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01.『彼女』

読むのは自己責任でおなしゃす。物語はない……。好きになるだけ。


ここで帰る方がいいかも。


ここを超えるなら1ポイントほしい。

 現在の場所は校外学習えんそくで訪れた遊園地の入り口すぐ。

 僕、水谷悠みずたにゆうはもう三十回目くらいの溜め息を吐いた。

 幸いだったのはあと五分経過すればバスに乗って帰るだけで今日が終わることだろう。

 時間がやって来てそそくさとバスに乗り込む。

 席順や場所は自由なのでさっさと乗った方がいい。

 それにしても、高校に入学して初めての校外学習だというのに、ひとりで過ごすことになるなんて正直ついていない。

 まあ簡単に言えば昨日風邪で休んでしまったのが運の尽きだった。

 グループ決めがあったのに参加できなかったため、朝から誰と行くのかもすら分からず十五時現在まで時間をひとりで潰すことになってしまった。

 だからあの溜め息を数となる。

 それでもせめて……誰か教えてくれてもいいのにね。


「おい、そこ俺の席なんだけど」

「あ、ごめん……」


 でもどうやら続々と帰ってきてしまっているため、空いてるのは……女の子の隣……。


「あの……ここいいですか?」


 うっ、明らかに嫌なんですけどという視線を向けられてしまう。

 通路に立っていたら邪魔だし「すみませんっ」と言って勝手に座らせてもらった。

 というか、自分の席とか決まってないのに陽キャめぇ……。


「……あなた水谷君でしょ?」

「は、はい」

「はぁ、あなたのせいで結月が不機嫌になって、乗りたかったアトラクション乗れなかったんだけど。どうしてくれるの、来年はここに来れないんだけど」


 ゆづきって誰だよ……というかあなたが誰だよぉっ。


「すみません」


 ということはこの子とそのゆづきさんが一緒のメンバーだったということか。


「入り口にいたわけですし、話しかけてくれれば僕だって普通に……」

「は? 言い訳するの?」

「すみませんでした」


 謝っても不機嫌そうに背中くらいまで伸ばした髪の毛を掴んで弄っていた。

 気まずい、あの陽キャさえいなければまだマシな状態で一日を終えられたというのに、踏んだり蹴ったり、死体蹴りだ。

 とにかく端に体を傾けて残りの残酷な時間を乗り越えた。

 バスから降りれば解散だ、だからすぐに降りて自転車に乗り帰ろうとした。


「なに逃げようとしてるの?」


 鍵を差し込んで右に回せば自転車に乗って帰れる、というところで掴まれて叶わず。


「逃げるっていいますか……皆さん帰ってますよね?」


 ……せめて平和なまま今日を終えたかったというのに。

 その子はまた髪の毛を弄ってこちらを睨みつけてきている。


「すみませんでしたっ」


 頭を下げて謝罪。

 勿論、もう良くない? という感情が強いけれども。


陽菜乃ひなの一緒に行こうぜー」

「……ちょっと先にサ○ゼ行ってて、私、この人に用があるから」


 良かった、別の男子がここに加わったら収拾つかなくなるから。


「あなたがやらかしたことは重いんだよ、責任取ってくれる?」

「……言ってみてください」

「そうだね、これから私の荷物持ちかな」

「に、荷物持ちですか?」


 土下座とかじゃないのかと少し安堵した。

 いや、それで絡まれなくなるならいくらでもできるけど。


「そう」

「えっと……いつから?」

「この後、サ○ゼに行くんだけど、十九時ぐらいまでゆっくりするから、それからかな」


 まだ十七時過ぎた頃なんだけどなあ。

 それでも変に絡まれるくらいならと、


「わ、分かりました、じゃあお店の外で待っていますね」


 妥協案をだしておく。

 残念ながらお金はないしひとりで楽しむような余裕はなかった。


「うん」

「あっ」


 歩いていこうとする彼女を呼び止める。

 名前も知らないことを思いだしたからだ。


「なに?」

「あの、名前すら知らないんですけど」

井口陽菜乃いぐちひなの


 僕は彼女が行ったのを確認してからロックを外して、自転車を手で押しながらあとを追った。




「もう二十時過ぎてるんだけど……」


 母や姉から沢山メッセージ送られてきてるし、そろそろ帰らなきゃいけないのに……。

 しかし、どうやら出てきてくれたようで僕は井口さんに近づく。


「おい、あいつ誰だ?」

「知らなーい」

「そういえば陽菜乃さっき話してたよな、誰なんだ?」

「知らない人、だよ」


 メンバーは男子ひとりと女の子ふたりみたいだが。 

 正直、このパターンは予想していなかった。

 約束より一時間も超過した上に、「知らない人」って酷いんじゃないだろうか。

