表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第4話

 異世界の住人の夜は早い。


 太陽が沈めばほとんどが寝床にその身を横たえる。起きているのは勤勉な金持ちか、よからぬ事を考えている悪党ぐらいだ。


 どちらかといえば後者に当たる康大達は、夜のとばりが完全に降りた頃、いよいよ出航した。


 船員は当然旧海賊達がそのまま務め、今回は「今までの経験から、残せばそれはそれで面倒だから」という康大の意見が採用され、ザルマも乗船を許可された。都合20人ほどの人間が船に乗り、残りは根城で吉報を待つことになった――。


「そういえば船に乗るのって人生で初めてだな。馬車もそうだったけど」

 穏やかな海に揺られながら、康大はそんなことを思った。

 船上で感じる風は心地よく、あたりは静かで、海面下はモンスターで地獄、先は海賊で地獄とは到底思えなかった。


 船は星の光だけを目印に進む。

 出港してから数分で、もう陸地は完全に見えなくなっていた。

 ここでもし1人とり残されたら、確実に死ぬ。

 穏やかな気持ちになる一方で、康大はその危険性も認識していた。


「海賊達の話だと、あと少し時間がかかるようでござるよ」

 圭阿が不意に話しかけてくる。

 船の上だと手持ちぶさたなのか、彼女にしては珍しく暇そうにしていた。


「ふ、貴様が役に立つとは到底思えんがな!」

 例によってザルマが煽る。ただ、康大が怖いのか、かなり距離が空いての挑発であった。


 もちろん2人とも馬耳東風とばかりに、ザルマを無視する。


「とりあえず()()()()()でござるか?」

「いや、直前でいい。俺が濡らしたり扱いを間違えて()()させたら事だ」

「然らば左様に」

 康大は圭阿から約束していた物――火薬球をこの時はまだ受け取らなかった。

 これが今回の作戦において最も重要な武器だ。なおざりに扱うわけにはいかない。


「……ふむ、やはりはいあさーす殿がおらずに寂しいですか?」

「な――」

 突然振られた恋愛話に、康大は取り乱す。

「……薄情かもしれないけど、今まですっかり忘れてた。色々大変だったし死にそうにもなったし」

「それはまあ……仕方ないでござるか。そもそも男が戦場にあって婚約者のことを思い続けているなど、軟弱もいいところ――」


「なにぃ!?」


 突然ザルマが話に飛びついてくる。

 康大も圭阿もあからさまにしまったという顔をした。


「貴様婚約者がいるのか!?」

「まあいちおう」

「そうでありながら圭阿卿に粉をかけるなど、男の風上にも置けん!」

「粉って……」


 康大は圭阿に迷惑をかけた記憶ならあるが、粉をかけた記憶は一切無い。恋愛対象として、圭阿は外見が幼すぎ、何より胸が平らすぎた。お互い裸でセックスしないと出られない部屋に閉じ込められる、といった超特殊な環境にない限り、絶対に手を出さないと断言できる。


