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24.『会場』

読む自己。

「ねえふたりともー」

「「ん~?」」

「ちょっとお散歩行こうよ!」


 えぇと僕とヒナは唸った。

 あの海に行ったときに分かったことだが、夏休みだからって無理に外に出る必要はないということに。

 だから8月に入っても僕らはこうしてゴロゴロと過ごしているわけで。


「ご飯」

「「行こう!!」」


 脅されたら出るしかない。

 一応ヒナに帽子をかぶらせたり、タオルも持たせたりしてから家を後にする。

 とはいえ、なんの変哲もない道、建物、環境だ。

 夏休みにまで学校方向へと歩いていると少しだけ気分が滅入ってしまう。

 嫌というわけではないが、歩くにしても特別感がほしいのは確かで。


「悠君、どうすれば男の子に振り向いてもらえるかな?」

「ん? また気になる人でもできたの?」

「ううん、真人君を狙ってるの」

「え、でも、付き合ってるんじゃ……」


 いくら可愛くて胸がでかくても彼女持ちの人にアタックしたところで無意味に終わる気がした。


「それがね? あの後すぐに別れちゃったんだって」

「だけどさ、和佳姉は振られたんでしょ?」

「違うよ? 彼女できたって聞いたから悲しかっただけだよ」

「そっか、それなら大丈夫なんじゃない?」


 僕はまだ会ったこともなければ見たこともないが、あの匠馬の兄なら大丈夫なんじゃないかと素直に思える。

 彼女ができるということは性格も恐らく『普通』だろうから、和佳が頑張ろうとするなら応援したいところだ。


「和佳姉は真人さんのどこが好きなの?」

「うん? そうだねえ……背があんまり高くないところかな」

「そ、それじゃあ真人さんじゃなくてもいいんじゃない?」

「格好良くて背が小さいからいーの!」


 寧ろ女の子側からすれば高身長の男の人の方がいい気がするが。

 ふと横を眺めて……自分と同じくらいの身長である彼女はどうなんだろうかと気になって聞いてみることに。


「ヒナも同じなの?」

「私はべつにそういうこだわりはないかな」

「やっぱり和佳姉がおかしいだけか」


 何故かツッコまれなくて見てみれば、横に彼女がいなかった。


「あれ? 和佳姉は?」

「え? さっきまで……いない」


 前後左右、上下を見てみても彼女はいない、と。

 いや、まあ別にどこを好むかはその人の自由。だからこれ以上言うつもりも僕にはなかった。


「どうする?」

「メインが消えちゃったんじゃ帰るくらいしかないかな」

「そういえば今日何日だっけ?」

「ん? ちょっと待ってね……」


 スマホで確認してみると8月12日――それを彼女に伝える。


「あれ? 今日お祭りじゃん!」

「あー……ダラダラしすぎて全然日付してなかったね」


 そうかお祭りか。ということは夕方頃に近くの会場に行けば楽しい時間が送れることだろう。

 結局、あれからそれっぽい反応を見せてくれず今日まで経過してしまっているので、そろそろ動かしたいところではあった。

 そういう点でもお祭りというのは好都合で、少しだけ雰囲気でテンションを上げてもらえればできそうな気がする。

 もう1度告白するのもいいはずだ。


「結月たちも来るのかな?」

「そりゃ匠馬が連れてくるでしょ」


 花火とか好きそうだし、黒い空に綺麗な花が咲いている下でキスとかやらかしそうというのが正直なところ。

 残念ながら僕らにはないだろうが、まあそれができなくても大して影響は存在しない。

 こうして一緒にいられるだけでいいし、お祭りだって一緒にいければ十分だ。

 とかなんとか考えていたら彼女が顔を近づけてきて――


「悠、今日しようね」


 と、小声で呟く。

 きちんと「“キス”しようね」と言った方がいい気がした。

 そういう意味深な言い方では、その更に1歩踏み込んだやつだと捉えられる可能性があるから。


「それなら改めて告白するよ」

「うん。というわけで1回帰ろ? 暑い……」

「そうだね……」




 家に帰って時間を潰して、17時前に僕らは家を出た。

 なんてことはないすぐ近くの場所なので、急ぐ必要は全然なくて。

 自然に手を繋いで歩いていく。

 夕方だからか暑くないと思いきや、流石は夏――暑かったが、それでも気にせず会場へと向かった。

