《第1話》龍牙とモコ
ピピッピピッ。
朝、いつもと同じ時間に目覚ましがなる。
東堂元子は眠い目を擦りながら、ベットから起き上がる。
カーテンを開けると、まだ少し薄暗かった。
「ふぁあああ~。」
大きな欠伸をした。
パジャマ代わりの、スウェットを脱ぎ、ワイシャツに袖を通す。制服のスカートを履き、ブレザーとスクールバックを持って、部屋を出る。
淡い水色を基調とした、可愛らしいデザインの制服は、他校の女生徒から羨ましがられることが多い。
高校生になり、行きたかった高校が県外なので、ひとり暮らしをはじめた。その話を聞いた親戚が、経営しているアパートの一室を格安で貸してくれて、仕送りと週2のバイトで上手く食いつなげている。
部屋を出てキッチン兼リビングに向かうと、
「おっせ~ぞ、モコ。」
真田 龍牙 が、携帯を弄りながら……
「ん?」
「ん!?!?」
「朝から大きい声だすんじゃねぇよ。」
「な、な、な、なんでいんの!?」
「あぁ? 朝だから。」
「いやいや、返答になっていません。」
「うるせぇな、俺がどこで何してたって、いいんだよ。」
「いや困るよ!」
「ほら、お前のカップラーメン作っといた。」
「もう意味わからん。」
私は、床にスクールバックとブレザーをおき、キッチンテーブルに向かいあわせで腰掛けた。
作ってくれたカップラーメンの蓋をとった。
(箸も用意してくれてるし、なんだんだ、いいやつかよ。)
橋で混ぜてから、口に入れると、私は顔をしかめた。
「これ、いつお湯入れた?」
お茶を流し込んでる龍牙に聞いた。龍牙の前には、食べ終えたカップラーメンが置いてあった。
「え?今。」
「嘘つけぇ!何この可哀想なカップラーメン。浸りすぎて、老化してるよ!」
「だから俺おっせーって忠告しただろ。」
「絶対わざとじゃん……まぁいいか。」
「モコってさぁ」
「ん?」
伸びに伸びきったラーメンを口に入れると、龍牙が頬杖をつきながら、マジマジと見てきた。
(えっ、な、ななに。//)
「アホの子。」
ニッタァと笑うその顔面に、カップラーメンを投げつけてやりたくなった。
この憎たらしい男は、高校で出会った。
同じプロヒーローを目指す学校で同じクラス、隣のアパートに一人暮らししている友達?友達……いや、なんだろう。
「ねぇ、私らってどんな関係?」
「あぁ?何だ急に。」
「なんとなく。」
「んなもん、俺が飼い主。お前は犬。」
「あんたに聞いた私がアホでした。」
「やっぱアホの子じゃん。」
(ぬぅおおおおお!!本当に、性悪!まじ性悪!それ以外表せない!!)
────
龍牙を、家から追い出し、準備をして、私も家を出た。
(はぁ、朝から災難な目にあった。)
「おっはよ~。」
学校につき、隣の席の、並試 瑠姫が挨拶をしてきた。
「あ、瑠姫。おはよう。」
「てか、昨日大丈夫だった?」
「ん?なにが? 」
「モコの住んでる近くで、エネミーが目撃されたんだって!!」
「え!?そうなの?」
「うんうん。まだ、捕まってないらしいんだけど、若い女の子ばかり狙って、攻撃してくるらしいから、気をつけてね!ちゃんと鍵閉めるのよ!」
「うんうん。気をつけるよ。……はっ。」
(そういえば、昨日鍵閉めてなかった気がする……
だから、あの性悪が入ってこれたのかも。こわい。)
「はーい。席についてくださーい。」
始業のチャイムと共に、担任の松永が入ってきた。
ぴっちり整えた髪に、メガネという、The 真面目みたいな先生だが、意外に生徒から好かれている。
「えー、まず、一昨日、エネミーが目撃されました。目撃場所は、雷門駅東口を真っ直ぐ行った辺りです。被害者は、雷門高校2年女生徒。まだ、ショックで意識不明の重体です。」
(予想以上にやばいエネミーだな。遭遇したくないな。)
「そして、皆さんに重要事項。まず、エネミーをみたら逃げる。
その際、アースの仕様を許可します。ただし、真田くんちゃんと聞いててください。」
「あぁ?聞いてるよ!」
「戦闘は、決してしないこと。いいですか、真田くん」
「わぁってるっつーの。チッ」
クラスのみんながくすくすと笑う。
「逃げるためにアースを使う。身を守るために。
ただし、戦闘は、プロフェッショナル達に任せましょう。いいですね。」
先生は、凛々しく言うと、2、3個 連絡を伝え、1時間目の準備をしてください。といった。
「あっ、そうだ。理科のノート集めて、理科準備室に持ってきて欲しい。東堂頼みますね。」
今日の日直は私だ。だから、先生は私に頼んだ。
「はい。わかりました。」
────
私は物心ついた時には、アースを発動させていた。
それは、''電気''。
体に電気を帯電し、放出する。
子供の頃は、それでいじめられた。
''可愛くない''
''キモイ静電気女''
私はこの能力が嫌いだった。
でも、ある人と出会って変わった。
''「ヒーローに向いてるアースだね。」''
公園でクラスのガキ大将にいじめられている時に、助けてくれた同じ歳か少し上の男の子が、そう言って、私の頭を撫でて、
''「強くなろう。一緒に」''
そう言って、私が泣き終わるまで、頭を撫でていてくれた。
今は、もう顔すら思い出せない、その男の子の言葉で、私はヒーローになることを目指した。
「何ぼーっとしてんだ。ほら、理科のノート。」
「……あんたなんかと大違いだ。」
「んだ?俺は誰とも同じじゃねぇ、トップに経つ人間だぞ」
教卓の前で、ノートを集めると、真田が最後に持ってきた。
(よく平気でそんなことが言えますね~)
「チッ」
真田は、全部のノートを持つと、ズカズカと歩き出した。
「ちょ、ちょっと!」
「あ゛ぁ?あいつに用あんだよ。悪ぃか!」
「い、いや……」
「チッ」
真田は、また、ズカズカと歩き出した。遠くの方で、「どけおらぁ」と言ってるのが聞こえた。
「真田って以外に優しいんだね。」
「は、はぁ?優しくないよ。今日だって……」
今日の朝起きたことを、瑠姫に話すと、瑠姫はニコッと意味深な笑いを向け、面白いと言った。
────
龍牙「これから俺の活躍始まっからよ。下の星押しとけよ。な?」
モコ「そんな言い方良くないよ!」
龍牙「んだよ。じゃあ、」
龍牙「おせよゴラァああ!」
モコ「もう!龍牙!!!」
バチバチバチチチチ……