 責める気にはなれなかったから引き返して自転車に乗る。

 大丈夫、向こう側だけではなく少し遠回りになるが出口はあるから。

 それにどうせ二度と関わることのない人種というかキャラ種? だろうからね。

 二十分くらい自転車を漕いで家へと帰って。


「ただいま~」


 リビングに入ってソファに座る。


「はぁ……」

「大きな溜め息じゃんっ、今日は校外学習だったのにどうしたのさ?」

和佳わか姉か……朝から置いてけぼりな上に今さっきね……」


 和佳が悪いわけじゃないのに髪の長さ的に井口さんを思いだして少し複雑な気分になる。

 見てくれだけはいいのが救いなのか残酷なのか、分からないな。


「あちゃあ……お友達ゼロ人だったもんね!」

「た、楽しそうに言わないでよ……」


 ほぼ四月終わり頃まで友達ゼロとか悲しすぎる。

 そしてなによりグループさえ教えられず、なんかアトラクションに乗れなかったとかって理由で怒られて荷物持ち係に任命、一時間超えても律儀に待っていたら「知らない人」と……笑えない。


「お姉ちゃんが誘ってあげれば良かったかな~」

「それは無理だよ、和佳姉って人気だし他学年の人と一緒になんて緊張するよ」


 綺麗系よりも可愛い系。髪色は明るい茶色。手足が白く細く、かといって身長が高いというわけではないのが逆に気に入られる要素となっている。まあ一番は……その胸の大きさだろうけども。

 適度の域を超えており彼女が動く度に上下に揺れる。本人が全然気にしないタイプなので無防備すぎて仕方がない。……一緒にいても落ち着かないのが常と言えた。


「他学年と言っても悠君が一年生で私が二年生だよ? 全然変わらないじゃんっ」

「それはあくまで和佳姉視点だからだよ……お風呂行ってくる」


 明日は休みだしご飯はいいや。

 洗面所で全部脱いで浴室に入る前に鏡を見た。


「普通……かなあ」


 体もガリガリすぎてはないが大して筋肉があるわけでもない。

 どうでもいいか、見たところで変わることではないし。

 浴室に入って湯をかぶる。適当に洗って湯船に浸かった。


「あぁ……」


 友達はいないし井口さんに絡まれるし放置プレイだし、学校に行きたくない感は凄いな。

 長風呂派ではないのですぐに出てリビングに戻ると、ソファに和佳が寝転んでいた。

 近くにあった毛布を掛けてあげて部屋に戻る。

 なんの変哲もないただの部屋だ。あるのは本棚、勉強机、ベット、それだけ。

 本棚に置かれているのも大半は漫画だ。ただ、古い漫画ばかりで最新のはない。

 勉強机だって小学生時代からずっと使っているもので、角とか表面はボロボロだった。

 スマホを机の上に置いてベットに寝転ぶ。


「せめて平和にいかせてほしい……」


 あまり傷つくタイプではないので問題にならないと言えべならないけど、友達ゼロならゼロでいいから不用意ならトラブルに巻き込まれず三年間を過ごしたいものだ。


「悠君……」

「和佳姉の部屋は横だよー」

「最悪お友達ができなくても私がいるから! おやすー」

「おやすー」


 内心で溜め息をつく。

 姉に気を使われるって悲しいな。

 特にああして元気で可愛らしい彼女に言われるとマジ度が増す。

 あまり興味は抱けないけど、なるべく頑張ってみるかな。

 



 月曜日。

 昼休みに和佳が作ってくれたお弁当を食べていると井口さんが席にやって来て言った。


「水谷君、購買に付き合って」

「えっと、食べてるんですけど……」

「いいから」


 蓋をして歩いていった井口さんを追う。

 二度と関わらないと思っていたし、昼休みまで来なかったら楽観視してしまっていた。

 購買へ誘ったくせに彼女は普通にパンを買って戻ってくる。


「持って」

「いや、君が食べるのなんだから触ってほしくないでしょ?」

「手、洗ってないの?」

「いや?」

「なら持って、約束でしょ?」


 だったらとなるべく端っこを持って教室へと帰還。


「陽菜乃ーあ、またそいつと関わっているのか?」

「荷物持ちだからね」

「ふーん、よく分からないな陽菜乃は」


 彼女は僕から引ったくるようにパンを取って席へと戻っていった。

 イラつきはしないが、少しくらいは感謝を伝えた方がいいと思う。

 彼女の評判を下げるだけだこれでは。

 とにかく和佳が作ってくれたお弁当を食べる、これに尽きるだろう。

 そうすれば大抵のことは我慢できるから。

 美味しい。

 毎朝頑張って作ってくれていることを知っているし、いつかは返したいと考えている。

 和佳はなにが喜ぶだろうか。

 幸い、それを考えているだけ、ご飯を食べているだけで昼休みはあっという間に終わりを迎えた。

ちょろいんにはしないぞ!

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