 比較的時間が早いというのもあって、親に付いてきた子どもが沢山いるようだとすぐに気づく。


「どうする? もうなにか食べる?」

「綿あめ食べたいなー」


 一応僕も男で彼氏なわけだから自分のお金を出して買ってきた。


「はい、どうぞ」

「ありがとっ、お金は帰ってから全部払うから大丈夫だよ」

「いいよ、ここはその……彼氏として」

「え?」

「え……」


 告白もしたのに彼氏ではなかったみたいだ。

 それならそれでこの後告白するつもりなので問題はなかったが。


「あ、あー! そっか、いま彼氏なんだっけ! いや、前と全く変わらないから、本当に実感がなくて」

「それは分かるよ、こうして手とか繋ぐのもしてきたもんね」

「そうそう!」


 彼女は小さい口で何度もはむはむと綿あめを食べている。

 もしかしたらその口――唇にと考えたらどうしようもなくなって視線を逸らした。


「よー!」

「あ、匠馬! あれ? 結月は?」

「えっとな、わざわざ現地集合になったんだけど、見なかったか?」

「うん、僕らはまだ入ってきてそこの綿あめさん屋で買っただけだからね」


 特に広い会場というわけではないため、出くわさないということもな気がするが。


「恥ずかしくて隠れてるとか?」

「結月が恥ずかしがると思うか?」


 確かに行動が早かった。

 恥ずかしいとか直前に言っていたのに、「絶対にこいつをもう逃さない!」という意思は伝わってきていた。

 その結果、無事成功したわけだし、匠馬の言うように隠れるような子には思えない。


「あ、いたわ、俺行くわ、じゃあな!」

「はーい、楽しんでねー」


 正直バカップルはどうでもいいのでわざわざ見ることはせず。

 むしゃむしゃ食べてる彼女にも特には触れず、適当に歩き回ることにした。

 ふーむ、それにしてもどうして食べ物が軒並み高いのだろうか。

 そしてそれを全く気にせず少ないお小遣いを使って買っていく少年達!

 ……言ってあげたい、ボッタクリだよって言ってたげたい。

 でも、屋台のおじさんは怖い顔しているし、残念ながら僕にはできなくて。


「ヒナ……僕は無力だ……」

「ふぁ?」

「食べるの邪魔してごめん」

「ん……どうしたの?」

「いや、全部高いからさ、子どもに騙されてるよって言いたかったんだけど……僕には無理だと分かったんだ」


 近くにあったベンチに座って屋台とか人を眺める。

 うん、食べ物は高いけどこの雰囲気は嫌いじゃない。

 楽しそうに笑っていたり、ふざけて走り回ったり、「あれ買ってー!」と駄々をこねていたり。

 その全てを昔、僕は栞としてきた。

 恥ずかしい話だが、楽しく会話をして、ふざけて追いかけて、あれ買って! と甘えたことが何度もある。

 貧乏家庭ではないもののお小遣いが少なかった僕には、彼女に寄生するしかなかったのだ。

 ……あのとき告白を断ったのは、単純にあの距離感を大切にしたかったというのもあって。

 だからこそ結果的に離れ離れになったことは、今でも後悔していることではあった。 

 もし栞と付き合っていたら同じ高校に入学して、ずっと同じような生活を送ることができただろう。

 横に座っている彼女とは全然過ごした時間が違うのだから、それも仕方ないことではある。


「悠!」

「……ヒナ、僕は君と付き合えて後悔はしてないからね」

「え?」

「いや、こっちの話だよ」

「ちゃんと言って!」


 僕は栞とのことを説明した。

 あくまで憶測で、ヒナみたいに何回も怒って喧嘩し離れ離れになるかもしれない。

 それでも今の恋人はヒナだ。

 言い方は悪くなるが、栞のことを考えている場合ではないと気持ちを改めた。


「ちゃんとヒナだけを見るから」


 あ、告白のときまで取っておけば良かった。

 ま、格好つけたりするのは似合わない。僕らしくていいのかもしれない。


「……まだ全然花火の時間じゃないよ?」

「うん、でも、僕らしいでしょ?」

「どうせなら花火のときに言ってほしかったっ」

「言うよ、何度でも君に直接ね」


 手を少しだけ強く握ると彼女も握り返してくれて安心できた。

花火大会とかって今年はなくなるんだろうか。

コロナのせいで外にも出れないし、困るね。

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