表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

09.『興味』

読む自己。

 静かに体を起こす。

 漫画などの創作世界とは違って、起きたら横に女の子が寝ていたとかではなくて安心した。

 一階に行って顔を洗ったり歯を磨いたりして。リビングのソファに座っていると井口が現れる。


「おはよ、井口さん」

「おはよ……悠君」


 ひとつ屋根の下に可愛い女の子がいることと、眠そうにしながらも僕の名前を呼ぶ彼女に、僕は一瞬だけ固まったものの「名前呼びはやめてよ」と正直なところを言っておいた。

 和佳も下りてきて朝食作りを始めてくれたため、すぐに美味しいご飯を食べることができて安心する。


「ごちそうさまでした。和佳姉、美味しかったよ、いつもありがとう」

「どういたしましてっ」


 食器を運んでそのまま洗って、洗い終わったらリビングに戻ってきて言った。


「井口さん送るよ」

「まだ食べてる」

「うん、それはゆっくりでいいから」


 流石に女の子に家へとずっといてもらうわけにはいかない。

 なんでも適切な距離感というものがある、放課後一緒に帰るとかその程度でいいのだ。

 彼女は何回も「信用できない」と口にしていたわけだし、あまり踏み込みすぎてはいけない。

 問題は――


「井口さん、もう食べ終わったんだから帰ろうよ」

「帰らないよ、休日なんだしまだいても問題はないでしょ?」


 食べ終わってから既に三十分くらい経過しているのに帰ろうとしない彼女のことだろう。


「ナコちゃんもひとり、あ、一匹で寂しいよ、僕もナコちゃん見たいし」


 和佳のご飯は最高だけど、ここが魅力的な空間というわけでもないのだ。

 ナコちゃんといられるんだし、帰ってひとりで寂しいというわけでもないだろうに。


「そんなに猫が好きなら学校に連れて行けばいいでしょ」

「真似しないでよ。それに可愛いでしょあの子」


 つぶらな瞳とか座っていると足の上に乗ってくれることとか、ご主人さまだったら分かってると思っていたけど。……彼女に限って嫉妬とかは有りえないだろうし、馬鹿みたいに勘違いするようなことはしない。


「ねえ陽菜乃ちゃん、私もお家に行ってもいいかな?」

「うん、別にいいけど」

「じゃあいまから行こうよ~早く猫ちゃん見たいな~」

「分かった」


 和佳ありがとうっ。

 井口の荷物を持って家を後にし、歩いていく。

 今日は和佳もいるので自転車を置いて、ふたりの後ろを歩いて。

 歩くと二十分以上かかるというのに、……どうして心地良さしかないんだろうね。


「お邪魔します」

「お邪魔しま~す」


 家主よりも先に入ってナコちゃんの姿を探す。

 すると、どうやら今日も彼女の布団にくるまって寝ているようだと気づいた。


「和佳姉、井口さんの布団の中にいるよ」

「陽菜乃ちゃんいーい?」

「うん、大丈夫だよ」


 いきなり捲られて少しびっくりしていたようだったけど、ナコちゃんが怒るということはしなくて。

 「可愛い~!」と和佳が抱きしめ、これまたナコちゃんはなすがままとなっていた。


「ナコ、大きなおっぱいに触れて気持ち良さそう」

「はは、あの子は女の子なんだし、井口さんのでも満足できるよ」

「普通同級生の女の子にそんなこと言わないと思うけど」

「ごめん、胸だけが全てじゃないってことだよ」


 床に座らせてもらって楽しそうな姉を眺める。

 まあ僕も男だ、可愛い女の子の胸が大きければ大きいほど魅力的に見えるけど、だからってそれだけが重要だとは考えてはいない。褒めたら照れてくれたり、物をあげたら喜んでくれたりするだけで十分だ。


