第9話
アビゲイルの言葉に海賊達は怒号を上げて思わず席から立ち上がった。
ハイアサースも「横暴だ!」とテーブルを強く叩く。相手がか弱そうな巨乳の妙齢女性であるためか、ザルマでさえ「巫山戯るな!」と怒鳴った。
その一方でソルダは強かに海賊の1人に目配せする。
それを受けたゴーレムのような体型をした海賊が、手斧をアビゲイルの頭上ぎりぎりまで振り下ろした。
「お嬢ちゃん、俺たちゃ海賊だ。この稼業は舐められたらおしまいなんだよ。わざわざこのクズ共を追ってきたのもそれが理由だ。アンタは死んでるだろうが身体はあるはず。その綺麗な身体をバラされたくなかったら、とっとと俺達を帰しな。奴隷ならそいつらで充分だろ」
ソルダがか弱い女性なら声と視線だけでショック死するような態度で脅す。
しかし相手は見た目通りのか弱い女性ではない。
アビゲイルは頭上にある手斧に触れ、それを横にずらす。
「おおお!?」
その力があまりに強かったのか、海賊は驚愕の表情を浮かべたまま床に倒れた。
【お客様、残念ながらこの船に乗り込んだ時点で、もう選択肢はありませんわ。生きて出るか、死んで奴隷になるか。2つに1つです。それと――】
アビゲイルは手斧を振り下ろした海賊に手を触れる。その手はちょうど海賊の股間に当たり、海賊は好色そうな顔をした。
もし彼がその1秒後に待ち受ける未来を知っていたら、即逃げただろうが。
【――人数的に海賊様ご一行の方がまだお1人有利なご様子、公平にしないといけませんわね】
「あっ……」
アビゲイルが触れた場所から、海賊の肉と臓器だけが消失していく。康大のウイルスのように腐っていくのではなく、フォックスバードの魔法のように存在自体消えていったのだ。
「あっ……あっ……」
突然のことに悲鳴すら上げられない海賊。
やがて胸元まで骨だけの身体になった時、海賊は白目を剥いて絶命した。人間心臓がなくなれば必ず死ぬものだ。
部下が殺されたというのに、ソルダは冷静だった。悲しむことはないだろうと思っていたが、怒ることさえしない。
(結局道具としてしか見てないのかな)
康大はソルダの態度からそう判断した。
【これで同じ人数になりました。それではルールを説明を致します】
康大はごくりとつばを飲んだ。さすがにここまで来ると巨乳がどうとか考えてもいられない。
【私が皆さんにして頂きたいのは……ずばり鬼ごっこです】
アビゲイルの言葉に大部分の人間は呆気にとられた。
顔が如実に「この歳になって鬼ごっこ?」と言っている。
だが、その大部分に含まれない1人である康大の反応は全く違った。
(誰もが知ってる単純なゲーム……まあこのセカイの住民もそうだったのは意外だったけど。とにかく、厳しい展開になるだろうな)
デスゲームは誰もが知っている子供の遊びを題材にするのがセオリーだ。そしてセオリー通りなら、単純に鬼を捕まえて終わりという単純な内容では終わらない。
「おいおいおい、この歳になってそんなガキの遊びをやらせるのかよ!?」
海賊の1人がアビゲイルを煽る。
アビゲイルは気分を害した様子も無く、【ええ】と笑顔で頷いた。
「わ、私は騎士だぞ! そんなものできるか!」
ザルマが海賊の味方をして反論した。ここで騒ぎ立てられると自陣営が不利になりそうなので、康大は圭阿に目配せし、
「黙れ痴れ者」
「うごっ!?」
物理的に黙っていてもらう。
「……それで、どうやって勝敗を決めるんです?」
康大は批難することなく、話を促した。
こういう場合、最も早くルールを理解した者が勝利する。それがデスゲームの鉄則だ。
サブカル的な知識に関しては、康大はこの場にいる人間の中で群を抜いていた。
【貴方は話が早くて助かります……えっと――コウタさんでよろしいのかしら?】
「はい」
康大は頷いた。
【コウタさんのおっしゃる通り、ただ全員で1人の鬼を決めては、対戦ゲームとして成立させるのは難しいでしょう。皆さんにして頂く鬼ごっこは特別です。まず両陣営それぞれ1人だけ鬼になってもらいます】
