《第2話》モコvs猫田
猫田雛
アース''猫''
石川夏希
アース''体にしまう''
花澤翠
アース''土''
東堂元子は、5限目から移動教室のため、体操服に着替え教室を出た。
「そう言えば、今日って、戦闘訓練だよね?」
「確かそうだった気がする。」
いつも一緒に行動する、並試瑠姫が、聞いてきた。
瑠姫の、アースは、''水''
体内の水を、扱い攻撃する他、空気中の水を扱うことが出来る。ただ、雨の日は水が溜まりすぎて大変だと、聞いたことがある。
1年生の教室は、最上階の3階。そこから1番近い階段を降りていると、下から必死で走ってくる花澤翠とすれ違った。
「あ、翠くん、……」
ービュンっー
相当急いでるんだろう、3段飛ばしで高速で通り過ぎていってしまった。
「どうしたんだろう。」
「花澤の事だから、なにか忘れ物でもしたのよ。」
「そうかもね。ハハっ。」
花澤翠。
掴みどころのない少年だった。別に悪い人とか取っ付き難い人ではく、いい人なのだが、誰とも深く関わろうともせず、風船のような少年だった。
個性は、''土''
発動条件が、限定されてしまうのがネックだ。
────
「じゃあ、今日は対人戦闘訓練よ。」
アースを使った訓練担当は、永井 麻衣子先生。
アースは、''薔薇''
薔薇の匂いで相手を魅了したり、薔薇の茎の棘で攻撃したりできる。
「1対1で対戦し、勝ち残り戦にするわ。対戦相手は、くじで決める。男子はAコートで、女子はBコートで、その後、男女混同訓練にします。」
このクラスは、総勢20名。男子10名女子10名。
皆番号が書かれた紙を、取った。
「対戦相手が決まったら、好きなところで始めてちょうだい。」
(私は、雛ちゃんか。)
猫田雛。
個性は、''猫''。
名前のまんま。
「モコちゃん、負けにゃいよお」
「私だって!!」
私達は各自、戦闘態勢に入った。
猫田は、目を釣りあげ、靴と靴下を脱ぎ捨て、長く鋭い爪を出す。
「はい、では、始めて。」
麻衣子先生の声で、戦闘が始まった。
今までは、基本先生がエネミー役で、皆、アースをどう使うかの訓練が主だった。対人、しかも生徒相手は今回が初めてだ。
(緊張する。)
先行したのは、猫田だった。
「シャーーーっ!」
猫田は、電気を持つ、モコに瞬時に近ずき、引っ掻く。
「クッ。」
(速い……っ)
モコの額から、ツーっと血が垂れる。
「女の子の顔傷つけたくないんだけどっ、にゃ!」
(2度も同じ攻撃受けるかっ!)
「やっぱ避けるにゃ~」
やはり、接近戦だと猫田のが、腕は上だ。
「じゃあ、これはどうかにゃっっ!!」
シュッ。
猫田は空高くジャンプした。
(させるかっ)
私は、上を向き猫田に向け、電撃を放とうとした。
「ぎゃっ。」
猫田が、ジャンプする瞬間に、大量の砂をこちらに放っていたようだ。私は、目の中にもろにくらってしまった。
「ニャンパラり。」
目を開けられない私に、猫田は覆いかぶさり、
「私の勝ちにゃ。」
と、言った。
(くそ。ここで猫田に攻撃されたら、私は死んでる。負けた。)
「やっぱ、まだまだか。」
「本当に速攻に弱いにゃね~。」
「そうだね。」
私は、帯電して電撃を発動するのが、遅い。
速攻でこられたらすぐやられてしまう。それが課題だった。
「大丈夫かにゃ?立てる?」
「うん、ありがとう。」
私は、猫田の手を借り、立ち上がった。
「先生に報告してくるから、保健室行くにゃ。」
「分かった。」
猫田は、四足歩行で、先生の元に走っていった。
私は、服の砂をはらい、保健室に向かって歩き出した。
────
「失礼します~。」
「あら、やだん。かわいいお顔に傷なんて。すぐ治してあげるわっ。」
ここの保健室のレイアス先生は、オネェだ。
個性は、''治癒''
傷を吸収する。また、その記憶した傷を、他人に放出することも出来る。
白衣がパツパツのがっしりした肉体に、こんがり焼けた肌。そして、可愛らしい髪飾り。
最初見た時のインパクトは、半端なかったが、2ヶ月たった今、もう見慣れた。
「すみません。お願いします。」
「そこに座りなさい。」
私は、先生の前に座ると、先生は傷に手を当てた。
すると、綺麗に消えた。心做しか、つやつやになった気もする。
「はい、終わりよ。他に怪我は?」
