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それは事件の始まりで。①



 フェイとダイヤの決闘に決着がつき、5日が経った。


 統括室では、ダイヤが一人。窓際の椅子に腰かけ、紅茶を嗜んでいた。外の景色を眺めながら、ゆっくりとカップを傾ける。放課後の校庭からは、部活動の生徒たちの声が至る所から聞こえ、活気に満ちていた。

 彼女は、その喧騒をBGMに、一人、思考を巡らせる。何か考え事があると、決まって彼女はここに来る。どんなに忙しくても、ゆったりとできる時間を作り、問題に向き合って考えるのだ。


 今回の悪魔騒動について、事態は、フェイを監獄に投じることによって、一時の収束を見せていた。

 彼が街に訪れてから、突如として起こった、悪魔騒動。ほぼ毎日犠牲者が出た。初日の発覚で、広く厳重な警備を敷いていたにもかかわらず、だ。

 しかしそれも、ここの所起こっていない。彼を投獄したのと合わせるように、ぴたりと息をひそめた。


 こうなれば、状況から見ても彼が事件の当事者だったことは明白である。警戒態勢を解くのはまだ早いとしても、多くのものが、事件の終息に安堵していた。


 そんな中で。ダイヤは、胸の中にしこりのような、一つのひっかかりを覚えていた。頭では事件解決に向かっていることを認識してはいるものの、それに違和を感じている。どうにもぬぐい切れない。モヤモヤする。そんな気持ちを解消するために、彼女はカップを傾けた。

 この気持ちの原因については分かっている。しかしその真意が分からない。

 それは5日前。彼女らの決闘の、決着の瞬間――――。



「ダイヤっ! 大変ですわっ!!」


 勢いよく、統括室のドアが開かれる。マリアが、息を切らしながら駆け込んできた。その様子から、ただ事ではないことが分かる。


疑似悪魔シャドーデビルが……! 疑似悪魔が街を襲っていますわ!」

 

 理解するより先に、体が動いていた。弾丸のように、統括室から飛び出していく。


「二人を呼んで! 学園の皆をコロシアムに避難させなさい!」


 そうマリアに言い残し、駆ける。マリアの行動も早く、すぐに統括室にある機材の電源を入れる。校内放送用のそれはすぐに立ち上がり、マリアの声を学園内に響かせる。



『緊急放送です。緊急放送です。現在、マラーク内に疑似悪魔が侵入しています。学園生徒は、迅速かつ速やかに、落ち着いて、法術闘技場まで避難をしてください。リリー・カルテットは、直ちに統括室に来てください。これは訓練ではありません。これは訓練ではありません。繰り返します――――』



 放送を背に、ダイヤは走る。胸の中に残ったままのしこりが、どんどんと大きくなっていく。

 息を切らせ走る。膨らむ不安と焦りが、彼女の背中を押す。階段を駆け下り、学内用のシューズから外履きに履き替え、校舎から出る。すぐさま空中飛行の法術を編み、飛び立った。

 目的地は、フェイが拘束されている拘留所。そこは小さな施設で、牢屋の数もさほど多くはない。街の治安の良さから、どの部屋もそこの住人となるものはいなかった。

 

 不安がさらに大きくなっていく。現状、彼女の胸中に渦巻くのは、一つの切望だった。


 しかして。それは大きく裏切られることになる。

 がらりとした牢屋の中で、一つだけ。


 壁に大きな穴があけられた、空の牢屋が一つ。その空虚を示し続けていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 場所は変わり、聖アンゲロス学園。

 統括室には、招集されたリリー・カルテットメンバー三人がいた。各々が戦闘服に身を包み、戦いへの準備を進めている。

 体にしっかりと密着し、ボディラインをあらわにしている戦闘服。その素材は衝撃に強い素材で編まれ、ちょっとやそっとの斬撃では切れないようになっている。それだけではない。全体的に防法術・魔術のコーティングが施されており、耐熱性能もある。読んで字のごとく、戦闘において装着者を守るために設計されている服であった。


「……まさか、戦闘訓練以外でこれを着ることになるとは思ってもいませんでしたわ」


 そういいながら、愛用のロッドを持つダイヤ。鉄製の棒、その先端は、円状の装飾が施され、その中心には緑色の宝石がはめ込まれている。


「それでは、作戦を説明しますわ。学園長をはじめとする先生方が生徒を避難させている間、わたくし達は学園の守備に専念しますわ。わたくしは校門付近、リリィちゃんは学園の西側を。サーシャちゃんは東側の守備をお願いいたしますわ」

「……ん。わか、った」「了解よ」

「ダイヤには、戻ってき次第状況を報告しますわ。学園内に一匹たりとも疑似悪魔を入れるわけにはいきませんが、万が一、守備が難しいと判断した場合は、信号弾を使ってください」


 マリアの指示に、黙ってうなずく二人。


「……さて、と。いっちょぶっ飛ばしてやるとしますか!」


 リリィは装着したグローブをぶつけ合う。金属がぶつかる音が響いた。


「おしごと、がんばるぅ……」


 サーシャは竜を模した大きなぬいぐるみをよいしょと背負う。


「それじゃ、行きますわよ!」


 

 全員の準備が完了したことを確認し、マリアは統括室のドアを開けた。

 ――――だが。


 ドアから続く廊下に、一人。ここにいるはずのない人物が立っていた。

 銀色の髪が風で揺れる。フェイ・オブシディアは、ゆったりとした口調で、彼女らに語り掛けた。


「お久しぶりです、お三方。あなた達には、協力していただきたいことがあります」


 彼の姿を視認した瞬間、即座に戦闘態勢に入る三人。しかしそれを意にも介さず、フェイはそのまま話をつづけた。


「ダイヤさんは……。いない、みたいですね。なるほど、つまりは……。で、あれば。“ちょうどいい”」

「何をしに来ましたの? フェイ・オブシディア」

「先程いいましたよ、マリアさん。僕は、あなた達に協力していただきたい」

「ふざけ、るな……! あなたに、協力する事なんて、なにも、ない……っ!」


 普段は無表情のサーシャも、フェイに敵意を剥き出しにして睨みつけている。


「いえ。協力していただきます。……もとより、あなた方に選択肢はありませんから」

「ハッ! 何を言うかと思えば! 随分と舐められたものね。今ここで、あんたを倒してしまっても構わないのだけど?」

「それは得策ではないですね、リリィさん。再度お伝えしますが、あなた方の意見は求めていない」


 フェイは、おもむろに。ポケットの中から金属でできた板状のものを取り出した。そして、それを三人の前に突き付け、口を開く。


「“命令です”。僕に協力しなさい」


 彼女らは、彼から提示されたモノを確認し。

 マリア、リリィ、サーシャの三人は、驚愕するより他になかった。 


 彼女らの反応に満足したのか。

 フェイは勝利を確信した様にほくそ笑み、深々とローブを被った。



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