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17.『匠馬』

読む自己。

「おはよう」

「うん、おはよう」


 あの子は絶賛爆睡中なので結局家にいる状態のまま山本さんを迎えに来ていた。

 ま、和佳のご飯の美味しさは彼女も知っているため、最悪の場合は和佳と仲良くてご飯を食べに来ていたということにしておけばいいだろう。

 僕は彼女を家へと連れて行く。その間、彼女はなにも話さなかった。


「ただいまー」

「お、お邪魔します……」


 緊張しなくていいよと言って笑ってみせる。ただ、彼女は初めてだから無理もないかもしれないね。

 もう朝食は食べて和佳も洗い物を終えゆっくりしている時間だった。


「ん? あれ、この靴……」

「あ! ははは、和佳姉のかなあ、和佳姉しまってなかったんだなぁ」

「嘘つき、誰か女の子を連れ込んでるでしょっ!!」


 ここでネタバラシ、彼女を和佳の部屋まで連れて行く。


「う、嘘っ……ひ、陽菜乃……」

「うん、本当は早朝に出ていくって話だったんだけど、この子がお寝坊さんでね」


 気持ちの良さそうな寝顔で結構だが、早く起きてこの子に言い訳をしてほしいものだ。


「陽菜乃ー!」

「んー……悠うるさい……」

「山本さんが来てるよ」

「ふぁっ!? あ、お、おはよー結月ー」


 彼女は飛び起きて山本さんの前で正座をした。

 そんな反応を見せたらやましいことをしていましたと言っているようなものだぞ……。


「と、ところで、結月は悠になにか用があったの?」

「悠……か」

「あ……み、水谷君に用があったの?」


 下手くそやろうっ。

 ただ、本当になにをしに来たのだろうか。


「私、水谷くんに興味を持ったの。でも、すぐに信用できないって言うから、こうして休日にも顔をだして少しでもって思ってたんだけど、……陽菜乃こそどうしているの?」

「私は昨日誘われたからだけど、あ!」

「ふぅん、じゃあ電話しているときに無理だって言ったのは、陽菜乃が来ていたからだったんだ水谷くん」


 そのとおりだし否定はできないから「そうなんだよ」と答えておいた。


「騙してきた女の子でも可愛ければいいんだ?」

「それが全てじゃないけど、まあ間違ってはいないね」


 可愛くなければ許しはしない。優しい人間なんかじゃないんだ僕は。


「言っておくけど、プレゼント返せって言われたって返さないからね?」

「当たり前だよ、あれはもう君にあげた物なんだからね」

「……陽菜乃ばっかりずるい」

「なんで?」

「だって可愛いアクセサリーをプレゼントされてたかもしれないんでしょ?」

「結局僕は陽菜乃にはあげてないからね、ずるいって言い方は妥当ではないかな」


 なんか贈り物を用意したかった。

 Mなのは多分僕、彼女のおしっこだって自分で拭こうと――拭いたくらいだからね。


「ねえ水谷くん、名前で呼んでよ」

「あ、ここではっきり言っておくけど、そういう目では見られないからね? もし僕が特別な意味で好きになるならそれは多分陽菜乃だから」

「それでもいいからさ、名前で呼んでほしい。あと、私も呼ばせてほしいんだ」

「いいならいいけど。えと、結月さん」

「呼び捨てで」

「結月、よろしくね」

「うん、よろしく悠くん」


 それにしても僕はどれだけ陽菜乃のことを気に入っているのだろうか。

 あと結月もよく分からないことを言ってきた。べつにそういうつもりじゃない、ただ近くにいたいと、そう思うものだろうか。


「陽菜乃、君のことヒナって呼んでいい?」

「…………」

「え、黙ってどうしたの?」

「ち、近づかないでっ!」

「えぇ……ごめん……」


 余計なことを言ったせいで嫌われてしまったようだ。

 でもあれだろ、結月にきちんと言っておかなければならなかったんだ。

 僕にそのつもりはないよと、そう言っておかないと思わせぶりな感じになってしまうから。

 弄ぶということはしたくない。こういう意思を示しておけば一応最悪なことにはならない気がする。

 

「結月、悪いけどヒナのこと頼むよ、僕は1階へ行ってるから」

「分かった」


 ありがとうと言って一階へ。

 リビングのソファに和佳が寝転んでいて、僕はその前に座った。


「悠君、急な告白は良くないと思うよ?」

「え、あれ告白かなあ……」

「『特別な意味で好きになるならそれは多分陽菜乃だから』って告白以外のなにものでもないよ」

「いや、勘違いさせるようなことを結月にしたくなかったんだよ。勿論、ヒナが僕のことを好きになってくれるかどうかは分からないけど、もし好きになるとしたら僕はヒナを好きになるよって言っただけで」

