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25.『何度』

読む自己。

 さて、そろそろ覚悟を決めなければならないようだ。

 横の彼女はむしゃむしゃと先程買った焼きそばを食べているという状況。

 少しだけ変更点を伝えるならば、人気が全然ない場所ということでもあった。

 いや、来ようと思えば来れるし、たまに人が来たりもするので精神的に危ない場所ではある。

 それでも青のりを口の横につけてもぐもぐしている彼女に言わなければならない。


「ヒナ、好きだ」

「ふぇ? もぐもぐ……」


 だ、大丈夫、きっと届いてくれているはずだ。

 おまけに花火もすぐ始まってくれたので、この気まずい時間をお花でも見て潰せばいい。

 バンバンと音を立てて咲いていく花達。

 横にいる彼女の花が咲くときはくるのだろうか。

 食べ物を食べさせておけば簡単に笑うことは知っている。

 それでも自分の行動、言動で笑わせてやれたことは少ない気がした。

 今頃、似たような場所で彼らはキスをしているのだろうか。

 それとも花火を純粋に楽しんで、帰ってからもゆっくりと楽しむのだろうか。

 ……僕の邪な心に気づかれてしまったのかもしれない。あわよくばと考えた気持ちに。


「ふぅ、ごちそうさまでした! 花火綺麗だねっ」

「そうだね、綺麗で好きだよ」


 キラキラとしている君の黒髪とか。


「いろいろな花火の種類があるけど、どれも綺麗でいいよね~」

「うん、目が奪われちゃうね」


 白い手足とか。


「今度さ、手持ち花火とか買ってやろうか」

「スーパーとかで売ってるもんね」


 内心では言えるんだけどな。

 今の彼女的にはどうでもいいんだろう。だから僕も純粋に楽しむことにした。

 彼女の言うように綺麗だ。色鮮やかで空へと視線が固定される。

 ぼーっと眺めて心地の良さを感じていて。

 いつの間にか告白とかキスとかどうでも良くなって。

 本当に純粋にお祭り会場に出くわしたクラスメイトみたいな感じがあって。

 終わってから首の痛さに気づいて手を当てて。

 花火が終了=お祭りも終了なのに動けなくて。

 僕は俯いて目を瞑ってゆっくりとしていた。

 なにも喋らない。いる必要はないのに動かない。

 僕も彼女もなにも喋らずここにいるなんて、なにがしたいんだろうか。


「終わっちゃったね。ここのは最初だけ勢いあるけど、すぐ終わっちゃうのが難点だね」

「ま、有名ってわけじゃないしね、地元なら『行くか』となるだけで」


 それでも心地良さを味あわせてくれるいい場所、いいイベントだ。


「悠は全然食べてないけどお腹減ってないの?」

「うん、別に大丈夫だよ」

「私ばっかり食べちゃったなあ……少しくらい分けてあげるべきだったよね、ごめん」

「いやいや、喜んで食べてくれたならそれでいいよ」


 ただ、あまり夜遅くに残っていても危ないので、彼女の手を握って帰ることにした。

 が、僕は歩いたものの彼女は動かず、どこかの芸人みたいな感じになってしまう。


「帰らないの?」

「悠、私も好きだよ」

「うん、ありがとう」

「それでさ、するって言ったよね」

「言ってたけど無理しなくていいよ。今日は帰ろうよ」


 急げばいいわけじゃない。付き合っているならいくらでもチャンスはあるわけで。


「だめ、したい」


 真剣な表情。断ればまた拗ねてどこかへ行ってしまいそうな雰囲気もある。


「……分かった、じゃあしようか」

「うん……」


 両肩を掴んで顔を近づけて。

 やはり柔らかかった唇に唇を重ねて。

 少しだけ触れさせてまま、それでもすぐに離した。


「焼きそばの味がした」

「ごめん……」

「いや、帰ろ?」


 これを匠馬はどういう気持ちでしたんだろうか。

 もう心臓がバックバックで、できることならひとりで走り帰りたいくらい落ち着かなくて。

 けれど彼女をひとりで帰らせることはできないから、なんとか踏みとどまって先を歩くことにした。

 決してこの暑さは夏だからということではない気がする。


「悠、痛いっ、どうしてそんな強く握るの?」

「あ、ごめん……」

「……嫌だった?」

「違うよ、ドキドキして仕方なかっただけだよ」


 気軽にできることではないことは今日だけで理解できた。


「私が……素っ気ない対応してたから?」

「あ、まあ、告白してなんともない感じで受け答えされるのは堪えるけどさ」

「……私だってドキドキとかするんだから……」

「最初はさ、裸とかでも全然照れてなかったよね。あれは、偽ってたってこと?」