「貴様はそういうことを年がら年中考えているから役にたたんのだ」

「うっ……!」

 圭阿の指摘にザルマは胸を押さえる。


「わ、私も努力はしているのです! ただ圭阿卿があまりに魅力的すぎて……」

「キモい」

「うっ!?」

 圭阿に時代がかった言葉を使わせないほど、ザルマの存在は圭阿にとって嫌悪感しか抱かせなかった。


 たとえ見た目は筋骨隆々の好青年騎士だとしても、その性質がどうしようもなく気持ち悪いのだからしようがない。


「大将! 奴らの船が見えやしたぜ!」

 知らぬ間に大将に祭り上げられたた康大に、見張り役の海賊は言った。

 ちなみに本当の大将は既に尻尾を丸めて港町から去り、山賊へと就職活動中だった。


「って、野郎共いきなり近づいて来やがった!」

「どうやら向こうの見張りの方が優秀みたいっスね」

 ダイランドも話に加わる。


「それでは康大殿、いえ、今はあえて※御大(おんたい)と呼ばせていただきます。ご指示を!」

「うう、出来れば下っ端でいたいんだけど……ごほん」

 康大はわざとらしく咳払いをし、船員全員の注目を集める。


「俺達は今から作戦通りあの海賊達を打倒する! 俺達の海は俺達の手で取り戻そう!」

『おおっ!!!!!』


 我ながら臭い台詞だと思ってはいたが、それに全員が応えた。

 こういう手合いには、これぐらいで丁度良いらしい。


「それでは各自作戦位置について! 圭阿!」

「御意!」

 圭阿は康大に火薬球を渡す。

「特殊な加工をした火薬を用いているので、水に濡れても湿気ることはありませぬ。またこの紐を抜くと中で変化が起こり、数秒後に爆発します。取り付けはこの部分と……」

 以前受けた説明を念のためまた受ける。

 康大は圭阿の話を聞きながら、再び「心底やるんじゃなかった」と後悔し始めた。


 しかし相手の海賊は待ってはくれない。

 両者の距離がどんどん縮まってくる。


「大将! そろそろ下がりやすぜ!」

「分かった。それじゃあ皆頼んだぞ!」

 そう言って康大は袋に火薬球をしまい、漆黒の海へとその身を躍らせる。


 康大が考えた策――。


 それは唯一モンスター等の脅威にさらされない康大が、海から爆弾で新参海賊の船を攻撃するというものだった。

 どんな海賊も海中からの攻撃には無防備だ。まさか海から攻撃できる人間がいるとは思わない。さらにこの世界には高度な火薬がないので、機雷という考えも存在しない。

 そこで康大自身が圭阿の火薬球を使い、機雷の代わりを務めるというのが作戦の大綱である。


「やっぱり結構寒い!」


 康大は海に入った瞬間心臓が止まるかと思った。もっとも止まったところでどうということもないが。


 康大は海の中で近づいてくる海賊船の方を見る。

 星明かりしか頼りの無いセカイだが、それでも目が慣れてきたのか、康大にも多少は夜目が利くようになっていた。


 作戦その1として、まず康大がこうして海に落ちる。

 その後、康大を乗せていた海賊船は逃げ、康大のいる位置まで新参の海賊船を誘導する。

 そして上手い具合に康大は海賊船に取りつき、爆弾を爆発させる。


(やっぱりとんでもない作戦だよ我ながら!)


 康大はあの時何故これが最善の策だと思ったのか、自分でも理解できなかった。


 そんな康大の気持ちなど無視するかのように、海賊船が作る波が徐々に大きくなってくる。

 もうそろそろかと康大が思った頃、


「あぶねえ!」


 康大の予想以上に海賊船は近づき、そのまま康大をひき殺しそうなスピードで突っ込んできた。


 横ではなく海に潜ることで、康大はなんとかそれをやり過ごす。

 だがその勢いはすさまじく、背中に背負っていた火薬球を海に落としてしまった。


「ああもうこうなる気がしてたんだよ俺は!」


 この海がどれほどの深さかは分からないが、夜の海は暗く、とても拾いに行けるようには思えない。

 そうこうしている間に、予想以上に先の位置で海賊船は碇を下ろし、いよいよ海戦が始まった。


 おそらく今回も新参海賊は旧海賊人に魔術師がいないと踏んでいたのだろう。両者の距離は、前回の海戦よりもさらに近かった。


 だが今回は圭阿がいる。


「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」


 圭阿は力の限り身体を振り回し、遠心力を使って爆裂苦無を投げる。

 苦無は直撃とはいかなかったが、船首に当たり、初めて旧海賊陣からダメージを与えられた。


 わき上がる船上。


 だがその直後、報復とばかりに新参海賊の海賊船から、魔術師がマンホール大の巨大な火球を放つ。


 重力の影響受けないスピリチュアルな火球は、一直線に船に向かってくる。

 幸いにも狙いは適当で、こちらは船に当たることはなかったが、次はどうなるか分からない。船の規模は新参陣営の方が遙かに大きく、それに比例して防御力も圧倒的に上なのだ。


 命をかけているのは何も康大だけではなかった。


「ええい、もうやるしかねえか!」

 海からその様子を見ていた康大は、平泳ぎではなくそれなりのクロールで新参海賊船に向かう。

 こうなったら火薬の爆発ではなく、爆発的なゾンビの力に頼るしかない。


「はぁ……はぁ……やって、やるぞ……」


 予定していた倍以上の労力で、なんとか海賊船の船底に取り憑く康大。

 間近で見る海賊船は自分達の船の倍近くもあり、とてもちっぽけな自分一人でどうにかなるとは思えない。腕力だけで沈没させるなど到底不可能だ。


 周囲を優雅に泳ぐ凶暴なヒト喰い鮫や、多分人喰いモンスターが羨ましい。

 ただ泳いでいるだけなら協力してくれてもいいのにと、詮無きことを思ってしまう。


(いや、でもそういう状況に放り込めば……)


 康大に再びあるアイディアが閃く。


(やるかこんちくしょう!)