「いやぁ、それにしたって陽菜乃ちゃんは失恋中なわけだし、性急すぎるのは良くないよ」


 失恋中というか彼女が浅野君を振っただけだが……。

 でもそういうことなのかな、ちょっと近づいただけであそこまで拒絶してくるということは。

 距離感が難しい。……少しくらいは「悠……」と照れてくれてもいい気がする。


「悠くーん! 陽菜乃連れてってー!」

「えー? いやー僕が言っても言うこと聞いてくれないよー」

「いいから早くー!」


 仕方ないので二階へ行くと、彼女が和佳の部屋の前で寝転んでいた。


「ヒナ、大丈夫?」

「さっきからなにも言わないんだよ、これは悠くんのせいだからね」

「え……。ヒナー?」

「……結月一階行ってて」

「はいはい。悠くん、よろしくね」

「よ、よろしくって……ああもう」


 目の前で僕を拒絶するところを見ておきながらよく撤退なんてできるものだ。


「どうしたの?」

「……うん、特にないけど、なんかおかしくて」

「おかしい? もしかして風邪引いちゃった?」

「ううん、それは大丈夫。悠が……変なこと言うからだよ」

「いやあのさ、浅野君から告白されて付き合ってた子がそんなこと言うの? 自分で言うのも微妙だけど、僕みたいな平凡な存在から言われても響かないと思ったけどね」


 羞恥や困惑するポイントが常人とは違っており、最善な選択肢選びというのが難しい。

 手を掴ませて立ち上がらせ「もやっとしたなら作戦どおりっ」と笑ってみせた。


「失恋中の女の子口説くとか最悪じゃん」

「はは、別に僕は失恋中ではないからね。欲しいものを手に入れるために積極的にいかないといけないし」

「……欲しいの?」

「いや、今はまだ君を特別な意味で欲しているわけじゃないけど。僕ってほら、単純だからさ、割とすぐに変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。それだとしても、一生懸命になるのは大切でしょ?」

「悠……あんまり教室とかで言わないでね」

「言わないよ」


 そんな痛い人間にはなりたくないし、皆のまで言うような勇気は僕には存在していない。

 気持ちにきっちりと気づいて「僕はこの子が好きなんだ」となった場合は、本気でいかせてもらうが。


「でもあれだよ、もし浅野君と戻りたいとなったときは応援するからね」


 ……浅野君もしくはヒナが戻りたいとなったときは、素直に応援しようと考えていた。

 だって格好良いは可愛いに相応しい。

 おまけに振ったのは彼女だと言うし、もしかしたら浅野君の中にはまだ残っているかもしれない。

 そうなったときは協力するだけだ。


「なにそれ、私のことを本気で求めてるわけじゃないんだ」

「いや、周りから見ればふたりが一緒にいる方が相応しいからね。それに、君にも浅野君にも幸せになってもらいたいし」


 自分が不幸になってもいいから和佳が幸せになるようにと願った。

 だから丁度いい関係になれた頃に、なにかがあるんじゃないかと不安になっている。

 前例があるから恐れるのは仕方ない。そもそも僕が彼女を好きになるか分からない。

 それでも目の前でああ言ってのけたんだ。矛盾しているが、一生懸命にはなるつもりだった。




 月曜日。

 僕は帰ろうとした浅野君を呼び止めた。

 相変わらず微妙な表情を浮かべていたが、「分かった」と言って留まってくれた。

 教室で話すような内容ではないので少し移動し、結月といつも会話していた場所まで連れて行く。


「浅野君、ヒナ――陽菜乃のことについてなんだけど」

「おう」

「中学三年生の夏からほとんど一緒にいなかったって本当かな? 喧嘩をして、その原因は君が他の女の子とばかりいたからって聞いたけど」

「ああ、その通りだ、陽菜乃から聞いたんだろうけどそれは正しい」


 どうやら嘘ではないようだ。

 無理やり言わせられているというわけでもなさそうだし……。


「中学三年生の夏休み、俺は塾で出会った他の女の子と仲良くしてたんだ。どうやって知られたのかは分からないけど陽菜乃にバレて言い合いになったんだよ。別にさ、そういうつもりで一緒にいたわけじゃないって何回も言ったんだけど、あいつは「おかしい」としか言わなくてな。まさかその喧嘩が中学卒業まで続くとは思わなかった。恋人なのかどうかも曖昧で、高校に入ってからも言いにくくて、それであの日がやってきた」


 あの日ってどっちだろう。

 僕を騙していたとネタバラシをした日? それとも、彼女から振られた日だろうか?

