっ、村〇春樹……」


 先生が見ちゃいけないものを見たような顔で遠ざかっていくのを横目に、探索を続ける。


 全く残念なことに、ロリ趣味を持っていない俺は胸の膨らんでいない幼稚園児たちに興味が湧かない。


 むしろ家に遊びに来るママ―んの友達の方が興味をそそる。ってかそっちがいい!


 ただまぁ、仲良くなっておいた方がいいことは間違いない。言い方クソ非道だけど、分かりやすく言えば投資みたいなものだ。


 前世のような失敗はしない。


 自分から行動を起こして、理想に限りなく近いリアルを手に入れてやる。


 そして――可愛い女の子とイチャイチャしてやる!


 前世の悲願を成し遂げるべく、より集中して選別する。


 と、その時。


「お、おぉ……」


 思わず感嘆の声を漏らすほどに、輝く美少女の原石を発見した。


 まるで幼稚園児の恰好をさせられている人形かのような佇まいに、下から舐めるように見ずにはいられない。


 丁寧に手入れされた艶やかな黒髪に、宝石を彷彿させるほどに輝く、大きな瞳。

 

 幼くも幼稚園児にして大人びた表情に、周りと一線を画している整った顔立ち。


 まるで月から迎えが来るんじゃないかと思うほどに、美しさを放っていた。


 間違いなく、彼女は逸材だった。


「あ、あの……!」


 興奮のあまり、声をかけてしまった。


 彼女が訝し気に首を傾げる。


 一挙一動が可愛い。ってか、幼稚園児なのにいい匂いするし……もしかして俺、ロリに目覚めたのか?


 もしや俺、恋したのか⁈


 まさか……とは思いつつも、高鳴る胸の鼓動を押さえることができない。


 クソッ、これだからほぼ童貞はッ!


 緊張しないって決めただろ! 俺は自分から、幸せをつかみ取るって決めただろ!


 もう前世みたいな、誇れない人生なんて送らない。


 俺は――可愛い女の子とイチャイチャしてやるんだ!



「僕と、友達になろう!!!!!!!」



「イヤ」



 これが和良比有紗わらびありさとの、ファーストコンタクトだった。


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