後編
「ふう……」
便座に座って用を足した後、一息ついてから、トイレットペーパーに手を伸ばす。
しかし、カランと音がするのみ。
ペーパーホルダーの中では、本来トイレットペーパーを内側から支えるはずの芯棒が、剥き出しのまま顔を覗かせていた。
つまり、紙がなかったのだ!
「……!」
いやいや、慌てる必要はない。ここのホルダーは、予備のトイレットペーパーを支給できる仕組みなのだから。何度も利用している僕は、きちんと知っていたのだから。
だから僕は、落ち着いて、ホルダー横のレバーを押した。
これで上のラックから、ゴトンと音を立てて、次のトイレットペーパーが出てくるはずだったが……。
現れたのは、全く別のものだった。
代わりに出てきたのは、ペラペラの紙が一枚。
ペーパーホルダーに収まるはずがなく、放っておけば床に落ちてしまうので、慌てて手を伸ばしてキャッチする。
お尻を拭くにしては硬すぎる材質であり、量も足りない。しかも白紙ではなく、次のような文面が書かれていた。
『海水浴場閉鎖のため、トイレは使用禁止となっております』
トイレで紙がないという、恐ろしい現状。一瞬それを忘れて、誰もいない個室の中、僕は大声で叫んでしまうのだった。
「誰だ、こんな悪戯したのは! これって、トイレの入り口に貼っておくべき紙じゃないか!」
(「閉鎖された海水浴場」完)