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18.『自得』

読む自己。

 自惚れではなくやればできるタイプなので期末テストは一切問題なく終了を迎えた。

 となると、夏休みまでの残り期間は大体全てお昼で終わることになる。

 残念なのは和佳が作ってくれたお弁当を食べられなくなること。幸いなのが和佳が作ってくれた出来たてお昼ご飯を食べられることだ。

 講座が終わって教室に戻ってきて、HRもすぐに終わって。

 鞄を持って立ち上がると匠馬と結月がやって来た。


「帰ろうぜ悠」

「帰ろー悠くん」

「うん、帰ろっか」


 しかしその前に爆睡お嬢さんを起こさなければならない。だからふたりに先に下駄箱へと行ってもらい、僕は彼女の席の前に移動した。


「ヒナ、帰ろうよ」

「んー……おんぶ」

「駄目だよ、早くしないとふたりも待ってるんだから」

「ねえ悠、今日も泊まってもいい?」

「別にいいからさ、早く行こう」

「んー」


 あー駄目だなあ、断れないんだよなあ。

 そう、あの日からずっと彼女は家に泊まってしまっているのだ。

 着替えとか歯ブラシなんかも僕の家に置いて、なんならナコちゃんも連れてきてしまっている。

 勿論、和佳の部屋で寝てくれているため問題はないと言えばないが、だからってずっと自分の家を空けさせるのも――微妙なところだろう。

 だから本当は結月達と帰らず直行でいいんだが、流石にこればかりは言えなくて、下校に付き合っているということになっていた。


「なあ悠、今度お前の家に行ってもいいか?」

「うん、なんにもないけどね」

「俺よく考えたんだけどさ、兄貴が間接的にも和佳さんを泣かせたなら、弟の俺が責任を取るべきじゃないかって思うんだよ。どうかなっ?」

「どうかなって、それは和佳姉次第だし」

「俺、和佳さんの笑顔とかスキルの高さとか好きなんだよな」

「せ、積極的だなあ」


 ふむ、けれど匠馬なら信用できるし和佳も任せられる気がする。

 もっとも、彼女が認めなければそこで終了ではあるが、可能性がゼロというわけでもなさそうだ。

 低身長で元気で可愛くて胸も大きい女の子。うん、本当に自分の姉なのかって疑いたくなるね。


「そんなこと言って匠馬くんは和佳さんの胸が好きなんじゃないの?」

「いや、マジで真剣なんだよ、そういうのは一切ない!」

「もし触ってもいいって言われたら?」

「……ない!」

「なにいまの間ー!」


 彼だって男の子なわけだし仕方ないと考えてあげてほしい。

 にしても……。


「ヒナ、痛いよ」


 どうして僕が言ったわけじゃないのにつねられなくちゃいけないんだろう。


「どうせ……胸ないし……」

「そこが全てじゃないよ」 


 こういうのを見せてくれるようになって嬉しいような、そうでもないような。

 暴力系ヒロインに退化することだけは、やめてほしかった。


「あ、俺らこっちだから、結月帰るぞ!」

「はーい! じゃあねふたりとも!」

「うん、またねー」

「ばいばい」


 一応もう少しだけ真っ直ぐ歩いてから僕の家に向かうとしよう。

 ふたりきりになると少しだけ行動が変わる。


「また手を繋ぐの?」

「うん……嫌ならやめるけど」

「別にいいけどさ」


 手を繋いだりとか距離を近づけてきたりとか。しているときどんな気持ちを抱いているんだろうか。

 適当なところで折り返して家へと向かっていく。

 自転車登下校状態に戻っているので、悪いとは思いつつもふたり乗りをすることにした。

 初めてというわけじゃないから、彼女も後ろに跨って自然にギュッと抱きついてくる。

 暑いような暖かいような、なんとも言えない気持ちが胸中に溢れた。




 彼女が泊まるようになって僕が感じたメリットは――


「ナコちゃんただいまー」

「にゃー!」


 こうしていつでも我が家でシマシマ模様猫に触れられることだ。

 デメリットは彼女を愛でているとご主人さまが不機嫌になること、だろうか。


