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第四十七話




 ジュリウスが店に戻った時には、七時半を過ぎてしまっていた。一階部分の明かりは消え、入り口の照明だけが灯っていた。


〈海貴也サン、帰ってしまったんでしょうカ〉


 所在を確認しようと正面の扉の取っ手に手を掛けると、鍵はまだ開いていた。

 中は真っ暗。月光が微かに入ってきているだけで、物の形ははっきりと捉えられない。ジュリウスはケーキの箱を片腕に抱え、手探りでレジ横の照明スイッチを入れた。

 一ヶ所だけ白熱灯が灯る。その明かりの下に、テーブルに伏せている海貴也を見つけたジュリウスは、ちょっと驚いた。


「びっくりシタ……」


 ドアベルの音にも照明が点いたことにも気付かない。海貴也は寝てしまっているようだ。


「海貴也サン、起きて下サイ。こんな所で寝たラ、風邪を引きマスよ」


 ジュリウスが肩を数回叩くと、もぞりと動いて覚醒の唸り声を出した。顔を上げるとまだ眠たそうで、海貴也は半分しか開いていない目でボーッと何処かを見つめる。


「ただいま戻りマシタ」

「……あっ!ジュリウスさん!?」


 ジュリウスの存在を確認すると、半覚醒だった海貴也の意識は猛烈に覚めた。


「オレ、寝ちゃってたのか!すみません。最近疲れが溜まってて。昨日も帰って来てから色々やってたら、深夜まで掛かってしまって……」


 うたた寝の言い訳をする必要はないのに、海貴也は慌てて弁解する。勿論、ジュリウスも怒ってなどいない。


「それはいいんデスが。お店をお任せシテ、スミマセンデシタ。困ったことはありませんデシタか?」

「何もなかったですよ」

「それなら良かったデス。では、夕飯にしましょうカ。恭雪サンからお詫びにケーキを頂いたノデ、あとでいただきマショウ。試作品みたいデスよ」

「そ、そうなんですか。……ど、どんなのか、気になりますね」


 慌てたと思えば、今度は急にぎこちなくなる海貴也。

 それじゃあ開けて見てみようということになり、ジュリウスはテーブルに箱を置いて、ケーキを引き出した。その全貌が明らかになると、ジュリウスは目を大きくした。


「コレは……」


 白くて丸いケーキには、星と本の形のアイシングクッキーや、カフェの建物に似たメレンゲドールがデコレーションされ、その中央には『Happy birthday ジュリウス』と書かれたチョコレートプレートが乗っている。


「バースデーケーキ?」

「オレと有間さんからの、プレゼントです」


 海貴也はデッキに出ると、テーブルに被せてあった布を取った。

 テーブルには、料理がそれほど得意じゃない海貴也が一生懸命作ったオードブルとワインが用意され、赤いバラと黄色とピンクのガーベラの花束が彩っている。


「ジュリウスさん。お誕生日おめでとうございます」

「………」


 よく見渡してみれば、バースデーガーランドやキラキラした風船が飾り付けられていることにようやく気付いた。

 思いがけないサプライズに、ジュリウスは驚きのあまり声が出ない。


「驚きました?」

「……ハイ。十分に」


 誕生日は教えていたけれど、こんな風に祝ってもらえるなんて思ってもいなかった。普通におめでとうと言ってもらって、お店の余ったケーキで祝うくらいでいいと思っていたのに。


「ジュリウスさんの誕生日を祝いたいと思ったら、サプライズがいいかなって思い付いて。有間さんにも協力してもらいました」

「恭雪サンが?」


 海貴也が恭雪に相談を持ち掛けたのは、二週間前のこと。最初は「何で俺がお前ら二人の為に一肌脱がなきゃならないんだよ」と文句を言われるかと思ったが、意外とあっさり協力を承諾してくれた。

 実は、オーブンを直したいというのは全くの嘘。恭雪からジュリウスを呼び出そうと提案があり、ジュリウスを呼ぶ口実を作ったのだ。本当はアルバイトが夜のシフトに入っていたが、ちゃんと給料は出すから休んでくれと頼み、呼び出しが不自然にならないようにした。海貴也はその間に準備をして、ジュリウスを驚かせようという計画だったのだ。


「有間さんも一緒に祝いましょうよって誘ったんですけど、邪魔になるからって断られました」


 恭雪は、やっと二人への忖度を覚えたみたいだ。混ざりたかった気持ちもあるだろうが、ジュリウスへ贈ろうと考えていたケーキを渡せたからそれで我慢したのだろう。


「アリガトウゴザイマス、海貴也サン。とっても嬉しいデス」

「良かった、喜んでもらえて。プレゼントもちゃんとしたものを用意したかったんですけど、ジュリウスさんがほしいものがわからなくて」


 それだけが悔やまれると、海貴也は頭を掻きながら言った。ジュリウスは笑みを溢しながら、首を横に振った。


「イイエ。十分デス。とっても素敵なサプライズをしてもらいマシタから。……ソレニ、ほしいものはもうもらってイマスよ」

「オレ、何かあげましたっけ?」


 海貴也は視線を天井に向け、プレゼントらしいプレゼントは贈ったことはないよなと考える。唯一心当たりがあるのは、職場近くに新しくオープンしたメロンパン専門店のメロンパンを差し入れたことくらいだ。


「海貴也サン。私の話ヲ、聞いてもらえマスか」


 静穏の中、晩秋の風に乗って浦波の音が届いた。

 ヒーリングミュージックが流れる中で、ジュリウスは温和な面持ちで話し始める。




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