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――プロローグ――

「どうしても駄目でござるか!?」

 圭阿が執拗に頼み込む。

 康大もここで引いては負けと、「いや俺もゾンビ化を治さないと……」と言いながら、なんとか断ろうとした。

 ここで首を縦に振れば、絶望的なまでの面倒後に巻き込まれる。


 それでも圭阿は諦めない。


 何を思ったのか、突然上着を脱ぎ、下着どころか半裸になる。

 これには騎士も康大も慌てて目を逸らした。


「かくなる上はこの身体、康大殿に捧げまする! はいあさーす殿のように女らしい身体でもなく、盗賊共のお下がりではありますが、どんな要求にも応えて見せまする!」

「ちょ――落ち着けって!!」


「貴様ァ! 圭阿卿にここまでして頂いて断るとは何事だァ!」


「そもそも貴様が役立たずなのが問題なのだこの痴れ者が!」


 康大に詰め寄ろうとした騎士を、圭阿が蹴り飛ばす。

 騎士は重量を感じさせずに綺麗な弧を描いて、近くの沼に頭から落ちた。

 呆然とする康大に、圭阿は再度詰め寄る。


 ……いや、詰め寄るどころか身体を押しつけてきた。


「康大殿、どうか、どうか!!!」

「うう……」

 康大は顔を逸らしなんとか耐える。

 小さいとはいえ、膨らみかけのおっぱいの力は康大にとって強力だった。

 そもそも圭阿も、本来なら康大には縁が無いような美少女なのである。服越しに伝わる乳首の感触が、冷静な判断を徐々に奪っていく。


「俺は……俺は……」

「(後もう一息でござるな)康大殿……ふっ」

「!?」

 圭阿は耳元に息を吹きかける。

 突然のことに康大は驚いて圭阿を見た。

 そこには少女や忍者ではなく、濡れた瞳と唇をした1人の女がいた。


「康大殿……」

 圭阿がその細い指で康大の唇をなぞる。ゾンビ的にシャレにならない行為であったが、康大がその心配を出来なくなるほど頭が沸騰していた。

 沼から復活した騎士が、血の涙を流すような目で康大を睨む。


 ここまでされたら、康大も首を横には振れなかった。


「……わかった。でも期待は――」

「一生の恩に着るでござる!」

 圭阿は康大の保険を一切聞かずに一瞬で離れ、服も着る。

 それを少し残念に思う一方で、康大はほっと胸をなで下ろした。これ以上続けられたら、ハイアサースに対して精神的にも肉体的にも弁解出来ない状況になってしまっただろう。


「それではすぐに行きましょう! ザルマ、当然脚は用意しているな?」

「は、はい、もちろんです! ただ圭阿卿だけ来るものと思い、馬は一頭しか用意しておらず……」

「仕方あるまい、拙者は走るから、貴様は康大殿を乗せて馬で行け。あとその無駄な鎧は捨てろ。貴様が着ていたところでかほども役に立たん」

「いや、ですがこれは今回の任務のために新調した……」


「知らん。捨てろ」


「・・・・・・」


 有無を言わせぬ圭阿の言葉に、騎士――ザルマは渋々と鎧を脱ぎ始めた。


「とりあえず鎧は俺達が乗ってきた馬車に入れておけばいいと思いますよ。あと、2人に圭阿と一緒に行くって書き置きも残しておかないと……」


「・・・・・・」


 康大の建設的な発言に、ザルマは無言だった。

 ここまであからさまな態度を取られれば、自分と、そして圭阿に対してどういう感情を持っているのか、いやでも分かる。


(やりたくない上にやりづらいなあ……)


 康大の肩に、まだスタート地点から一歩も進んでいないというのに重い疲労がのしかかる

「……ザルマ、康大殿の言われた通りにしろ」

「は、はい!」


 どんなに邪険に扱われても、圭阿の命令には嬉々として従うザルマ。

 康大は彼の恋のライバルになる気はないが、両者の見た目から推測できる年齢差を考えると、少し不安になる。


 ザルマは鎧を脱ぐと、それを荷台に乗せた。

 鎧の下は薄い皮の服だけで、その体型がよく分かったが、康大の見た限り、とても役立たずには見えなかった。文字通りの筋骨隆々で、服はパツンパツン、わずかに覗く胸板は康大の数倍も厚く、下半身も貧弱さとは無縁のたくましさだ。鎧を脱ぐ際に、ザルマはマウントを取るように康大にその肉体美をアピールしたりもした。


 康大には苦笑することしか出来ない。

 これがハイアサースに対してなら多少の抵抗もあっただろうが、圭阿は恋愛対象に全く入らない友人だ。一時の気の迷いはあっても、そのなだらかな胸を見たら冷静になれた。


 ザルマは鎧を馬車に納めた後、荷台に直接字を書き始める。

 この世界ではメモ帳など持ち歩かないようなので、それが普通なのだろう。筆記具を持っているだけでも褒めるべきかもしれない。


 ただザルマの態度からちゃんと書いているようには見えないので、康大は搦め手から念を押した。


「しっかり書いて下さいよ。その方が俺も()()()()()んで」

「そ、そうだな!」

 やはり適当に書いていたのか、今まで書いていた部分をナイフで削り、無かったことにする。

 康大は自分の選択が正しかったことを確信しながら、ほっと息を吐いた。


「圭阿卿終わりました!」

「ならば行くぞ、インテライト家の浮沈は今全て我らにたくされた!」

「まさに!」

 圭阿の檄に力強く答え、馬に跨がる姿を見ても役立たずには到底思えない。


「ほら、とっとと掴まれ!」

「あ、はい」

 明らかに年上であるし、ハイアサースのようなへっぽこぶりが見られない以上、圭阿の部下のようなものだと分かっていても康大は慇懃に対応してしまう。フォックスバードと違い、圭阿はそのあたりの対応にあまりこだわりはないようで、ザルマを窘めることはなかった。


「それでは行くでござるよ、康大殿」

「あ、ああ」

 康大はザルマの腰に腕を回す。

 その触り心地はまるで大木を掴んだかのようであり、今のところ彼に対する騎士としての評価が下がる要因がない。圭阿が相手では、蹴り飛ばされてもしようがない。

 それならば馬の扱い方が悪いのかとも思ったが、下手くそでも圭阿のように馬を洗脳しているわけでもなく、しっかりとした歩様で馬は進む。乗馬経験の無い康大には分からないが、少なくとも乗り心地は悪くない。


(まあ人のあら探しをしてもしようがないか)


 おそらく能力以外の面で問題があるのだろう。

 少なくとも明らかに10歳は下の少女に恋慕を抱いているというだけで、人間的にかなり問題がある。

 圭阿はそれを嫌っているのだろう。

 康大はそう思うことにした。


(そんなことより……)


 この旅が平穏無事のまま、可能な限り早く終わってくれることを願ってやまない。


 そう願うことが、壮大なフラグ立てになると学習しているのにも拘わらず……。

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