19.『多分』
読む自己。
お昼ご飯を食べてから2時間くらいして僕は部屋に戻った。
あれなら匠馬も問題はない。僕のサポートがなくても上手くやれるようだ。格好良いはずるいっ。
そしてそれから少しして僕は珍しい人物と部屋でふたりきりになった。
「も~やってらんな~い」
「どうしたの? 結月っぽくない態度だね」
そう、結月がナコちゃんを抱いてやって来たのだ。
拒む理由もないので座布団を渡して使ってもらうことに。
「……私ってさ、あんまり人を好きになれないタイプなんだ」
「あーなんとなく分かるかも」
「でしょ? それでさ、周りが恋愛する中、探して探して探して探して見つかったのが匠馬くんだったの」
うわぁ……だろうと思ってたが、こうして聞くと、うん、あれだな。
「しかもね? 私が好きになったときはまだ陽菜乃と付き合ってなかったの。だから告白してみようってしたときに、匠馬君から陽菜乃に告白したって言われて……」
「ふ、不憫すぎるぅ……」
そっか、そういえば中学の頃から仲があるって言ってたよね結月が。
それにしたってわざわざ結月に言わなくてもいいような気がするが……。
「それで……実はまだあるんだ気持ちが。で、今回は陽菜乃と別れて今度こそって思ったら……」
「和佳姉か……」
「うん……」
ということはあの「興味を持った」という言葉は、ヒナと同じで次へと動こうとしていた証拠か。
それでも想定外のことが起きて気持ちを無視できなくなってしまった、というところだろう。
友達としてなにかしてあげたい。けれど、和佳と匠馬次第としか言いようがないのも確かだ。
「ヒナみたいに甘えてみたらいいんじゃない? 手を繋いでみたりとか家に行ってみたりとか」
「は、恥ずかしいし痛い子じゃない?」
「結月、それで取られて後悔しない? なにもしないでいて後々に泣かないならそれでもいいと思うよ」
「き、厳しいじゃん……陽菜乃には甘いのに」
「いや、友達だから言ってるんだよ。まだ可能性があるんだ、諦めるのは違うだろ?」
「だからその喋り方、格好良くないし」
「いいんだよそれは。結月っ、一生懸命になれ! そうだな、これをあのときの報いとさせてもらおうか」
僕らの間を少しの沈黙が包む。
それを破ったのは僕でも結月でもなく新たな来訪者だった。
「悠、叫んでどうしたんだ?」
「丁度いいところに来てくれたよ匠馬」
「え? そうなのか? って、どうした結月っ」
匠馬は俯いて座ったままの結月を見て心配そうな声を出してくれた。
「僕が虐めちゃってさ、悪いんだけど慰めてあげてくれないかな? ごめんね結月、でも匠馬が相手してくれるからさ」
「……匠馬くん、いい?」
「お、おう……ちょっと家から出るか。悠、虐めたら駄目だぞっ」
「うん、反省してる。結月のことよろしくね!」
よし、さり気なく結月も手を握られているしなにも問題はないだろう。
雰囲気が良くなってこのまま泊まりはなし、向こうに泊まるということになったら最高だ。
「似合わないことするね悠は」
「あれ、君も来たんだ」
ヒナが来てナコちゃんが駆け寄っていく。床に寝転んだ彼女のお腹に丸まって落ち着き始めた。
「まさか匠馬のことが好きなんてね」
「気づかなかったの?」
「うん、全然かな」
「隠すのが上手いんだね結月は、僕じゃとても真似できないよ」
彼女の横へと寝転んでナコちゃんの頭を撫でる。
「……私には?」
「よしよし」
「ん」
「和佳姉とはどんな感じだった?」
「それがねーもう振られちゃったんだよ匠馬」
「あ~意外とガード固いからね和佳姉」
あらら。でもあれか、真人さんを思いだしてしまうからキツいよね和佳姉にとっては。
それが関係ない匠馬であったとしても、『浅野』という名字がどうしてもチラついてしまうんだろう。
「君も、だよ」
「そうかな?」
自分もと言われて彼女の顔を見ると向こうも見ていて、目が合っても逸らすことはなかった。
「ね、抱きしめて?」
「……じゃあ立ってよ」
「うん」
僕らは立ってお互いを抱きしめる。
「ん……落ち着く」
