彼女はとても
「なぁ、あのcm見たか?」
「cm? 何の?」
「カーテンのやつ」
「あぁ、見たよ。何度もやってたな」
「それでさ、女の子映ってたじゃん」
「いたな、そういえば」
「そのこ、うちの高校に転校してくるんだって」
「へぇ……」
「へぇって反応薄いなぁ。あんなかわいい子がうちの高校に来るんだぞ?」
「でも、どのクラスになるかも分かんないし、テレビに出てる人なんて、どんな人間かなんてわかんないだろ」
「夢がないなぁ……あんな可愛い子だぞ、性格もいいに決まってる」
「お前、人をぱっと見で過大評価しすぎだろ」
「そんなことねぇだろ。これでも過小評価なくらいだ」
「でも、本当なのか? その話」
「あぁ、母さんが言ってた」
「そうなのか……」
「まぁ、明日学校が楽しみだな」
「じゃあまた明日」
「あぁ……また」
荻野との電話はそこで終わった。
次の日、ホームルームがはじめるときクラスの担任がその子を連れて教室に入ってきた。
ざわついていた教室が一瞬で静かになった。
「椎名愛里です。よろしくお願いします」
反射的な拍手が起こった。
席は僕の席の横だった。小さい声で彼女はよろしくね、と言った。
休み時間彼女のまわりにクラスの大半が集まった。
漫画でしか見たことないような光景に驚き笑ってしまった。
「いいなぁお前は」
「何が?」
「椎名さんが隣の席だってことだよ」
「あぁ」
「ずりーなぁ」
荻野はそう言って例のcmを携帯で見始めた。
窓に備え付けられたカーテンの横に真っ白な足元まであるスカートを着ていて、そこにただ風が吹き揺らされ、企業名等が出るというたった三十秒のcm。最後に彼女が笑顔を見せる。
「いいよな、この笑顔。癒されるわぁ」
「そうだな」
僕は適当に返した。満足しているのだから余計なことを言わない方が良いと思った。
「抜け駆けなんて許さないからなぁ」
「しないよ、そんなの」
僕はそこまで彼女に対して興味が湧かなかった。
数日はそんな日が続いて徐々に落ち着いてきたある日彼女は僕に声をかけてきた。
「あなたは私に何か聞きたいこととか無いの?」
「え? 特には……」急に問われ頭を回転させたが何も思い浮かばなかった。
「……して。どうして――」
向きになっているのが顔を見て分かった。
「どうしてって言われても……」
「私、可愛くない?」
「はぁ?」
「こんな可愛い私に興味ないの?」
ここまで自意識の高い人ははじめて見た。
「可愛いと……思うよ」
「なんで曖昧なの? 可愛いでしょ!」
僕は困った。この子は自分が可愛くて、そう言われていないと変になってしまうらしい。
「可愛いです」
「私が言わせたみたいじゃないの」
その通りなのだが……。
「なにが……何があなたの中に足りないの」
「………」
「なんで黙るの」少し間が空いて「何かあるならはっきり言って!」といった。
僕は心の中で笑った。やっぱりどんな人間かなんて話してみないと分からない。そう思った。
「君は可愛いよ」僕の言葉に「だったらなんで」と返してきた。
「君のことが良く分からなかったから……かな」
「だったら聞けばいいじゃない」
「それじゃあ本音が聞けないだろう?」彼女は黙った。
「君は答えを先に考えていたんでしょ?」まだ黙っている。
「それなら意味ないからね」
「うるさいっ!」手を空中で振った。
「なら……私の彼氏になりなさい。教えてあげるわ、私のこと……」
「ぇ……」その言葉は予想外だった。
「不満じゃないでしょ! 私はテレビに出てる美少女なんだから……」
恥ずかしくないのかなという疑問が頭の中に出てきたが、口に出すのはやめた。
「今から私の彼氏だから! 胸を張りなさい!」
「僕は何も言ってないんだけど……」
「知らないっ! 私のこと知りたいんでしょ」
そうは言ったけど、彼氏になりたいとまではいっていない。
「分かったよ……」僕は少しあきれた声で言った。
笑ってこちらを見る彼女を見て僕も笑ってしまった。この人と一緒にいて飽きることはなさそうだなと思った。
再び見るとその笑顔はcmの時とは少し違っていた。心から笑っている。そんな気がした。
可愛いい。はじめてそう思えた。
「なに?」僕の言葉は小さな声になっていたらしい。
「可愛いんだよ君が」
こんな出会いをしてみたいですね。