21.『告白』
読む自己。
さて、急激につまらなくなった夏休みをどうやって過ごせばいいだろうか。
というか、中学生時代の女の子と会話したくらいでプレゼントを投げつけて走り去るって、あの子の常識はどうなっているんだろう。ナコちゃんもいないしやることもない。
どうしたものかと頭を悩ませていたときインターホンが鳴り出てみたら、匠馬が立っていた。どうして彼はここまでタイミング良く来てくれるんだろうと考えつつも、リビングに入ってもらう。
お茶を彼に渡して僕はソファに座った。彼は受け取って床へと座った。
「……なあ、結月に告白されたんだけどさ、どうしたらいいと思う?」
どうやら向こうは積極的に動いているようだ。
「勿論、匠馬次第だけど、受け入れてあげてほしいなあ」
抱えていた想いを知っているわけだし、それが僕にとっても1番良かった。
「でもさ、直前まで和佳さんとか言っておきながら、可能性がないと分かってすぐに他の女の子にっていいのかって不安になるんだ」
「なんで? 他の人の意見なんてどうでもいいじゃん。大事なのは匠馬が結月のことをそういう目で見られるかということだよ。だけどあれだよ? 同情で付き合ったりするのは駄目だからね。その気がないなら、はっきり言ってあげた方がいいよ」
「……少し考えてみるわ」
「うん、そうしてあげた方がいいよ」
僕も自分のお茶をちょぴっと飲んだ。
……愛想尽かされてしまう前にやれることはやっておいた方がいい。はは、全部僕に返ってくるな。
「なあ、ナコちゃんと陽菜乃は?」
「あ、家を空けすぎて心配だからって帰ったよ」
ご両親に家賃とか生活費だって払ってもらっているわけだし、申し訳無さもあったんだと思うと重ねておいた。
「悠、嘘ついたろ今」
「え、嘘じゃないよ? なんならヒナに聞いてみたらいいんじゃない?」
……だからって目の前で電話を掛けなくてもいいと思うが……。
「……もしもし?」
そして無駄にスピーカーモードにするというサービスっぷり。
「陽菜乃、悠と喧嘩したのか?」
「……水谷君となんてしてないよ?」
下手くそやろう!
いっつも詰めが甘いというか、名字呼びになんてしてたら気にならないわけがない。
「したんだな」
「だからしてないって」
「なにがあったんだよ? 別に悠が聞いているってわけじゃないんだし、答えてくれよ」
「……施設に行ってたときに知らない女の子と話してたから」
「頻繁にか?」
「ううん、30分くらい」
どうやら尾行されていたみたいだ。
最後のやり取りは彼女が“先に”フードコートに行っていたため聞いていなかったんだろう。
「たかだか30分くらい会話してたくらいで拗ねるなよ」
「違うもん……あれは絶対過去になにかあったもん」
彼女の言うとおりだ。
あまりに栞が勝手すぎたから思い出さないようにしてたが、確かに中学のときにそういうことがあったのは事実だ。
「んなこと言ったら、陽菜乃だって俺と付き合ってただろ?」
「……水谷君が頻繁に過去は気にしないって言ってたの、こういうことなんだって分かったの。自分のを触れられたくないから多分そうやって言ってたんだと思う。だから私は家からも出てって自宅に帰ってきた、それだけだよ」
「極端だな陽菜乃は。まあいいや、それより結月に告白されたんだけど、どうしたらいいと思う?」
「本当っ!? 結月積極的だな~! 私は受け入れてあげてほしいかな!」
元気な声。昨日の朝までは僕の前でもそうだったんだが……。
「……実はさ、俺はもう決めてるんだ、どう返事するかって」
それはヒナだけにではなく、僕にも言ってきているような気がした。
「あ、そうなんだ?」
「おう。勝手かもしれないけど、あいつを守っていければって思ってる。少なくとも陽菜乃とのときみたいな状態にはさせない」
「おぉ~! 結月きっと喜ぶよ!」
そういうことか。どう答えるかは決まっていたものの、誰かに背を押してほしかったのだろう。
向こうが告白してきたとはいえ、返事をするのだって緊張するのは当たり前なこと。そこで引っくり返される可能性も0ではないから。
「ただ、そうだな、お前らが仲直りしたら告白しようかな」
「は……な、なんで? 私たちは関係ないじゃん」
「俺はお前らのことだって気になるんだよ、友達として応援したいと思うのはなにもおかしなことじゃないだろ? お前らだってしただろ今それを」
人に言うなら自分達もやらなきゃ駄目だと言いたいのか。
しかしあれだ、これは勝手に彼女が勘違いして去っただけ。謝るつもりはない、だって僕は悪くないんだ。
「……関係ないよ、決まっているなら早く答えてあげなよ」
「駄目だ、お前らが仲直りしない限りは告白しない」
「なんで!? ……いいんだよ私たちのことはもう」
「だってさ、悠はどうするんだ?」
「えっ!? み、水谷君いるの……?」
そういうことかと僕はまた分かってしまった。
どこからか聞きつけて元々これをするために来たというわけだろう。
そりゃそうだ、たった3ヶ月くらいの付き合いでしかないが、彼が「どうしたらいい?」なんて聞いてくる性格ではないことを知っている。
