それは不幸の回想で。④
「ほい、ここが倉庫。必要なものは大体ここにあると思うよ!」
敷地内のちょうど北西付近、体育館横の総合倉庫。そこに、フェイはロキエに案内されて来ていた。
重い音を立てながら扉を開く。意外にも、中は綺麗に整頓されているようだった。どこに何があるか、一目でわかるよい配置だ。
フェイはとりあえず今日の作業で使うであろう道具を選別しながら、ロキエに話しかける。
「そういえば、最近このあたりでも悪魔が出現しているらしいですね」
『悪魔』。人間が使う法力とは違う力、魔力を使い、人間を誘惑したり堕落させたりし、その人間を自分の中に取り込むことで力を得る人ならざる種族、その総称である。彼らは、彼らの持つ魔力量に応じて、自分の強さより下の疑似悪魔を生み出し、それを使役しつつ活動する。主に人間に自身と魔力的な拘束力を含む契約をさせることで、より効率的に堕とす手法が多い。
そのような存在と対抗する人間たちが、多くの聖粛清者であり、特に悪魔駆除に特化したスキルを持っていたり、実績を持っていたりする人を、畏敬の念を込めて、【深淵堕とし】と呼んでいる。
「実は僕、この仕事が来るまでは王都で生活していたので、悪魔事情には本当に疎くて……。でも実際、ここに来る前に昨日も悪魔の被害にあわれた方がいるって聞いてしまうと、やっぱり悪魔って存在するんだって、実感しちゃいます」
「学園内にいる分には安心さっ! リリー・カルテットもいるし、何より先生たちも強者ぞろい! そうそう手を出されるわけないよーっ!」
「だといいんですが……。何分小心者な性分で、もしかすると、『灯台下暗し』なのこともあるのかなって」
「考えすぎだよー! 大丈夫、もし何かあっても、ボクも学園生のはしくれ! 守ってあげるよ!」
「ありがとうございます。ロキエさん、優しいんですね」
「あはは……。って、大見え切っちゃったけど、ボク、実力だと下から数えた方が早いんだけどね」
「いえいえ! 法術なんてほとんど使えないような僕からしてみれば、とても頼もしいですよ!」
話しながら、選別した道具を木製の手押し車の中に入れるフェイ。最後は、身長を超えるような大きな木の手入れに使う、枝打ち鎌と呼ばれる道具を手に、にっこりとほほ笑んだ。
「『To remain God`s will(神の御心のままに)』。僕らに、ご加護があらんことを。ですね」
対して、ロキエはくすくすと笑いながら答えた。
「ボクは、『ケセラセラ』のほうが好きだな」