表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

第六話




 二人の出会いは、海貴也が入社してすぐだった。亨の部下となり、彼から仕事の進め方やポイントなどを教えられていたが、口調の所為で最初は取っ付き難そうな印象だった。

 そのうち休憩時間が一緒になったり、元気がなさそうにしていると仕事終わりに度々食事に誘ってくれて、仕事の悩みを聞いてくれたりした。

 そうして互いの距離が徐々に近付き始めた頃、亨から告白された。入社して半年後のことだった。

 海貴也はすぐに応えることはできなかったが、亨も焦ることなく少しずつ海貴也との距離を縮めていった。

 春になる頃に、初めて唇を重ねた。そのキスは、煙草とコーヒーが混ざった味だった。

 それから、告白されて半年が経った頃。海貴也はちゃんと亨の想いに応えてはいなかったが、その頃には身体を許していた。何も言わない海貴也に、亨は問い詰めることはなかった。海貴也の胸奥を、少なからずわかっていたのだろう。

 その後も、海貴也は気持ちを言葉にできないまま、はっきり恋人同士とも言えないような関係が続いた。

 そして、去年の十ニ月。亨の妻が妊娠したのを理由に、二人は別れた。

 亨が既婚者だったこと。亨の妻に子供ができたこと。何より、自分は亨の不倫相手だったことにショックを受け、海貴也は立ち直れなくなった。

 もう彼と同じ場所にはいられないと、会社を辞めた。元々苦手だったコーヒーにも、見向きもしなくなった。

 もう二度と会うことはない。そう思っていたのに。一度心を惹き付けられた相手が、再び目の前に現れた。

 どうかこれが幻であってほしいと、願わずにはいられなかった。






 亨とのメッセージのやり取りは、翌日から早速始まった。目を覚ますとオーソドックスな挨拶が来て、海貴也もオーソドックスな一言で返した。

 一日目はそんな挨拶程度のやり取りだけだったが、日を重ねる毎にメッセージを送り合う回数は少しずつ増えていった。

 ある日は、

 「今度のクライアント、面倒臭そうだ」と送られて来ると、

 「亨さんなら大丈夫ですよ」と励ました。

 またある日は、

 「今日あんまりやる気出ない。サボりたい」と送られて来て、

 「何とかやる気を出して下さい」と背中を押した。

 また別の日は、

 「新入社員が要領悪すぎる」と機嫌が悪そうだったので、

 「まだ働き始めたばかりですから。長い目で見てあげて下さい」と見ず知らずの人のフォローまでした。

 こんな感じで愚痴が多かったりするが、一方的なものばかりではなく、最近の海貴也のことを聞いてくる時もあれば、一日に一枚、風景や物の写真が送られて来る。そのおかげで、亨がカメラが趣味だということを思い出した。

 休日になると時々一緒にドライブに行き、亨は自然や古い建物に一眼レフのカメラを向けていた。人間を被写体にすることはなく、海貴也とツーショットを撮っても、決して自分のカメラやスマホは使わなかった。今思えば、妻に不倫を気付かれたくなかったからだったのだ。

 職場では休憩時間を合わせたり、仕事中にこっそりメールをし合ったりして、何時か誰かにバレはしないかと毎日落ち着かなかった。特に告白メールはほぼ毎日送られて来て、最初の頃は迷惑したのを覚えている。海貴也はその状況に一人でそわそわしていたが、余裕の亨は秘密の恋愛を楽しんでいた気がする。

 想起すれば、良い思い出が多かった。海貴也が想いに応えなかった点と亨の隠し事を除けば、二人は恋人同士だと言えた。


 「また海貴也と話せるようになって嬉しいよ」


 このメッセージには、どう返したらいいのか困ってしまった。

 あの日から、胸中は困惑を維持している。

 連絡先を何度か消そうと思ったが、やっぱりできなかった。

 自ら別れを告げた筈の亨は、再び海貴也に告白した。「好きだ」と言った。しかし、あれは本当に冗談だったのだろうかと疑念がある。

 亨への想いに気付いた訳ではない。あの時の台詞の()()()()()()()()()()()()()()()、判然としていない気がした。

 どうしても、引っ掛からずにはいられないことがあったから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