「はい」
頷きながら、康大は必死でそれからの内容を推測し、有利に立てる作戦を考えた。こういうデスゲーム系の漫画やアニメは腐るほど見てきた。そのほぼ全てに共通していたのは、勝者は必ず頭を使い続けていたということだ。
そして最後まで油断もしなかったし、諦めもしなかった。
【鬼になった方は、敵味方問わず生きている方を触って鬼にします。ただし鬼に出来るのは最初に決めた鬼の方だけです。そしてより多くの方を鬼に出来た陣営の勝ちとします】
「・・・・・・」
康大は頭の中で今アビゲイルが言ったルールをまとめてみる。
するとある問題に気付いたが、話はまだ終わっていないようなので、口に出しては何も言わなかった。
【ゲームはこの船にいる全ての人間を鬼にした瞬間、終わりとします。また特別ルールとして、鬼が死んだ人間に3回触れた場合、その時点で敗北とします。さらに相手陣営に対する暴力、および攻撃的な魔法は一切禁止とします。このルールを破った場合、死んだ人間を触った回数に追加します。つまり死んだ人間に触らずとも、3回ルール違反をしたら敗北というわけですわ。以上がルールです】
「あの、いくつか確認したいことがあります」
話を聞き終えた康大が手を上げる。
【どうぞ、コウタさん】
「いえ、出来れば内密に話したいんですけど……」
ルールの盲点や不備の確認は、戦略上重要な強みになる。それをわざわざ相手に教えてやるほど、康大も暢気な頭はしていない。
【ふふ、コウタさんはもう既に臨戦態勢にあるようですわね。けれども残念ですが、それはできません。質問は全員の前でなければお答えしません。アンフェアですから】
「じゃあ俺が先に聞こう。俺達もこいつらも4人だ。偶数でどうやってこの幽霊船で勝敗を決める?」
「!?」
ソルダが聞こうと思っていたことは、まさに康大が考えていたことでもあった。海賊の船長だけあって、粗野なだけでなく頭も回るようだ。
【実は1名、この船には生きている人間がおります。その人間と合わせれば奇数になりますわ。ただし4人以上鬼を作れた陣営は、その時点で勝利とします】
(となるとお互い順調に進めば、最後はその人間を捜すゲームになる訳か)
おそらくその人間は簡単には姿を見せないだろう。序盤は鬼ごっこでも最終盤はかくれんぼになるはずだ。
康大はそう睨んだ。
【他にはありますか?】
「じゃあ俺から。人に危害を加えるのはアウトでも、施設を壊すのは許されますか?」
【ふふ、物騒な話ですわね。この船内の破壊に関しては大目に見ます。ですがそもそもそれは不可能だと思いますわ】
「不可能?」
【はい。試しにその食べ終えた皿を割ってみて下さい】
「・・・・・・」
康大は不思議に思いながら、皿を思い切り壁に叩き付ける。
すると皿は陶器特有の音を立てたにも関わらず、割れずに跳ね返り、そのまま床に落ちた。
【ご覧の通り、この船内の物には全て特別な処置がされています。いきなり壁に穴を開けるようなことは不可能ですわよ。ただ本来の使い方なら、結果的に無くすことは可能ですわ。たとえば今まで皆さんが食べていた料理や、インク壺のインクのように】
「了解しました」
【他には?】
「あと暴力の範囲について。この狭い通路ですから意図的でなくても接触することはあります。それを暴力と判断されるとさすがに……」
【なるほど、確かにそうですわね。ではこうしましょう、予期せぬ接触で倒れた場合や、通路を塞いでいる相手を手を出さずに押しのける程度は、暴力とは扱いません。これでよろしいかしら?】
「……はい」
康大は不承不承頷いた。
そのルールだと、全員体格が良い海賊チームの方が明らかに有利だ。逆にこちらが有利なルールを引き出せるかもと思ったが、藪蛇だった。
だからといって抗議したところでそれが認められるとは思えず、康大は黙っていた。