 康大は即決した。

 今回はそれが上手くいくかどうか、試す余裕などない。 


 康大は本来爆弾を爆発させるはずだった場所に泳いで近づく。

 そこは言うなれば船の破壊点だ。作戦前に、ダイランドや海賊達から簡単な船の構造のレクチャーは受け、ただ爆発させれば、船は沈没するものでない事は聞いていた。その爆発力を最大限に発揮させるには、科学が必要だ。それがこのセカイの人間にとっては経験則だった。


(ここらへんで爆発させればいいわけだよな……)


 海賊曰く、たいていの船はそのあたりが最も装甲が薄いのだという。

 しかしそれはあくまで火薬の力を使った場合の話。

 今の康大には人力ならぬゾンビ力しか無い。


(でもやるしかねえんだよな!)

 康大は全力で※喫水線ギリギリの場所を、思い切り腕を振り上げて殴りつける。


(素直に痛え!)


 しかし、康大のゾンビ力をもってしてもそう易々と穴は開かなかった。

 ただ船も無傷とは言えず、船体にかなり重大な傷がつく。


 康大はそこに肉球をツッコミ、強引にこじ開けようとした。


(ファイトー!)

(いっぱーつ!)


 心の中でかけ声を上げ、心の中で合いの手を入れながら、渾身の力で船体に出来た傷を広げていく。


 船はメチメチと音を立てるものの、すぐには破壊できない。盗賊の分際でよほど良い素材を使った船らしい。


 このあと絶対拿捕してやると自分を奮い立たせながら、さらに力を入れる。

 その時メチィ! とすさまじい音が聞こえた。


 康大自身の身体の中から。


(あ、これ何か大事なアレが致命的にヤバいことになった音だわ)


 命の危険を感じた康大は力を抜く。

 幸いにも、康大のゾンビ力に耐えきれず、船体には大人1人がなんとか通れるぐらいの穴が開いた。

 だが喫水線ギリギリの穴だったため、沈没させられるほどの水は入らない。


 そこで康大はそこから船内に入り込む。

 康大が入ったのは※バラスト部で、重りになる石や荷物がそこかしこに置かれていた。もし康大に一騎当千の力があれば、ここから上に登り海賊達をばったばったとなぎ倒しただろう。


 もちろん現実は違う。

 異世界でも出来ないものはできない。


 康大は上に向かうのではなく、そのまま下に残った。

 海での不安定な体勢だと、あの程度の穴しか開けられないが、船内からなら康大もより強い力を発揮できる。そもそも古今東西軍船は内部からの破壊を想定して作られてはいない。


(たださっきすごい音が聞こえたのが気になるんだよな……)


 康大は少し弱気になった。

 しかし今現在戦っている仲間達を思い、勇気を奮い立たせる。

 あまり時間をかけると、海賊が下に降りてくる。少しの遅れが命取りだ。


(いくぞ!)


 覚悟は決まった。

 康大は渾身の力で剛健な竜骨部分から外れた船底を叩き、


「うわっ!?」


 先ほどと違いたったの一撃で船底に穴を開けた。


 そこからすごい勢いで海水が入ってくる。

 しかしここがバラスト部である以上、海水が入っても致命的な故障にはならない。底に穴が開いた場合の備えも、しっかりしているはずだ。


 だがそれはあくまで沈没に関する話。

 海水と共に入ってくる来る凶悪な鮫やモンスターまでは、対処しきれるものではない。


 康大の狙い通り、そこそこ大きく空いた船底から、次々と禍々しい生物たちが侵入してくる。康大はその呼び水になるよう、最初に入ってきた鮫の腸を一撃で貫き、当たりに血をまき散らした。


(心なしか以前よりさらに腕力が強くなっている気がするが、あえて気にしないようにしよう!)