 どちらにしても“楽しくない”ことであるのは僕でも分かるが。


「……決して悠を騙すために「一生懸命になれよ」と言ったわけじゃないんだ。自分じゃあもうどうしようもないから、陽菜乃のやつをお前に、他の人間に取ってもらいたかったんだよ。そうすれば自然消滅して振られることもなくなるって、……思ってたんだけどなあ」

「振られた、そうだよね?」

「おう。プレゼントをあげようとしたときに振らなくてもいいのになっ、せめてもう少し早く言ってくれれば、それこそ悠が帰った後にでも言ってくれれば良かったのに……」


 そうだよ、せめてそんなタイミングじゃなくてもいい気がする。

 残酷だ。曖昧な関係にもやもやとして、それでも友達だから、彼女だからとプレゼントを渡したときに振るなんてね。


「ねえ浅野、匠馬君」

「どうした?」

「君の中にまだ彼女への気持ちがあって、やり直したいということなら協力するよ?」

「……そりゃあるよ、あるけどさ! あれだけのことをされても悠はまた一緒にいようとしているだろ? それって悠の中に好きって気持ちがあるんじゃねえのかよ! いいんだよ他人のことなんてっ、お前があいつといたいならいればいいだろ! なにもできなくて時間だけを無駄にして、振られてやっと自由になれた俺に余計なことするなよ! いいんだ、もう終わったことなんだから……」

「違うだろそれこそ、気持ちがあるなら僕のことなんて気にせず一生懸命になれよ!」


 なんで勝手に格好良いが諦めるんだよ。どうしてそこまで聞き分けがいいんだよ。

 僕にはない良さを持っていて、なんでもっと積極的になれないんだ。


「ふぅ。悠、お前は自分のことに集中しろ。決して俺のようにはなるなよ」

「……ねえ匠馬君、匠馬君から告白したの?」

「まあ、あいつは学年で一番可愛かったし、優しいことも知ってたからな。あとは笑顔が魅力的とか、女の子にしては身長が高いのに意外と子どもっぽいところもあるとか、そういうのが気に入って春に告白したんだよ」

「ということは全然いられてないってことじゃないか」

「そうだな。いや、自分が原因だとしても、あまり受け入れられる現実じゃないな」


 曖昧な関係に悩む羽目になるくらいなら、その夏にきっぱりと振られた方がマシだな。

 彼や彼女じゃないから気持ちなんて分からないが、どっちも不器用と言うか変なところで頑固と言うか。


「ちなみにさ、キスとかしたの?」

「いや、手を繋いだり抱きしめたくらいだな。悠こそどうなんだ?」

「手を繋いだまでかな」

「キスしてなかったんだな」

「当たり前でしょ、あの子意外とガードが固いし。なによりまだ僕が好きじゃないからね」


 以前と違って照れてくれるようになったのは進歩だろうか。


「面倒くさいから匠馬って呼ぶよ。あ! 君のお兄さんに和佳姉泣かされたんだから」

「え? ま、マジ?」

「いや嘘だけど。告白したときには彼女がいたってだけだよ」

「最近できたんだよ。それにしても和佳さんか……胸でかいよな」

「最低! だから振られるんだよ」


 女の子はそういう視線に敏感だって言うし、そういうところに愛想尽かしたのではないだろうか。


「冗談だ! ……悠、頼んだぜあいつのこと」

「……勝手に頼んでんじゃねーよ。しかも匠馬のみたいじゃんか」

「ははは! 一応、少し前までは俺の彼女だったからなー」


 上手くいかないときに何回もこうしてチクチク刺してきそうだと苦笑した。

 もう帰るということなので匠馬と別れて壁に背を預けて座ると、問題児がやって来る。


「……話長いよ」

「全部本当だったんだね。それにしても勿体ねえよなぁ~なんで簡単に諦めるのかねぇ~」

「匠馬の中にまだ気持ち残ってたんだね。私はてっきりもう他の子へと興味を抱いているかと思った」

「どうするの? 君にその気があれば協力するよ?」


 これから好きになるであろう彼女に、僕は本当の意味でしたいことを貫いてほしいと考えていた。

 相手が屑野郎とかそういう人じゃなければ諦めることは簡単にできる。


「……振り回しちゃったし、だからもういいよ」

「そっか、勿体ねえな~」

「その喋り方似合わないからやめたほうがいいよ」

「だろうね、帰ろうか」

「うん、帰ろ」


 これで一旦のゴタゴタは終了した。

 となれば、あとは近くなった期末テストを頑張って乗り越えるだけだろう。

会話文多い。

地の文かけない。

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