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独裁平和 ~転生したらビン詰めホムンクルスで、歴史に残る邪悪を育ててしまいました~  作者: 雪車町地蔵
第七章 絶無の剣聖攻略戦

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第三十一話 剣聖出現

「姫様……! 早馬が!」

「かまわないの、ここまで通すの、すぐに!」


 この世界では、魔術というものが普及している。

 詠唱によって魔力を誘導し、奇跡を可能とする技術だ。

 しかし、それはいまだ過渡期であり、前世のフィクションでよくあったような、遠くへと映像や声を飛ばす魔術──つまり無線や電話の代用品は、存在しない。

 中世に似たこの世界では、例外として狼煙や音声の拡大魔術、手旗信号があるぐらいで、いまだに自らの脚だけが、物事を伝達する手段なのである。


「失礼いたします……ッ」


 春のある日、数人の兵士たちに支えられ、息も絶え絶えに軍議の間に担ぎ込まれてきたのは、ひとりのコボルトだった。

 十字の紋章が刻まれた旗を握りしめ放さない彼は、ひとめでノーザンクロス伯の配下であることがわかる。

 人類が第三次征伐軍を組織したと聞き、すでに辺境伯は最前線へと戻っていた。

 問題は、それ以降彼からの連絡が一切なく。

 そして伝令のコボルトは、瀕死だったということだ。


 コボルト兵士の表情は恐怖に染まっており、しかしか細い忠義の心だけが、その体を突き動かしていた。

 その場にいた諸侯、その総意を得て、姫様が頷く。


「よい、許すの。なにがあったか、語ってみせるの」

「はっ……! 姫様、我々は……あれを見ました。彼方より飛来する災禍を」

「それはなんなの?」

「人間種族の中で、もっとも恐ろしく……もっとも剣技に優れた……我ら以上の力を持ち、我らを狩る狩人……あれこそは……!」


 彼は血反吐とともに、その名を告げる。


「剣聖アルザス・カシュナー……! 彼奴(きゃつ)めがたったひとりで、10000の大軍を屠るのを、自分は、見たのです……ッ」


§§


 コボルトの兵士は、その直後息絶えた。

 しかし、彼のもたらした情報は、なによりもナイドに貢献したと言えるだろう。


「前線と連絡が途絶えて、今日で何日目だったの」

「なぅー、確か10日目だったかな」

「ふむ、なの」


 姫様が円卓の上に地図を広げる。

 魔族領の南端、人類断絶戦線リヒハジャに、ノーザンクロス伯をかたどった駒が置かれる。

 その前方に置く駒を、彼女は図りかねていた。

 人類軍の、総数は……?


「はっはっは! 妄言ですな!」


 コボルトの命を賭した言葉を、一笑にふっする貴族がいた。

 かつてナーヤ第一王女の下で働いていたスケルトン、エイダ卿である。

 彼はカタカタと歯を鳴らしながら、笑う。


「妄言! これを妄言と言わずしてなんと呼びますか! 強壮にして堅牢なる我ら魔族の軍が、たかが人間たった一人ぽっちに圧倒されるなど、ありえますまい!」


 嘲笑と侮蔑をまき散らす彼を、姫様がじっと見つめる。

 その意図をくんでか、ハイドリヒ伯が肩をすくめてみせた。


「なぅー、エイダ卿は戦争処女だったものな。20年前の大戦を経験してねーもんな。そりゃあ、剣聖と聞いてもぴーんと来ねーか。まあ、卿はまだ若けーんだ。その侮りを、無知と嗤うことはできねぇよ」


 彼の言葉に、エイダ卿は骨をむき出しにして憤慨する。


「ハイドリヒ伯! たとえあなたが宮中伯だとしても、オレに対する侮辱は許されませんぞ! 確かにオレはあなたの五分の一も生きていないが。なるほど、そこまで言うのなら、その剣聖とはどんなものかご教示願おうか!」


 椅子を蹴立てて立ち上がったエイダ卿に、ハイドリヒ伯はニマニマとした笑みを向ける。

 姫様はため息をつくと、軽く額を押さえ、命令を下した。


「コレトー、あまりエイダ卿をいじめてはだめなの。特別に許可するの、コレトー・フォン・ハイドリヒ、剣聖について、あの人でありながら魔性である化け物について、存分に語って見せるの」

「なぅー……魔王さまがそういうのなら、語るとするかねぇ。いいか? これはナイド王国最大の危機とも呼べる物語だぜ──」


 そして、彼は語り始めた。

 その恐ろしき、英雄の物語を。

次回は19日0時ごろ!

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