「あーもう好きすぎだなーナコちゃんは僕のことー。ま、僕も好きだけどさ」

「にゃっ」

「え、相思相愛? じゃあお付き合いを始め――痛いよヒナっ!!」


 本来は猫からされるはずの攻撃をされて傷だらけになる毎日。

 よく分からない女の子だが、頭を撫でておけば落ち着くのが、簡単と言えるような気がする。


「はいはい、よしよし」

「んー!」

「猫に嫉妬しちゃ駄目だよ?」

「……悠が悪いんだよ、いっつもナコにばっかり甘くして!」

「仕方ないでしょ、だってナコちゃん可愛いいんだもん」


 僕はスマホを見せて彼女を黙らせる。


「ま、まだ……壁紙にしてたんだ……」

「そりゃ、どっちも可愛いからね」

「うぅ……」


 いや、本当に目の前の彼女が同一人物だとは思えない。

 あれから嫉妬とか恥ずかしがったりして顔を赤くして、いろいろな変化を見せてくれている。

 それにドキドキするときもあって、意外と落ち着かない毎日なのに落ち着いているという、謎の時間を僕は過ごしていた。


「……仕方ないな、これで満足できる?」

「あ……」


 僕はそのまま彼女を抱きしめる。

 これは紛れもなく、彼女にするのは初めてな行為だ。

 身内以外の女の子に気軽にするような自分ではないし、これで少しは“信用”してくれればなと思う。


「よしよし、落ち着いてくれたね」

「悠……」

「さて、そこでニコニコしながら見ているお姉ちゃんに言い訳をしようかな」

「えっ!? わ、和佳さんいるのっ?」

「うん、入り口にね」


 抱きしめるのをやめて和佳の前に土下座をした。


「これは仕方ないことだから! 僕だって男なんだし可愛い女の子に触れたくなるのは普通だよね!」

「うん、だって陽菜乃ちゃん可愛いしね!」

「そうそう! だから仕方ないことなんだよっ」


 やましいことはなにもなかった、それが伝わればいい。

 ……距離感に困っている。こういうことをしてしまったら、いつしか止まらなくなりそうだ。

 お昼ご飯を作ってくれるということだったので、とりあえずヒナを連れて部屋へ行くことにした。

 それで部屋に入った途端に彼女が抱きついてきてしまう。


「悠……」

「甘えん坊なの?」

「うん……そうだと思う」

「……ルールを設けようか。やるにしてもこうして家にいるときと限定にしよう」


 外でしたらどこで誰に見られているか分からない。

 そういうのを脅しに使われたら嫌だし、本来なら気軽にするべきではない行為だから。


「うん」

「あとはさ、外で嫉妬してつねったりとかそういうのはやめてほしい」

「……それは悠が悪い……」

「ヒナ、どうしてそこまで急に変わっちゃったの? もしかしてまた騙してるとか?」

「……ある意味そうかも、悠を騙そうとしているんだよ」

「それは怖いな……」


 これは、僕がその気になるのは待っている、ということだろうか。

 騙すではなく誘惑すると言った方が今の状態は正しい気がする。

 高頻度抱きつかれたり距離が近づいたりしたら、抑えられるか分からないぞと冷や汗が出た。


「今日から一緒に寝ます」

「……許可できるわけないでしょ」

「夏だから床で寝るし心配しないで」

「そうしたらベット使いにくくなるじゃん」

「じゃあさこうして……」


 抱きつくのをやめて彼女は床へと寝転んだ。

 横をトントンと叩いて彼女が僕を誘う。

 つまり、また一緒に手を繋いで寝ようということかこれは。


「初めてじゃないでしょ? それに……悠のせいでお漏らししちゃったし……」

「ごめん。でも今度はちゃんとトイレ行ってよ?」

「うん……分かってるよ」


 脅しだこんなの。卑怯、自分の武器を分かってるんだなあ。


「ナコも一緒に寝ればふたりだけじゃないでしょ?」

「いいの? ナコちゃんの前で抱きついてきたりなんかしたら、ナコちゃん嫉妬して引っ掻いてくるかも」

「いいよそれでも……名誉な負傷だよ」

