〜一章 満・美優編 7〜
どうも、齋藤です。
秋って何処に行ってしまったんでしょうか。
僕は秋が一番好きな季節なんです。
そんな事はさておき、今回は少し長めです。
最後まで読んで頂けると幸いです。
では、どうぞ。
4:36 1階廊下
保健室を出た満と美優は、まず何処から探すか話し合った。
「うーん、何処から探したら良いか分からないね」
「確かにそうね」
二人は少し考えたが、最適な答えは出て来なかった。
「ヒントが無い以上、しらみ潰しに探すしかないわね」
「…やっぱりそうなるよね」
二人が出した結論は、1階から3階まで全ての部屋を確認していく、という事であった。
この学校は教室棟と特別棟に分かれており、教室棟の1階は一年生、2階は二年生、3階は三年生となっている。
特別棟には図書室や保健室など、それ専門の教室がある。
そして、体育館や技術室は校内には無く、特別棟から一度外に出る必要がある。
ちなみに、階段は中央階段、教室棟の奥に一つ、特別棟の奥に一つと、合計3つある。
「取り敢えず、一年生の教室から見てみよう
か」
「そうね、行ってみましょ」
4:38 1年A組内
1年A組の扉をガラガラガラッと開けると、何の変哲も無い、普通の教室が広がっていた。
机と椅子のセットが合計20個置いてあり、前後にある黒板は綺麗に消されていた。
「さて、どうやって探そうか?」
「そうね…。それじゃあ、満は机と椅子を見てくれる?」
「分かった。八十島さんは?」
「私はロッカーとか黒板とか、机と椅子以外を見るわ」
二人が会話を終えると、それぞれ自分の与えられた事をやり始めた。
椅子を引いて机の中を確認する満。
ロッカーや掃除ロッカーの中、黒板などを確認する美優。
それぞれ一つ一つ隈なく探した。
しかし、
「はぁー…無かったよ。八十島さんは?」
「うーん、私も見つからなかったわ…」
二人は椅子に座り、それぞれの成果を話した。
結果はどちらも見つける事が出来なかった。
「さて、ここで休んでいても何も進まないわ。次のB組に行きましょ」
美優の一言で二人はA組を後にした。
4:45 1年B組内
二人はA組同様の動きをした。
満は机の中に何か入っていないか確認し、美優はロッカー等に臓器の模型が入っていないか隈なく探した。
しかし、ここもそれらしい物は見つからなかった。
「ここにも無かったね」
「そうね…」
二人の間に気まずい空気が流れた。
こんな作業をあと7回、そして、特別棟にある教室まで調べないといけないのだ。
さすがに気が遠くなる。
しかし、ここで折れる訳にはいかない。
「…私一人でC組を探索するよ。満はここで待ってて」
「い、いや、八十島さん一人にさせる訳にはいかないよ!」
「でも、結構疲れてるんでしょ?」
「えっ?」
探索をしている中、満はずっと人体模型に警戒していた。
廊下側から小さな音が少し鳴っただけでもビクッとしていたのだ。
「満、私は君の幼馴染なんだよ?そんな事、すぐに分かるわよ」
美優は満に向けて、にこりと笑いかけた。
そう、幼馴染である美優は、満が凄く疲れている事に随分前から気付いていた。
幼い頃から満の体調が悪かったり、何か悩んでいたりしていると、誰よりも早く気付いていた。
「で、でも…」
「大丈夫。すぐ戻ってくるから」
美優は満を残して、その場を去ろうとした。
「あ、八十島さん!」
「ん? どうしたの?」
「えっと、教室のドアは開けたままにして」
「?…分かったわ。開けたままにしておくよ」
そんな会話をして、美優は単独で行動を開始した。
(私が…私が頑張らないと!これ以上、満に迷惑を掛けられない)
4:55 1年C組内
満と別行動を取ることにした美優は、一人でC組の探索を始めた。
(やっぱり一人で探索するのは大変ね…)
それはそうだ。
自分が元々確認していたロッカーや黒板。
それに加えて机や椅子も確認しなければならない。
かなりの時間と労力を費やす。
(でも、私がやらないと…!)
美優は自分に鞭を打つかの如く、満の為に、皆んなの為に、ただひたすらに人体模型の臓器を探した。
4:55 1年B組内
一人残された満はどうしたら良いか分からなくなっていた。
美優にはここで待っててと言われているので、無闇に動く事が出来ない。
それに美優に指摘された通り、満はかなりの疲労が溜まっていた。
(…ここで座って待ってみようかな)
満は教室の一番前、扉に一番近い席に座ることにした。
椅子を引いた時、ガガッという音が教室に響いた。
(ど、どうしよう……何もする事がない)
座ったはいいものの、何もする事が無い。
(取り敢えず、目でも瞑ってみようかな)
そう思った満は、瞼を閉じ、体を休める事にした。
ガガーッ……ガガーッ……ガガーッ……!
