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23.『浜辺』

読む自己。

「悠……暑いねぇ……」

「そうだねぇ……なんか今日は暑いねぇ……」


 部屋の床に寝転がって唸っていた。

 課題をやればいいのにやる気がでなくて、床の冷たさだけが僕らの救いで。

 しかし、そんなのはとっくに温くなり、僕らはずっとこんな感じだった。


「というかさ、今年の夏って暑すぎない? 私の家もエアコンなくて地獄なんだよね」

「分かる、年々気温が上がってるよね。エアコンがあっても電気代が高くなっちゃうから気軽に使えないよね」


 ナコちゃんも涼しい所を探しに出て行ってしまった。

 こんなんじゃ想いを深めるどころか溶けて終わりだ。


「プールでも行く?」

「うーん、出たら溶けそう。それにあんまり見られたくない」

「気にしなくていいと思うけど、ヒナがそう言うなら仕方ないか」


 とはいえ、このままダラダラする夏休みというのは避けたい。


「ヒナ、海行こうかそれなら。別に水着は着なくていいからさ」

「暑くなるだけじゃない?」

「それでもさ、こう夏! って感じしない?」

「……じゃあ行こっか」

「うん、行こう」


 割とすぐの場所に海があって凄い人気というわけではないため、落ち着いた時間を過ごせるだろうと考えていたのだが――


「暑い……」

「そうだね……」


 より太陽が僕らを攻撃してくるだけだった。

 なんとか日陰を探してそこに居座る。

 浜辺の方では人が盛り上がっていて、楽しそうだった。

 水着の男女や、Tシャツと短パンで楽しむ人達。


「行く?」

「ううん、ここで座っていられればいいよ。海の音は聞こえるし、海も見えるしね」

「そっか」


 それでも近くの自動販売機でジュースを買って相棒に手渡す。


「冷たいっ、気持ちいい……」

「うん、本当にね」


 プルタブを開けて中身を煽る。うん、やはり炭酸は最高だ。


「どうしよっか」

「そうだねえ……あ、結月達呼ぼうかな」

「あははっ、付き合い始めたもんね! 目の前ではしゃいでもらおうかな~」

「そうそう!」


 連絡すると近くにいるということなので来てもらうことにした。

 それを待っているとき穏やかな笑顔を浮かべつつ彼女が言う。


「悠、海って綺麗だよね。だけどさ、見ているとなんか寂しい気持ちになるの、誰かに触れていたくなるの」

「それで?」

「だけどすぐの場所に他の人がいて、恥ずかしいとも思うんだよね」

「なるほど」


 一応恥じらいの心はあるみたいだ。


「それにね? 説得力はないけど特別な関係になれたときのために取っておいたほうがいいと思うんだよね」

「うん、僕もそう思うよ」

「しかも、もういるしねふたり」


 どちらかが気づいたのかこっちに向かってきていて。


「よっすっ」

「やっほーふたりともー!」

「「やっほー」」


 挨拶を済ませて。何故か結月とヒナが遊びに行ってしまった。

 ふたりで苦笑する。


「どう?」

「んー、難しいな。がっつきすぎると嫌われるし、かといってなにもしないと嫌われるからな」

「悩め悩めっ、格好良いからって楽できるわけじゃないぞ!」

「ふんっ。それで?」

「うん、告白されたよ。保留にさせてもらって、どちらにしても夏休み最後の日に告白するつもりだよ」

「悠、そんな口約束破ってもいいんだぞ? なんなら今からでもいいんだぞ?」


 なるほど。

 確かに海辺で告白というのも悪くないかもしれない。

 それにいればいるほど愛おしくなるのは確かで、もう好きになってしまっているんだと分かっていた。


「ふたりがいるところでしたら笑うでしょ?」

「笑わない、だってお前が笑わなかっただろ」


 くっそ、匠馬は格好良すぎる。

 だからって今日することはできないので、したら1番に言うよと答えておいた。


「悠、今度こそ完全に友達として応援させてほしい。なんなら協力だってするぞ」

「いや、するときは自分だけで向き合うよ。ありがとう」

「なんだよ、お前こそ格好良いじゃねえかよ」

「そうかな? あ、結月が呼んでるよ?」

「じゃ、行ってくるかな!」


 すると何故かすれ違うようにして結月がこちらに来てしまう。

 匠馬も大して気にせずヒナと盛り上がっているだけで……。


「悠くん、ありがとね。あなたのおかげで匠馬に振り向いてもらえたから」

「いや、匠馬が決めたことだからね。だって僕ちゃんと言ったよ? その気がないならきちんと断ってあげるべきだって。でもね、匠馬はもう結月のことを守ってやりたいって言ってたからさ。うーん、めでたい! おめでとう!」