それが告白とか大事なことに対するそれであったならなおさらのこと。
「そうだね、どうでもいいかな」
「お、お前……なんでそんなこと」
「そんな○○しないと告白しないなんて言われてもね、結月が可哀相だ」
「それは……でもさ! 俺だってお前らのことが心配なんだよ!」
「知らないよ、だってその子が勝手に逃げただけなんだから。なに? 悪くないのに謝れって? 冗談じゃないよ」
結局仲直りしたってすぐに喧嘩になるくらいならこのまま自然消滅が理想だ。
彼女も言った「いいんだよ」と。となれば、約束どおり尊重してあげるだけだ。
「井口さん、僕は君がしたいことを尊重するよ。去るならどうぞご自由に、それだけだから」
「おい悠!」
「なに? こんなことしているくらいならちゃんと答えてあげなよ」
不安ならここに呼んで告白してくれたって構わない。
まあそれは彼の性格的にしないだろうが、友達として早く返事を聞かせてあげてほしいと思うのは普通だろう。
「……も、もう、いいからっ!」
「陽菜乃っ? あ……切れてる」
僕はいつもみたいにソファへと寝転んでスマホを操作し『今日までありがとう』と送っておいた。
ブロックなどはしない。それでは惨めすぎるだろうし、自分が間違ったことはしていないのだからする必要もない。
「……お前こそ一生懸命になれよ馬鹿悠!」
「そういう匠馬こそ真っ直ぐに向き合ってあげなよ、早く返事をしてデートでもすればいいよ」
同じような状態にはさせないんだろう? だったら井口さんと会話して疑われるようなことをしたら駄目だ。
結月がそれで怒るかどうかは分からないが、彼にとって本来こっちのことはどうでもいいことなのだから。
「『自分のことに集中しろ』って言ったのは匠馬なんだから」
「……そうだよな、いや、悪かった。……結局俺がしたのが逆効果だったよな」
「そんなことないよ、匠馬は僕らのことを考えてしてくれたんだからさ。ありがとう、匠馬」
「おう……返事は明日するわ、今日このままだとちょっとな」
「うん、それは匠馬次第だから」
ただ、ナコちゃんをもう触れないことは寂しいなあ。
一緒に寝たりもして仲も深めたのに、だからこそ離れることが悲しいって思うんだ。
ご主人さまだって最近は甘えてくれていたのにな。終わりは呆気ないなあ。
「直前にさあ、『好きっだって言ったら受け入れてくれる?』とかって聞いてきたんだよあの子。お互いに抱きしめ合っててさ、これはもしかしたらワンチャンあるんじゃないかって考えていたんだけどね。しかも昨日だってプレゼントをあげた後だったんだ、それを投げつけられ、走り去られ、家からも出ていかれて、残ったのはなにもない。いや、マイナスなことしかなくてさ。だせえわこんなの、下らないわ」
匠馬に言っているわけじゃない。彼だってこんなの聞かされても困るだけだろう。
自分の立場、本来の生き方を思い出させるために言っているだけだ。
僕が信じたら終わるって分かっていたのに、どうしてもすぐに求めてしまう弱さ。
自分が不幸になってもいいからと願ったのは僕で、当たり前な結果になっただけだというのに。
「ださくねえし、下らなくもねえよ」
「匠馬、返事なんかしないでよ。これは独り言なんだから」
「だったら俺が帰った後とかに言えばいいだろ? 本当は寂しくて悲しくて悔しくて、仕方ないんだろお前は」
「そんなんじゃないよ。僕が悲しいのはあのシマシマ体毛に触れられないことだからさ」
家に帰るといつも駆け寄ってくれた。本当のご主人さまが横にいても甘えてくれた。
そんな子とお別れになって寂しくならないわけがない。できることなら一生側にいてほしかった。
でもあれだ、生まれたら必ずいつかは死んでしまうのが決まっていて。
その別れに遭遇するくらいなら、完全に関わりが失くなってしまった方が気が楽と言えた。
それはあのご主人さまにも当てはまることだ。何回も喧嘩して後々にいなくなられるくらいなら、今、終わらせておけばいい。
「僕はまだ好きってわけじゃないし、ここで終わらせるのがいいんだと思う。だからさ、もういいからね匠馬。匠馬は結月にだけ集中してあげてよ、過去みたいな曖昧な状態にはさせちゃあ駄目だよ」
足を引っ張りたくないんだ。君は前に進めるチャンスじゃないか。
僕が前に進めなくたってどうでもいいんだよ。真剣に向き合わないと駄目なんだ。
あの結月が頑張って告白したんだし、向き合ってあげる義務がある。
守ってあげると決めたんだろう? だったら、ここで油を売っている場合ではない。
「頼むよ匠馬、結月と幸せになってくれたら僕も嬉しいんだ」
「分かった、帰るよ」
「うん、ありがとう本当に」
ソファから下りて玄関まで見送る。
「じゃあな、明日告白したらまた連絡する」
「うん、よろしくね」
彼は出ていき静かになった。
「やれやれ、格好良いは慎重だなあ」
だからこそ誰かを振り向かせることができるのかもしれないが。
とにかく、ふたりには幸せになってほしいと、僕はそう思った。
すぐ喧嘩させるのは俺の人間性が出てるな。