この音は多分、美優が隣の教室で椅子を引いてる音だろう。
満は体を休めながら、耳に入ってくる音を注意深く聴いていた。
ギイィ!……ダンッ!
(この音は多分、ロッカーを開けている音だ)
タンッタンッタンッ…
ピチャッ…ピチャッ…
(この音は………)
5:05 1年C組内
美優は一人で教室を探索していた。
全てを一人で探索しないといけなかった為、額には大粒の汗が浮き上がっていた。
そして、
「はぁ、はぁ……これで全て確認したかな?凄く大変だったわ…」
息を切らしながらそんな事を呟いた。
「それにしても、こんなに探しても出てこないなんて…」
美優は少し絶望していた。
当たり前だ。
こんなに探しても何一つ出て来ないのだから。
そんな悲壮感漂う美優に、小さく、急かすような声が耳に入ってきた。
「八十島さん、早くここを出よう!」
「えっ?」
その声は満のものであった。
そして、教室内に入ってきた満は、美優の腕をグイッと引っ張り教室を出た。
いきなりの事過ぎて、美優は何も出来ず、満にされるがままであった。
5:06 1年廊下
「満、どうしたの?」
美優が満にどうして急かすのか訊こうとすると、満は自分の人差し指を口に持っていき、小さく「シーッ」と言った。
そして、その人差し指で自分たちが来た廊下を指した。
「…!?」
そこには、赤い血の様な液体が点々と付いていた。
そう、人体模型はすぐそこにいるみたいなのだ。
「教室棟の階段を使って2階に上がろう」
「わ、分かったわ…」
二人は小さい声で会話し、なるべく音が鳴らない様に、静かに階段を上った。
5:07 2年廊下
会話をせずに階段を上った二人は、近くの2年C組に吸い込まれる様に入った。
5:07 2年C組内
満がなるべく音を立てない様に扉を開け、二人は急いで中に入った。
そして、美優がその扉を慎重に閉めた。
階段を上り、少し走っただけなのに二人の息は切れていた。
音を鳴らさないように、かなりの神経を使った様だ。
「はぁ、はぁ……ドアを開けたままにして良かった!」
「はぁー…はぁー……ど、どういう事?」
「ドアを開けたままにしておけば、音で人体模型が来てる事も分かるし、教室のドアを開ける音でバレる事も無いと思ったんだ」
「な、なるほどね…」
二人は一度、息が整うまで休憩する事にした。
息が整った二人は、自分たちが入った2年C組の中をザッと見渡した。
「うーん、特に変わった所は無いみたいだね」
「そうね。でも、もしかしたらあるかもしれないから、しっかり確認はした方が良いかもね」
「うん、そうだね」
そうして二人はそれぞれ自分たちのやる事をし始めた。
5:12 2年C組内
「やっぱり、ここにも無かったね…」
「うん、そうね…」
二人は意気消沈していた。
明らかに士気は下がっていた。
しかし、二人共、心の中では諦めていなかった。
皆んなに会いたい。
会ってちゃんと謝りたい。
その一心だった。
「…次の教室に行きましょ」
「そうだね…」
そうして、二人は2年C組を後にした。
5:13 2年廊下
二人は廊下に出て、B組の方の廊下を見ると、赤い点があちこちに付いていた。
「どうやら、あの人体模型はB組まで来てたみたいね」
「だね」
二人はB組に近づいた。
「「!?」」
二人は驚愕した。
教室の扉に付いてるガラスの向こうには、今まで見てきた教室とは異なっていた。
「ど、どうなってるんだ!?」
満がB組の扉をガラガラッと開けた。
5:14 2年B組
教室の中は異質であった。
ぐちゃぐちゃに乱雑に置かれている机と椅子。
ロッカーは所々開けられており、掃除ロッカーは開けられ、中の掃除用具が出たままになっていた。
そして、所々に赤い液体が点々と付いていたり、踏まれて伸びていたりしていた。
他にもカーテンがズタズタになっていたり、掲示物が剥がされていたりしていた。
「これって人体模型が…」
「多分そうね。じゃないと辻褄が合わないわ」
二人は恐る恐る、中に入った。
そして、黒板に目を向ける。
そこには、
『ココ ナイ ココ ナイ』
黒板にとても汚い字でそう書かれていた。
「どうやら、ここには無いみたいね」
「そうみたいだね。直ぐにここを出てA組に行こうか」
「うん」
そうして、二人は入って来た扉から廊下に出た。
この時、その扉は閉めなかった。
5:15 2年A組内
二人は廊下に出て、赤い液体を踏まない様に歩いた。
そして、自分たちの教室であるA組の扉を開けて入った。
「ここには入って来てないみたいね。」
美優の言う通り、A組の中は一年生や2年C組同様、何の変哲も無い、普通の教室であった。