「ありがと! と・こ・ろ・で、告白はしてあげないの?」

「今日はまだね。そうだね、来月にお祭りがあるからさ、そのときにでもしようかな」


 別に拘りはなくて部屋でもいいような気もするが、もう少しだけ特別感がほしかった。

 その点、お祭り会場とかだったら雰囲気が背中を押してくれるし、いいのではないだろうか。


「おぉ、なんかちょっといいね」

「でしょ? ちなみに、告白されたときはどんな場所だったの?」

「え……あ、匠馬くんの部屋だったよ? あと……受け入れた後にき、き、キスも……」

「うわぁ~やってらんね~普通そんなこと言う?」

「……ど、どうせ悠くんたちだってやるよきっと!」


 やっぱり格好良いはこうじゃなくちゃね。それくらい積極的でいてくれると、真似したいって気持ちが僕の中にも発生してくる。


「っと、陽菜乃来たから匠馬くんのところに行くね」

「うん、仲良くね」

「そっちこそ!」


 気軽に女の子同士でハイタッチをして匠馬の方へと結月は走っていった。

 こちらにやって来て穏やかな笑みを浮かべながら横に座った彼女をジロリと睨む。


「どうせ格好良いが良かったんでしょ?」

「え? やだやだ、すぐ嫉妬しちゃうんだから」

「それは君だよ。ねえ、本当にキスはしなかったの?」

「してないよ? 手を繋いだのと抱きしめてもらったくらいしか」

「本当かなあ……だってさ、結月に告白した後にキスしたって聞いたよ今」

「えっ!? ふぅん、そんなに可愛かったんだね結月のことが」

「あ、ほらぁ! 今、嫉妬したよね!!」


 自分にはしないのに違う女の子にされたらプライドがズタズタになるだろう。

 その内心は今、嫉妬の炎でメラメラと燃えているわけだ。


「しないよ、だってもう好きではないから。寧ろ、結月良かったねって思ってるよ?」

「どうだか……」

「そんなに心配なら、する?」

「え……」


 即答することができなかった。

 だってもう気持ちを自覚していて、彼女から言ってくれているのだからいいんじゃないかって本気で悩んだ。


「もし私が嘘をついていたとしても、いまからすれば上書きになるでしょ?」

「でも……そこにふたりいるし……」


 お祭りのときに告白するって決めていた。

 ……それを言えばいいのに言えなくて、咄嗟にそんな言い訳をするしかできなくて。


「この後ろの壁面を超えれば林があるでしょ? そこならどうかな?」

「ま、待って待って、そんなに焦らなくても大丈夫だよ」

「……正直ね、待っているの辛いんだよ。せっかちでさ、この時間が苦しくて……」


 告白したことがなかったから分からなかったが、返事待ちの立場にいる人間は苦しいのか。

 悩んでも断られるかもしれないという恐怖があって、もういっそのことどっちでもいいから早く答えてくれって考えるのかもしれない。


「あのふたり見てるとなおさら思うの……あーいいなーって」

「……仮にさ、ここで告白されてもヒナはいいの?」

「だって海が見える場所で告白されるなんてなんか良くない?」

「んー僕お祭りの日にしようと思ってたんだけどなあ」

「あ、それもいいかも! んーでも、いましてほしい……かも」


 どっちにしろ矛盾まみれの人生だ。

 今更なにを変更しようとなにも問題はない気がする。

 なにより彼女が望んでいるんだから、応えるのも義務ではないだろうか。


「うーんと、僕は――僕も、井口陽菜乃さんが好きです」

「うん」

「待って! な、なんかもうちょっといい反応してくれてもいいんじゃない?」

「いや、うん」


 これは絶対内心で「かかったなこいつ、アホが!」と考えている気がする。

 まあいい、騙されていたとしてもどうでもいい。何回もそうやって考えを改めてきたじゃないか。


「帰ろっか」

「そうだね、あのふたりはいちゃいちゃしすぎてるしね」


 周りに人だっているのに抱きしめ合ったりして目の毒。

 あんなの見てたら胃がもたれてしまう。

 だから僕らは自分で呼んだくせに話しかけず海辺から去ることにしたのだった。

告白したら呆気ない反応とかありそう。

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