20.『彼女』
読む自己。
午前10時30分、僕らは商業施設に着いた。
あくまで当初の目的であるリボンが売っている場所に直行してリボンを買う。
「はい、遅れたけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとっ」
紙袋から取り出した彼女から受け取り、「結んであげるよ」と言って髪を結んだ。
うん、やっぱり黒色の白色のそれが良く似合う。ポニーテールになるのも最高だった。
「よく似合ってるよ」
「えへへ、ありがとっ」
「さて、これからどうしよっか」
このまま帰るのは味気ないだろう。
いろいろなお店があるので、今日は彼女が行きたい所に行こうと決める。
……しかしまあ、これが悪かったのかもしれない。
ゆっくりと見て回ろうと彼女が決めたので、手を繋いで歩いていたときのこと。
僕はつい話し相手である彼女の方を見すぎて、同い年くらいの女の子とぶつかってしまったのだ。
手を差し伸べて「大丈夫ですか? すみません!」と謝って。
その子も「いえ、こちらこそすみません」と言って手を握ってくれたまでは良かったんだが。
「え、も、もしかして、悠なの?」
「あ、栞っ?」
「そうよっ、久しぶりじゃない!」
まさかのまさか、中学生時代の友達であった柳原栞だった。
勿論、お互いに恋愛感情があったというわけではなく、何事もなく時間だけが経った仲ではあるが。
……横の彼女にとって細かいことなんてどうでも良かったんだろう。
こいつも一緒か、匠馬と同じようなことをするのか。……どう考えたのかは分からないが、手を握るのをやめたうえに、あのリボンも取って僕に投げつけてきた。そして、そのまま走り出してしまう。
そりゃあ驚くだろう、栞が困惑した表情を浮かべ「え、ど、どうして?」と声を出していた。
「も、もしかして、私と悠が元カレ元カノとかって誤解したのかしら?」
「そうかもね」
過去のことを気にしないでいられる人間ばかりというわけではないということか。
「いまだってべつに連絡を取り合っているとかではないわよね?」
「うん、だけどあの子にとってはそう見えたのかもね」
「はぁ、追いなさいよ」
「いいよ、どうせ追ったところで見つからずに終わるだけだから」
ただの暇つぶしで来ていると分かったので、参加させてもらうことにする。
適当に横を歩きながら考えていた。
中学時代の友達と話しているだけで疑われたら困る。
中学三年生の夏、塾で知り合った少女と仲良くしていた匠馬もこんな気分だったんだろう。
でもあれだ、僕なんかまだ付き合ってもいないのに、なんでそこまで気にするんだろうか。
もしこれで「信用できない、もう他の子を探す!」と言われても構わなかった。
嫉妬してくれる頻度が時々なら可愛いが、事ある毎にされても困るんだよ。
「悠」
しかしまあ、どうしてこうも『格好良い』や『可愛い』が弱いんだろう。
もっと真っ直ぐに「こいつを手放したくない!」くらい一生懸命になってから逃げればいいのに。
本来は僕みたいなのが逃げる立場の人間なのだ。勝手に諦められると、それも困るんだよ。
「悠!」
「うわっ!? ど、どうしたの……」
「あの子」
いつの間にかフードコートまで来ていて、確かにヒナは席に座って頬杖をついていた。
「行きなさい」
「いや、今日はいいんだ。どうせ聞く耳持ってもらえないよ」
「……中学のときもそうやって逃げたわよね、私から」
そうだった。
僕も彼女と喧嘩して中学卒業まで話せなかったんだ。
友達に言われた「謝りなよ」「行きなよ」と。でも、「聞く耳持ってもらえないから」と断って。
謝ろうと思ったときには既に遅くて、僕らはお互いに別の高校へと入学していた。
「いいんだ、あれはあの子が選択したことだから。それで来るも良し、他の人のところに行くのも良し、そういう契約、約束を交わしているんだ。心配してくれてありがとね栞」
