表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/53

第二十一話 勝利への活路

「レヴィ……! 心配したの……ッ!」

「姫様! 割れる、瓶が割れますぅぅぅ!?」


 無事にナイド王国へ戻った僕を、出迎えてくれたのはほかならぬ姫様だった。

 アトラナートさんがなんとも言えない表情で引き渡した僕入りの瓶を、彼女は力いっぱい、それはもう、瓶が軋むほどの馬鹿力で抱きしめたのだ。

 待って、ムリ! 崩壊!?

 メリッていった! メリッて!?


「本当、本当に無事に戻ってきてくれて……私は……私はうれしいの……」

「姫様……」


 瓶に額をこつりと当てて、心情を吐露する姫様。

 その桜貝のような唇が、本当に小さく、


「首尾はどう?」


 と、動いた。

 僕は、無言で肯定の合図をおくる。

 彼女の口元が震えた。

 ゆっくりと僕と彼女の距離がひらき、姫様は、こうおっしゃった。


「話を聞かせてもらうの。あなたが行方不明の間、なにがあったの……?」


 僕は洗いざらい、すべてを話した。


「第二王女さまに引き抜かれて、西ナイド王国に入れ知恵してきました。ついでにこの国の内情を残らず吐きました」

「レヴィは、私を裏切ったの?」

「ありていに言えば。死にたくなかったので」

「……割るの」


 先ほどとは別の感情から、軋むジャム瓶。

 待て、話し合おう。

 話せばわかる、なにごとも。


「それで、これが最重要なのですが──まって! 姫様、空気読んでください! 割れます! 割れて僕が死にます!」

「……まったく、レヴィは困ったちゃんなの。これは王族一流の冗句なの」


 肩を揺らしながら笑う姫様だが、表情が変わっていない。

 だめだ、やはりこの姫様、危険すぎる……!


 そんな冗句を経て、彼女はようやく力を緩めてくれる。

 僕は安堵の息をつきつつ、本題を口にした。


「条件付きですが、西ナイドとの同盟を取り付けました。東ナイドを打ち破るまで、西ナイド王国は、こちらに対して、一切の敵対的行為を取りません」

「それは、つまり──」


 そう。


「チフレテス大河に東ナイドを縫い付ければ、西ナイドを素通りして、背後から急襲できるということです」


 姫様の表情に、わずかな安堵がともる。

 だが、次の瞬間それは曇ることになった。


「ただし、第二王女様は、食料の贈与と、王権の譲渡を望んでいます」

「…………」


 閉口する姫様。

 当然だろう、これはあまりに不平等な約定だ。

 ナイドと西ナイドは敵同士。

 どちらの国も、持久戦になれば物量の違いで東ナイドに押しつぶされる。

 加えて、西ナイドは食料的な危機にある。

 一見して、ナイド王国のほうが優位に立っているように見えるが──


『まあ、第一王女と第二王女は裏で手を組んでるよね。不可侵条約があるはずだ。ナイド王国を倒すためは、手を出さないとか』


 アテンの言うとおりである。

 彼女たちは間違いなく、水面下でつながっている。

 つまり、真っ先に叩き潰されるのはナイド王国だ。

 だが、


「ギーアニア姉上は、ナーヤ姉上を出し抜くつもりなの。だから、私と手を結ぶことを決めたのです……」


 そう、もっとも不利な立ち位置から。

 その不利な立ち位置こそを利用して、第二王女はもっとも優位な立場に立ってみせたのだ。

 愛する臣民を守るためには、姫様は条約を飲むしかなかったのである。


「……だとしたら、これが最大の難問なの」


 しかしそこで、彼女はかぶりを振って見せた。

 民を第一に考える姫様なら、否定などあるはずがないのに。

 まさか……?


「まさか僕がいない間に、情勢に変化が?」


 問えば、彼女はこくりとうなずいた。


「そう、東ナイドに動きがあったの。ナーヤ姉上は──」


 続くセリフを聞き、僕は耳を疑った。

 だって、それはあまりに、あんまりだったから。


「数日中に、総軍をもってこの国に攻め込んでくるつもりらしいの。これは、間違いのない情報なの」

「────」


 そして、僕は知るのだった。

 第二王女ギーアニアが、我欲と強欲の化身であるように。

 第一王女ナーヤは。


 義理と傲慢をはき違えた、戦狂いのウォーモンガーであることを。


 姫様はこくこくと頷くと、居心地が悪そうに立ち尽くしていたアトラナートさんに。

 こんなことを、尋ねたのだった。


「アトラ……あなた、家族はいるの?」


 ──と。

次回は8日0時ごろ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