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03.『表裏』

読む自己。

「おはよう! 浅野君っ」

「お、おはよう……ど、どうした水谷、今日はハイテンションだな」

「あー、まあ気にしないで」


 挨拶だけがしたかったのですぐに自分の席に戻った。

 鞄から教科書と筆箱を取りだして教科書は中にしまう。

 べつにホモというわけではない。

 ただ、快適な生活のために利用させてもらおうとしているだけだ。

 ……話せる人ができて嬉しかったりも一応するけど……。

 少しして井口さんもやって来た。

 僕の方を一瞥して、でも挨拶もせずに自分の席に向かっていく。

 しかし、彼女はすぐにこっちへと来て「教室出よ」と誘ってきた。

 距離感が分からない。

 このまま分からないまま終わりそうだなと苦笑して了承をする。

 まだ比較的に時間が早いということもあって校舎の中には人があんまりいない、ように感じていた。

 実際は廊下にはいないというだけだけど、井口さんにとっては好都合かもしれない。


「水谷君、お姉さんは来ないの?」

「和佳姉は僕と違って人気者だからね」


 いくら二年生とは言っても下級生の所に入り浸っていたら変な噂が出てしまう。

 いや、本当は甘々すぎて少し恥ずかしいので、本心から言わせてもらうとあまり来てほしくない存在だ。


「井口さんが教室にいたくない理由は?」

「興味ないんじゃなかったの?」

「あーまあ、でもこうして一緒にいるなら少しくらいはね」


 あんなこと言ってるけど友達になりたいと考えてるし。

 自分も十分分からない存在だと言えるなこれは。


「んー、うるさいところが苦手」

「へぇ、だけど教室って精々賑やか、ぐらいじゃない?」


 浅野君が叫んでいるわけでもなし、他の子も普通レベルで盛り上がっているだけだ。

 普通レベルで「うるさい」と言われるのは悲しいだろうなあ。


「授業中も喋るから嫌い」

「うん、それはたまに僕も思うけど」


 休み時間が十分あってそれもしっかり話した上に授業中まで喋ろうとする。

 コミュ力があるのは結構だけど、気になるのは確かだった。


「あとは人が近づいて来るからかな」

「矛盾してるじゃん、近づいて来てるのは井口さんだよ?」

「違う、自分から近づく分にはいいの。だけど、相手から来られると嫌なの」

「難しいね」


 容姿が良いとどうしても来るだろうし、その度に嫌な気分を味わうわけか。

 そう考えると“普通”で良かった気がする。普通にしかなれないとも言うけど。


「水谷君はお友達がいないから気楽」

「ありがとうございます、全然嬉しくないですけど」

「そういえばどうして最初は敬語だったの? 同い歳だよ?」

「女の子って怖いからさ、自衛のためだね単純に」


 あの陽キャ君――浅野君に敬語じゃなかったのは、どうでもよかったからだ。

 女の子の機嫌を損ねないためにしているのは、女社会が怖いし情報が早く伝わるからでしかない。

 彼女達が不機嫌になりたくなる気持ちは分かる。

 急に知らない男が横に来たら「なんでこいつわざわざ横に来るんだよ」と言いたくもなるだろう。

 ただ、僕から言わせてもらえば誰もかれもが君に、君達に興味があるわけじゃないんだよってこと。

 まあつまり自意識過剰になられると困るのだ。

 陽キャじゃないから無駄に喋らないし、近づく口実を作ろうともしない。

 ……あまり説得力はないかもしれないけど……。


「あ、確かに悪口とか言われることある、私がなにをしたわけじゃないのにね」

「可愛いはなにをしてなくても注目を集めるものだよ」

「お姉さんもそう? 和佳さん、だっけ?」

「和佳姉はあれに加えて胸も大きいからね、よく女の子から「揉ませてっ」って言われるらしいよ?」


 弟でも無防備なところを見ると触りたくなるくらいだし、周りの男子は尚更のことだろう。

 しかし、あれでいてガードが固いというのか、そういうのは全然聞かない。

 女社会に踏む込めないというわけでもなく、男女隔たりなく仲良くしているようだけど。


「というか、可愛いと言われてもスルーですか……」

「言われ慣れてるし、簡単に口にする人は信じられない」

「だったら僕は信じられない相手なわけだし、教室戻るよ」


 ぐるっと周ってきたところだったので丁度いいだろう。


「水谷君は面倒くさい人?」

「それはあなたでは?」

「私、面倒くさい人なの?」


 自覚なしだったのか……。

 もっと明確にしたいこと、やりたいことをきちんと伝えてくれればいいんだけどね。


「あなたに絡んでいるのはアトラクションに乗れなかったから」

「あの、それは聞いたけどさ、もうよくない? 言うこと聞いたよね?」

「来年は行けないのにあなたのせいで乗れなかった」

「大体、どうして僕がいなくて山本さんが怒るの?」

「結月はあれでいてグループとかそういう決まりを守る子なんだ。あなたがいないということが分かって探してたんだけど、結局最後まであなたを見つけられなかった。そのせいで不機嫌だったし、私は乗ろうと思っていたアトラクションに乗れなかった。罪は重い、償うべき」


