――エピローグ――
「そういえば幽霊船では聞けなかったが、あの時どうしてアビーが生きていると分かったんだ?」
海賊船に揺られ、幽霊船と別れてから数分後、霧も完全に消えた頃、ハイアサースが康大に今更その話を聞いていた。
言われた康大は、今までの出来事でその理由をかなり忘れかけ、「え~と」と、思いだしながら話し始める。
その間に興味を持ったザルマと、ようやく我を取り戻した圭阿も康大に近づいて来た。
「確か最初に疑問に持ったのは、俺がキスされた時だ」
「・・・・・・」
ハイアサースの頰が微妙に引きつる。
康大もそれに気付き口をつぐんだが、他ならぬハイアサース自身が「続きを」と先を促した。
「……あの時、言うまでもなく彼女は俺の存在に完璧に気付いていた。でも、その時はホシノさんも俺に気付いていると思ったし、死と智の館の悪霊も認識していたから、まあそんなもんかなって思ってたんだ」
「そこからどうやってあの質問に繋がるんだ?」
「あの質問?」
あの時偽物とすりかわっていた圭阿が不思議そうな顔をする。彼女は康大がホシノにした質問を知らなかった。
「コウタがホシノに圭阿殿を差して、名前を聞いたのですよ。それでホシノがコウタを認識していないことを皆知りました。まああの時は偽物の圭阿卿で、ホシノも私達を謀ったつもりでしたが。そういえばあの時、圭阿卿は何をされていたのですか?」
今度は逆にザルマが圭阿に尋ねる。
「甲板に上がる途中で康大殿から密かに、改めて部屋を調べるよう言われていたのだ。まさかあの康大殿の声が偽物だったとは……」
「ふふ、どうやら圭阿卿のコウタを思う気持ちより、私の圭阿卿を思う気持ちの方が上だったようですね!」
「黙れ痴れ者」
「・・・・・・」
ザルマは素直に口を閉じた。
「あの質問に至るまでには、まあ色々積み重ねがあったのさ。ホシノが圭阿にだけ話してたり、そのくせ圭阿の名前を呼ばなかったり、露骨なアビーの肌の冷たさアピールとか、あえて扉の前の海賊をどけたりとか。そなな釈然としない小さな事が積み重なってきて、そもそもホシノさんは俺を認識してるのかっていう最初の思い込みに気付いたんだ。そこから、もしホシノさんが認識してなかったら、なんでアビーだけ認識できたのか、そもそも本当に幽霊なのかって――そう思い至ったわけ。いやあ、ホント当たってて良かったぜ。あそこまでやって外したら、俺も死んでも死にきれなかったな」
「ふむ」
ハイアサースがアビゲイルに跪いてキスしたときの康大の姿を思いだし、何とも言えない顔をする。
「お前がああいうことをする人間とは知らなかったぞ。いや、悪くは無いんだがそのなんというか……」
「素直に馬鹿にしてくれていいぞ。俺も今思い出すとなんであんなことをしたんだろうと……。怖いね雰囲気って」
「うむ、話を聞くかぎり、なにやら康大殿の普段とは違う姿が見られたようでござるな。立ち会えず無念でござる」
「そのことはもう忘れてくれ」
「お頭ァ!」
そんなことを話していると、見張りの海賊が康大を呼ぶ。
最初康大は自分が呼ばれているとは思わず、呼びかけを無視していた。
康大にとってお頭と言えば、あの恐ろしソルダのことだ。それまで自分も同じように呼ばれていたことなど、すっかり忘れいてた。
見張りの海賊は仕方なく、康大に近づき肩を叩く。
「陸が見えて気やしたぜ」
「え、ああ、俺のことか」
そこまでされてようやく康大は気付くことが出来た。
康大は船から陸地の方角を見る。
幽霊船を下りた時点で既に夜は明け、今は早朝を少し過ぎたぐらいだ。
これから王都で何が康大を待ち受けるのか。
(ヤバい、不安しかない……)
使命感に燃える3人とは違い、康大の顔には再び疲労が重くのしかかった。