「なんとなく分かるよ」
「ね、もし私が好きだって言ったら受け入れてくれる? 過去に他の子と付き合っていたとしても」
「そんなこと言ったら後からする恋愛できなくなっちゃうしね、気にしないよ僕は」
「でも、騙したよ?」
「いいよ、過去のことはどうでもいい。大事なのは僕がその子を好きかどうかだから」
終わった、終わらせた恋愛にいつまでも意識を持っていかれてはいけない。
いつだって次へ、前へと動いていかなければいけないのだ。それを彼女はしているだけで。
まだ僕の気持ちは『好き』ではないけれど、そこを否定するつもりは内外共になかった。
「もしかして好きなの?」
「……うーん、好きって言えるのかなこれって」
「焦らなくていいよ。あと、誰か他に好きな人ができても言ってくれればいいから」
「うん、分かった」
「ありがとう。そろそろ離れようか」
腕を離すと彼女も離してくれた。
僕はベットに座って、彼女は先程と同じように床へと寝転んだ。
「結月に頑張ってほしいな」
「分かるよ、友達だからね」
「協力してあげようね」
「うん、そうだね」
そういえば明日から夏休みだ。
やれることは沢山あるぞ結月っ。
夕方頃に匠馬から電話が掛かってきて「結月の家に泊まるから」と言ってきた。
それに僕は「分かった」とだけ返して、余計なことはなにも言わずに電話を切って。
少しだけ早めのご飯を食べてお風呂にも入って、僕はベットの上でゴロゴロとしていた。
「結月積極的だね~」
「君に言われたくないだろうけどね」
「いーの、ここをもうナコだって気に入ってるんだから」
そういう問題かな。ま、朝からこの子の顔を見られるのは嬉しいっちゃ嬉しいけど。
「ね、あのふたりが付き合いだしたらどうする?」
「おめでとうって言うかな」
「……僕もってならないの?」
「そういう他人に影響されての恋愛は駄目なんだよ、多分長続きしない」
僕の横にごろりと寝転んだ彼女が頭をぶつけてくる。
それをなにも言わずに撫でながら、結月頑張ってと内心で呟いて。
「それにしても甘えん坊だねヒナは」
「うん……なんか人恋しくて」
僕も“ネタバラシ”をされて一週間くらい関わらなかったときは本当に寂しかった。
なにもかもが偽物だって言われて、今までの自分を否定されたように感じたからだ。
それでもなにも効いてないよアピールがしたくて、強がって普通に接して。
けれど本当のところでは恐れていることを知ったから、「無理」「信じられない」と言葉を出した。
……信じられないとか言っておきながらすぐにこれは恥ずかしいが、素直になる方がいいと思う。
「あ~あのヘアゴム君にプレゼントしたかったのにな」
リボンの形になっていて可愛くなるって思ったんだ。
黒と白のコントラストが美しくなるだろうと思ってたんだ。
「あ、そうだ。明日さ、商業施設行こうよ、それで……買ってほしい。お金は出すからさ」
「いや、僕が出すよ。だから、買ったら今度こそつけてね」
「うん……」
「楽しみだなあ」
また商業施設の入り口で「騙してた」と言わなければいいが。
はは、それならそれで、何回でも友達からやり直させていただこう。
「ね、今日はこのまま寝たい」
「ま、床で寝るのと変わらないしね。毛布取ってくれる?」
「はい」
「ありがと、掛けて寝ようか」
「うん、おやすみなさい」
部屋が真っ暗になる。
その瞬間にあのときの出来事を思いだして顔が熱くなってしまった。
握った手から動揺が伝わったのだろうか、彼女が「どうしたの?」と聞いてくる。
「いや……君がお漏らし……したときのことを思いだちゃって……」
「えっち」
「ごめん、もう大丈夫だから、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
寝よう。
それで明日施設に行って『プレゼント』を買わなければいけないのだから。
現実の女の子も、過去で裏で、なにをしているか分からない。
男の子も一緒。だから、なにが正しいなんて言えないし分からない。




