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10 immortalized case

 タクシーの支払いは僕がした。

 そこは事件現場より一キロ近く離れた大通りだった。そこから先は警察の設置した封鎖用バリケードでふさがれていた。

 車を降りると、切波はバリケードの前に立っていた警官の元にいた。明らかにケンカ腰だった。手に持った家紋の入ったを短刀を身分証明書替わりに提示して、中に入れてくれと詰め寄っている。

 警官の顔は明らかに不審がっている様子だった。切波の人間と言われても、その意味が彼には理解できていないようだ。

 ここで揉められても困る。僕は間に入った。


「悪いけれど、上司に取り次いでくれないかな。できるだけ上役の人間だとありがたい」

「何だ、あんたは」

「彼女の護衛役と言ったところだ」

「護衛? あんたも怪しいな」

「彼女にはこの事件に関わる権利、いや義務がある。もしあんたがここで彼女を追い返して、後でそれが上司に知れたら、きっとあんたはクビだよ」

「……まさか、そんな」

「切波家とあんたらの関係は知らなくても、切波家自体の影響力は知っているだろう」

「……ちっ、まあいい。だが、もしそれが嘘だったら、後で署に来てもらうからな」


 警官は僕たちから離れて、トランシーバーを口元に当てた。こちらをチラチラと見ながら話している。途中で連絡相手が変わり、何度かの通信の後、彼は慌ててバリケードを飛び越え、こちらに戻って来た。

 その後、僕たちは停車していた警察車両に乗り、現場へと向かった。

 僕は一安心して、助手席に乗り込んだ。


「警部から『至急現場に連れて来るように』と言われました。一体、あなた方は……」


 不思議そうに警官が訊ねた。

 答えたのは切波だった。


「だから言ったでしょ。それより、その警部ってもしかして塚内のおじさん?」

「塚内警部をご存じで」

「直接会ったことはないけれど。でも年に何度か私の家に遊びに来ていたの。ベランダでお姉ちゃんと将棋を差しているのを見たことがあるから」


 それを聞いて、僕は切波命の言葉を思い出した。彼女の存在は外部には一切漏らされず隠され続けてきた。切波家と深く長い繋がりを持ってきた警察組織もまた例外ではないのだろう。


「今回はどんな事件なの?」

「凶悪な強盗が数名、銃を持って銀行の中に立てこもっていると聞いています」

「強盗……ねえ、種村」

「何だ」


 切波が僕を見た。その強盗が術士である可能性について訊ねているようだ。

 僕は首を傾げて見せた。


「可能性は低いと思うな」

「なぜ」

「ざっくばらんに言って、割に合わない仕事だからさ」

「……ふーん」

「……あの、もしかしてあなたたちは」


 警官が声を潜めて言った。


「FBIの人間ですかい」

「なぜそう思うんだ」

「いえね、警部が丁重に現場までお運びしろと言うもんですから、よほどの重要人物かと思いまして……」

「もしそう思うなら、今のは軽率な発言じゃないかな。ミスターハマウラ」


 僕が警告すると、警官は帽子を被り直した。


「……失礼しました」


 その一言を最後に、現場に着くまで誰も口を開くことはなかった。

 やがて、何の変哲もないビル街の一画に走行車両と警官の人だかりが正面に見えると、パトカーは停車した。警官がトランシーバーで連絡を取ると、その人だかりの中からカーキ色のトレンチコートが小走りでやってきた。

 その顔を見て、僕は種村生切の持っていた写真の一枚を思い出した。メモ帳に挟まれていた写真の男と、こちらに向かってくる男は同一人物だった。

 その男は警官を警備に戻るように指示をすると、切波命に深々と頭を下げた。


「塚内網安と申します。縁あって切波の城主様から可愛がっていただいておりました」

「はい、知ってます。父もあなたのことを信頼していました」

「……あなたのお父上とは」

「はい、切波城一郎です」


 切波の言葉に、塚内警部は顔を上げ、その顔をまじまじと見た。

 流石に照れたのか、切波は少し恥じらって視線を下げる。


「……なるほど。つまりあなたが切波家の真の後継者……で、あなたは」

「ええと、私が雇った護衛よ」

「護衛、ですか」


 塚内が僕を見た。視線が合う。


「初めまして、塚内です」

「どうも。種村と言います」


 握手を求めるその表情は優し気だったが、その目は笑っていなかった。刑事の目だと思った。この男は例え僕を怪しがっていても、それを顔には出さないだろう。


「塚内さん、状況を教えてください。銀行強盗って聞きましたけど」

「ええと、失礼ですがあなたのお名前は?」

「命です。切波命」

「命さん、切波家のあなたがやってきたってことは、分かっているんじゃないですか。これは我々一般警察が追える類の事件じゃない」

「つまり……中にいるのは私と同じ術士ということですね」

「……違います」


 塚内はハイライトを一本口にくわえ、もう一本を僕に差し出した。ジッポライターの二タを開け、火を付ける。


「命さん、あなたは父上から不死化事件(アンデッド・ケース)に関して、何か聞いていませんか」

 

 

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