 康大はすがるような目で見る鮫と現実から目を逸らした。


 やがてすさまじい勢いで船内に怪物達が侵入してくる。

 さらに入ってきた水馬のたてがみに、どういう経緯か康大が落とした鞄が引っかかっていた。


「本当今更感もあるが……」

 康大はありがたくその鞄を受け取り、半分以上海水で浸された室内で中身を開ける。


 さすがにここまで来ると海賊達も異変に気付き、下に降りてきた。

 しかし、既に室内は凶暴な生き物達によって支配されているため、修理することも叶わない。

 もし海賊に康大を識別できたなら、復讐とばかりに攻撃しただろうが、彼らにとっては康大もモンスターの中の一体に過ぎなかった。


「良い夢見ろよ、あばよ!」


 康大はそんな海賊達を尻目に、自分が開けた穴から脱出すると同時に、点火した火薬球をバラスト部に投げ入れる。

 

 船から出た康大は、ことの様子を見守るため、少し離れた場所で様子を見守る。

 数秒後、海賊船からすさまじい爆発音がし、上部から慌てふためく海賊達の声が聞こえてきた。


 康大の計画は完膚なきまでに成功した。


 後は圭阿達が無事でいることを祈るのみである。

 ――そう思っていると、不意に碇が持ち上がり初め、船が動き出す。

 康大は瞬時に状況を察し、その場に取り残されないよう、碇に繋がった鎖ににしがみついた。


 それになんとか間に合い、船と共に夜の海を移動する。


 新参海賊船が向かっているのは、旧海賊戦船の方だった。


 もう上にいる魔術師も魔法を放ってはいない。

 どうやらこの船を諦め、向こうの船に乗り換えるつもりらしい。

 甲板の海賊達はそのための縄を準備している。


 もし両者の戦力に人数通りの差があれば、それは確かに有効な戦略だった。

 だが、両者合わせて100人にも満たない戦いでは、個人の戦力が何よりも物を言う。


 そして旧海賊陣営には、その戦力を決めるほどの存在が2人もいた。


「奴ら白兵戦に持ち込むつもりみたいですぜ!」

 旧海賊陣の見張りが叫ぶ。


「さすが御大でござる、見事に仕事を成し遂げられましたな」

「あの人と師匠だけは、つくづく敵に回しちゃいけないっスね……。まあ後はザコばっかなんで気楽にやるっスよ」

「そうでござるな」


 2人がそう言っている間に、両者の距離はほぼ数メートルまで近づき、※ブルワークに新参側の海賊が一瞬姿を見せる。


 そのさらに一瞬後、彼は眉間に苦無を投げられ、海の藻屑と化した。


「拙者待つのは苦手なので先に行くでござる」

「そいじゃあ俺もそうするっス」

 圭阿は先に分銅のようなものが付いた縄をブルワークに引っかけ、自ら新参側の海賊船に乗り込む。新参海賊船と旧海賊船では船縁の高さに1メートル以上差があり、そのままでは乗り込むことが出来ない。


 ダイランドも圭阿に倣い、縄を絡ませ、そこから上った。


「な、なんだこいつ!?」

「問答無用!」

 圭阿は近くにいた海賊の1人の喉を、逆手に持った苦無でかききる。

 奇襲に呆然と立ち止まっている魔術らしき海賊の喉には、投げ苦無を。

 的確に脅威度が高い敵から潰していく。

 海の上とは言え、松明を持って狭い場所に突っ立っている海賊など、圭阿にとって的でしかなかった。


 やがてダイランドも甲板に姿を見せる。

 圭阿と違い、彼の容姿は海賊達にとっても有名だったのか、


「み、皆殺しの暴君(タイラント)だぁあ!!!!」


 すぐに1人の海賊が絶叫した。


 それから甲板で始まったのは、まさに一方的な虐殺だ。

 新参側の海賊の中にもそこそこの腕を持つものもいたが、他の海賊と違ったのは死ぬまでにかかった時間ぐらい。集団の利点も有効に使えない狭い甲板ということも重なり、ほとんどの局面で一対一を強いられた海賊達の死体が、次々と出来上がっていく。


 圭阿を小柄な少女と侮っていた者は1人の例外も無くその苦無で切り裂かれ、ダイランドを恐れたものもその手斧で頭をたたき割られる。


 やがて死体の臭いを嗅ぎつけ凶暴な生き物も集まり、旧側の海賊達はむしろこちらの防戦に手を焼いていた。


 その様子を掴まった碇から見ていた康大は、手を貸そうかどうか悩む。

 圭阿とダイランドはいいとしても、海賊達の方は明らかに助けが必要だ。

 だが、今のところ仮面をかぶっていないので、モンスターと間違えられ逆に攻撃される恐れがあった。

 