 僕の中での山本さん――結月さんのイメージって、……少し軽い女の子って感じだった。

 身長が和佳と同じくらい――大体、百五十五くらいで、物理的にというもあるけど、浅野君と会話しているところや他の子と会話しているところを見ていれば大体は分かる。

 なんと言うか媚を売っている? 感じかもしれない。

 絶対自分のこと可愛いと思っているだろと言いたくなるくらいの感じ、かな。


「それはすみませんでした」

「だから文句を言う権利が私にはある」

「ま、これくらいならいいけどね」


 可愛い子と一緒にいれて問題なことはないだろう。

 予鈴が鳴ったので僕達はそこでお散歩を終了し教室に戻った。




「浅野君」

「ん? よお水谷、どうした?」

「えと、山本さんってどこにいる?」

「は? 後ろにいるじゃねえか」

「え、後ろ……」


 放課後、また十七時まで待っていろと言われたので時間潰しのために彼らに近づいた。

 山本さんに用があったのは言うまでもなくあの日のことを聞くため。 

 というのも、よく知らない男子がいなくて不機嫌になることとか有りえないと思ったからだ。


「なにか用~?」

「あの、先週の金曜日のことを聞きたいんですけど、ちょっと廊下でいいですか?」

「敬語はいらないよ~行こっか!」


 彼女は肩くらいまで伸ばした茶色を超えた明るい色の髪を揺らしながら廊下へと先に出ていった。

 僕も慌てて追って廊下に出ると井口さんがどこからか戻ってきたようだと気づく。


「水谷君、帰ろー」

「あ、ごめん、ちょっと山本さんに聞きたいことがあるからさ、教室で待っててくれる?」

「んー、じゃあ先に帰る、ばいばい」

「あ、うん、じゃあね」


 相手を待たせるのはするけど自分が待つのは嫌なのかもしれない。

 僕はそれに苦笑いを浮かべつつ、ニコニコとしている山本さんに聞くことにした。


「山本さん、金曜日に不機嫌だったって本当?」

「え? そんなことなかったと思うけど~」

「いや、井口さんが君が不機嫌だったせいで乗りたかったアトラクションに乗れなかったと怒ってきたんだけど……」

「え~? 陽菜乃がひとりじゃ怖いからって乗らなかっただけだよ~」

「まじ?」

「うんっ、まじまじ~!」


 明るい子だ。

 いやそれよりも問題は井口さん。

 そういえば教室からも出てきていないし、違う、出れないのかもしれない。

 この可能性を危惧しなかったのだろうか。


「ありがとう山本さん、参考になったよ」

「うん! どういたしまして!」


 彼女の後に続いて教室に戻ると、すぐに自分の席に難しい表情を浮かべ座っている井口さんが見える。


「帰らないの?」

「帰る、行こ」

「了解」


 教室及び学校を後にして歩いていると彼女が言った。


「どうして結月といたの?」

「どうしてって聞くためだよ? 金曜日のこと」

「それで聞いてどうするの?」

「どうもしないかな」


 これくらいならいいよと言ったのは自分だ。

 べつに荷物を持つことや短時間待つことくらいならなにも問題はない。

 家に帰ってもスマホを弄るか、一度読んだ本を読むくらいしか時間を潰す方法がないからね。

 だから事実が違っていたとしてもどうでもいい。

 彼女が怒ってないならそれに越したことはないだろう。


「結月は可愛いよね、愛想もいいし小さいから抱きしめたくなるし」

「女の子の女の子に対しての可愛いは信用できないなあ」

「結月は可愛いでしょ?」

「まあ見た目は悪くないね、あと明るく接してくれるところもいいかもね」


 それで胡散臭さが増すけども。

 普通大して接したことのない男子にあんな明るくいけるだろうか。

 持ち前のスキルだとしてもストレスの溜まる生活を送っていそうだ。

 ああいうタイプはひとりとか家に帰った途端に自堕落になるか、文句を言うかどっちか、かな。


「でも、ああいう子は苦手かな、井口さんみたいに静かな子の方が対応しやすいよ」

「馬鹿にしてるの?」

「いやいや、表裏の差が少ない方がいいってことだよ」


 裏で悪口を言われてたら嫌だろう。

 恐らく井口さんなら直接言ってくれるだろうしと僕は考えていた。

僕系って書きやすいような気がする。

俺系も書きやすいけど、どうしても口調的に偉そうに感じるんだよね。

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