【他に何かありますか? 可能な限りお答えしますわ】
『・・・・・・』
康大もソルダも黙っていた。
少なくとも康大は必要な事は全て聞いたし、余計なことを聞けばまた自分達に不利なルールが規定されるかもしれない。それはソルダにしても同じだなのだろう。
【それではそれぞれの陣営に、このろうそくと部屋をお貸しします。部屋はこの食堂を出てすぐ右が確か……ソルダ様でよろしいですわね?】
「ああ」
【ソルダ様陣営、そして左にある部屋が康大様陣営の控え室とさせていただきます。部屋には筆記具があるので、どうぞご自由にお使い下さい。また公平を期すために、鬼役はここで決めていただきますが、まずソルダ様陣営はどなたが?】
「俺だ」
ソルダが首をかききるようなポーズを取りながら即答した。
ただザルマ以外はその程度の脅しにいちいち反応したりはしない。
ザルマ以外は。
【了解しました。それでは康大様陣営は?】
ハイアサースと圭阿の視線が康大に注がれる。ザルマは余計なことを言いそうだったので、既に圭阿が気絶させていた。
しかし康大は、
「この圭阿がやる」
――と自分では立候補しなかった。
ハイアサースだけでなく、圭阿も少し驚いた表情を見せたが、2人とも反対はしなかった。こういう時は康大に一任すると決めていた。
【かしこまりました。それでは鬼役の方は、それぞれろうそくの火が無くなるまで、控え室で待機していただきます。そして火が消えるまでに、鬼以外の方は必ず部屋を出、火が消えたらゲームスタートとします。ホシノ】
【はいアビゲイル様】
アビゲイルはホシノに何か耳打ちする。
するとホシノはテーブルに灯っていた短くなったろうそくを、それぞれザルマと圭阿に渡した。
そして作業を終えると、そのまま霧のように姿を消す。
【これからの司会進行は、ホシノが行います。ペナルティ行為が行われた場合とゲーム終了時は、ホシノが皆様に逐一報告しますわ。なおホシノに関しては、死人である前に審判としての役目があるので、触った際のペナルティは無しとします。それではどうぞ良き戦いを。私は甲板の特等席にて、皆様の勇姿を観戦していますわ】
そう言って、アビゲイルが立ち上がり優雅に会釈をする。
その瞬間、康大は一瞬乳首が見えた気がした。
だが、それはそれとして、今は完全に切り替えが出来ている。
「すぐに作戦会議だ!」
康大は自ら率先して一番に部屋を出ようとした。
その前に、海賊が3人腕を組んで立ち塞がる。
「な、貴様何のつもりだ!?」
ハイアサースが怒鳴りつけたが、海賊達は素知らぬ風だ。その海賊の横をソルダが悠々と通り抜け、扉から出て行った。
明らかにソルダの指示だった。あの威嚇のポーズはこれをさせるためだったのである。
ソルダはゲームが始まる前の前の段階で、既に手を打っていた。
それでも押し戸なら全員で押し出せば何とかなった。
しかしこの食堂は引き戸で、押し出しても扉を開くことは出来ない。
それを踏まえて康大は早く外に出ようとしたのだが、海賊は警戒して入口付近にいた分、後れを取ってしまった。
相手の狡猾さより自分の愚かさに腹が立つ。本来ならそのやり方に気付いていた康大が、扉付近に待機してしかるべきだった。
【ほほ、ソルダ様はなかなかの策士でいらっしゃいますわね。ですがそこにいると私も出られません。何よりこの時点でゲームが決まっては興ざめですわ。これはサービスですよ、康大様】
アビゲイルはそう言うと、扉のまん前にいた海賊の腕を取り食堂の端まで放り投げる。
その細腕のどこにそんな力があるかと思えるような怪力だ。そもそも人間でないと言えばそれまでだが、少なくとも彼女に危害を加えることは不可能だろう。
康大はそう判断した。
【それではどうぞ】
「ありがとうございます」
コウタは素直に厚意に甘え、部屋から出ようとした。
すると、アビゲイルは何故か康大の手を取り、その動きを止める。
「……なにか?」