「おー、御大、そこにおられましたか。すぐ引っ張るでござる」

 

 そんな康大を圭阿が見つける。


「頼む」


 地力で登れないこともなかったが、せっかくなので任せることにした。

 康大は圭阿の投げた綱に掴まり、甲板に上がる。


「うわっ!?」

「気をつけるでござるよ」

 甲板は殺した海賊達の血で溢れ、つるつると滑った。

 こんな中で平気で戦っている2人の気がしれない。


「念のため持って来でござる」

「あ、サンキュー」

 圭阿から鉄仮面を受け取り、かぶる。

 これで気兼ねなく加勢できそうだ。


「コウタさんじゃないっすか。とりあえず、あらかた殺しましたけど、何人がボートで逃げたみたいっス。追いますか?」

「うーん、別にそこまでする必要ないんじゃないかな……」

 康大は甲板から去って行く数隻の小さなボートを見ながら言った。

 まだ敵には1艘船が残っており、戦力減らすためなら必要な行為であった。けれど、康大はそこまで執拗にはなれなかった。


 しかし、結果は同じだった。


「おおっ!?」


「うわぁ!?」


「ぎゃああああ!!」


 ボートに乗っていた海賊達の悲鳴が聞こえる。

 彼らは血の臭いを嗅ぎつけてきた、現実世界では存在しない巨大な水性モンスターに襲われ、ボートごと食われてしまったのだ。

 彼らの痛みに喘ぐ絶叫が、静かな海に木霊する。皮肉にも逃げた人間の方が苦しんで死ぬ羽目になった。


 こうして新参海賊との戦いは、旧海賊の圧倒的な勝利で幕を閉じた。


 とはいえ、全てが終わったわけでもない。


「おらおまえら、こっちに来い!」

 凶暴な水生生物相手に苦戦している旧海賊達に向かって、ダイランドが叫ぶ。


「これからこの船牽引していくぞ! もらえるものは全部もらえ!」


『お、おお!』


 ダイランドの言葉に海賊達は歓声を上げた。

 ただやはり威勢だけではどうにもならず、苦戦は続いたままだった。

 せめて船の中央、一番安全なところで蹲っているザルマが、見た目通りの活躍をしてくれたのなら良かったのだが。


「仕方ないでござるな」

 圭阿が海に向かって苦無を投げる。

 苦無は完璧にモンスターに命中し、死んだモンスターに別の凶暴な生物たちが群がっていった。彼らにとって餌は人間でなければいけないとい事もないらしい。


「おら、ケイアさんが作ってくれた隙を無駄に済んじゃねえ!」

『へ、へい!』

 ダイランドの言葉で海賊達は急いで新参海賊船に渡りを付け、各々移動していく。牽引するためにはまずその準備をしなければならない。

 幸いにも新参海賊側もその準備をしていたようで、作業はすぐに始められた。


「あ、置いてかないで……」


 最終的に旧海賊船の船には、ずっと震えていたザルマだけが取り残された。


「あれはどうするっスか?」

「まあ最終的に戻るんだし、そのままでも良いだろう。でも結局猫の手ほどの役にも立たなかったなあ」

 康大は自分の肉球を見ながら、しみじみと言った。少なくともこっちは船に取り付く時には役に立ってくれた。


 それから全員でザルマの存在を無視し、新参海賊船を曳航できるように接続し、甲板に残った死体はなるべく遠くに投げ、凶暴な水生生物をできる限り海賊船から遠ざけた。


 さらに康大は、


「俺参謀役にしては一番体力労働している気がするんだよな……」


 1人バラスト部に移動し、自分で開けた穴の応急処置をする。

 本来なら海賊がその作業を行った方が良いのだが、開いた穴からは康大が呼び寄せたモンスター達が大量にいた。それも火薬で吹き飛ばしはしたものの、全てが死んだわけではない。


 やり方を聞いても完全な修復はさすがに素人の康大では不可能なので、とりあえずこれ以上モンスターが上の階に来ないよう、扉だけは最低限塞いでおく。そして海水のせいで重くなった船体を軽くするため、岩などのバラストを穴から海に捨てていった。


 それでなんとか港に着くまでは持つ。

 海賊船を沈めた時と同じぐらいカロリーを消費する作業をしながら、釈然としない気持ちでいっぱいの康大であった……。

 

※たまにはまとめてぐぐったらどうかな!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