「よ、良かった…」
満はホッと安堵を漏らした。
「それじゃあ、探そうか」
「ええ、頑張りましょ!」
満は腕まくりをし、美優は自分と満を鼓舞するかの様に声を掛けた。
暫く二人は自分の担当する場所を探していた。
満は机と椅子を調べ、美優はロッカーを調べていた。
正直、二人はここにも無いのでは?と諦めてかけていた。
「あった!」
急に美優が喜びの声を上げた。
「ほ、本当にっ!?」
美優の声に満も釣られる様に喜びの声を上げた。
美優が調べていた一つのロッカーの中に、臓器の一つが入っていた。
「これって、肝臓かな?」
満が小さく呟いた。
中に入っていた臓器はかなり大きく、左右で大きさが違った。
美優が臓器を両手で持ち上げた。
「やっと……やっと一つ見つけた」
美優は小さな声で喜びの言葉を発した。
「八十島さん、良かったね!」
「うん!」
二人は喜びを噛み締めた。
そして、満が口を開いた。
「それじゃあ、八十島さん。次の臓器を探そう」
「そうね、いつまでもここに居ても何も進展しないわよね。行きましょ」
二人が廊下に出ようとしかけた時、満が一つ気づいた。
「あ、その臓器重いでしょ?僕が持つよ」
「ううん、大丈夫。私が持っていくわ」
「…分かった。でも、腕が辛くなったら言って」
「うん、ありがとう」
そうして美優が臓器を持つことになり、二人は2年A組を後にした。
5:20 2年廊下
二人はA組から廊下に出た。
すると、右の方から、タンッタンッという音と共に、ピチャッピチャッという液体の音が聞こえてきた。
「も、もしかしてこの音はっ……!?」
満が音に気が付き、右を向いた時、その音を発する物は二人の方を見ていた。
人体模型だ。
「マズイわね…」
人体模型はジリジリとこちらに近づいていた。
「八十島さん、どうする?」
「…ここは一回、図書室に行きましょ」
「わ、分かった」
二人は人体模型を見つつ、後ろに一歩ずつ後退りした。
しかし、人体模型もこちらに近づいて来ている為、その間はなかなか離れなかった。
(美優は今臓器を持っている。このまま走って来られたら確実に捕まっちゃう)
満は心の中で、どうやって美優と一緒に逃げるか考えた。
絶対に捕まらない方法を。
そして、ある一つの方法を思い付いた。
それは、どっちに転ぶか分からない方法であった。
「…八十島さん、今持ってる臓器を床に置いて。」
「な、なんで?」
「人体模型は臓器にしか興味が無いんだ。もしかしたら、その臓器で気を引けるかもしれない」
「なるほどね。でも、私たちが狙いだったら?」
「その時は……僕が囮になる」
「そ、そんなのダメよ!」
「でも、それしか無いんだ!八十島さん、僕を信じて」
美優は唇を噛んだ。
満の方法が成功すれば、確かに逃げる事は出来る。
しかし、万が一この方法が失敗したら…。
自分のせいで満が死んでしまう。
美優にとって、それだけは絶対に避けたかったのである。
だが、これ以外で更に良い方法があるか、と言われると無かった。
美優は渋々答えた。
「……分かった。満を信じるわ」
そう言って、美優は自分が持っている臓器を静かに自分の足元に置いた。
臓器を置いて三歩程、後ろに後退りすると、急に人体模型の動きが止まった。
そして、
「………アッタ………」
その瞬間、いきなり走り始めて二人に近づいて来たのである。
「逃げろっ!」
満が叫ぶと、二人は同時に後ろを向き、図書室に向かって走り始めた。
5:24 図書室前
「はぁ、はぁ、着いた!」
二人は全速力で図書室の前まで走って来た。
走っている時、全く後ろを確認する事が出来ず、ただがむしゃらに走っていた。
しかし、図書室の前まで来た時、人体模型の走って来る音は聞こえてこなかった。
「よ、良かった…着いて来てないみたいね」
美優は人体模型が着いて来てない事を確認して、そう呟いた。
そして、今度は満の方に顔を向けた。
「満、次からは自分を犠牲にする様な事は絶対にしないで!」
と、注意をした。
それは不安から来る注意であった。
「う、うん、ごめん。次からは気をつけるよ」
満は謝った。
10秒程だろうか、二人とも口を開かなかった。
いや、息を整えていたが正確だろう。
そんな中、満が自分に言い聞かせる様に、
「と、取り敢えず、図書室に入って休憩しよう」
「そ、そうね。というより、そうしたいわ」
満は図書室の扉を開けた。
お読み頂き、ありがとうございます!
多分、次の⑧で満・美優編は一度終わりになると思います。…多分。…きっと。
取り敢えず、頑張りますのでお待ちください。
では〜。