【ふふ、あなたは随分と不思議な方ですわね。生きているような死んでいるような……】
「よく言われます」
【何か興味がそそられますわ。第三者として手は出せませんが、個人的には貴方方を応援します。私のことはこれから親しみを込めてアビーとお呼び下さい。それと――】
アビゲイルは不意に康大の仮面を取り、その頰にキスをする。
しかもわざわざ腐敗がひどい方に。
ハイアサースが少しむっとした顔をした。
当の康大はキスされたことより、押しつけられた胸の感触に浮かれる。
【素顔の方がセクシーですわよ】
そう言ってふっと耳元に息を吹きかけ再び仮面をかぶせ、アビゲイルは先に部屋を出て行った。
「……コータ」
「G……いやHか。それにしても……って今はそれよりとっとと行くぞ!」
鼻の下を伸ばしていたくせに何を言っているんだ――そう女性陣の目が如実に語っていたが、2人とも黙ってその後についていった。
康大は部屋に入るとすぐに扉を開けっ放しにするよう、後から入ってきた2人に指示する。2人はその通りにしたが、早くも復活したザルマは当然のように扉を閉めようとした。
「この痴れ者が!」
「え、げふっ!」
理不尽に倒されるザルマ。ただ、ちょうど倒れた位置が良く、ストッパー変わりになったので、康大の目的は達成された。
「ところで――」
「圭阿、お前はそのろうそくが半分ぐらいになるまで、できるかぎり船内を調べてくれ。できればそれを記憶して、後で見取図を書いて欲しい」
「御意」
圭阿の質問は康大の命令によって遮られ、圭阿はその命令に素直に従った。
残されたハイアサースが圭阿の代わりに質問をする。
「なあコータ、なんで鬼役がお前じゃなくて圭阿なんだ?」
「理由は簡単だ。俺の足は遅すぎるし、体力がなさすぎるんだよ。このゲームはスピードがなにより重要で、1番動ける圭阿が鬼になるのが当然だ。それに、ルール上、鬼はどっちの陣営になってもアドバイスをしちゃいけないわけじゃない。だったらアイツに走り回ってもらって、とりあえず俺を鬼にしてもらった後、アドバイスをした方が効率が良いんだ」
「なるほど、あと何で扉を開けることに拘ってたんだ?」
「ルール上人間に危害は加えられない。だがさっきみたいに扉の外で待機されたらどうなる?」
「扉の外……この部屋に閉じ込められるのか!」
「正解。外を見ろ、向かいの奴らの部屋も、閉めた扉の前に海賊の1人を立たせてやがる。まあこちらの手も丸見えになるが、それを知られたところであの海賊にはそこまでの脳みそはなさそうだ」
外にいた海賊は、最初に料理に飛びついたあの肥満気味の海賊だった。重しとしては充分な体型だが、平和そうな顔で争いに向いているようには見えない。
「ふむ、なるほどな……。しかしこう言ってはなんだが、ここは引き戸だから別にそこまでする必要は……」
「・・・・・・」
引き戸なら相手が外で待っていようが、扉を開け押し出して出れば良い。4人もいればあの肥満海賊が立ち塞がったとしても、そこまで困難ではない。
ハイアサースの珍しく的確な指摘に、康大の顔が赤くなる。鉄仮面をしていなければ、それが完膚なきまでにバレるところだった。
幸いにも康大の失態にハイアサースは気付かず、「まあお前のことだから色々考えがあるのだろう」と自分で納得してくれた。
「それにしてもお前の話を聞いていると、相手の連中はとんでもない卑怯者だな。許せん」
「確かにそうだけど、この場合、騙される方が悪いんだよ。デスゲームとはそういうもんさ。何でもかんでも相手のせいにしていたら、絶対に負ける。騙されるのがいやなら自分達が騙す側に回るんだ」
「殺伐として私にはとことん合いそうもないな……。コータは以前にもこんなことしたことあるのか?」
「ないけど、性格がひねくれてるから話は散々読んだり見たりした。後ハイアサースにもしてもらいたいことがある」
「私に出来ることなら何でも言ってくれ!」