「……喧嘩した理由、覚えてるかしら」
「うん、君が告白してきて『興味を持てないから』って断ったのが始まりだ」
「あの子のことが好きなの?」
「どうだろうね。抱きついてきたら抱きしめ返したり頭撫でたり手を繋いだりもするけど、分からないな」
ふむ、改めて考えてみなくても『異常』なことをしてしまっているようだ。
「ありがとう、君が僕とぶつかってくれたおかげで正常に戻れそうだ」
「また女の子の気持ちを弄んだってことねっ、最低だわ」
「否定はしないよ」
可愛いとか綺麗だとか平気で言って大事なところでは追わない男なんてね。
「あなたが断ってくれて本当に良かったわ。誰にでも抱きしめたりするあなたと恋人になんかならなくて」
「そう言わないでよ、せっかくの夏休みなんだからさ」
「近づかないで!!」
「あ……そんな大声出したらヒナに気づかれちゃうでしょ」
「どうでもいいわそんなこと、さようなら」
「うん、じゃあね」
周りのお客さんにジロジロと見られてしまっていたので、彼女が座っている席ではなく別の場所を陣取り座り込む。
目の前が窓で外を見渡せるのもあり、頬杖をつきダラダラと眺めていた。
なにかを言われて怒らないというわけじゃない。なんで女の子ってここまで勝手なんだろうか。
僕はちゃんと言ったんだ「今はそういうことに興味ないから」と。
それを聞いて彼女も「そうなのね」と言ってくれたというのに、その一週間後に告白してきた。
なにも届いてなかったのかと苛ついて、つい「興味ないから」と冷たい言い方になってしまって。
それきり――中学二年生の秋からずっと喋れていなかった。
先程の彼女が明るかったのは、同じように壊してやろうと思ったからだろうか。
はは、結果は成功、僕らはこうして一緒に来たはずなのに別行動をして。
片方はイライラして、片方は多分、信用を失くして。
先程も言ったが、それならそれで構わない。
純粋にあのふたりを応援させてもらえればそれでいい。
じゃあここにいる必要はないじゃないかと僕は立ち上がって、フードコート及び施設を後にする。
そう、こういうときに失敗する運命なのだ。抗うことはできない。
ループものみたいに何度も同じような繰り返し。
歩いて帰りつつ「なにやってるんだろう」と真剣に考えた。
お前の限界はその程度なんだって教えられている気がした。
家に着いてリビングのソファへと寝転ぶ。
「にゃー?」
「おっす! なこちゃん!」
多分、家に住むのは今日で最後だろうから、否、最後にさせるつもりだから、愛玩動物を愛でておく。
嬉しそうにスリスリと体を擦り付けてくれた。それが嬉しかった。
13時を超えた頃、ご主人さまが戻ってきてナコちゃんがそちらに向かった。
「……水谷君、家に帰るね」
「そっか、それじゃあ気をつけてね」
彼女は荷物とナコちゃんを連れて出ていった。
終わりなんて呆気ないなと笑っていたら匠馬から電話が掛かってきて応答する。
「なあ、で、デートってどうやってやればいいんだ?」
「なんで急に?」
「……結月が行きたいって言うんだよ、出かけるのもいいかなーって思ったんだ。だけど、経験がなくて全然分からないんだよ。悠は陽菜乃と行っただろ? 教えてくれないか?」
「そうだね、施設とかいろいろなお店がある所にして、彼女が行きたい所に付き合ってあげればいいと思うよ、本当にね」
「そう、か。いや、ありがとな! じゃあなっ」
「うん、頑張って!」
にしても、格好良いが平凡以下になにを聞いているんだか。
しかも今日、今さっきミスってきたばっかりだぞ? 笑えて仕方ないね。
「あ~ナコちゃんいないのか~」
どうしてすぐにこうなるんだろうか。
今回ばかりは自分が悪いなんて、最後まで僕は思えなかった。
栞、もうちょっと出そうかな。