「当たり前でしょ……見られて恥ずかしくないわけないじゃん」


 ということはかなりの演技スキルではある。

 実際、何度も『照れない子』という判定を下していたわけだし。


「しかも……お漏らし……」

「ごめんね」

「でも、キスしたときのほうがドキドキした」

「うん、僕も同じだよ」


 家に着いて部屋に入っても手を繋いだまま。


「ヒナ、お風呂行ってきなよ」

「うん、行ってくるね」


 指が全部離れて寂しさが込み上げる。

 僕も1階に下りてゆっくりしていたナコちゃんを愛でることにした。


「悠君、上手くいったよ!」


 すると和佳も帰ってきて急にそんなこと言ってきた。


「え? も、もしかして真人さんと?」

「ふふふっ、真人君が好きなの全部作って胃袋をつかんできました!」

「おぉ! おめでとう!」

「えへへっ、ありがと~!」


 和佳がナコちゃんを撫でると、彼女は一際甘えるような声で鳴く。

 美味しいご飯を提供してくれる人物なので、気に入られておかなければならないと考えているのかもしれない。


「悠君は?」

「そうだね、告白してキスもしたよ」

「えっ!? き、キス……」

「彼女が積極的でさ。うーん、ナコちゃんで練習させてもらおうかな~」


 勿論冗談ではあるがナコちゃんを持ち上げてみる。

 すると、


「だめだよ!」


 ご主人さまに駄目だしをされて、僕は大人しく彼女を地上へと下ろした。


「和佳さんお風呂入ってね!」

「う、うん……」

「私はちょっとこの人に用があるから部屋に行ってるね!」

「はーいっ。お風呂入ろー!」


 ナコちゃんを抱いて自室へと移動。

 まだお風呂には入ってないもののベットに転んで、ナコちゃんをお腹の上に寝かせて。


「早かったね出てくるの」

「うん、今日はまだやりたいことがあったから」

「ふーん、それって?」

「キス! 今度は歯磨きしてきたし問題ないよ!」

「いや、別にさっきので満足できたけど」


 ここでしてしまったら逃げ場がない。

 先程の場所なら『帰る』ことを選択すれば雰囲気を変えられたが、ここだと雰囲気を変えることは気軽にできないわけで。


「今度は私からしたいの、べつにじっとしてくれてればいいから」

「じゃあ……」


 恥ずかしいので目を瞑っていたら口に柔らかい感触が伝わってきた。


「ふぅ、よし! 寝るっ」

「え……」


 彼女は勝手に電気を消した上にベットへと寝転んだ。


「やっぱり暗い部屋の中でお喋りしようよ」

「それは別にいいけど」

「そうだね~ん~特に話すことないねっ」

「なんだそりゃ……じゃあ僕から話させてもらおうかな。えっとね、うん、実は結構最初の頃の君も好きだったんだよ。なんか背は高いのに小動物系というか、魅力的だったんだ。照れない君を見て『絶対に照れさせてやる!』と決めた。でも、手を繋いでも頭撫でても照れなくて、そんなときに急激に変化してさ。あのときは驚いたな、君が別人になっちゃったんじゃないかって本気で疑ったからね。共通していた点はどちらも可愛かったこと、正直、綺麗と言うべきなのか可愛いと言うべきなのかは分からないけど、まあ良かったのは事実だから」


 だからこそ騙されていたということを知ってショックを受けた。

 何度も自分がこの程度の人間と分かっていたのに、希望を捨てられなかった。

 そして、諦めなかった結果、今のこの状態があるということになる。

 匠馬、結月、和佳、栞、この全員と関わっていなかったら、こうはなれていなかっただろう。


「いや……ありがとう、これだけで十分だよね」

「悠の印象はずっと『優しい』だったよ?」

「うわぁ、それって特に言うとこないから出しておく答えみたいなもじゃん」

「違うもん、悠が優しくしてくれたから、離れ離れにならずに済んだんだもん」

「皆のおかげだよ、だから今度改めてお礼しないとね」

「うん、私もそう思う」


 できることは多くないし、喜んでもらえるかも分からない。

 それでもこれも同じだ、やる前から諦めたら駄目なんだ。


「好きだよヒナ」

「私も悠のこと好き」


 頭を撫でてこくりと頷く。

 さあ、これからどんどんと返していこう。

 大丈夫、彼女と一緒ならきっと喜んでもらえることをできるはずだ。

地の文なくて申し訳ない。


読んでくれてありがとう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 月並みですがこれからも他作品がんばってください。
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