「じゃあ言わせてもらうが、その鎧を脱いでくれ。歩いている時うるさくてしようがない。それじゃあ捕まえてくれと言っているようなものだ」
「ぐぬぬ……そういうことなら仕方が無い」
ハイアサースは胸当て以外の全てのパーツを外した。
「ここだけは音も鳴らないし勘弁してくれないか。正直胸が揺れて胸当てがないとまともに走れる気がしないのだ」
「その言葉だけで俺は全てが許せる気がするよ」
「?」
満足そうに言った康大に不可解な顔をするハイアサース。彼のおっぱいに対する愛情の大きさは、ハイアサースにはまだまだ難解だった。
「鎧と言えばこいつはどうする?」
「当然引っぺがそう。そっちは俺がやる」
婚約者にむさ苦しい男の面倒などみて欲しくない。そんなことするぐらいなら自分でした方がマシだ。
そして康大がうんざりする気分で全て脱がし終えた頃、ザルマが目を覚ました。
「んん……なんだこれは!?」
「ハイアサースにも言ったが、ガチャガチャうるさいから鎧は脱がさせてもらった。そしてこれからは俺の指示に従ってもらう」
「断る! 誰が平民の指示なんぞに!」
「言うと思った。まあ俺の指示ならそうだが――」
「御大の指示は絶対だこの痴れ者が!」
「ぶへっ!」
偵察から返ってきた圭阿が、帰って早々ザルマを蹴り倒した。ただ今回は気絶されると面倒なので、かなり手加減はしていた。
「戻って来たか圭阿、早速可能な限り正確に船内の見取図を書いてくれ」
「御意」
圭阿は康大が部屋で見つけた大きめの紙に、素晴らしい早さで見取図を書いていく。こういうスキルも忍者にとっては必須らしい。
康大は書いている圭阿に次々に質問していった。いつ始まるのか分からないため、いちいち全てを待っている余裕はない。
「この船は何階建てなんだ?」
「四階建てでござる。ここが三階で、下に客室、更に下には倉庫があり、甲板から入る四階にはおそらく船を動かす設備が中心でござる」
「武器庫は? 他の幽霊はいたか?」
「この船には戦うための装備は一切ござらん。また船員らしき幽霊も会うことはありませなんだ。おそらく始まった瞬間現れるかと」
「そうか、あと――」
「とりあえず書き終わった故、これからは拙者から説明するでござる」
そう言って圭阿は筆を置いた。
圭阿が描いた見取図はかなり複雑で、それだけでこの船がどれほど大きいか分かる。
「客室はどれもかなり豪華で、大きな箪笥や寝台もあり、隠れられる場所にはこと欠かなかったでござる。倉庫には樽や重しのための石、他雑貨など、こちらも隠れる場所にはこと欠かなかったでござる。逆に甲板や四階には、あまり隠れられそうな場所はなかったでござる。そして階段はこことここ、と」
「・・・・・・」
康大は圭阿が言った内容を頭にたたき込んでいく。ハイアサースとザルマの脳筋コンビは、最初から覚えることを諦め、適当に頭を振っていた。
それから康大はその部屋は引き戸か開き戸か、通路は広いかなど細かく質問し、圭阿はそれに的確に答えていった。忍者だけあって製図能力だけでなく記憶力も空間認知能力も抜群で、その答えはどれも簡潔で的確だった。
ある程度聞き終えると、ろうそくの芯もかなり短くなる。
他にも色々聞きたことがあったが、康大は時間を考えて全員に作戦を伝えることにした。圭阿が見つけてくれるまで、隠れていなければならない。
相変わらずザルマは不服そうに聞いていたが、圭阿の完全に殺意の籠もった目で睨まれ不承不承頷く。
そして最後に康大は圭阿に言った。
「絶望的に時間が無かったから、ゲームは圭阿の能力に大きく頼ることになるだろう。俺が言ったことに気をつけて、臨機応変に当たってくれ。今回はお前が主人公だ」
「御意」
「じゃあ任せたぞ!」
圭阿を除いた3人が部屋を出、打ち合わせの場所へと向かって行く。
1人部屋に残された圭阿は、
「……やるか」
大きく息を吐き、拳を叩きながら言った――。