「分からないなあ君が。だけど、次こそそれが本物であってほしいと思うよ」


 また同じような結末を迎えるのだとしても、今が良ければいいのではないだろうか。

 こうして目の前で無防備に転がって、スカートが少し捲くれていて白いを足を晒している彼女に。

 まあそれはどうでもいいが……。


「スカート直しなよ」

「あっ、えっち……」

「自業自得だよ」


 とにかく、一生懸命になろうと決めて僕もご飯ができるまで横に寝転んだ。




 七月最後の登校を終えて僕らは別れ道で留まり話をしていた。

 というのも、匠馬が僕の家に泊まりに来たいと言ったのが始まりで、それに結月も乗っかり現在はふたりで待っているという状態となる。


「ヒナ、ちゃんと隠してよ? もう1ヶ月くらい家に過ごしているということは」

「なんで? べつに恥ずかしいことじゃないよ。それとも……悠にとっては違うの?」

「いや、そんなことはないけどさ、普通じゃあないでしょ?」

「どうでもいいよ周りからの意見なんて……私がいたいからいるんだから」


 態度が変わったデメリットその2だ。……こんなこと言われて喜ばないわけがない。

 同じくらいの身長で綺麗も可愛いも混ざった顔なのに、本当に子どもみたいに寂しそうな表情を浮かべて上目遣いでこちらを見てくる彼女。正直、それがグッとくるというか魅力的なのは確かで。


「こーらっ、なに道の真ん中で見つめ合ってるのさー!」

「ゆ、結月っ!? そ、そんなんじゃないけど……」


 あ、駄目だ、彼女が住んでいることを隠すのは不可能だと気づく。

 だってふたりも知ってるナコちゃんが住んでいるんだから、なにも意味がないじゃないか。


「結月っ、ごめん!」

「えっ? ど、どうしたの?」

「実は……ヒナってさ、もう1ヶ月くらい僕の家に住んでるんだよ」


 結月に謝るのは「興味がある」と言ってくれたからだろうか。

 確かにヒナの言うようにいちいち気にする必要はないようにも感じる。

 無理やり監禁しているとかではないわけだし、堂々としていてもいい気もするが。


「ふぅん、そっか」

「え、な、なんか軽い反応だね」

「だってふたりがここに来た後に悠くんの家の方角へと歩いて行くの知ってるし。それに悠くん抜きにしても和佳さんがいるんだから住みたくなるでしょ。だってこの子の食生活クソ! だったからね」

「えぇ!? ば、バレてたんだ……。後者のは否定しない、確かにクソ! だった」


 ふたりで笑ってるとヒナが「ひ、ひどいよ~……」と言って涙目になった。

 あーもう可愛すぎるっ、やっぱりメロメロになるのはこちらの方らしい。


「悪い、待たせたな!」

「大丈夫だよ、行こっか」


 待つぐらいなんてことはない。

 それに疑ってしまったこともあって、あまり強気には出られないのだ。


「おう! って、どうした陽菜乃? 涙目だぞ?」

「うん……ふたりに意地悪された」

「悠と結月がか? どっちかって言うと陽菜乃が意地悪しそうだけどな」

「ひどいよ! 匠馬嫌いっ」

「はははっ、どうせ嫌いだから振ったんだろ?」

「……いまださないでよ、それにそういうつもりじゃないし」

「分かってるよ! 悪かったなっ」

「あ……もぅ、頭撫でないで!」


 は? なにこいつしれっと頭撫でてるのっ!?

 ……くっ、しかも彼女も満更でもなさそうな顔をしているしむかつく!


「匠馬、今日君だけお昼ご飯も夜ご飯もなしね! 和佳姉のご飯は絶対に食べさせない!」

「な、なんでだよ!?」

「気軽に頭撫でてるんじゃねーよ! 馬鹿匠馬!」

「はぁ、嫉妬かよー」

「そ、そういうのじゃねーし!」

「「その喋り方似合わないからやめたほうがいいよ?」」

「……ごめんなさい、嫉妬しました」


 格好良いの味方をするのはずるいと思う。

 格好良い=じゃないことを分かってもらえればいいけど……。

会話文ばかりで申し訳ない。


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