「大丈夫です。ありがとうございます……」
「いいのよん。またいつでも来なさい。」
「はい。」
私は、立ち上がりまたお礼を言って、保健室をあとにした。
途中で、何人かの生徒とすれ違った。
校庭に戻ると、あらかた勝負はついていたようだ。
「はい、じゃあ残った生徒どうしで、対戦よ。またくじを引きなさい。」
勝ち残った10名の生徒が、前に出た。
龍牙、瑠姫もいる。翠くんもいる。
「引いたらまた好きなところに行きなさい。」
今度は、男女混同だった。
龍牙の相手は、私が負けた猫田だ。
皆、戦闘場所に行き、戦闘態勢になった。
龍牙は、ふぅーっと息を吐くと、体を変化させた。
龍牙の個性は、狼と熊がブレンドされたアース。でかいしはやい。
龍牙らしい個性といえば、龍牙らしい。
「負けにゃい!」
「はっ、ひとひねりだぜ。」
「では、先頭スタート。」
先生の合図で、始まった。
猫田と、龍牙は同時に動いた。速さは互角だ。
(私なんかじゃ到底叶わない。)
「あ、あの、」
龍牙と猫田の激しい戦闘を見ていると、後ろから話しかけられた。
「あ、夏希くん」
「こっち座ったら?」
「あ、うん。ありがとう。」
ニコッと笑うと、夏希くんは、顔を赤くして、近くの縁石に腰掛けた。
「さっき、僕龍牙くんに瞬殺されちゃった。」
「私もだよ~雛ちゃん強すぎ。」
「ほ、本当に対人戦闘向きだよね。」
「夏希くんの、アースもすごいよ。」
「僕なんて、まだ扱えてなくて……」
石川夏希のアースは、''体にしまう''
体に、あらゆるものをしまい込める。なので、剣や爆弾をし舞い込んで戦闘するのだ。
いつか忘れ物しなそうと、羨ましいと思ったことがある。
「出す前にやられちゃおしまいだよ。」
「私もそう。ははっ」
戦闘に目を向けると、より一層激しくなっていた。
猫田が押され気味か。
「グゥアアアアアっ!」
龍牙の、雄叫びが轟く。
それに一瞬怯んだ猫田が、右のカウンターパンチをもろに受けた。
「グッ。」
猫田は地面に倒れた。
龍牙の勝ちだ。
「ウォアアアア!」
龍牙は勝利の雄叫びをし、体を元に戻した。
体操服はボロボロになっていた。鍛え抜かれた体が切れた布から見え隠れする。
ポッ//
(ポッ?ん?)
「猫田さん、大丈夫かな。」
「行こうっ。」
2人は、猫田さんの近くに駆け寄った。
「雛ちゃんっ大丈夫?」
「……ねぇだろ。」
「えっ?なに?」
そっぽを向きながら、龍牙は呟いた言葉、私は聞き取れなかった。
「雛ちゃん保健室運ぼう!」
石川がいい、私も頷いた。
「待てや。」
「何?」
「お前らじゃ無理だろ。」
龍牙は、猫田の首と膝裏に手をいれ、ゆっくり持ち上げた。
「お前らは引っ込んでろ。」
「龍牙くん……」
「んだよっ!自分の蹴りは自分でつけんだ、くそ夏っ!」
「は、はいっ!お願いしますっ!」
石川は、体をビクッとさせ、気をつけをした。
(龍牙……)
────
(やっぱり優しいじゃんか。)
「おい、そっぽ向いてていいのか?」
「ふふっ、ごめんごめんっ!」
瑠姫は、謝りながら、水に乗り空にジャンプした。
「土につかなきゃあなたに勝てるわっ!」
瑠姫は、空に水の膜を作りそこにたった。そして、下の翠に向け、ヒョウ作り出し大量に打った。
「くっ、きかないよっ!!」
間一髪、翠は土の壁を作っていた。
瑠姫は構わず打ち続ける。翠の土は少しずつ溶けて、防御が落ちた。
翠は、前のヒョウ攻撃にばかり、気にしていた。
(今だっ!)
瑠姫は、徐々に翠の裏に水を貯め、翠の集中が他に向くのを狙っていた。
「何っ!?」
そして、翠がヒョウに釘付けになった時、大量の水で、翠を捕まえた。
水の膜に顔以外をおおわれた翠は、戦闘不能になった。
「……っ!」
「私の勝ち。」
「……くそっ!」
(意外に感情的になると、口が悪いね。どっちが本性か。)
瑠姫は、翠を解放すると、自分も地上に降りた。
「負けちゃったよ~。」
翠は、いつも通りのヘラヘラ顔を取り戻して、頭を描いてみせた。
「まだまだだね。」
「おっ、言うね。今度は負けないかんなっ」
真っ白の歯で、ハハッと笑うと、瑠姫も自然と笑顔になれた。
────
龍牙「俺のカッコいいアース見てくれたかぁ?」
夏希「う、うんっ」
龍牙「てめぇには聞いてねぇんだよ!くそ夏ッ!」
夏希「ご、ご、ごめんなさいっ!」