「ふぅ、ありがとね~ナコちゃんっ。あ、私、お友達の所に行ってくるから、これで帰るね! 陽菜乃ちゃんありがと!」

「じゃあ僕も一緒に帰ろうかな、ありがとね井口さん」


 長居は良くない、そもそも女の子の家に頻繁に入り浸るわけにはいかないだろう。

 和佳が出て行って僕も続こうとしたとき。


「悠君はいいでしょ?」


 彼女に止められて僕も足を止めてしまった。

 どうして急にこんな甘えたがりというか、少しだけ変化ができているんだろうか。


「井口さん」

「陽菜乃」

「井口さん、ご飯を食べに来たかったら連絡してね」


 そう。嬉しそうに食べていた井口だったけど、申し訳ないという理由で毎日夜来ることはなくなった。

 勝手なように見えてきちんと考えてあげることができる女の子だ。

 だったらこっちも彼女のことを考えて動いていかなければならない。


「ねえなんで?」

「なんでと言われても困るけど」

「私が自分勝手だから嫌いなの?」

「違うよ、寧ろ君のためを思って言ってるだけでさ」

「だったらいてよ、べつになにかをしようってわけじゃないでしょ。ナコを可愛がってくれていればいいんだし、そんな逃げるようにして帰らなくてもいいと思うけど」

「……分かったよ、寂しがり屋の君のためにいてあげるよ」


 ナコちゃんの所に戻って、抱いてから床に座った。

 にゃーとだけ泣いて適度な距離感を保つ彼女を、井口にも見習ってほしい。


「ナコちゃんは可愛いなー」

「にゃ」

「うん? なんでそんな謙虚そうな顔をしているの?」

「にゃあ」

「ご主人の方が可愛いって? まあそうだけどさあ」


 だからこそその距離感に悩むというか、急激な変化に耐えられないというか。

 なにか裏があるんじゃないかって、心配になるんだよね。


「悠君、そろそろ私の誕生部がくるんだけど」

「そうですか」

「なにかちょうだい」

「生憎と少女に奢ったせいでお金がなくてですね」

「誰に奢ったの? 結月とか?」

「いや、あなたにですけど……」


 おかしい、彼女はここまでボケキャラではなかったはずだ。

 だから立ち上がって彼女の額に手を当てる、……標準的な感じだった。


「触らないで」

「ごめん。それで誕生日は何日なの?」

「六月の四日」

「分かった、僕なりに考えてなにか贈ろうかな」


 彼女が好きそうな物、……和佳のご飯とかじゃ自分の力とは言えないか。

 お金に余裕があるわけじゃないから、そうだね、髪留めとかがいいかもしれない。

 ポニーテールも似合っていたし、それをあげたらまた見せてくれるのではと考えた。


「うーん、どうしようかなあ」

「くれるならなんでもいい」

「いやそうじゃなくて、そろそろ帰ろうかなって」

「ばか」

「馬鹿じゃないよ、寧ろふたりきりになろうとする君が馬鹿だ」


 自分のことを棚に上げるつもりはないけど、本当にもっと気をつけた方がいいと思う。

 というか僕だって可愛らしい反応を見せる彼女に困惑しっぱなしだ。

 なんてことはないことにドキドキして可愛いと思って、そこら辺の男子とまるで変わらない。

 こちらを勘違いさせるような発言は控えるべきだ。


「大体、井口さんは僕のことを信用できてないんでしょ?」

「それは過去のことで、いまは違う。

「いまは違うって、僕は君になにができたとかじゃないけど」


 したのは悪口を言って泣かせたのと、一緒にテスト勉強をしただけで。


「信用できないから私のことを名前で呼んでくれないの?」

「そもそも君がおかしいだけだって。だから、名前呼びはやめてね」


 ナコちゃんをご主人さまに渡して玄関へ行き靴を履く。


「家には来れないけどさ、一緒に帰るくらいなら大丈夫だから」

「水谷君のばか」

「それは君だよ、じゃあね」


 最初から最後まで悪い雰囲気ではなかった。

 それでも自転車を持ってくれば良かったと後悔しつつ歩いて。


「あれ、浅野君だ」


 僕と彼女の家の丁度中間地点くらいまでやってきたとき、浅野君を発見して近づくことにした。


「おはよう浅野君」

「水谷かっ、おはよう!」

「なにしてたの?」

「走り終わったからゆっくり歩いてたんだよ。水谷こそどっか行ってたのか?」

「うん、ちょっと井口さんの家にね」

「……なるほどな、最近仲良いもんなふたり」


 最初期の頃よりは確かにそうかもしれない。


「陽菜乃ってさ、どこか放っておけなくて構ってたんだけど、多分向こうからすれば「なにこの人」止まりなんだろうな」

「そんなことはないんじゃない? 優しくしてくれたら誰だって嬉しいよ」


 実際「知らない人」とか言ってたけど、わざわざ言う必要はないだろう。

 本来、彼みたいな格好良い人が井口とかの横にいるべきなのだ。

 ……できることなら勘違いをしてしまう前に結ばれてほしいと、僕は考えていた。


「ま、……好きとかそういうのじゃないんだけどな」

「あ、そうなんだ」

「ああ……。あ、結月とも最近喋ってるよな水谷は」

「山本さん接しやすいからね」


 ふたりになったりすると急激に冷え込むけど、だからこそ信用しやすい。

 隠して隠して、隠し続ける人よりかは分かりやすいし、勘違いもしなくて済む。

 山本さんのそれを井口に見習ってもらいたかった。


「凄いな水谷は、最初はコミュニケーションとかできないタイプだと思ったけど」

「流石に喋れるよ、ただ相手にまるで影響を与えられないだけでね」

「……そうかな」

「うん、そうだよ」


 学校に行けばあんな甘々な彼女ではなくなることだろう。

 稀有な例、あれが当たり前という思考になってしまったら終わってしまう。

 だからいいんだ、響かなくていい、……なにも変わらなくていい。

 浅野君達みたいに格好良い人達が恋愛をするところを見る傍観者でいいのだ。

 モブ、非モテ、平凡以下男子、謙虚に生きなければならない。


「浅野君、井口さんに優しくしてあげたら? そうしたらきっと仲良くなれるんじゃないかな」


 もし好きじゃないとしたらあんな曖昧な言い方はしないはずだ。


「なに言ってんだよ、そういうのじゃねえよ」

「そっか、なんかごめん」

「いいや……」

「邪魔してごめんね、それじゃあ帰るよ」

「おう、気をつけろよ」

「浅野君も気をつけて」


 別れて歩きながら、なんで頑なに認めないんだろうと考えていた。

 勿論、見た目だけが全てではない。もしかしたら井口さんにとって彼は興味のない人物かもしれない。

 それでもたかだか僕程度に少しでも変えてくれた女の子だ、浅野君が頑張れば余裕で響かせられるはず。

 人間なんでも素直になるのが一番で、そこを偽ったところで自分が苦しくなるだけなのに……。

 もしかしてあれか? 僕が好意から彼女に近づいていると捉えられているのかもしれない。

 間違っているとも言えないのが難点だなこれは。好きというわけじゃないけど興味を抱いているのは本当にことで、そこを慌てて否定するような人間でもないわけで。

 だからこそ彼や他の子に頑張ってほしかった。

 彼女をより傷つけてしまう前に、無駄な時間を使わせる前に。

 距離を置くなんてことはしないけれど、接し方はきちんと考えた方が良さそうだ。

 いまの目標は浅野君に素直になってもらうこと、あとは彼女へのプレゼント用意……か。

 友達の誕生日にプレゼントをあげるくらいは、なにも問題はないと捉えてほしかった。

浅野君正直になろうぜ。

自分が気になっている子を好きとか言われたら、素直に応援できるのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